三体の巨大ムカデが俺へと一斉に飛びついてくる。
俺は愛刀の大太刀を両手で構え振り下ろす。
「はあッ!」
真っ直ぐ飛んでくるものを斬るのは容易い。
巨大ムカデの動きよりも速く繰り出した斬撃。
真っ直ぐ斬られた巨大ムカデは、半分の姿に分かれるとピクピク震える。
「外の魔物と変わらないな」
息の根を止めた魔物はその動きが収まると、血も出ず全身を砂のように姿を変えた。
風が吹けば遠くまで飛んでいきそうな軽い砂。そして残ったのは、白色の二本の牙。
魔物が死ぬとき、体の一部を残して他は砂となって消える。
それがどうしてなのかは不明だ。けれど体は砂となって消え、残った体の一部は加工されてあらゆることに使われる。
俺の大太刀も、とある魔物の一部から作られた代物だ。
「持って帰って売れば少しだが生活の足しになるが」
あいにく六本の牙を入れられるほど大きな鞄は持っていない。
仕方ないが置いていくか。俺はどこにいるかわからない女を探し、走り出した。
巨大ムカデは脅威となるほどの魔物ではない。
だが他にも大勢の魔物が潜んでいるのを、姿は見えないが気配だけは感じる。
「ん……?」
走って奥へ奥へと進んでいると、前から歩いて来る探索者の集団を見つけた。
おそらくこれから地上へ帰るのだろう。傷の付いた防具に、パンパンに詰まった大きな鞄が目に留まった。
「すまない、少しいいか?」
「お、なんだ?」
声をかけ、俺は一人で探索している女がいなかったか問いかけた。
「いや、見ていないが」
「そうか」
「その女は上層にいるのか?」
「間違いないはずだ」
あの連中が中層から上がってきたとは思えない。というよりも、メアの話しだと中層から地上へ戻るには何日もかかるから、もしも探している女が中層にいるのなら、もう間に合わないだろう。
「上層といっても広いからな……。端から端まで行くにも数日はかかる」
「そうなのか?」
「もしかしてお前さん、地下迷宮に来るのは初めてか?」
頷くと、男は持っていた自分の地図を取り出す。
「お前さんが降りて来たのはここ、地下迷宮の中央入口ってところだ。だが地上には、他に東西南北の四か所に入口があるんだ」
「へえ、そうなのか。知らなかった。入口は一つじゃ駄目なのか? 各地から魔物が上がってくる危険性だってあるだろ」
「まあ、なくはないが」
男曰く、入口が一か所だけだと問題があるのだとか。
まず上層は、全てが全て一緒というわけではないということ。
南エリアは鉱石が多く採れる場所になっていて、北エリアには上層で唯一湖がある。他にもエリアによって異なるのだとか。
入口が一か所だけだと、目的のエリアに行くだけで時間がかかってしまう。
もう一つの理由は、探索者同士の混雑を避ける為だという。
探索者が最も活動を開始する早朝なんかだと入口や螺旋階段といった必ず通る道が混雑してしまうらしい。それに目的が被った場合、トラブルが多発するのだとか。
それで入口は迷宮都市ウォレスイトには五つ存在するのだとか。
「だから上層だけでも広いんだ。ここで人一人を探すのは困難だぞ?」
「かもな……だが中央エリア付近のはずなんだ」
あの三人組が出てきたのがここ、中央エリアの受付だった。とするならば、わざわざ別のエリア付近から逃げてきたというのは考えにくいだろう。
そのことを説明すると、男は難しい顔をした。
「なるほど、女を見捨てて逃げるとは、根性のねえ男たちだ。だがお前さんの話を聞くかぎり目的の女がこの辺りにいる可能性は高いな。おい、お前ら、やっぱり見てねえか?」
男が仲間たちに聞くが、揃って顔を左右に振る。
「すまねえな」
「いや、気にするな」
「そうだ、その男連中に変わったことはなかったか? 例えば防具が焼け焦げていたとか、剣で斬られたような傷痕があったとか」
「変わったところ……」
思い返すとすぐに出てきた。
「そういえば、連中の防具に微かだが泥が付いていたな」
「泥、か……。それは水分をかなり含んだ泥だったか?」
「たぶんだが」
「だったら」
男は地図の一か所を指差した。
そこは中央エリアと北エリアの中間付近の位置だった。
「そいつら、デスマッドっていう魔物に遭遇した可能性があるな」
「デスマッド?」
初めて聞く名前だ。
地上には生息しない、地下迷宮だけに生息する魔物。
「全身を泥で覆った奇妙な魔物だ。その男連中が湖のある北エリアから来たってんなら別だが、そうじゃねえなら、デスマッド以外の影響でこの中央エリアで泥が付くことはない」
男は断言する。
持っていた水筒を手に取ると、土壁に向かって水をかける。
微かに水を含んで色が濃くなった土壁。だが二秒もすればそれは渇き、手を触れるが泥は手に付着しない。
「地下迷宮の砂土は特殊で泥に変わることはない。そして中央エリアにいる可能性が高いのであれば、おそらくはデスマッドと対峙した……そして、デスマッドの生息地はこの辺りだけだ」
「なるほど。随分と詳しいな」
「伊達に何十年も探索者として生計を立ててないわい」
「経験からの判断か。すまない、助かった。この恩は地上に戻ったら返す」
俺はそう言って走り出そうとした。
「おいお前さん、儂らも手を貸そうか? デスマッドとの戦闘は楽じゃねえ、それに大群だったら──」
「──いや、俺一人で大丈夫だ」
俺は振り返り、笑みを浮かべて伝えた。
「その困っている女は、噂ではめちゃくちゃいい女らしいからな。命を救って恩を売っておきたい。それなのにぞろぞろと仲間を連れていったら、俺の凄さが伝わらないだろ?」
そう伝えると、少し間を空けてから男は大きな口を開けて大笑いした。
「ガハハハッ! そうかそうか、それじゃあ邪魔しちゃ悪いな、すまねえ! じゃあ俺たちは地上で、お前らが帰ってくるのを待っているぜ」
「ああ、そうしてくれ。情報ありがとうな!」
「気にすんな。それよりお前さん、名前はなんていうんだ?」
「俺はクレスだ」
「そうか。儂はドーゴンだ。それじゃあ、地上で待っているぞ、面白い人間の男よ!」
手を上げ去っていくドワーフ族のドーゴン。
俺は彼に別れを告げ走り出す。中央エリアと北エリアの中間へ向かった。