土の地面に生まれた石材の階段。
おそらく何年も前からここにあるのだろう。石材はところどころ欠けていて、その傷が長い歴史を物語っていた。
「ここか……」
上層と中層を繋ぐ階段を見つけると謎の達成感が込み上げてくる。
なにせ上層の端から端まで歩いたに等しい距離を歩いたのだ。戦闘での疲労よりも、歩き疲れた疲労の方が大きく感じる。
「今日はここで休憩だね。セーフエリアとは違って魔物が近くに潜んでるかもだけど、他の探索者もいるから他よりは安全だと思うよ」
アリスはそう言って寝泊りする為の準備、テントの設営を始めようとしていた。
彼女の言うように他の探索者の姿もちらほらある。
普通は四方に通路がある空洞地帯だが、ここだけは一方向にしか通路が無い。中層へと降りる階段を中央にして、その周囲に探索者たちがテントを建てている。
場所取りはどうやら先着順らしく、一つしかない通路とは逆から順にテントが建てられていた。
「要するに、遅く来た奴らは狙われるリスクのある通路側で寝ろということか」
俺たちは中間辺りの位置にテントを建てられたが、これから来る連中はいつ魔物が襲ってくるかわからない状況で寝なくちゃいけないのか。
「よし、できた!」
周囲を観察していると、アリスがテント設営を終えていた。
時間にして一分も経っていない。
「もう完成したのか? って……これ、テントか?」
「テントというより、なんだか子供が好きそうなおもちゃの家みたいね」
癒蘭も困惑するように完成したテントを眺める。
外観は一軒家だ。
ただ大きさは俺の身長と同じぐらいで、さすがにここで四人が寝るのは難しい。
「これは古代遺物の一つなの。ほら、入って入って」
手招きするアリスが先に入り、残された俺たち三人は顔を見合わせ恐る恐ると言った感じで入っていく。
すると、
「なんだここ……」
空間が歪んでいるかのような、ぼんやりとした入口。
そこへ顔を突っ込むと、テントの中に広がっていたのは木製の内装にテーブルやイス、それに大きいサイズのベッドが二つ並んだ広々とした部屋だった。
「ふっふっふーん! どう、驚いた?」
「驚いたというか、ここは現実なのか……?」
「あの小さなテントの中というよりも、何処かへ転移したみたいな感じね」
「うむ、だが体には転移のような異変もない」
癒蘭もエリザも驚きながら部屋の中を見渡す。
俺たち三人の様子を見て、アリスは腕を組んでドヤ顔を浮かべる。
「これはボクのお気に入りの古代遺物で≪秘密のお家≫っていうの。手のひらサイズの小さいおもちゃの家をポンって地面に投げたら一瞬で完成。で、外から見たら小さな家だけど、中に入ったら大きい家の中になってるっていう不思議な古代遺物なの」
アリスは「これめちゃくちゃ貴重な古代遺物でさー。いやー、売らなくて良かった」と何度も頷く。
いつだったか、俺が旅していたときに会った行商人が、大きな荷物を布で包むと一瞬にして小さくした古代遺物を持っていた。
見た目は違うが、原理としては同じなのだろう。
行商人もその古代遺物は貴重で、家宝だって言って大切にしていたな。
「へえ、古代遺物ってこういう便利なのもあるのね。旅の先々でこういう便利な道具があるって聞いていたけど、実際に触れる機会はあまりなかったから驚いたわ」
癒蘭が部屋の中を散策しながら感心する。
アリスは大きな荷物を床に置くと、ベッドに座った。
「古代遺物って、迷宮都市周辺にしか知れ渡ってないって言うもんねー。独占したい大富豪が世界中に知られるのを防いだーとか、いろんな噂があるけど実際は謎だよね」
「ああ。私も癒蘭のようにここへ来るまで存在すら知らなかった。それにこういう貴重な古代遺物はここに来てからも見たことがない」
「でしょでしょ。便利な古代遺物があるって噂になったらすぐにお金持ちが『売ってくれ!』ってしつこくつきまとってくるからね。ずっと隠してたのさ。あっ、でもお風呂とかはないから」
部屋中を探し回っていた癒蘭の目的がそれだと気づいていたのか、アリスがにっこりとした笑顔を浮かべながら伝える。
「残念。お風呂もあったら最高の古代遺物だったのに」
「これは大きいモノを小さくする古代遺物だからね。ちなみにボクが背負ってるバッグも似たような古代遺物だよ。まあ、入れられる量はこの秘密のお家よりも少ないけどー」
「へえ、アリスって意外と古代遺物とか持ってたんだな」
「あの短足デブドワーフたちと組んでたとき、連中の目を盗んで落ちてた古代遺物ちょろまかしてたからねー!」
「「「……」」」
自慢げに言えることではないが、まあ、狭いテントの中で四人くっ付いて寝なくてすんだから何も言えない。
「古代遺物は貴重なのさ。大金をいくら積まれても売れない古代遺物だって世の中にはある。だからみんなこうして夢を見て地下深くに潜ろうとするんだろうね」
確かにこんな便利な力を持った道具があれば誰だって欲しくなるか。それにこれ以上の特別な力を持った古代遺物がこの地下に眠っていると言われれば、誰だって夢を見るだろう。
「それと防音対策もしっかりしてるから、子供たちを召喚しても問題ないから」
そう言うなりラビーを召喚すると、アリスはすぐさま定位置である頭の上に乗せる。
エリザもモーナを召喚すると、寝起きであろう丸っこいのがベッドの上で目を擦る。
「じゃあ、わたくしも……」
家一杯の大きさのあるコン助が召喚されると、勢いよく俺へと飛び付いて来て、倒され、顔をペロペロ舐められる。
一瞬にして騒々しくなった空間に心地良さを感じ、俺は少しだけ目を閉じた。