エリザ、アリス、ドーゴンたちは無事に地上まで戻ると人を探した。
それは今もなお、地下迷宮でウェルダーだった何かと戦う仲間を助けてくれる者を探す為だ。
だが、
「……もう、話しぐらい聞いてよ!」
ここにいる者たちで彼女たちの話を聞いてくれる者は誰一人としていなかった。
なにせ人間の探索者の多くは今日、ウェルダーがクレスたち異端者を粛清することを知っているからだ。
彼女たちに手を貸すことは、ウェルダーの意に反することになる。
なにより、ウェルダーが既に殺されていることを知らないから、困っているアリスたちを見てウェルダーが優位だと思い尚のこと手を貸してくれない。
「こっちも駄目だ。話すら聞いてもらえん」
「……エリザが起きるまでに、なんとかしないと」
エリザはまだアリスに背負われたまま眠っている。
もしも彼女が起きれば、有無を言わさずクレスを追いかけるだろう。
だからこそ彼女が目を覚ますまでに味方をしてくれる者を探したかったのだが──。
「みなさん、どうかしたんですか?」
焦りきっていたアリスたちに声をかけたのは、ウェルダーたちに人質にされていたはずのメア・アトレナだった。
彼女は普段と変わりなく明るい笑顔を浮かべる。
「あれ、メア……どうしてここにいるの?」
「どうしてって、わたしはずっとここにいましたよ?」
「え、そうなの?」
アリスとドーゴンは互いに顔を見合わせる。
もしかして最初から彼女は人質になっていなかったのではないのだろうか。
自分たちの早とちりで、無駄に身を危険にさらしてしまったのではないだろうか。
そんな風に後悔するアリス。
「本当に、ずっとここにおったのか?」
ドーゴンは再度、メアに聞く。
メアはにっこりとした満点の笑顔を浮かべる。
「あっ、もしかして受付でお会いしなかったからですか? すみません、裏で事務作業していたんです!」
「ふむ」
「そっかそっか、そういうことなら良かった」
「はい! それでみなさん、そんなに慌ててどうしたんですか? それにクレスさんの姿が見えませんが」
「えっとそのことで実はメアに頼みがあって、クレスが──」
「──いや、なんでもない。……行くぞ、ウサギ娘」
「えっ、ちょ、なんでさ」
足早に施設の端──人気のない場所へと向かっていくドーゴン。
アリスはメアに「ごめん、またね」と手を振る。
彼女もまた、離れていくアリスに向けて手を振る。
「はい、また後で」
そして静かな場所に移動すると、アリスはドーゴンに突っかかる。
「ちょっと、なんでメアにお願いしないのさ! メアが無事だったんだから、ボクたちよりも人脈が広い彼女に頼めば良かったのに!」
「いや、ちょっとな……あの娘の話を聞いて、ウサギ娘は変だと思わんかったのか?」
「変? まあ、あれ、人質じゃなかったんだ……とは思ったけど。あれって要するにさ、ウェルダーの嘘だったってことでしょ? 良かったじゃん無事で」
「……良かったで済めばよいが」
「なにさ」
「ウェルダーはなぜ、わざわざそんな嘘を我々に付いたのだろうな」
「どういうこと」
いつにもなく難しい表情をするドーゴン。
だからアリスも、真剣に彼の話を聞く。
「受付のメアを人質に取ったのは、我々を地下迷宮の外れにおびき寄せるため。それは理解できる。だがメアが言うにはそれは奴の虚言で、実際のところ彼女はずっとここにおった」
「うん」
「なぜ人質に取らなかったんだろうか。もしも我々が出発前にこの場所で戸惑っていたり、誰かにあの娘が何処にもいないかを詳しく聞いておったら……裏で事務作業をしていたというメアと顔を合わせる可能性があったのではないか?」
「それは、まあ」
「例えば。例えばだが」
二度、念を押してから考えを伝えるドーゴン。
「あの娘が嘘を付いている、ということはないか?」
「メアが? ボクたちに? ……裏で事務作業してたってのが嘘って言いたいの?」
「うむ。理由はわからんが」
「いやいや、なんでボクたちにそんな嘘付くわけ? というよりさ、もし本当に嘘だったとして、隠したいんだったら人質に取られてたってボクたちと話を合わせればいいじゃん」
「それは確かに。だが──」
「──話を合わせる必要がなくなったんじゃないの」
ふと、声がした。
アリスでもドーゴンでも彼の仲間たちでもなく、アリスに背負われていたエリザだった。
「エ、エリザ、もう起きたの」
「ええ、アリスが使った薬の効果がそこまで強くなくて助かった」
「え、えっと、エリザ、あのね……」
「わかってる。わかってるから」
アリスの背から下りたエリザ。
エリザも理解しているのだろう。あの場でクレスと共に戦ったとして勝ち目は無かったことを。アリスがクレスの願いを聞いて、エリザを連れてここまで逃げてくれたことも。
「だけど……」
だとしても、エリザは再び地下迷宮へと向かおうと歩き出した。
その表情は怒りと悲しみで染まっていた。
「ま、待ってエリザ。まだ味方をしてくれる人は──」
「──そんなのいらない。私はクレスを助けに行く。……もしも助けられなかったとしても、私は彼の側にいたい」
「エリザ……」
「すまない、せっかく救ってくれた命を無駄にするようなことをして。だけど私は、クレスが私の側にいてくれると約束してくれたときから、何があろうと彼の隣にいたいと願ったんだ。彼のいない人生なんて……」
死んだ方がマシだから。
振り返ったエリザは、アリスの悲しそうにする表情を見て、苦しそうに笑った。
だがすぐに前を向くと、エリザは今も受付の仕事をしているメアを睨み付けた。
「あの子が何か隠しているのなら吐かせればいい。もしも彼女が今回の件に少なからず向こう側として関わっているなら、私は彼女を許さない」
ゆっくりと歩き出すエリザ。
アリスもドーゴンも止めようとしたが、彼女の意志を止める言葉が見当たらない。
今にも細剣を鞘から抜く勢いのエリザ。
そしてその気配を感じたかはわからないが、メアはこちらを見て、いつも通りにっこりとした笑顔を浮かべた。
まるでこうなることがわかっていたかのように。
そのまま細剣を──。
だが、エリザはメアの前で足を止める。
そして怒りで染まっていた表情は一変──彼の姿を見て嬉し涙を流した。