※この作品はR-18です。

欲しいモノ全てが手に入る地下迷宮を死神は旅をする   作:柊咲

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2章 第25話 ダークエルフは過去を見ない

 

 

 

 大泣きしながら人形を片手に抱えた少女。

 人間の大男に攫われ、肌が焼けるような雷に撃たれた。褐色に変わった全身がまだ震えている。歩く足もおぼつかない。

 

 そんな少女がエルフの里に戻ると、大勢の者たちがこちらを見ている。

 脅えるように後退るエルフや、口を抑えて目を見開くエルフ。実の母も、彼女を抱き寄せることはなかった。

 

 ──少女はその日、エルフの里を追放された。

 

 

 

「……過去の記憶を見せて何がしたい、私にとっては過去であって今ではない」

 

 

 

 私がエルフの里を追い出され、迷宮都市ウォレスイトに行き着くまでの一日一日を必死に生きていた頃──そして、クレスと出会うまでの過去の映像が目の前に広がる。

 

 おそらくここは幻の世界。

 幻術の類というよりは古代遺物だろう。

 メア──いや、本当の名はアトレアか。彼女が何かを上に投げた瞬間に周囲が真っ暗になった。

 

 

 

「あの女……」

 

 

 

 過去にクレスと結ばれ、仲間だった女。私たちと同じく眷属を召喚していた。

 クレスと結ばれていたというのはいい、だけど裏切って罠にかけたと癒蘭が言っていた。

 

 

 

「やっぱり、あの時に殺しておくべきだった」

 

 

 

 クレスがいない間、無防備だった彼女を殺しておけば良かったと今更ながら悔やむ。

 過去に愛し合っていたことを知ったクレスが、何の躊躇いもなくあの女を殺せるとは思えない。

 クレスはそういう男だ。

 いい女に弱い。ただただ女に弱い。本当、駄目な男だ。

 

 

 

「だけど、そこがあいつのいいところだ」

 

 

 

 自分で言ってため息をつく。

 

 

 

「そろそろ解放してくれないか? 私に自分の過去を見せても何も変わらない。過去に後悔も辛さもない」

 

 

 

 シーンとした空気が流れる。

 だがすぐに、家屋の陰から誰か出て来た。

 人じゃない。死んだウェルダーから生まれた黒い塊に似ている。

 異形の怪物って、クレスが呼んでいた。

 

 

 

「数は全部で三体……。大きさも前に見たのと違うな。ウェルダーが死んで異形の怪物になったなら、こいつらももしかして」

 

 

 

 人間が死んだ後の残骸かもしれない。

 魔物とはまた違った異形の怪物を警戒しながら、一歩、二歩と下がりながらモーナを召喚する。

 

 

 

「おいで、モーナ」

『グヌゥ!』

 

 

 

 モーナは私の足下で二本の足で直立する。

 その表情はいつもみたいな寝ぼけた感じじゃなくて、珍しく凛々しい顔付きに見えた。

 

 

 

「モーナ、戦える?」

『グッヌウゥ!』

 

 

 

 私を見て大きく頷くモーナ。

 自分よりも大きい異形の怪物を前にしても臆することなく、モーナは堂々としていた。

 

 私はモーナの前に立ち、細剣を鞘から抜く。

 

 

 

「もう、遅れは取らない……」

 

 

 

 あの時は私の油断から、異形の怪物にクレスの左腕を喰われた。

 もしもクレスが色欲の魔女の代行者でなければ、あの時点で彼は死んでいた。

 何度も後悔した。二度とあんなことはしない。

 

 

 

「モーナ、援護して!」

『グヌ、ヌゥ……ッ!』

 

 

 

 踏ん張るように、モーナの小さな両手が震える。

 体内の魔力を貯めると、それを一気に放ち異形の怪物へと雷を放つ。

 

 ──ライトニングボルト。

 

 モーナに教えた最初の魔法。

 ダークエルフにしか扱えない雷の魔法であり、私の子である証明。

 

 モーナの雷を見ると、なぜだか心が温まる。

 それはたぶん、雷の魔法はダークエルフしか使えないからと今までずっと忌み嫌われてきたからかもしれない。

 同じ力を使う子を見て、自分だけじゃないんだと嬉しく思う。

 

 

 

「そんな感傷に浸る余裕はないようだ」

 

 

 

 モーナのライトニングボルトが異形の怪物の黒い塊の中心を貫くも、その穴はすぐに塞がれた。

 一瞬だけ穴の真横に心臓みたいな、核のようなものがあった。

 おそらくそれが弱点で、それを破壊しないといつまでも再生する。

 スライムやデスマッドと似た種類の魔物だ。

 

 

 

「──ッ! だからこそ、攻撃パターンも同じで戦いやすい」

 

 

 

 ウェルダーだった異形の怪物よりも動きが遅く、攻撃パターンも飛び付いてくるしかない。

 口を大きく開けるのを見てから避けても余裕で間に合う。

 何より知能がない。私とモーナに向かって近付くだけで、魔法を避ける素振りも見せない。

 

 

 

「だったら、すぐに終わらせる。モーナ、見てて」

『グッヌウ!』

 

 

 

 モーナは私の後ろに隠れた。

 

 細剣を鞘に納める。

 ゆっくりと近付いてくる異形の怪物たちを見ながら、手を伸ばし、魔法を発動する。

 

 

 

「数多もの死霊よ、魔界より誘え──ヴォイドアレム」

 

 

 ズンッ、と低い音が空気を震わせる。

 その瞬間、異形の怪物たちの背後に黒い渦巻の影が生まれると、影から無数の手が伸びる。

 

 一体一体、影から伸びた腕に吸い込まれていく。

 どんなに力を入れようが、どんなに必死に拒もうが、その腕からは逃れられない。

 

 一瞬にして異形の怪物が消えたのを、モーナがポカンと口を大きく開けて固まっていた。

 

 

 

「どう、ママ凄いでしょ」

 

 

 

 にこりと微笑むと、モーナは目を輝かせながら何度も頷き、飛び付いてきた。

 

 

 

『グヌゥ、グヌグヌウッ!』

「ふふっ、褒めてくれているの? じゃあ今度、モーナにも今の魔法を教えるね」

『グッヌウ!』

「それじゃあ、パパのとこ行こっか」

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