※この作品はR-18です。

欲しいモノ全てが手に入る地下迷宮を死神は旅をする   作:柊咲

37 / 88
第37話 死して

 

 

「くっ、ああああ……ッ!」

 

 

 

 肩から真っ二つに食い千切られた左腕。

 激痛と目眩が全身を襲い、片膝を突いて奴を見る。

 

 

 

『ぐぎぎぎぎ、あぎゃ? ぐぐぐぐぐ』

 

 

 

 さっきまでちゃんとした言葉を喋っていたはずのウェルダーの亡骸は、意味不明な言葉を発しながら、首をかくかくと揺らす。

 俺が大太刀で貫いた傷はそのままに、血は流れていない。

 

 確実に殺したはずだ。

 だがウェルダーは動いている。

 それは生きていたというよりも、生き返ったというよりも──死んだまま動かされていると表現するのが正しい。

 

 

 

「ク、クレス!?」

 

 

 

 起き上がったエリザが俺を見る。

 その表情は青ざめていて、俺の状態がどれほど悪いのかを物語っているようだった。

 

 

 

「……逃げろ」

 

 

 

 俺は背中を向けたままエリザたちに伝える。

 右手で大太刀を構えて、ウェルダーだったモノが標的を俺に定める。

 けれど、ウェルダーだったモノは首をかくかくさせたまま動こうとしない。

 

 

 

「私も──」

「──エリザ!」

 

 

 

 一緒に戦おうとしてくれるエリザ。

 アリスやドーゴンたちも、逃げず戦う気でいた。

 けれど、エリザと違って表情は恐怖で染まっていて、ウェルダーだったモノの異様さを理解していた。

 

 俺も無理だと思う。

 こうして睨み合って、はっきりとわかる。

 ウェルダーだったモノは普通じゃない、異常な存在だ。

 死霊を操る死霊術師の力が呼び出すアンデットとはレベルが違う。

 ここで全員で戦っても、どうせ殺される。

 

 あの声と影の手が示す死は、こいつのことだったんだろう。

 

 

 

「……逃げろ。全員でかかっても、こいつは倒せない」

「嫌だ! もし死ぬんだとしても、殺されるんだとしても、私もクレスと共に残る! やっと一緒にいたいと思える相手と出会えたのに、離れたくなんかない……ッ!」

 

 

 

 その言葉がどれほど嬉しいか。

 だけど。いや、だからこそ、逃げてほしい。

 大切な女だからこそ、一緒に死なせるわけにはいかない。

 

 

 

「いいから逃げろッ! 一緒にいても──」

 

 

 

 振り返ると、エリザの口元にタオルのようなものを押し当てるアリス。

 興奮気味だったエリザは弱々しく「アリス、どうして……」と言いながら、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

「ごめん、エリザ。それにクレス」

 

 

 

 小さく言葉を漏らしたアリスはエリザの体を抱える。

 決して顔を合わせようとしないアリスを見て、俺は笑顔を浮かべる。

 

 

 

「すまないな、嫌な役割をさせて」

「そんなこと……っ! 誰か……誰か、呼んでくるから、だからッ!」

 

 

 

 アリスはそう言って走り出した。

 ドーゴンたちも死ぬなと、必ず助けを呼んでくると、そう言いながら走っていった。

 

 アリスたちの脚に絡みついていた影の手が、遠ざかっていくにつれ消えていくのを見て安堵する。

 

 

 

「……ここが、俺の死地か」

 

 

 

 アリスたちに絡みついていた影の手が俺の脚を、そして全身に絡みつく。

 こんなの初めてだ。まるで全身が黒い影の服を着ているような、そんな感じだ。

 

 

 

「あいつらが逃げられるだけの時間は、稼がせてもらうぞッ!」

『ぐぎゃややぎゃやが、ぐぎぎぎぎぎい、うぎゃあ……ッ!』

 

 

 

 あいつらが逃げるまでそこでジッと待っていてくれたのか、意外と優しいのかもしれない。

 

 

 

「俺の左腕を食い千切ったが、もしかしたら話せばわかり合えるのかもな」

 

 

 

 すぐにそんな考えは失せた。

 

 ウェルダーだったモノは、口からドロッとした液体を煙突から湧き出る煙のように吐き出す。

 量にしてウェルダーの体の三倍ほどで、その液体は人の形を作る。

 

 ウェルダーの亡骸は、空気が無くなった風船のように萎んで原型がない。

 

 

 

「……元々が化け物だったのか?」

 

 

 

 さっきまで普通に話していた人間から、異形の怪物が生まれた。

 人間が変化したのか、それとも元々異形の怪物がウェルダーに化けていたのか。

 

 いや、そんなことどうでもいい。

 魔物かもわからないこんな怪物なんて今まで見たことがない。

 どう戦えばいいのかも不明。

 

 

 

「だが、やるしかない……。生きて帰る為に」

 

 

 

 大太刀を構えて俺は駆け出す。

 左腕の痛みはいつの間にか全身を蝕み、立っているのも走っているのもやっとだ。

 

 そんな体で、俺は大太刀を異形の怪物へと振り下ろす。

 笑みを浮かべて、無理だとわかりながら、俺は最後まで自分の選択に後悔ないように生きようとした。

 

 

 

「──ぐ、はあっ!?」

 

 

 

 異形の怪物の何かに全身を貫かれた。

 その瞬間、俺の意識は完全に途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やっと死ねたね』

『うんうん、やっとだね』

『はあ……。もう少し早く死んでくれたら、僕たちも楽だったのに』

『だからわたし言ったのに、言い方をもう少し変えようって。脅えさせたら死んでくれないって』

『だってビビらせた方が面白いだろ?』

『面白い面白くないじゃなくて──っと、彼が目を覚ましたようだよ。それじゃあ──』

 

 

 ──色欲の魔女様、契約の儀の準備が整いました。

 

 

 目を開けるとそこは、さっきまで俺のいた地下迷宮とは全く違った場所だった。

 

 壁一面真っ白な世界。

 鋼鉄の巨大な鳥籠。

 その中には、丸いテーブルと二つのイス。

 

 そしてドレスを着た少女が、俺に屈託のない笑顔を向ける。

 

 

 

「随分と長い時を待たせてくれましたね──旦那様?」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。