ホロライブラバーズX ファンタジック・ピースメイカー 作:とも667
タイトル通りです。
沙花叉は、悪夢を見ていた。昔の、最悪な記憶の夢を。体に走る鈍痛、そして聞こえてくる怒鳴り声。
「嫌だよ、お父さん!! お母さん!! 沙花叉、痛いのヤダ!!」
「何度言えばわかるんだ!? 神のためなんだよ!! お前のためにやってるんだぞ!!」
「このわからず屋!! 私はこんなにも、こんなにも神を大事に思ってるのに!! どうして理解できないの!! この背教者がぁぁぁ!!!」
──ドゴォッ!!
毎日殴られ蹴られ、おかしなところに連れていかれて注射をされる毎日。注射をされると、目の前がぐるぐるして、食べ物を吐いてしまう。それを見た親に、また沙花叉は殴られるのだ。そんなある日……
「えっ、今日は二人と同じ場所で食べていいの!?」
「そうだ。たっぷり食べろよ」
「ほら、食べなさい」
目の前に差し出された、美味しそうなご飯。食べさせて貰えなかったまともなご飯を、沙花叉は一心不乱に食べた。
「美味しい、美味しいっ……!!」
「おかわりもあるぞ、食べろ!!」
「うんっ!!」
泣きながら、沙花叉は食べ続けた。しかし、その時。沙花叉は強烈な眠気に襲われる。
「っ、あ……?」
「成功した……!! 神よ、貴方に生贄を捧げます!!」
「どうか、我らに救いを!!」
寝る前に聞こえてきた言葉に、沙花叉は絶望する。そして、自分の死を悟った。
『信じるんじゃ、なかった』
そう思いながら、沙花叉は意識を飛ばした。そして……そこで沙花叉が、目を覚ます。腕が頭の上で縛られており、動けない。
「起きやがったな、アバズレが」
「アンタは……ここはどこ? 警察の景色じゃないよね」
「俺の家だよ。目立つところに持っていくと、邪神連合に見つかりかねないからな」
俊也がそう言って、目覚めた沙花叉を見る。沙花叉の知らない他のみんなも、部屋の中に立っていた。
「傷の治療はしておいたよ。完全に治るにはまだ時間がかかるけどね」
「……何のつもり?」
「傷が痛くて話すどころじゃない、じゃ困るからね」
ノエルとフレアがそう言ったのを見て、沙花叉が俊也達の意図を察する。
「なるほどね。私から色々と、邪神連合のことを聞きたいってわけか」
「とりあえず、ここは安全だ。お前の体に発信機とかがついてないことは確認したからな」
「確認は私がやった。一応魔法で確認したけど、体内にもなかったよ」
沙花叉はそれを聞いて、とりあえず自分が安全であることを知った。
「そういうことか……アンタ、碇俊也……だよね?」
「そうだが、どうした?」
「取引しようよ。私はなんでも情報を吐く、その代わりに……これからも私の安全を保証して欲しい」
沙花叉はそう言って、俊也に取引を持ちかけた。るしあがそれに対して、怒りを顕にする。
「テメェッ!! 身の程弁えろ!!! るしあはテメェをいつでもバラバラにできるんだぞ!!!」
「ッ……安全が保証されないなら、私は何も吐かないよ。拘束されてるだけでも……」
「うん、わかった。それでいい」
俊也は沙花叉が全て言い切る前に、要求を飲んでしまった。それを聞いて、沙花叉は耳を疑う。
「あいつらに追われるより……って、え? マジ?」
「それでいいなら、構わないぞ」
「……わかった。じゃあ、知ってることを答える。何が聞きたい?」
沙花叉がそう言った瞬間、俊也が尋ねた。
「とりあえず、名前は?」
「沙花叉。下の名前は無い」
「無い? どういうこと?」
フレアが疑問を投げかけたが、沙花叉は本当のことを言っているだけだ。
「そのままの意味だよ。沙花叉が苗字……名前は、つけてもらえなかった」
「……じゃあ、お前に命令をしたのは?」
「シミズ、邪神連合の研究所の偉い人らしいよ。沙花叉はよく知らないけど、まともじゃないね」
シミズ。そう言われて、ノエルが秋月の手帳を思い出す。
「そういえば、秋月もシミズから資料を受け取ってたって……書類にも何回か名前が出てたし」
