「要するに、その十年前に俺が敗れたっていう魔女とその代行者を見つけ出し、殺せばいいってことか?」
「はい、そうなります」
アスリアは満面の笑みで頷く。
「……わかった。それが記憶を失っている理由なら、やり返さないとな。じゃあこのカギもお前が俺に渡したのか?」
俺は”13”という数字が刻まれたカギを見せる。
記憶を失ったのがその代行者に敗れたということなら、代行者に選ばれたときにアスリアが俺に渡したものと考えるのが妥当だろう。
だが、
「わかりません」
「なに?」
彼女は首を傾げた。
「先程もお伝えしたように、旦那様と同じくわたくしの記憶も奪われていますので。旦那様を代理人に選んだ記憶も、敗れたときの記憶もないのです」
「つまりその間──始まりと終わりまでの記憶がお互いにすっぽり抜けているということか。じゃあ誰に敗れたのかもわからないんだな?」
「残念ながら」
全ての記憶を奪われた俺とは違って、アスリアは俺を代理人に選んで、その謎の代行者に敗れた間の記憶だけがすっぽりと抜けているということか。
どうしてそんな中途半端な部分の記憶を奪ったんだ……?
いや、何もわからないのにそれを考えても答えは出ないか。
「ただ、そのカギは記憶の無い間に手にしたことは間違いないでしょう」
そう言うと、アスリアはマグカップに口を付けて、ゆっくりとコーヒーを飲む。
「わたくしには、旦那様を代行者に選んだときにお会いした際の微かな記憶だけは残っています。その際、旦那様はそのカギを手にしていませんでした」
「じゃあ、代行者に選んでからアスリアが渡したか、もしくは記憶を奪われた間に何らかの方法で手に入れたということか」
「ええ。何を意味するのかわかりませんが、いずれわかるでしょう。何か聞きたいことはありますか?」
そう言われたが、はっきり言って状況が上手く整理できていない。
魔女だとか代行者だとか、俺が十年前に誰かに敗れて年齢と記憶を奪われたとか。
なにせ、アスリアからこうして口頭で説明されているだけで、代行者に選ばれて何か特別な力を得たわけでもない。
いや、
「もしかして俺のペニスが絶倫なのも、セックスが上手いのも、全て色欲の魔女の力の恩恵か?」
「いえ、それは元からの素質でしょう」
「そうか……」
やっぱりよくわからん。
まあ、話を聞いたからって俺のやることはこれからも変わらない。
この迷宮都市ウォレスイトにある地下迷宮を地下深くまで進み、そこにあるであろう開かずの扉を13のカギを使って開ける。
後はそうだな。
たくさん稼いで。いい飯を食って。いい女をたくさん抱く。
アスリアの願いは、頭の隅にでも置いておこう。
「もう大丈夫だ」
「そうですか。これからは旦那様が眠られたときにでも、またこうして幻の世界にお呼びしますので」
「ああ。って、そういえば記憶を無くして目覚めてからかなりの年数が経ったが、どうしてすぐにここへ呼ばなかったんだ?」
「それは旦那様が、なかなか死に直面してくださらなかったからです。ここは幻の世界。言ってしまえば、深い深い夢のような空間なので。こうしてこの場所でお会いする条件が、死に直面することなのです」
「ふーん、よくわからんが。だから何度も死ね死ね言ってたのか?」
「はい、早くお会いしたく心の声が少しばかり漏れてしまいました♡」
「少しって……。まあわかった」
「では、お別れの時間ですね」
アスリアはイスから立ち上がり、俺の前に立つ。
「小さな体になってしまい微力ではありますが、旦那様にわたくしのお力を授けますね」
「力……? もしかして、影の手を操れるとかか?」
さっきからマグカップにコーヒーを注いだり、イスを引いたりと自由自在に操っているであろう影の手。
確かに便利だな。
近距離であれば大太刀で。遠距離であれば影の手で。
便利な力だ。
「いえ、これは単にわたくしの生活が楽なので考えた魔法なので違います」
「違うのかよ」
「旦那様、わたくしが何の魔女かお忘れですか?」
「何のって……」
色欲の魔女だろ?
そう言おうとした瞬間、影の手を踏み台にしたアスリアが俺にキスをする。
「ん、ちゅ……っ♡ れろ、ちゅうっ♡」
舌を絡めて濃厚なキスをされる。
いつもだったらペニスがすぐ反応して勃起するのだが、相手は少さな女の子なので口には出さないが興奮しない。
はずなのだが、
「はあ、はあ、はあ……」
自然と呼吸が乱れ、気付くと舌を絡めてアスリアを求めていた。
相手は少女なのにおかしいほど彼女を欲している。それにただのキスが気持ちいい。セックスと同じぐらい、いや、それ以上の快感が全身を襲う。
そして絡めた舌を伝って温かい唾液が体内に流れ込んでくる。
「ふふ……っ♡」
キスをしながら目を開けるアスリアは、俺の心を見透かしたように微笑む。
身体はもっと彼女を求めていたが、俺の心が、この不思議な感覚から逃げろと警告していた。
だからアスリアから体を離して、口を拭う。
「気持ちよかったですか?」
「……ああ、おかしくなるぐらいな」
「ふふっ、それは良かったです」
アスリアは俺に向かってカーテシーをする。
「今再び、微力ではありますが、わたくしの力を旦那様に注ぎ込みました。これからも女を喰らい、力を得て、歩み続けてください」
顔を上げたアスリアは、聖母のような笑顔を俺に向けた。
「そしていずれ、七人の魔女の頂点へ──わたくしをお導きくださいませ。我が愛しの旦那さま?」