※この作品はR-18です。

欲しいモノ全てが手に入る地下迷宮を死神は旅をする   作:柊咲

65 / 88
2章 第16話 それぞれの戦い方

 

 

 足音、漏れ出る吐息、壁に当てた手が擦れる音。

 どこまでも続く気がするほど長い螺旋階段を降りると、俺たちは薄暗い地下迷宮に辿り着いた。

 

 

 

「今日の目標は中層に続く階段を見つけることかな。横に広い上層は挑む探索者の数が多いから、休んでいても魔物が現れたら声とか戦いの音とかで対処できるけど、中層に降りると挑戦する探索者も減って、食事をしたり眠ったりするような長期的に休める場所はなくなっちゃうんだよ」

 

 

 

 地下迷宮に入るなり、大きなバッグを背負ったアリスは上層の最新地図を見ながら言う。

 

 

 ──アリス・ラフィット。

 

 彼女の地下迷宮での役割は運送屋(ポータル)で、主たる役割は荷物を運ぶことだ。

 その荷物には地上から持ってきた食料や飲み水、日用品もあるが、地下迷宮で魔物が落とした戦利品なんかも含まれている。

 地下迷宮へ降りた理由はメアと会う為、中層のセーフエリアに向かう為だが、俺たちの職業は探索者だ。

 移住先予定であるセーフエリアで真っ当な衣食住をする為にも、苦労して魔物を倒したというのに金になる戦利品を無視することはできない。

 そしてもちろん、地下迷宮でのみ見つかる古代遺物の回収も、彼女に任せることになる。

 

 なので、アリスは直接的な戦闘には関与しない。

 人によっては運送屋を雑用係と貶めた言い方をする者もいるが、運送屋がいるからこそ戦闘に集中できると俺は思っている。

 

 

 

「できるかぎり戦闘は避けたいとこだな。片道で一週間ほど……体力面もそうだが、武器の消耗がより多くなればなるほど危険になる可能性が増す。我々は鍛冶ができる鍛冶師を同行させていないから、使用できなくなった武器は捨てて新しいのを使うしかない」

 

 

 

 エリザは話しながらも周囲の音を聞き、警戒しながら歩く。

 

 

 ──エリザ・ヘルスレア。

 

 銀色の髪が舞い、腰に携えた細剣(レイピア)を器用に使いこなす。俺みたいに大振りの一撃で仕留めるというよりも、俊敏性や多くの手数で敵を圧倒する戦い方をする彼女。

 その姿は妖精剣舞(フェアリィ・ダンス)を見ているようで美しかったが、彼女にそう言うと顔を赤くさせながら「変なこと言うな」と怒られた。

 

 それほどまでに細剣の扱いに長けているが、ダークエルフである彼女の最大の武器は雷と闇の魔法だろう。

 雷魔法は何度か見せてもらったが、まだ闇魔法は見せてもらっていない。

 彼女曰く闇魔法は強力だが魔力を多く消費するからあまり使用したくないのだとか。

 そもそも魔力が尽きると立っているのも難しいほどの立ち眩みの症状を起こすから、あまり魔法の使用は避けているらしい。

 こうして長期的な旅路では魔力の調整も重要になるだろう。

 

 

 

「と、早速か……」

 

 

 

 俺は大太刀を構える。

 地下迷宮の通路を抜けて円形の空洞地帯に足を踏み入れると、灰色の毛並みの魔物が数体、こちらを捉えて薄暗い空間から赤い瞳を光らせる。

 

 名称はウルフという魔物。

 基本的には四足歩行の(ウルフ)だが、中には二足歩行で、俺たちのように防具を付け、剣や槍といった武器を扱う者もいる。

 武器を扱い速度に長けているというだけでそこまで厄介な魔物ではないが、戦闘が長引けば遠吠えを発して次々と仲間のウルフを呼ぶ。

 

 

 

「さっさと片付けるぞ」

 

 

 

 アリスは足を止め、エリザは鞘から細剣を抜き、癒蘭が──。

 

 

 

「──咲き誇れ、香華月(コウカゲツ)!」

 

 

 

 扇子を広げ、くるりとその場で回る。

 彼女の周囲に橙色の花が広がると、それは俺とエリザの足下に伸び、花々が俺たちの体に吸い込まれていく。

 

 

 

「これは」

 

 

 

 全身を薄いベールで包み込まれるような感覚。

 それに温かく、全身の血が活性化しているようだった。

 

 

 

「わたくしも戦闘はできないので、二人のサポートに徹するわね」

 

 

 

 広げた扇子を口もとに当てウインクする癒蘭。

 拳を何度かぎゅっぎゅっと握ると、確かに普段と違った感覚だ。

 

 俺はウルフへと駆け出した。

 やはり体が軽い。それに踏み込んだ足に普段以上の力が入っているのが感覚だけでなく、蹴りだした時の抉った地面からもわかった。

 

 

 

「はあ……ッ!」

 

 

 

 四足歩行で飛び付いてこようとするウルフの攻撃を横っ飛びで回避すると、俺は駆け出した速度を生かして大太刀を振るう。

 スッという空気を切り裂く音の後、ウルフの肉体が真っ二つに斬れる音がする。

 

 

 

「全身の血が活性化して、普段以上の力を出させてくれているということか」

 

 

 

 そう理解した時には既にもう一体のウルフの体を斬り裂いていた。

 そして次へ、また次へと、感覚よりも先に体が動き魔物を葬る。

 エリザも同じようで、あっという間に七体はいたウルフの群れは跡形も無く消滅した。

 

 

 

「さすがね、はい、おしまい」

 

 

 

 癒蘭は、音を鳴らして扇子を閉じる。

 すると全身を覆っていたベールが消えた。

 

 普段以上の力を発揮したのだから相応に体が疲れるのではないかと思ったが、元に戻っても疲労感はない。

 

 

 

「凄いな。これは魔法とは違った、術の一種か?」

「ええ、そうよ。極東では有名だけど、こっちではあまり使われていない術の一つで、一般的には鼓舞の術って呼ばれているわ。直接的な戦闘はできないけど、サポートとしては便利な力よ」

「その鼓舞の術っていうのは、今使ったのの他にもあるのか?」

「ええ、また今度、見せてあげるわね」

 

 

 

 ──癒蘭。

 

 鼓舞の術か、彼女の言うようにこの辺ではあまり聞いたことのない力だ。

 サポートとしてはとても有難い術だ。それに他にもサポートに適した力があるという。

 そして何より、彼女たち三人にはもう一つの力──眷属召喚がある。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。