※この作品はR-18です。

欲しいモノ全てが手に入る地下迷宮を死神は旅をする   作:柊咲

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第28話 独占

 

 迷宮都市ウォレスイトは、王都や街と違って家族で暮らす住民は少なくて、都市全体が探索者で溢れている。

 昼は地下迷宮に潜っている探索者も夜になると地上へと戻り、どこの酒場も大繁盛だ。

 特にカトレアの営むこの酒場は一瞬で席が埋まり、開店から一、二時間も経つと通路で立ちながら吞むほど賑わっている。

 

 

 

「クレス、何か注文ある?」

 

 

 

 ふと声をかけられた。

 赤色のドレス姿のカトレアだ。

 彼女は一人寂しく呑む俺を気使って、よく注文を取りに来てくれる。

 

 

 

「ああ、じゃあエール酒を。それと適当に食いものも頼む」

「わかったわ、ちょっと待っててね」

 

 

 

 注文してすぐに酒がテーブルに置かれる。

 いつもならエリザと一緒に吞むからそこまで感じないが、こうして話相手もいないと暇で、どうしても酒のペースが進む。

 

 次から次へ。

 酒を注文して呑んでいくと、若干だが眠気が襲う。

 

 カトレアに話が合ったんだが……。

 

 

 

「クレス、大丈夫……?」

 

 

 

 ん、と振り返る。

 カトレアは心配そうな表情のまま俺の肩に手を置く。

 

 

 

「ああ、大丈夫だ」

「そう? それにしてはたくさん呑んでいたみたいだけど」

 

 

 

 気付くと呑み始めてからかなりの時間が経っていたらしく、店内には空きの席が増え、テーブルに肘を突いて寝てる奴までいた。

 

 

 

「もしかして閉店の時間か?」

「いいえ、まだ大丈夫よ。やっと仕事が暇になったから来たんだけど、話しはまた別の日にする?」

「なに?」

「何か私に話しがあったんでしょ?」

 

 

 

 隣に座ったカトレア。

 

 

 

「よくわかったな」

「まあ、アリスはともかくエリザとも一緒にいなかったからね」

「そうか。俺は大丈夫だ。とりあえず乾杯するか?」

「ええ」

 

 

 

 エール酒を手に持ち乾杯する。

 仕事終わりで疲れているだろうから、俺は早速本題に移る。

 

 

 

「昼間、地下迷宮で人間の探索者たちに襲われたよ」

「……そう。三人とも怪我してない?」

「ああ。俺たちにも、連中にもな。そいつらが言っていた。ウェルダーさんの指示だって」

 

 

 

 その名前を口にすると、カトレアはどこか悲しそうに視線を下げた。

 

 

 

「カトレアの旦那だったんだな」

「……アリスから聞いたの?」

「詳しくは聞いてない。ただ、そうだろうなと思っただけだ」

「……ウェルダー・ウォーレストは私の夫よ。もうずっと会ってないけどね」

「ずっと会ってない? ここで一緒に暮らしてないのか?」

 

 

 

 そう問いかけると、カトレアは首を左右に振って地面を指差す。

 

 

 

「あの人は、ここの地下迷宮で暮らしてるわ。もうずっと昔からね」

「地下迷宮で……?」

「クレスは知らないかもしれないけど、地下迷宮の中には魔物が寄り付かない安全な場所もあるの。そういったところをみんな”セーフエリア”って呼んでね、大勢の探索者がセーフエリアに小さな街を作って暮らしているのよ」

「そんな安全な場所があるのか」

「ただセーフエリアは上層には無いわ。あるのは中層よりも下。そこで夫……ウェルダーは、他の探索者たちと一緒に暮らしてるわ。もう何か月も帰ってきてないわね」

「純粋な疑問なんだが、地下迷宮で暮らすメリットはなんだ? ただ単純に、毎回地上に戻ってくるのが面倒だからか?」

 

 

 

 セーフエリアというのを実際に見たことがないからどんな場所かわからないが、食い物も飲み水も豊富で、それに空気だっていい地上よりも地下迷宮で暮らすメリットがわからない。

 前にメアが中層まで行くと移動だけで数日かかると言っていたから、そういった移動を省く為ならわかるが、それでも地下迷宮に……なにより、妻を地上に残して何か月も暮らす意味がわからない。

 

 

 

「あの人はただ、貴重な古代遺物を独占したいのよ」

「独占?」

「セーフエリアは階層と階層を繋ぐ一本の通路、その道中の空洞地帯に作られているの。あの人が暮らしているのは中層と下層の間ね。そこをあの人とその仲間の探索者たちは封鎖しているの」

「封鎖って、言葉通り下層に誰も行かせないってことか?」

「ええ、そうよ。目的は下層以下の古代遺物を独占すること。そして貴重で強力な古代遺物を手に入れて、あの人たちは深層攻略を目指しているの」

 

 

 

 様々な種類の古代遺物が地下迷宮には眠っている。

 その希少さや能力の優秀さは、上層で見つけた古代遺物よりも中層、下層、深層と地下深く行けば行くほど上がると言われている。

 

 中には小さな村ぐらいなら一瞬で滅ぼせるほどの力を持った古代遺物もあるらしい。

 

 

 

「貴重な古代遺物を独占して、大勢の探索者を仲間にして……あの人は、このウォレスイトを支配するほどの存在になったわ」

「それで、ほとんどの奴は力を持つウェルダーに付き従っていると。他種族は、ちゃんと下層よりも下に行けるのか?」

「……いいえ。言葉通り独占よ。仲間でない者も他種族も、あの人が気に食わない者は全てセーフエリアで門前払いされるわ。そうやってあの人は力を独占したの。それがここ、迷宮都市ウォレスイトよ」

 

 

 

 そうして古代遺物を仲間内で独占することで、ウェルダーは力を付け、更には抗う力を持たせなかったということだろう。

 文句があるならここを去れ、ということか。

 気に食わない考えだが、力を仲間内で独占するなら良い方法だ。

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