ホロライブラバーズX ファンタジック・ピースメイカー 作:とも667
第二章、開幕です。
地盤に潜む牙
ぱちぱちと音を立てて、焚き火が燃える。その前に座り込んでいる、銀髪の女の子が一人。焚き火には、棒に刺さった生肉が何個かくべられている。
「……あ、これもう食べれそう。いただきま~す」
女の子は焼けた肉を見て、躊躇なくそれに食らいついた。あまりにも原始的な生活だが、それを誰も指摘することはない。白黒の、赤いリボンのついたパーカーも、その下の灰色の服も……どちらも、土や血の汚れだらけだ。
「ごちそうさまでした」
そう言って、女の子は土の上に寝転がる。そのまま、目を閉じようとしたところで……無粋な足音が、女の子の耳に入ってきた。それを聞いた女の子は、即座に立ち上がり……懐からナイフを抜く。
「見つけたぞ、沙花叉」
「……懲りずに殺されに来た? もう四回目だよ?」
「まぁ、そう怒るな。今回はお前にとっても悪い話ではないんだぞ、沙花叉」
女の子……沙花叉の前に立った男性は、邪神連合の証の黒いローブとバッジをつけていた。沙花叉は、それに不快感を顕にしている。
「その名前で呼ぶなって言ってるだろ」
「何を言う。お前にそれ以外の名前などないだろう? それとも……96-Aと呼んでやろうか?」
「殺すぞ……!!」
そう言われた女の子……沙花叉が連合員に、本気の殺意を向ける。そうされた連合員が、少しだけたじろいだ。
「っ……流石だな。我々の襲撃を三度も返り討ちにしただけのことはある」
「それでなんの用? くだらない用なら、本当に殺すからね」
「シミズ主任から、伝言を預かっている」
それを聞いて、沙花叉は更に怒気を強めた。ナイフを強く握りしめながら、続きを促す。
「……まだ改造し足りないってわけ?」
「いや? むしろ朗報だよ……お前を解放するそうだ。もう戦わなくていいらしい」
「は? 急に何言って……」
沙花叉はいきなり解放だと言われて、心の底から困惑する。そこで、男はその条件を言う。
「もちろん、タダで解放してやるわけではない。お前に最後の仕事だぞ、こいつを暗殺して死体を持ってこい」
「……本当にこいつを殺せば、もう襲われないの?」
「あぁ、もう絶対に死ぬような目に遭わせることはないぞ。お前は邪神連合から解放されるんだ……何人も殺してきたんだ、今頃一人くらい、簡単だろ?」
沙花叉は書類に目を通す。碇 俊也、特別な危険因子。この者を殺せば、自分を自由にしてくれるという。沙花叉はもう、どこから襲ってくるかも分からない死に怯え続けるのは嫌だった。
「いいよ。やってやる……こいつはどこにいるの?」
「契約成立だな。碇俊也の居場所と行動範囲は、この辺りだ。下っ端共を使って、人気のない場所に誘導するから……そこで殺せ。あと、周りに女がいたら、そいつらも殺せ」
「わかった、それじゃ早く帰ってよ。沙花叉寝るからさ」
そう吐き捨てて、沙花叉はまた地面に寝転がる。それを見た邪神連合員は、何も言わずその場を立ち去った。
「碇俊也、ね……」
明日、さっさとこの男を殺してしまえば……自分は自由になれる。沙花叉はそう思って、俊也を殺す決意をした。
「絶対に殺してみせる」
俊也が二人と一緒にベッドを洗った、次の日。俊也はいつも通りランニングをしていると、るしあと出会った。
「いやぁ、偶然だな。こんなところで会うなんて」
「会えると思ってなかったから、びっくりしたよ!!」
「もう筋トレは終わってるし、デートしよっか」
「うん!!」
こうして二人は、予定になかった街中デートを始めた。二人はしばらく歩きながら談笑し……今は休憩中で、自販機で買ったアイスクリームを食べている。
「美味いなぁ……たまに食べたくなるんだよ、これ」
「わかる、なんか無性に食べたい時あるよね!!」
「そうだ、るしあのも一口もらっていいか? 俺のもあげるからさ」
そう言って、二人がお互いのアイスをシェアする。るしあがバニラアイス、俊也はソーダアイスだ。俊也もるしあも間接キスを気にせず、そのまま齧る。
「えへへ、ソーダも美味しいね」
「バニラもいいな~……もう一個買うか?」
「気持ちはわかるけど、お腹壊しちゃうよ~?」
二人は周りに人のいないベンチに座り、イチャイチャしている。そして……それを狙う無粋な輩がいた。
「……こちら、番号87。準備OK」
「番号86、同じく配置完了」
「奴ら以外はいないな……撃て」
そこで俊也とるしあは、鋭敏にその殺意を感じ取る。るしあはアンデッドを出現させて、銃弾を受け止めさせた。
「ふぁんでっどさん!!」
「死ね、碇俊也……ぐはぁっ!?」
──ドゴォン!!
