ホロライブラバーズX ファンタジック・ピースメイカー 作:とも667
幕間です。よろしくお願いします。
一時の安息
俊也はあの後、吐き気に耐えきれずに完全に気絶してしまった。起きた時にはいつも通り、病院のベッドの上で寝ていた。
「あ……みんなが、運んでくれたのか……」
俊也がそう呟いて、起き上がる。自分が何故気絶してしまったのか、それを考えて……強い吐き気がぶり返した。耐えきれずに、俊也は床に胃液をぶちまける。
「う゛っ、う゛え゛ぇぇぇっ」
──ビチャチャチャッ、ビチャ。
街を脅かす憎き敵、秋月。それは俊也の手によって、ついに死んだ。泣き喚きながら、頭蓋を蹴り砕かれて、そのまま頭が潰れて……血溜まりになった。それをしたのは、誰なのか。
「げほっげほ、がぁぁ……ッ」
ずっと寝ていたので、吐く物がすぐに無くなってえずく俊也。現代での死刑執行人は、三つのボタンをランダムに押すという。死刑でも、罪悪感などを少しでも軽減するための措置が成されているのだ。しかし俊也にそんな物は用意されていない。殺したのは、確実に俊也だ。
「失礼します……碇さん!? 大丈夫ですか!?」
「う゛え゛っあ、ごぉっほっ……」
「せ、先生!! 碇さんが嘔吐してます!!」
すぐに医者が入ってきて、腕に刺さっている点滴パックに吐き気止めを追加する。俊也はそれで落ち着いて、疲れきったようにぜぇぜぇと息を吐いている。
「大丈夫ですか、碇さん?」
「えぇ、大丈夫ですよ……まだ、傷が癒えてないみたいです」
「おかしいな。今回、傷は浅かったはずなんだが……」
医者がそれを疑問に思って、俊也を見る。精密検査の結果は無問題、目立った病気も見られなかった。しかし俊也は、激しく嘔吐していた。しかし、考えても医者に原因はわからない。
「とりあえず、このまま大人しくしていてください。それでは」
「ありがとうございました」
「お大事に」
そう言って医者が出ていき、俊也がベッドに寝転がり直す。吐き気は薬で抑えることができたが、嫌な気分は消えない。当然だ、人を殺してしまったのだから。直接、蹴り砕く感触を味わったのだから。
「……これで、よかったんだよな」
俊也は、自分に言い聞かせるようにそう言う。自分は正しいことをした、この街には平和が戻った。それでいいじゃないかと、言い聞かせる。そこで、またドアがノックされた。
「みんなか? 入っていいぞ」
「あ、起きたんだ!! 俊也ー!!」
「私達やったんだよ、俊也!! これで平和になるね!!」
部屋に入ってすぐに、ぺこらが真っ先に俊也に飛びついて抱きしめる。るしあもマリンも、秋月が死んで街が平和になることを喜んでいた。当然だ、秋月がいるままでは平和など訪れようがない。
「……あぁ、そうだな。これで平和になるんだ」
「俊也くん、元気ないね……そんな俊也くんのために、はい!!」
「これ、リンゴ……? 他の果物もたくさんある」
マリンが鞄から取り出したのは、リンゴをはじめとした様々な果物達だった。そして、果物を剥くための包丁も。
「お見舞いの定番は果物でしょ!! はい、剥いて剥いて!!」
「そんなことしなくても、自分で……」
「病人なんだから大人しくしてなさいっ!!」
ぺこらにそう言われて、俊也が押し黙る。まずはリンゴが切り分けられて、爪楊枝が刺さった。まずはぺこらがそれを俊也に差し出す。
「はい俊也、あーん」
「あー……むっ」
──シャクッ。
「どう、美味しい?」
俊也はリンゴを食べさせてもらっていると、ほんの少しだけ嫌な気分が消えていくのを感じた。自分にはみんながいると、そう思えるから。
「美味しいよ、ありがとう」
「ホント!? ほら、どんどん食べて!!」
「お、おい? そんなにたくさん剥くなよ……!!」
俊也の静止を他所に、次々に剥いては差し出される果物。俊也はただ、差し出されるそれに齧り付くことしかできない。代わる代わる三人が果物を差し出してきて、俊也は止め時がわからない。
「俊也くん、あーんして?」
「あーん……って、やりすぎだよ。そんなに食いきれないって」
「あっ、ごめん……つい調子に乗っちゃって」