「基地の場所はわかるか?」
「えーと、確か……隣町にある山の中を進んだところにあるはずだよ。そうやって向かってたから」
その内容を真面目にメモする俊也。るしあは、そんな沙花叉を恨めしそうに睨んでいる。
「シミズはどんな奴だ? あと、能力はどんなだ?」
「一言で言って、狂人だね。常に言ってることと真逆の行動をしてくるし、行動理念がわからない。能力もわからない、戦ったことあるわけじゃないしね……」
「人格破綻者ってわけか……あ、聞き忘れてたな。お前の能力は、どうやって手に入れたんだ?」
俊也がそう聞くと、沙花叉は言いづらそうにしながらも……口を開いた。
「シミズの奴に、色々やられたみたいでね。睡眠薬で眠らされてたから、何されたかはわかんないけど……多分、アンタ達の言う『邪神人間』ってのと同じだと思うよ」
「邪神の力ってこと? でも、触手とかは出してなかったんだよね?」
「沙花叉はそういうのがない……読めなかったからわかんないけど、とにかくそういう物に『した』らしいよ」
俊也はそれを聞いて、ノエルとフレアに確認する。俊也はどこまで行っても素人、ノエルとフレアはプロだ。どちらが嘘を見抜けるかは一目瞭然だろう。
「どうだ? 嘘はついてなさそうか?」
「うん。嘘をついてるヤツの顔じゃないね、安心していい」
「そもそもあっちから取引を持ちかけてきたわけだし、信用していいんじゃないかな」
俊也はそれを聞いて、頷く。そして、沙花叉に尋問の終了を告げた。
「ご協力どうも。これで聞きたいことは全部だ」
「案外優しいんだね。もっと酷いことされるかと思ってたよ」
「何勘違いしてんだ」
そこでるしあが、底冷えするような声を出した。沙花叉はその声に、本能的な恐怖を煽られる。他のみんなもその声を聞いて、体が震えた。
「ちょ、ちょっと、るーちゃん……!!」
「な、なに……? 安全は保証するって、言ってくれたはず……」
「そんな美味しい話があると思ったか? お前のようなアバズレに!!!」
るしあが手を上に掲げて、アンデッドを何体か呼び出す。そして、怯える沙花叉に歯軋りしながらるしあが言い放つ。
「ひっ……!!」
「お前はもう、用済みだ。頭パッパラパーのゴミ連合のお仲間め……地獄に堕ちろッ!!!」
「るしあ!! やめろ!!」
俊也の声は聞こえていないらしく、るしあがアンデッドに命令を出す。アンデッド達が、沙花叉に手に持った武器を振り上げた。
「死ね!!!」
──ズジャッ!!
「……えっ?」
「ぐっ……やめろって、言ってんだよ!!!」
俊也が沙花叉を庇い、アンデッドを蹴り飛ばす。そして、るしあを思いきり怒鳴りつけた。るしあは俊也に反論する。
「邪魔しないで!! こいつは邪神連合の仲間だ!!」
「だとしても!! 俺は、この人の身の安全を保証すると言っただろ!! 約束は守る!!」
「殺されかけたんだよ!? もう少し遅かったら、俊也くんは!!」
るしあがそう言うが、俊也に沙花叉を殺す気はなかった。
「俺はこの人を許す!! お前に勝手に殺す権利はない!! とにかくやめろ、この人に謝れ!!」
「ッ……わかってくれないなら、もういい!!」
「えっ、どこ行くの!? るしあ……えっ!?」
マリンがそれを追おうとしたが、フレアが肩を掴んで止める。
「やめときな。彼女はちょっと頭を冷やさないと」
「俊也くん、大丈夫? 怪我とかしてない?」
「大丈夫だよ。それよりも……この人が大丈夫じゃなさそうだ」
沙花叉は、酷く怯えていた。腕を縛られているので動けないが、ここから逃れようと身を捩っている。
「いや、だ……死にたく、ないよ……」
「……それで、どうするの? 身の安全を保証するとは言ったけど」
「俺の家で預かる。少なくとも、邪神連合が壊滅するまではな」
俊也はみんなにそう伝えて、沙花叉は俊也の家で預かられることになった。その後、沙花叉の震えが落ち着いたのを見て、俊也が謝罪する。