「人のデートに水を差すとは……マナーのなってない奴らだな」
俊也は、頭を蹴り付けられて倒れ込んだ連合員を見て、そう呟く。るしあはイライラした様子でアイスのコーンを噛み砕いている。
「クソッタレ共が、懲りずに来やがったな……!!」
「……逃げる気か? 逃がさねぇぞ!!」
「るしあも行く!! 待ってろ、ゴミ共!!」
俊也は騎士団に電話で通報しながら、連合員を追いかける。そして、二人は人気のない空き地に誘導された。
「来たな……? それでは早速……」
「おせぇんだよ!! 『苗床の残滓』!!!」
「なっ……ギャアァァァァ!?」
──ズドドドドドドッ!!!
銃を持った男は、るしあの呪術に体を焼かれて吹っ飛び、そのまま倒れた。それを見てリーダーの男が舌打ちする。
「チッ、やはりダメか……では、私はそろそろ逃げさせてもらおう」
「逃がすかよ!! 竜巻旋風脚ッ!!」
──ズガァッ!!
「ぐふぅっ!?」
俊也は、足を真っ直ぐ伸ばして、回転しながら男に突っ込み……そのまま、男を真横に蹴り飛ばした。
「これで全員だよね?」
「気絶したようだな……とりあえず、騎士団が来るのを待とう」
「それにしても、デートの邪魔してくるなんて。本当にクズしかいないね」
るしあはそう吐き捨てて、倒れた男を睨みつける。俊也は焼け焦げてしまった死体を見て、少し気分が悪くなる。
「……あぁ、そうだな」
「大丈夫? 顔色悪いけど……」
「俺なら大丈夫さ、心配するな」
俊也がそう言って笑った、その時。何者かが、俊也の足首を掴む。それに俊也が気づいた時には遅かった。
「うぉぁぁっ!?」
──グボォォォン!!!
「しゅ、俊也くんっ!! 誰だ、出て来やがれ!!!」
『ここは……なんだ? この感じ、水の中か? 俺はどうして水の中に……?』
俊也は何故か、水の中にいた。そこで俊也は、水の流れで気づく。自分の他に、誰かいることに。
──
『なんだ……なにかが近づいてくる!?』
「死ね」
『っっ!?』
──ジュバァァァッ!!
俊也は前方に近づいてきた人影に、とっさに前蹴りを繰り出す。その蹴りは水の中では遅く、ダメージを与えることはできなかった。そしてナイフが、俊也の体を裂く。
「ぐぶっ……!!」
「……しぶといな」
『あれが敵か……? どうして水の中で、あんなに俊敏に動けるんだよ?』
俊也は考えてみたが、答えは出ない。そこで、俊也はまた敵が近づいてくるのを感じた。
「今度こそ殺す」
『どうする……!! 攻撃は水が重くて当たらないし、あっちは自由自在に動ける!! 考えろ……!!』
「死んでよ!!」
敵が俊也にナイフを振るう。俊也は体を動かして、なんとかナイフを躱す……しかし、それも時間稼ぎにしかならない。
『完璧なヒット&アウェイだ……!! その上こちらだけ動きが遅い、酸素にだって限りがあるし……!! くそっ、どうすればいい!?』
「しぶとい奴……でも、絶対殺す!!」
「っぶ……!!」
俊也が敵に苦しめられる中、るしあは焦っていた。当然だ、俊也が地面に引きずり込まれたのだから。俊也が引きずり込まれた部分は、水溜まりのようになっている。
「どうしよう……!? 敵がどこにもいない!!」
るしあはとにかく俊也を助けようと、水溜まりに手を入れてみる。すると、中に広い空間があるのがわかった。
「……よし、それなら!!」
るしあはアンデッドを大量に出して、繋げ合わせた。そして、水溜まりへと投げ込んだ。
「いっけぇぇぇぇ!!」
──ダバァァァン!!
