※この作品はR-18です。

狐坂ワカモ保護観察記録   作:夜の機動戦士

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ここで終わりです。


エピローグ

 

 百鬼夜行の商店街では、街路樹でツクツクボウシが切なげな鳴き声をあげていた。スーツケースを引き摺る音に、カラコロと下駄の足音が重なる。

 

「今日はいい天気だね」

「ええ。入道雲がうず高く積もっております」

 

 しきりに汗を拭う私を見て、ワカモが夏空に微笑んだ。

 

「あそこが、私の住む寮です」

「うん……そっか」

 

 いよいよ、別れの時だ。

 

 シャーレの当番にワカモも加わることになり、今後も顔を合わせる機会が設けられた。だけど、あと数歩で、とんだ始まり方をした二人暮らしが終わってしまう。

 

 私はこれ以上歩くのが苦しかった。

 

「あなた様……もしかして、お寂しいのですか?」

「うん」

「あら……」

 

 ワカモはからかい半分で言ったようだったが、言い当てられた内心を私は素直に吐露した。きっと、顔に出ていたのだろう。

 

「寂しいよ。今日からは、家でワカモに会えないんだ」

「くすっ……大丈夫ですよ、あなた様。……これを」

 

 拳を握る私に、ワカモは日傘を差し出してきた。何か取り出すのかなと思って受け取ると、紙袋から白狐の面を取り出して、おもむろに私へ被せてきた。咄嗟にめくって、持ち上げてしまう。

 

「わ……何、ワカモっ」

「離れていても、心は繋がっております。会いたければ、いつだって会えるではありませんか」

 

 いつの間にか、ワカモは随分と大人になっていたみたいだ。先生である私の方が、慰められ、諭されている。それでも、慈しむような彼女の言葉が、嬉しくないはずがなかった。

 

 ワカモが差し出した手を取って、ぎゅっと握り締める。私が大人でなくなってどうする。

 

「ワカモが無事に卒業できたら」

「……ええ」

「一緒に暮らさない?」

 

 ワカモは、大きな目を更に大きく見開いた。

 

「ふふ……うふふ……そのようなことを言われてしまったら、学業を怠けるわけにはいきませんね」

「うん。だからそれまで、お泊りは禁止ね。寮の門限もちゃんと守るんだよ」

「はい。あなた様のお言いつけは、しっかり守ります」

 

 制服の裏で、尻尾がバタバタとはためいている。

 

「……ですが、お互いが休日であれば、愛し合う甘い時間も……?」

「それは……まぁ、うん……」

 

 頬を染めながら、上目遣いで尋ねてくるワカモに、私も釣られて顔が熱くなる。

 

「では、先生――愛しいあなた様――また、近い内に」

「うん。またね。愛してるよ」

 

 握った手を離し、狐坂ワカモは木造の橋を渡っていった。

 

 横断歩道の向こうへ迷わず歩を進め、立ち並ぶシダレヤナギの向こうへ、小さな背中が消えていく。

 

 ワカモが視界から消えていくのを見届けて、私も踵を返した。

 

 白狐の仮面を小脇に抱え、貰った日傘で涼みながら、駅までの道を歩き始めた。

 

 

 赤トンボが、私を先導するように前へ飛んでいく。

 

 夏の終わりと、秋の始まりが、同時に近づいていた。

 

 

 終わり




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