やっとそこで、剥く手が止まる。皮を剥いた果物は、こんもりと山になって皿に盛られていた。俊也はこれを全部食べられるか不安になっている。
「とりあえず、ありがとう。気分良くなった」
「それならよかった!!」
──コンコン。
「……また誰か来たか。どうぞ」
ドアが開かれて、ノエルとフレアが入ってくる。しかし二人の顔は何故か、あまり明るくない。
「こんにちは、俊也くん」
「昨日と一昨日はどうも、俊也くん。おかげでこの街は平和になった」
「……あぁ」
俊也はそれを聞いて、また少し嫌な気分になる。それを見たフレアが、自分達の考えたことが真実であることを悟った。
「君のおかげでこの街は助かったし、団長もフレアも仲良しに戻れた。本当にありがとう」
「気にしなくていいよ」
「……みんな、ちょっと外に出ててくれない? 三人だけで話がしたいの」
フレアがそう言って、みんなを外に出そうとする。そこで、マリンが目的に気づいたように言う。
「もしかして……フレアも俊也くんに惚れちゃいましたか?」
「ぺこらはいいよ、加わってくれても!!」
「るしあも、二人なら全然……」
三人がそう言っているが、本当の目的は違う。全くその気持ちがないかと言われれば、否ではあるが……フレアは表面上は肯定して返す。
「まぁ、そんなとこ。出ててくれる?」
「団長からも、お願い!!」
「いいよ、見られながらじゃ言えないことあるもんね」
「ごゆっくりー!!」
みんなが外に出ていって、いなくなったことを確認して……ノエルとフレアが、俊也に向き直る。
「……それで、二人とも。本当は何の用なんだ?」
「俊也くんは気づいてたか、流石だね」
「じゃあ、結論から言うけど……あの時吐いてたのは、身体的ダメージのせいじゃないよね?」
真実を見透かされてしまい、俊也は苦笑するしかない。それを見た二人も、予測が当たって渋い顔をしている。
「気づかれてたか……あぁ、そうだよ」
「原因は秋月を殺したから、だよね」
「……そうだな」
俊也の精神ダメージの要因は、『殺人の罪悪感』であった。気づくのが遅れたフレアとノエルは、自分達が秋月にトドメを刺さなかったことを後悔している。
「ちょっと考えれば、わかる話だよね。簡単に人を殺せる人間なんてほぼいない」
「あの時、私かノエルがトドメを刺してれば……ごめん」
「二人が悪いんじゃない。悪いのは……あいつだろ」
俊也はそう言って、無理に笑おうとしている。しかしノエルとフレアは、それで納得することはできない。
「そうだ!! 俊也くん、今度の休み……一緒にどこか出かけない?」
「私もそうしようと思ってた。一緒に出かけてくれる?」
「あぁ、いいよ。二人がそうしたいなら」
二人は、俊也に恩を返したかった。それに、個人的な好意もある。だから、俊也に元気になってもらうのを兼ねて……デートに誘うことにしたのだ。俊也は二つ返事で了承した。
「じゃあ決まりだね!!」
「こっちでプランは考えとくから、楽しみにしててよ」
「うん。楽しみにさせてもらうよ」
俊也は、二人のおかげで少しだけ気分が明るくなった。それから、みんなが戻ってきて……しばらく話して、その日は解散となった。
「……みんなは一人も死んでない。最高の、結末だ」
そう言いながら眠りについた俊也は、酷い悪夢を見た。時は経ち、退院した次の日。俊也は二人と駅前で待ち合わせをしていた。最初に着いたのは、俊也だった。
「切り替えていこう。今日は楽しい日になる」
そう言って、俊也は笑顔を作った。それから三十分程して、ノエルとフレアが来る。二人とも、可愛らしい私服を着てきている。
「俊也、ごめんね。待った?」
「今来たところだ。どこに行く?」
「チケット買ってあるから、行こう!!」
そう言われた後、俊也はノエルに引っ張られて目の前に来たバスに乗った。
「どこに行くんだ、これ?」
「山に行くの。学校だと……ほら、私達が怪物になっちゃって台無しになったじゃん?」
「だから労いとお礼を込めて、もう一回山に行こうってこと!! いい考えでしょ?」