そして俊也は、傷だらけで何とか猛攻に耐えている状態。俊也はどうすれば生き残れるか、必死に考えていた。しかし、答えは全く出ない。
「今度こそ!!」
「っ……ん?」
『あれはなんだ? ロープか? もしかしてるしあが……? とにかく、あれを……!!』
俊也は全力でそこへと泳ぐ。しかし、沙花叉がそれを許すはずもない。ナイフを向けて、俊也の急所を狙う。
「こっちだって、命がかかってるんだ!!」
「がふっ……!!」
「あと、もう少し!!」
俊也はもう限界だった。必死に、そのロープへ手を伸ばす。そこで、沙花叉がトドメを刺しにきた。
「死ねっ!!」
「……るぁぁぁっ!!」
「ぐっ、熱っ!?」
俊也は最期の足掻きとして、ブレイズキックを放つ。水中なので、足が燃え盛ることはなかったが……それによって熱が発生し、一時的に俊也の足の近くが熱される。沙花叉は腕を突然熱されて、反射的にナイフを引っ込めてしまう。
『今だっ!!』
「っ、しまった……!!」
──ザパァァァァン!!
「……っがぁ!! はぁ、はぁ……ありがとう……」
俊也はるしあに引き上げられて、地面を転がる。そして、るしあが俊也の裂傷痕を見て怒りを顕にした。
「俊也くん!! 酷い……!! くそっ、ドブカスが!!」
「気をつけろ……引きずり、込まれるぞ……!!」
「えっ!?」
俊也の警告通り、地面から手が出てきて……今度はるしあを引きずり込もうとする。そこで俊也がるしあを掴んだ。
「くっ、すげぇ力だ……本当に人間か!?」
「調子乗んなよ!! 『黒炎』ッ!!!」
「……当たったか?」
るしあが首を横に振る。俊也はそれを聞いて、渋い顔をした。
「くそっ、一方的すぎる……るしあ、どうにかして位置だけでもわからないか!?」
「やってみる……っ、来るよ!!」
「ブレイズキックッ!!」
俊也は足に炎を纏わせて、敵が掴めないようにした。沙花叉は俊也を掴むのを諦めて、また水に潜っていく。るしあは『生命を探知する』魔法で沙花叉の位置を見ながら、悪態をつく。
「……とりあえず引きずり込まれるのは回避できたが、どうするか……」
「くそっ、出てきて戦いやがれ!! 卑怯者が!!」
「水の中への攻撃手段、なにか無いか……」
俊也は必死に頭を回す。そして……
「ふぁんでっどさん達は泳げないし……畜生ッ!!」
「アンデッド……泳げない……沈む? そうだ、それだ!!」
「えっ、な……なに? なにか思いついたの!?」
るしあの問いに、俊也が笑って答える。
「思いついたぜ。協力してくれ」
「わかった、どうすればいい?」
「……って作戦なんだが」
俊也の言ったことに、るしあが驚く。
「なるほど……!! 俊也くん、頭いいね!!」
「咄嗟の頭の回転ってやつだな……頼むぜ、るしあ!!」
「任せて!!」
そう言って、るしあはアンデッドを出し始めた。そして敵側……沙花叉は、中々二人を引きずり込める状況にならず、やきもきしていた。
「くそっ、隙が全然ないな……最初は奇襲で何とかなったけど……」
沙花叉も沙花叉で、警戒されきっているせいで仕掛ける機会がなくなり、困っている。そんな時だった。
──ゾブンッ。
「あれ……? なにか降ってきた?」
内部に熱源反応。しかし、何なのかはわからない。それが、次々に増えてゆく。そして沙花叉が泳いだことでできた流れによって、それが沙花叉の方へと流れてきた。
「っ、なに……?」
──ダバァァァァンッ!!!
「がはっ!? ごっ、ぶぅっ……!?」
大きく吹っ飛ばされて、沙花叉はそれの正体を察する。
「爆弾……!? それも、こんなにたくさん……!!」
沙花叉は大量のアンデッド爆弾に囲まれたが、それでも泳ぐのをやめるわけにはいかない。何故なら。
「っ、まずい!!」
沙花叉は、水が固まり始めているのが見えて、急いで水に刺激を与える。コンクリートが動かさないと固まってしまうように、沙花叉が液状化させた水中も、同じような性質なのである。しかしそんなことをして、タダで済むはずもない。
──ボゴゴォォォン!!!
「がぶぁっ……くっ、まずい……!!」
動けば動くほど、沙花叉は自分の首を絞めることになる。しかし動かなければ、沙花叉はこのままコンクリートの一部にされてしまう。このままでは、爆死か圧死か。最悪の二択だ。
「こうなったら……!!」
もう、地上に出るしかない。そう思った沙花叉は……捨て身の手を使うことにした。
一方俊也達は、爆発音を聞いて上手くいっていることを察していた。るしあは『生命を探知する』魔法で、沙花叉の位置を見ている。
「爆発に巻き込まれて何度も吹っ飛んでる……!! 効いてるよ!!」
「よし……あとは、地上に出せればこっちのものだ」
「……あれっ? 止まった?」
俊也はそれを聞いて、危機感を覚える。なにか仕掛けてくるつもりだと。
「るしあ、敵の体がどうなってるかわかるか!?」
「傷までは見えないけど……えっ? 両足でふぁんでっどさんを……蹴ってる?」
「……!!」
俊也はそこで、沙花叉の意図を察した。なにをしてくるのか。それがわかったなら、今考えるべきは……敵の狙いだと、俊也は思った。
『俺なら……どちらを狙う?』
──ボグォォォォォン!!!
