「で、何に震えたらいいんだ?」
「なッ!?」
構えた大太刀で魔弾を防ぎ、勢いよく弾き返す。
弾圧によって少しだけ後ろへと押されたが、防ぐことは容易なことだ。
弾き返した魔弾がウェルダーの背後の湖に着弾すると、勢いよく湖の水が噴き出す。
それだけでも、俺の知る魔銃よりも強力なのがわかった。
「まあ、そこまで脅威にはならないが」
魔法の才能がない者でも魔法を使うことができるようになる魔銃。
とはいえ魔法ほどの威力はなく、今の一撃だってエリザのライトニングボルトと同程度ほどしかない。
同程度であればいいかもしれないが、魔銃は何発も連発で使えるわけではない。
一発ずつ魔弾を装填する必要があり、次に使えるようになるまでには数秒のクールタイムがいる。
そのため、あくまでメイン武器があり、遠距離から攻撃したとき用に持っていたら便利程度のサブ武器でしかない。
「終わりか?」
「……調子に、乗るなよッ! こいつの力はこんなもんじゃねえッ!」
同じ魔銃を構えるウェルダー。
魔弾を装填して次に撃てるまでまだ時間がかかるはずだが、再び銃口に光が生まれる。
「喰らいやがれえッ!」
再び 銃口から勢いよく放たれた魔弾。
だが威力も弾道も変わらない。さっきと同じ対処法で問題ない。
だが、
「……ちっ」
魔弾を弾き返した俺は舌打ちをする。
ウェルダーは俺が弾き返すことを予測して魔弾を連発させる。
「この魔銃はなあ、装填不要でクールタイムもいらねえッ! 無限に撃っていられるんだよッ!」
俺の後ろには、エリザたちも、ウェルダーの仲間たちもいる。
ここで避けるわけにはいかない。その考え込みで、ウェルダーは連発させているのかもしれない。
それにしても、魔弾の装填もクールタイムもいらない魔銃なんて初めて見た。
「これがこの古代遺物の真の威力なんだよッ! どうだ、手も足もでねえだろ、ああんッ!」
確かに連発で撃てる魔銃というのは厄介だ。
こんな便利な古代遺物を手にしたら、ここの連中が惹かれるのも無理はない。
だが、便利道具の域は越えない。
「──牙狼」
魔弾を弾き返してすぐに、俺は大太刀を構えて振り下ろす。
「天月ッ!」
巨大な爪の残像を生み出し、直線状に放つ一撃。
魔弾を掻き消し、残像はウェルダーを襲う。
ウェルダーは横っ飛びで避けたが、その隙を見逃さない。
連発されて放たれていた魔弾が消えた瞬間、俺は駆け出し、ウェルダーとの間合いを詰める。
「終わりか?」
「……クソがッ!」
尻もちを突いたままのウェルダーは、周囲で戦う仲間たちに向けて声を張り上げる。
「おいお前らッ! さっさと俺に手を貸せッ! 全員でこの野郎を──」
だが、ウェルダーは口を開けたまま固まった。
俺も振り返ると、既に戦いは終わっていた。
「古代遺物に頼り切った探索者の末路か。お前、自分の武器はどうした?」
「ひぃ……っ!」
大太刀を勢いよく振り下ろす。
ウェルダーは間抜けな声を漏らしながら転がって逃げる。
最初に見せた威勢の良さも威圧感もなく、武器すら構えようとしない。
「どうせこれまで、便利な古代遺物の力に頼り切って生きてきたんだろ?」
「ま、待て……話をしよう。そうだ、お前の実力と俺が集めてきた古代遺物があれば下層にだって到達できる。お前が前で戦って、俺が後方から援護するんだよ!」
「……なんでお前の前で俺が戦わないといけないんだよ。というより、古代遺物が無くても俺は下層に行く、そんな役立たずの代物なんて無くてもな」
「じゃ、じゃあ、深層だ! 深層なら古代遺物があった方がいいだろ、なっ? そうだろ?」
俺は大きくため息をつき大太刀を構える。
「待てッ! 待ってくれッ! これまで集めた古代遺物を好きなだけお前にやる! だから──」
「──興味ないんだよ、そんなの」
大太刀がウェルダーの体を勢いよく貫く。
血を吐き、瞳からは生気が失われていく。
こいつの仲間たちからは悲鳴が聞こえてくる。
「……」
別に殺す必要はなかった。
どうせ一度負ければこいつの面目は丸潰れだろうから、そのまま地上に連れ帰っとけばいい。
だが、こういう奴は見逃せば必ずまた同じようなことを繰り返す。
そしてまた、俺の周りの誰かを人質に取るだろう。もしかしたらその時は、誰かを失うかもしれない。
可能性が少しでもあるなら、愛着のない男に情けをかける必要はない。
それに何より。
「……声も影の手も消えないか」
ウェルダーはまだ何かを隠していると思っていた。
でなければこんな弱い奴に俺も仲間たちも殺されるはずない。
だからウェルダーを殺した。
声が消え、影も無くなる。そう信じて。
だが、声はずっと俺に囁いてくる。
『死ね』と。
そして影の手も俺だけじゃなくエリザたちにも絡みついたまま。
──ウェルダーが原因じゃなかったのか?
「クレス、無事か!」
ウェルダーの仲間たちはリーダーを捨てて逃げて去った。
駆け寄ってくるエリザたちに怪我はない。
「問題ない」
「そうか。……殺したのか?」
「ああ、また同じことをさせない為にな」
エリザは「そうか」と小さく声を漏らすと、少し悲しそうな顔をした。
アリスやドーゴンたちはウェルダーが死んでも気にも止めない。
ここにいる者たちは俺を除いて全員、ウェルダーやその仲間たちに恨みや憎しみの気持ちを少なからず持っていたから当然だ。
「そんじゃ、とっとと帰ろっか!」
アリスは伸びをして入口へと向かって歩き出すと、ドーゴンたちもそれに付いて行く。
「メアが無事かどうかも心配だ。行こう、クレス」
「ああ、そうだな」
エリザがそう言って入口へと向かった。
本当にこれで終わりか?
声もする。影の手も消えない。
もしかしたら今まで気のせいだったのかもしれない。
俺がこうして行動していれば、これまで見殺しにしてきた奴らを助けられたのかもしれない。
内心で後悔した。
だが、
『ほら、死んじゃうぜッ!』
「──ッ!?」
俺は咄嗟にウェルダーの亡骸を見た。
声の主はウェルダーだった。まるで亡骸が喋ったような気がした。
そして、ウェルダーの亡骸の異変に気付いた。
「──避けろ、エリザ!」
「え……?」
駆け出し、背を向けていたエリザを押し出した。
その瞬間──エリザを押した左腕が黒い異物に噛み千切られ、失った部分から血が噴き出した。