意図を理解した俊也は、それを聞いて笑う。秋月のせいで、台無しになった楽しい遠足のやり直し……俊也はワクワクしてきていた。
「ありがとう。それじゃ……お言葉に甘えようか」
「今回は山登りしなくても、ちゃんとリフトに乗れるから安心してね」
「そりゃありがたいな、あれは大変だった」
俊也の心の荷物は、二人のおかげで軽くなってきていた。バスが目的地に到着して、三人でリフトに乗り込む。
「前来た山より高いのか、ここ?」
「ここはあそこより高いね、その分景色もいいよ!!」
「なるほど……気晴らしには丁度いいな」
リフトにしばらく揺られて、山を昇っていく。頂上に到着して、扉が開かれた。俊也がリフトから下を見てみると、かなり遠い。確かに、前の山より少し高いようだ。
「ほら、行こう? きっと景色すごいよ!!」
「あぁ、わかった……おぉぉぉ!!」
「絶景だね……ここまで来る価値はある」
青い海と空、そして街並みが作る景色。それら全てが一望できる景色に、俊也の気持ちもすっかり明るくなっていた。
「ありがとう、連れてきてくれて。かなり楽になったよ」
「まだお礼言うには早いよ、色々用意してるんだから!!」
「ちょっと待っててね。すぐに準備するから」
二人がそう言って、大きなリュックから大量の物を取り出し始めた。その様子を見て、俊也が手伝いを申し出る。
「重そうだな……手伝うよ、貸して」
「ダメ、今日は私達がお礼する日なんだから!! 座ってて!!」
「そういうこと。悪いけど、しばらく待っててね」
そう言われてはもう、俊也も大人しくしているしかない。しばらく座っていると、机やパイプ椅子が出されてホットプレートが置かれ、野菜や肉に飯盒が出てくる。
「はい、できたよ!! こっち来て!!」
「これ……バーベキューセット、だよな? こんなのまで用意してくれたのか」
「今日は所謂、俊也くんの慰安旅行だしね。ほら、食べよう?」
肉や野菜がホットプレートにの、食欲をそそる匂いが漂う。俊也は思わずヨダレが出てきてしまった。パイプ椅子に座って、ホットプレートの上を見つめる。
「めちゃくちゃ美味そう……食べていい?」
「まだ食べちゃダメだよ、焼けてないからね」
「待ちきれないねー!!」
しばらくすると、野菜にも肉にも火が通り、ますます美味しそうな色を作る。俊也はそれを見て、もう食欲を抑えられなくなっていた。
「……もういいだろ、な!?」
「うん、よさそうだね。食べてもいいよ」
「やったー!! いっただきまーす!!」
ノエルと俊也がすごい勢いで肉をかっさらっていき、ご飯と一緒に掻き込む。噛む度に旨みが口の中に広がり、二人はとても幸福な気分になった。
「あ~……美味いなぁ」
「まだまだあるから、たくさん食べてね!!」
「よく食べるね……気持ちいいくらい」
焼肉も野菜も、次々に俊也の胃へと吸い込まれてゆく。その様子を見て、二人はもっと食べさせたくなったのか……
「これ美味い……あ、こっちも美味い!!」
「俊也くん、トウモロコシ美味しいよ!! 食べてみて!!」
「ありがとうノエル……ホントだ、美味い!!」
左からノエルが差し出したトウモロコシが、一瞬で全て齧り取られた。次にフレアが、右から焼けた肉を差し出す。俊也はそれに反応して、肉に噛み付いた。
「はい俊也くん、お肉だよ」
「ありがとうフレア!! んー、美味い!!」
「こっちも美味しいよ、ほら!!」
「お肉どんどん焼けてるから、好きなだけ食べてね?」
俊也は二人によって、次々に差し出される食材の数々を、器用に左右を向きながら食べていく。俊也がお腹いっぱいになる頃には、食材はほぼ無くなっていた。
「はぁ……お腹いっぱい。ありがとな、二人とも」
「あれだけ差し出して全部食べるなんて、流石は男の子だね!! すごい食欲!!」
「喜んでもらえてよかったよ……あ」
──ぐるるるるるぅ~。
その時、二人のお腹が鳴った。それを聞いて、俊也もそれに気づく。自分に差し出すのに夢中で、二人がほぼ食べていないことに。
「お腹すいてるのか……? ごめんな、夢中で食べちゃって」
「いいよ、私達がやりたくてやったんだし」
「フレア、牛丼屋でも寄って帰ろう?」
