※この作品はR-18です。

そして今日もまた一人 こども部屋おじさんと要介護少年のリュウゾウくん   作:馬門戒明/輪島ライ

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2 誤嚥性肺炎と交流プログラム

 ある日自室で寝ていた私は突然の呼吸の苦しさを自覚して目覚め、ベッドから動こうとしても身動きが取れなかった。

 

 辛うじて枕元の携帯電話を手に取ると同じ住宅内にいる娘を呼び、そのまま気絶した私は気づいた時には地元の総合病院の救急外来にいた。

 

 救急外来で私の鼠径部から採血をした研修医は指導医と共に私に診断名を告げ、私は誤嚥性肺炎の治療のためその日のうちに入院となったのだった。

 

 

「お疲れ様です。ご体調はいかがですか?」

「あれ、宮崎さんではないですか。どうしてこんな所に……」

「リュウゾウさんが入院されたと聞いてお見舞いに来たんですよ。業務中ではないのでリハビリはできず申し訳ありませんが、リュウゾウさんが無事で本当によかったです」

 

 肺炎は点滴で抗生物質を投与されてからすぐに良くなり、数日後には退院と聞かされていた私は病室を私服で訪れた宮崎さんを見て驚きながらも喜んでいた。

 

 娘夫婦は私の命に別状はないと主治医に聞かされてからは退院の時まで見舞いには来ないと言っていて、面倒そうに回診に訪れる研修医と話しても全く楽しくなかった私はいつものように明るく快活な宮崎さんと病室で楽しく語り合った。

 

 

「リュウゾウさん、これはお若い頃の写真ですか? これはお孫さん……ではないですよね?」

「ああ、これは娘が自宅から持ってきてくれた私の写真ですよ。何でも自分や家族の写真があるとせん妄の予防になるとかで。これは小学生の頃の私です」

「へえー、目がぱっちりとしていてかわいらしい男の子ですね。リュウゾウさんにもこんな頃があったんですね」

「はははは、私とて最初から老人だった訳ではありませんからね。もし孫がいたらこんな感じだったのかなと思いますよ」

 

 宮崎さんは無事退院したら元通りリハビリにお付き合いさせてくださいと話し、私はもちろんですと答えて休日にわざわざ来てくれた宮崎さんを名残惜しく見送ったのだった。

 

 

 その4日後に退院した私は元通り自宅で暮らす日々に戻り、また訪問リハビリに来てくれた宮崎さんは私にあるお願いをした。

 

「リュウゾウさん、実は今度僕の自宅に来て頂きたいのです。もちろん仕事ではなく個人的なお願いで、リュウゾウさんの気が向けばで構いません」

「宮崎さんのご自宅にですか? 全く構いませんが、一体何の用事ですか?」

 

 私が率直に尋ねると宮崎さんは持参したA4用紙のチラシを示し、そこには地元の子供たちと高齢者との交流プログラムについての説明が書かれていた。

 

 何でも宮崎さんは区役所が主催するこのプログラムの運営委員に名を連ねていて、今回は地元の子供たちに昭和の子供の遊びを教えるというのが主題らしかった。

 

 

「インターネットオークションでベーゴマやメンコ、花札といった昔の遊び道具を揃えたのですが、実際に遊ぶ様子を実演形式で教えて頂きたいのです。ささやかなお礼しかできませんが、どうか交流プログラムにご協力を頂けませんでしょうか」

「そんなことでしたらもちろん構いませんよ。今度の日曜日はいかがでしょうか?」

「その日は一日中空いていますのでぜひお願いします。ご長女さんにも僕から予定をお伝えしておきますね」

 

 宮崎さんは地元の子供たちのためにボランティアで働いていると聞き、私はいつもお世話になっている彼に少しでもお礼をしようとその日を楽しみに待っていた。

 

 

 その翌週の日曜日、朝食後すぐに家を出た私は自宅まで迎えに来てくれた宮崎さんと一緒に彼の実家まで杖をついて歩いた。

 

「いいですよリュウゾウさん、普段のリハビリの成果が出ていますね。あと3分ほど歩けば僕の家が見えてきますよ」

「ありがとうございます。到着したら一休みしたいですね」

 

 そうこうしているうちに私は宮崎さんの自宅に着き、2階建ての家屋の2階にあるという彼の自室へと手すりを持ってゆっくりと階段を上った。

 

 宮崎さんは私の体力に配慮して自室の前に椅子を用意してくれていて、私はその椅子に腰掛けて一休みするといよいよ彼の自室へと入ることにした。

 

 

「それでは、僕の子供部屋にリュウゾウさんをご案内しますね。片付けてありますけど物が多いのでどうか気をつけてください」

「ありがとうございます。どれどれ……」

 

 私は宮崎さんに背中を押されるようにして彼の自室に入ったが、その瞬間に私は激しい頭痛に襲われた。

 

 

「うっ、あ、あああ……! 頭が、頭が痛い!! あ、あ、あぁ……」

「大丈夫ですかリュウゾウさん! ……なんちゃって……」

 

 あまりの激痛に耐えきれず床に倒れ伏した私を、宮崎さんはこれまで一度も見せたことがないような不気味な笑みを浮かべて見ていたのだった。

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