──ゾバァァァァン!!!
「死ねっ!!!」
「そう来ると、思ってたよ!!」
俊也は奮迅脚で、一気にるしあの前まで加速する。その異常な速度に驚く間も無く……俊也は地面を踏みしめて、その場で回転して……右回し蹴りを放つ。
「なっ……!?」
「クルーエルディザスター!!!」
──ズゴォッ!!
「がぁっはっ!?」
沙花叉は俊也の蹴りをまともに受けて、肺の中の空気を全て吐き出す。そして、俊也は更に沙花叉へ追撃を放つため、跳躍する。
「そこだぁぁっ!!」
「しまっ……!?」
「サイクロンディザスターッ!!!」
「がぁっ、ぐぅ、ごは……!!!」
──ズガガガァァッ!!!
──ガシャアッ!!!
浴びせ蹴りを三発打ち込まれて、沙花叉は大きく吹っ飛び……後ろの金網に激突した。そこにるしあが、更に追撃を放つ。
「焼け焦げろアバズレ!! 『苗床の残滓』ィ!!!」
──ゴバォォォォッ!!!
「あがぁぁぁぁっ!!!」
「……もう動けないだろ。降参しろ、命までは取らん」
そう言って俊也は、沙花叉を生かしたまま捕縛しようとする。事実、沙花叉はもう動ける状態ではなかった。投降しなければ、殺される。それもわからない程、沙花叉の頭は悪くない。
「わかったよ……えっ?」
「トドメだ、クソメスブタがぁぁぁぁぁ!!!」
「ちょっ、るしあ……!?」
るしあには俊也の言ったことが聞こえておらず、沙花叉にトドメを刺す気満々だ。アンデッドを引き連れて、手には呪術の炎を持っている。
──ズガガガガガッ!!!
──ドゴォォォン!!!
「うぎっ、がぁ!!!」
「よくも俊也くんをッ!!! くたばりやがれぇぇぇッ!!!」
「ま、待て!! 俺の話を聞け、るしあ!!!」
俊也がもう一度そう言うと、るしあが漸く攻撃する手を止めた。沙花叉は呪術とアンデッドの攻撃を受けて、ボロボロになっている。
「えっ? 俊也くん、どうして……」
「生かしてても自爆する様子が見られない。そいつからなら、内部のことを色々聞けるかもしれん。生かして捕らえたい」
「そっか、確かに……わかった」
俊也は沙花叉にまだ息があることを確認して、安堵する。殺してしまっていたら、何も聞き出せないからだ。そして俊也は、個人的に気になることもあった。
「それに、さっき言ってたことも気になるしな……」
『こっちだって、命がかかってるんだ!!』
「ん、なにか言った?」
「いや、何も言ってないよ」
その時。そこでようやく、他のみんなが駆けつけてきた。
「俊也くん、大丈夫……じゃない!!」
「あぁ、命に関わる傷じゃないから大丈夫さ」
「これって、どういう状況……?」
ぺこらは俊也を心配し、マリンは困惑している。一方、通報を受けて駆け付けてきたノエルとフレアは……冷静に状況を分析していた。
「俊也くん。その人、敵だよね? 生かして捕獲したの?」
「あぁ、しばらく起きてたんだが……自爆する様子がなかった。内部について何かわかるかも」
「なるほど……俊也、ナイスだよ。ちょっと見せてね」
フレアが沙花叉に近づいて、息があることを確認し……頷く。
「うん。この程度なら、私一人でも傷を治せるね。騎士団や警察とかに運ぶのは、邪神連合に見つかったり、マスコミにバレるリスクがあるし……俊也くんの家に運んでもいい?」
「俺の? うん、いいよ」
「決まりだね。とりあえず、担架持ってきてるから……これで運ぼうか」
ノエルが担架を取り出し、それを俊也とノエルで持った。そして沙花叉はフレアによって持ち上げられ、その上に載せられる。
「あ、ぺこら達もついてく!!」
「船長も行きます!! るしあも行くよね?」
「もちろん!!」
三人もそれに着いていき……沙花叉は俊也の家へ運搬されていった。
沙花叉クロヱ、登場。