「ああ」
腕を組んでイスの背もたれに体を預ける。
「本当なら、ウェルダーから話を聞きたかったんだがな」
「癒蘭様が暴食の魔女の力で若返った存在だと仰っていたからですか?」
「そうだ。だが、奴は俺が殺したからもう話は聞けない」
今の俺たちにある選択肢は三つだ。
世界中を旅して他の魔女と代行者を探す。
俺の持つ13のカギで開けられる扉をここの地下で探す。
そして、もう一つが、
「エリザとアリスが怪しんでいたメアに話を聞く」
地下迷宮にてウェルダーと対峙してから一週間が経った。
あれから何度か地下迷宮に行った。その時に受付をしているメアと何度か俺たちは顔を合わせた。
「ですが、何度かお話ししましたが変化はなかったのではないですか?」
「ああ、そうだ」
挨拶も、笑顔も、対応も、初めて会った時から何も変わらない。
少し踏み込んであの日のことを聞いても、彼女は当たり障りないことを言うだけで何も話してくれなかった。
「エリザもアリスも、メアがおかしかったのは俺が地下迷宮でウェルダーだった異形の存在と戦っていて側にいない間だけだって言っていた」
「それと、まるで旦那様が帰ってもう地下から戻ってこないのがわかっていたみたいな態度だとも言っていましたね」
「考えすぎかもしれないが、もしかしたらウェルダーの正体を知っていて、ああなるとわかっていたんじゃないかって俺は思うんだ」
ああなる、というのは異形の怪物にということだ。
アスリアは少し考えるように息を吐く。
「……ですが、もし彼女が魔女や代行者、それにウェルダー様の正体を知っていたとして、なぜ今は隠しているのでしょうか。エリザ様とアリス様の話を聞くかぎりでは、旦那様がいない間のメア様は嘘がバレても構わないかのような反応をしたと仰っていましたよね?」
「そこは、よくわからない……」
エリザとアリスもそのことに関して不思議そうにしていた。
俺が地下迷宮で異形の怪物と戦っているとき、メアは二人に対してバレるような嘘をついた。
まるで挑発しているようだとも言っていた。
結果として何も起きなかったが、もしも俺の戻りが少しでも遅かったらエリザはメアに掴みかかっていただろう。
メアはそうなることがわからなかった……とは考えにくい。
であれば、わざとそう仕向けた可能性が高い。
けれど俺が戻ってきてからは、メアは当時のことは無かったかのようにとぼけている。
俺がいないからバレる嘘を付いて挑発した。
俺が戻ってきたからそのことを無かったことにした。
であれば、
「旦那様ではなくお二人が標的だった、ということでしょうか……?」
可能性の話しだが、そうなるだろう。
「俺がいない時に二人とやりあう何か目的があった……ということか?」
「あまり多くない情報から考えられる可能性としては、それが最もかもしれません」
「そうだな。とにかく、もう一度会いに行ってみようと思う」
アスリアにそう告げる。
どちらにしろ俺がこの迷宮都市ウォレスイトに来たのは、13と刻まれたカギに合う扉を見つけることだ。
それに泊まれる場所を求めてウェルダーが占領していた地下迷宮にあるセーフエリアにも行くう予定だ。
カギ、寝床、そしてメア。
それら三つとも地下迷宮にあるのだから、明日やることは地下迷宮に行くだ。
「かしこまりました。それでは、またここでお話を聞けるの楽しみにしていますね」
「どうせ現実もここから見てるんだから、報告する必要ないんじゃないのか?」
「それでも、旦那様とお話しするのは楽しいので」
そう言ったアスリアは立ち上がると、真横まで移動して、俺の両頬を手で抑える。
「それでは旦那様、おやすみなさい……ちゅ♡」
軽くキスをされると、俺の意識が遠のいていく。
♦
「──あら、やっと目を覚ましたわね」
どうやら意識が現実に戻り、俺は目を覚ましたらしい。
寝ている間の空白の時間がないから眠れた感じはしないが、体はちゃんと休めているようだ。
「変な気分だ」
「ちょっと、目覚めてすぐの言葉がそれ?」
「いや、こっちの話しだ。それより」
むすっとした表情の癒蘭に睨まれる。
周囲に視線を向けると、エリザもアリスも既に部屋にいた。
「おはよう、三人とも」
エリザは「おはよう、朝だというのに随分と疲れた顔をしているのね」と呆れるように笑う。
抱きかかえられた眷属のモーナはまだ眠たそうに目を細め、抱えられたエリザの腕から短い手足をだらんと垂らす。
母親に似ていないだらしない姿だが、それはそれでかわいい。
アリスは「どうせ、朝までエッチしてたんでしょ。ほんとエッチ好きだねー」と、ラビーを頭に乗せながら笑みを浮かべる。
スティック状の野菜をもしゃもしゃと無心で食べているウサギは、横目でジッと俺を見つめる。
「セックスのし過ぎというのもあるが、魔女様にまた幻の世界に呼ばれたんだ」
「魔女って、色欲の魔女アスリアに? 何か用でもあったの?」
「いや、特には無い。無くても呼ばれることが度々あるんだ」
「随分と気に入られているのね。でも十年前はあまりそういうことなかった気がするけど……」
「そうなのか? まあ、見た目が若返ったから甘えん坊にでもなったのかもな」
首を傾げて不思議そうにする癒蘭に伝えると、彼女は「そうね」と受け入れる。
「それで今日は、メアに会いに行こうと思う」
そう伝えると、エリザとアリスは真剣な表情に変わり、癒蘭は「誰その子」と少しだけむすっとさせた。