「まだ他に女がいたの?」
「いや、そういうわけじゃない」
癒蘭と再会してまだ一日しか経っていない勘違いしても仕方ない。
俺たちは癒蘭にメアのこと、そして彼女が何か知っているのではないかと考えていることを伝えた。
話し始めこそ、まだ他に隠している女がいるのではと疑う眼差しを向けてきた癒蘭だったが、話し終えると大きくため息をついた。
「それ、もっと早く教えてほしかったのだけど……?」
「話そうと思ったが、昨日はいろいろあったからな」
「だからって」
「そうそう、クレスと癒蘭が朝までセックスしてボクたちを部屋に入れてくれないぐらい、いろいろあったからねー」
「うむ、その通りだ」
エリザとアリスに恨まれているのを察したのか、
「ど、どっちにしろ、そのメアって子のところに急いで向かいましょ。ほら、外で待ってるから準備が終わったら早く来てね」
癒蘭はそそくさと移動を早めるよう俺に言う。
癒蘭が先に部屋を出て、地下迷宮へ向かう準備をしていた俺はエリザとアリスに問いかける。
「そういえば二人は何処に泊まったんだ?」
「カトレアの部屋だよ」
「ああ。一度はここに帰ってきたのだが、二人ともお楽しみ中だったみたいだからな」
「すまないな、気を使ってもらって」
「気にするな。まあ、多少は妬いたが、癒蘭のクレスと会えたときの表情を見たら……今夜ぐらいは二人にしようって。なあ」
「うん、さすがに気を使わざるを得ないって感じだったからね」
二人とも苦笑いを浮かべる。
「十数年ぶりの再会だもんな」
俺は他人事のように呟きながら部屋を出る。
その後ろを付いて来てくれる二人は、少しだけ複雑そうな表情を浮かべていた。
「やはり、記憶は何一つ戻らないのか?」
「ああ、何も」
「あらら、残念。癒蘭とエッチしたら記憶が戻るんじゃないかって少しは期待したんだけど、魔女の力ってそんだけ凄いんだね」
「だろうな。まあ、記憶が戻らなかったのはいい、ただ……」
「ただ?」
「癒蘭との記憶の無い俺に抱かれて彼女は幸せなのか、少し心配になってな」
俺は俺、同じ俺だ。
だが記憶の無い俺は彼女の知る俺ではない。
おそらく仕草や雰囲気なんかの違いはすぐに気付いたはずだ。
それに彼女がドМだと言っていたのに、あまり上手くSМプレイもできずじまいだったしな。
そういった他人から見れば別に些細なことだと思われるものでも、当人にとっては──ましてや”大切な人”で”大好きな男”の変化を目の当たりにするのは、同じ相手だと理解していても複雑なものなんじゃないだろうか。
ああして笑顔でいたけど、心の何処かでは──。
「きっと大丈夫だろう」
隣を歩くエリザは首を左右に振った。
「クレスはクレスだ。記憶が無かろうが、反応や雰囲気が違くとも、好きな相手には変わりない。それに、そんな変化を気にする程度の想いなら、きっと十数年も、お前のことを探してはいなかっただろう」
「そうだって。十数年だよ、十数年。生きてるって信じて探し続けて……。どんだけ好きなんだって感じ。だから別に気にしなくていいって、クレスらしくない!」
「俺らしくって……」
まあ、それもそうだな。
「あまり気にしすぎてもよくないな。今は早いとこ記憶を戻せるよう努力するか」
「そうそう。あっ、そういえばねー」
宿屋を出ようとしたとき、アリスがニコニコと不気味な笑顔を浮かべながら俺を見る。
「この宿屋も出禁だって」
「……なに?」
「喘ぎ声がうるさいって。だからボクたち、今日から宿無しってこと」
「な、ななな」
一番に驚いていたのは宿屋に来るまでもずっと一緒にいたはずのエリザだった。
♦
「泊まれる宿が、無い……?」
アリスが何故か上機嫌で癒蘭に報告すると、彼女は疑問符を頭上に浮かべる。
「いやー、ボクたちこの都市では厄介者でさ。ほら、この子たちが夜中に騒ぐからさ」
お腹を擦るアリス。
ラビーが騒ぐからだと言いたげだが、原因の半分は夜な夜なセックスしてたりしたからだけどな。
「あなたたち、ここでどんな悪行を繰り返したの?」
「いやいや、ボクたちそんな悪いことしてないんだよ? ただ、夜中にこの子たちが騒いだり、あとは、まあ……ボクたちが騒いだり?」
「……はあ。まあ、わたくしも経験が無いわけではないのでこれ以上は何も言わないけど」
癒蘭は俺たちから少し離れて歩くエリザに視線を向ける。
上半身を倒してしょんぼりとするエリザを見て、俺は腕を組み答える。
「エリザは俺とアリスと違って真面目だからな。今ごろ、今夜の宿をどうするかで頭が一杯なんだろう」
「そうそう。だからボク、あの宿も出禁になったことエリザには黙ってたんだよねー。二人の時に話したらめんどくさそうだから」
「……彼女、大変そうね。同情するわ」
うなだれるエリザを見て癒蘭がぼやく。
そんなこんなで地下迷宮への入口──メアがいる受付まで来た。
エリザも宿のことを考えるのは後だと決め、真面目な雰囲気に戻っていた。
そして受付へ向かうと、そこにはメアが──。
「いない?」
普段はいるはずの受付のメアはそこにはおらず、別の受付の女性が立っていた。
受付所が都市内にいくつかあると前にドワーフ族のドーゴンから聞いた。だがメアが別の受付所にいるなんて今まではなかった。
「休みか?」
「おお、クレス、やっと来たか!」
と、疑問に思っていると、後ろから声をかけられた。
振り返ると、アリスはすぐさま「うげっ」と嫌そうな声を漏らす。
そこにはドーゴンとドワーフ族の仲間たちがいた。
「ドーゴンか。お前らも地下迷宮に向かうのか?」
「お主らと違って儂らは毎日地下迷宮で依頼をこなしておるからのう」
「なるほどな。ところでメアを見てないか?」
「メア? ああ、あの娘なら急に休みを取ったとか、他の受付所から助っ人に来た娘が言っておったな」