「おい」
「っ!?」
声をかけると、三人が三人共ビクッと体を反応させた。
「な、なんだよ……」
「会話が聞こえてきたんだが……お前らもしかして、地下迷宮内で仲間を見殺しにしたのか?」
「は、はあ? な、なんのことか俺たちは……なあ?」
「あ、ああ」
知らん顔をする三人組。
「別に、誰かに言うつもりはない。どこでその女とはぐれたか聞きたいだけだ」
「だ、だから──」
「じゃあ、受付の彼女に聞こうか? 一人で地下迷宮に入った女はいなかったかって。地下迷宮に一人で行く奴は珍しいんだろ?」
「それは……」
メアから聞いておいて良かった。
少しの沈黙が生まれる。だがリーダー格の男は俺に背を向ける。
「……何のことだか、わかんねえな。行くぞ」
「あ、ああ」
逃げるように足早に去っていく三人組。
止めようとしたが、おそらくどんな文言で迫っても連中は白を切り通すはずだ。
ただ時間だけ奪われるだけ。あいつらの焦りから、連中に構っている時間はない。
俺は踵を返し、受付へ足早に向かった。
「メア、受付を頼む」
「はい! 受付ですね!」
何も知らない彼女は、明るい声で受付の準備を始めた。
「そういえば、クレスさんは上層の地図は持っていますか?」
「地図? いや、持っていない」
「そうなんですね。地下迷宮は名前の通り迷宮のような作りなので、地図は持っていた方がいいんですが」
今回は特別ですよ、とメアから地図を受け取った。
どうやらこの地図は有料で、ギルド協会から購入できるらしい。おそらくカトレアは俺が今日、地下迷宮に行くことを知らないから説明してくれなかったのだろう。
「上層……まるで蟻の巣みたいだな」
いくつもの道があり、道の続いた先に丸い空洞地があり、また先に道が続く。
しかもその先は一本道ではなく、いろんな方向へと続いている。
「一応補足なのですが、この地図は一ヵ月前のものになります。なので道が変わっている箇所もあると思います」
「道が変わる?」
「魔物が掘ったり埋めたりして、地下迷宮は今この時にも変化しています。もちろん、そうして掘ってくれたお陰で、埋もれていた古代遺物が表面に出てくるのですが」
「なるほど」
「毎月のように地下迷宮が変わるので、その地図を毎回新しく買っていたらいくら稼いでも地図代だけで生活が苦しくなるので。はい、これもどうぞ」
筆ペンと黒インクを渡された。
「変化した場所などは細かく地図に書き込んでおくことを推奨します、もちろん、毎回新しく地図を買えるだけ稼げるようになるのが理想ですが」
「そうか、すまない。助かったよ」
「いえいえ。それではクレスさん、こちらに予定時間の記入をお願いします」
予定時間か。まあ、今日の夜まででいいだろう。
すんなり探し出せればいいが、もし無理なら諦めて捜索隊に任せるべきだ。
「これで頼む」
「かしこまりました。それではクレスさん、お気を付けて」
メアは深くお辞儀をする。
可愛い女性に見送られ、俺は奥の扉を抜ける。
白のタイルの道を歩いていくと、見えたのは巨大な螺旋階段。
階段の手すりから下を眺めるが先が見えない。真っ暗闇だ。
「階段の上り下りだけで一苦労だな」
まあ、そうしなければ安全ではないということだろうか。
よく見るとこの螺旋階段には古い傷がある。
過去に地上へと向かおうとする魔物と、この螺旋階段上で戦った痕跡だろうか。
塗装されて隠そうとしているが隠しきれていない古い痕跡が、魔物が地上に迫ってくる可能性を物語っていた。
長い階段を下っていくと、ようやく階段の終わりを迎えた。
「これからは毎日のようにこの階段にお世話になるのか」
そう考えると余計に体が重い。
俺は地下迷宮を歩き進む。
壁に手を触れただけでも、軽く殴っただけでもびくともしない砂。いや、砂というよりも粘土に近い。それほどまでにかなりの硬度がある。
これなら魔物との戦闘が起きても簡単に崩れる心配はなさそうだ。
「だが、魔物はこの土壁を掘るんだよな」
試しに本気で蹴ってみてもびくともしない。
これは考えても答えは出ない。その答えを知るには、地下迷宮や魔物、そういったことを深堀しなければいけなくなる。
俺は研究家や博士なんかになりたいわけではないから、そんなことしないが。
「……だいぶ地図と地形が変わっているな」
メアから貰った一ヵ月前の地図を見て思う。
入ってすぐ、地図とは異なる道が確認できた。
あまりこの地図を鵜呑みしない方がいいかもしれない。
そんなことを考えていると、カサカサとした音が聞こえた。
「……魔物か」
何かの足音というよりも、体を地面に擦って動くような音。
奇妙な行動をする者でなければ、おそらく魔物だろう。そして音がした方に視線を向けると姿が見えた。
「地上の魔物とあまり変わらないな」
俺よりも少し大きな体格のムカデ。
ブロックを並べたような黒光りした体に、鋭利な牙。三体の巨大ムカデは俺を敵と視認したのか、ゆっくりと近づいてくる。
大太刀を両手で構えると、三体の巨大ムカデが一斉に飛び出してきた。