「すまない。俺の身内が迷惑をかけたな」
「……どうして庇ったの? あのまま沙花叉が死んでも、アンタに不利益はないでしょ」
「ある。あなたとの約束が守れない」
俊也はハッキリとそう言い切った。それを見て沙花叉が一言。
「……バカなの、アンタ?」
「バ、バカ!? バカって言う方がバカなんだぞ!!」
「……とりあえず、ここにいれば安全っていうアンタの言葉は信じてあげる」
沙花叉はそう言って、とりあえず俊也を信用する事にした。こんなバカが、隠し事などできるはずもないからだ。
「あ、ありがとう……とりあえず、ご飯持ってくるよ」
「いらない。沙花叉は別に……」
──ぐぎゅるるるる……
「お腹は正直だな。作るから、ちょっと待っててくれ……あ、そうだ」
俊也が気づいて、沙花叉の腕を拘束していた縄を解く。その無警戒さに、沙花叉は少し呆れた。
「無警戒すぎるでしょ。さっき私に殺されかけてるんだよ、アンタ?」
「昔の話だろ? それに、ずっと縛られてたら手首痛くなりそうだし……ご飯作ってくるから、漫画でも読んで待ってて!!」
「……やっぱりこいつ、バカだ」
沙花叉はそう呟いて、目の前のベッドに寝転がる。人生初めてのフカフカのベッドに、沙花叉は驚く。
「お布団と枕って、こんなに柔らかくて暖かいんだ……」
これでいつも、俊也が寝ていると思うと……沙花叉は俊也が妬ましくなった。
「今くらい、いいよね」
沙花叉はそう呟いて……布団を被って、枕に頭を乗せて目を閉じる。疲れ切っていた沙花叉はそのまま、眠ってしまった。
「……お待たせ、何が好きかわからなかったから、とりあえずハンバーグを……って、あれ?」
「ぐぅ、ぐぅ……」
「寝ちゃったか……無理もない、戦ってすぐだもんな。ここに置いといてあげよう」
俊也は料理にラップをかけて、沙花叉の前の机に置いて部屋を出る。そして、一時間後。
「ふわぁ……あ? いい匂い……」
そこには、昔一度だけ食べたハンバーグが置かれていた。あの日、騙された日に食べてしまったもの。
「……だけど」
沙花叉の腹の虫は、鳴き続けている。目の前のハンバーグは、とても美味しそうにできていた。沙花叉の口から、涎が流れ出る。
「食べても、いいのかな……?」
「心配しなくても、毒なんて入れないよ」
「ひゃっ!?」
いきなり俊也が出てきて、沙花叉の体が跳ねた。ドアの前に立っていたようだ。
「ごめん、どうしても心配でさ……毒なんて盛ってないぞ。心配なら、俺が半分食べてもいい」
「ダ、ダメ!! これは沙花叉の!!」
「だよな。ほら、冷めないうちに食べちゃえ」
「……いただきます」
俊也にそう言われて、沙花叉は目の前に置かれたハンバーグを食べた。温かいご飯とスープまでついている。
「どうだ、美味しいか?」
「……美味しい」
「よかった、冷めてないか不安だったんだよ」
沙花叉はあっという間に、綺麗に食べきってしまった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした!!」
「……ねぇ、沙花叉一応『捕まってる』んだよね? 全然そんな感じしないんだけど」
俊也はそう言われて、少し考えたあと……何かに気づいたように言った。
「……そういえばそうだった。まぁ、細かいことはいいじゃん!! あ、寝てていいからな!!」
「忘れてたのかよ……」
「とりあえず、しばらくはソファーで寝よう」
沙花叉は寝ていていいと言われて、また眠る。お腹いっぱいになって、ゆっくり寝る……初めての感覚だ。
「ホント、馬鹿じゃないの……」
「あ、お風呂は……」
「絶対入らない」
沙花叉はそう言って、即答で風呂を拒否した。
時間は少し遡り……るしあの家。るしあは、俊也の様子を思い出す。今までにないほど怒っていた顔。メールを送っても、返事がない。
「……るしあ、見捨てられたのかな」
何が原因なのかは、考えずともわかった。ついさっきあったことだから。
「約束したから……当たり前のことだよね」