しかし俊也は納得しなかった。彼女達だけ、バーベキューを楽しめないことに。立ち上がって、二人に真面目な顔で言う。
「ちょっと待っててくれ、すぐに戻ってくるから」
「え? どういう意味?」
「私達のことならいいよ、気にせず……あぁ、俊也くん!?」
俊也は凄まじい勢いで山を降り、近くのスーパーでできるだけ高い肉や野菜を購入して、山を登り直している。
「……あ、戻ってきたかな?」
「うぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「本当に買ってきてる……結局山登りしたんだね」
そう言われながら、俊也が買い物袋を差し出して笑う。そこにはバーベキューの材料が、どっさり入っている。
「さぁ、二人も食ってくれ!! たくさん買ってきたからさ!!」
「それじゃあ、お言葉に甘えて……わぁ、美味しそう!!」
「正直、大分お腹すいたし……食べちゃおうか」
バーベキューがまた始まり、今度は二人が食べる番。お肉も野菜も、二人がどんどん食べていく。たくさん食べさせてもらった俊也は、今度は焼く係だ。
「どんどん食べてくれ、二人とも!!」
「わっ、このお肉美味しい~!!」
「あ、野菜も美味しいよ!!」
二人が楽しそうに食べているのを、嬉しそうに見つめる俊也。食材はすぐに二人の胃へと消えていき、二人はすっかり満腹になった。
「ごちそうさま、俊也くん!! すっごく美味しかったよ!!」
「それならよかった、買ってきた甲斐があるな!!」
「あ、もう夕暮れか……見て、夕陽が綺麗だよ」
俊也達がそちらを見ると、夕陽に照らされたどこまでも赤い美しい空がそこにはあった。それを見て、全員がその光景に見とれる。
「この時間……ちょっと早めの晩御飯になったね」
「色々あったけど……二人とここに来れてよかった。ありがとう」
「うん、私も同じ気持ち」
山の頂上は、もう誰もいない。みんなは下山しているのだ。それを見た二人が、好機を悟る。今しかない、と。先に言葉を発したのは、ノエルだった。
「俊也くん。改めて、ありがとう。私達を救ってくれて」
「気にしなくていいよ、友達だろ? それに……俺以外に、やれる人はいないし」
「それのおかげで、私達だけじゃない。君の彼女になった人達も救われてる。体だけじゃなくて、心まで……すごいことだよ」
二人は俊也のことを、純粋に賞賛して尊敬していた。だからこそ、自分の行いに自信を持って欲しいと思っているのだ。
「……ありがとう」
「もう気づいてるんじゃない? 私たちが何を言いたいか」
「うん。やっぱり二人も、俺のこと……」
二人が頷いて、少しだけ顔を赤くした。それを見て俊也も、完全に確信する。彼女達が自分に好意を向けていることを。
「団長は、大好きだよ。君の全部が」
「だから、私達とも付き合って欲しい。いいかな?」
「もちろんいいよ。二人なら、大歓迎だ」
二人はその言葉を聞いて、とても喜んでいる。その様子を見て、俊也は微笑ましい気持ちになった。
「えへへへ、やったぁ!! これからよろしくね!!」
「これで俊也くんは、五人の女の子をたらしこんだわけだね。それだけ魅力的なんだから、仕方ないけど」
「二人とも付き合えたし、バーベキューは楽しかったし。今日はラッキーな日だな!!」
「じゃあ、そろそろ帰ろっか。だいぶ暗くなってきたし」
俊也達が三人で笑う。そろそろ暗くなってきたので、リフトに乗り込んで山を降りた。それからバスに乗って、三人が街に帰ってくる。そこでノエルが、おもむろに俊也の腕に抱きついた。
「俊也くん……うち、まだ帰りたくないなぁ」
「うん、そう言うと思ってたよ」
「私も、まだ一緒にいたい。ダメかな?」
二人は俊也の腕を強く抱きしめて、離そうとしない。その様子を見て、俊也は自分の近い未来を察した。
「いいよ。今日は二人で泊まっていけ」
「ありがとう俊也くん、大好き!!」
「じゃあ早めに行こっか、誰かに見られたらまずいかもだし」
「こっちだよ、着いてきてくれ」
こうして俊也は二人に抱きつかれたまま、家に向かうのだった。
次回えっち回です。