一度冷静になると、るしあは罪悪感が湧いてきた。その時、るしあの耳に声が聞こえてくる。
『そう。あなたは罪を犯した』
「誰だ!?」
『私はあなた。あなたは私……本当は『あの時』に会うはずだったけど、あなたは私を見てなかったからね』
るしあの目の前に、るしあが現れた。その光景で、るしあは思い出す。
「アキヅキ……!! テメェ、まだ生きてたのか!!!」
『違うよ。私は、あなたの精神が不安定になったから出てきた……『もう一人のあなた』だよ』
「もう一人のるしあ……?」
もう一人のるしあが頷いて、るしあに言う。
『うん。それで、早速聞くけど……あなたの夢は?』
「……急になに?」
『答えなさい』
そう言われて、るしあは仕方なく答える。
「あの童話の、お姫様になること」
『そうだね。じゃあ、思い返してみて。お姫様はあんなことをするかな?』
「……ううん」
そんなことを、お姫様が絶対にしないことは、るしあが一番よく知っている。
『じゃあ、お姫様はどんな人?』
「可愛くて……強くて、かっこよくて……」
『それだけ? 違うよね』
るしあはその続きが、自分に当てはまらないことを知っている。だから、言えない。
「それから……」
『それとも、目を逸らし続ける? るしあはそれでもいいよ。その先で、全てを失うことになるだろうけど……自分で読んだ童話のように』
「ッ……!!」
そう言われて、るしあは思い出す。心の中で、秋月が取り憑いた時に読んだ……『自分の話』を。
『気づいた? あれが『私』なの。あの時は俊也くんのおかげで見つめ直しただけで、私も一時的に眠っただけ。向き合えてはいなかったんだよ』
「……どうして、今出てきたの?」
『あなたは、あの子に怒っていた。あの子を憎んで殺そうとした……私は一度怒ると、周りが見えなくなって、他人を見ることができなくなる』
昔のことを思い出しても、それに対する反論はできない。るしあは俯くしかなかった。
「じゃあ、あなたは……?」
『強いて言うなら、あなたの『良心』かな。あなたにも、あるんだよ。お姫様に成れる素養はね』
「るしあにも……」
るしあは机の上を見る。常に置いてある、あの絵本を手に取った。
『読んでみて。そこに答えはあるはずだよ』
「ネクロマンサーの、お姫様は……優しくて、思いやりがあって、その力を誰かのために使う……」
『そう。今のあなたとは、まるで正反対……』
るしあはそこで、これまでの自分の間違いを漸く自覚する。
「怒りだけじゃ、守れない……」
『夢も、友達も……大好きな、あの人も』
「俊也くん……」
るしあは想い人に想いを馳せる。そして、もう一人のるしあが言った。
『今なら、わかるんじゃない? どうして……俊也くんが蹴ったアンデッドが、私に一つも当たらなかったのか』
「……るしあに当たらない方向に、蹴った? あの一瞬で?」
『俊也くんは、それくらいできる人でしょ?』
そう言われて……るしあは、どうしようもない程納得させられた。自分の愛しい人が、何ができて何ができないかくらい、わかっているから。
「怒ってても、るしあを……」
『お姫様は、約束を破らない。今のあなたじゃ、お姫様にはなれない』
「……どうすればいいの? そんなにすぐに、変われるものなの?」
るしあがそう言うと、もう一人のるしあが笑う。
『簡単だよ。私を受け入れてくれればいい』
「あなたを……受け入れる……」
『怒りを抱いたなら、思い出して。隣にいる人達のことを』
もう一人のるしあが、るしあの頬に手を添える。
「あっ、体が透けて……」
『消えるんじゃない。あなたの中に、戻るだけ』
「待って、まだ話してたい……!!」
粒子になって、もう一人のるしあが笑って消えていく。
『どうか思い出して。あなたの中にある優しさと思いやりを……』
「あ……」
『そして、忘れないで。お姫様の童話を……あなたなら、きっとなれる』
そう言われた瞬間、るしあがハッとする。辺りを見回しても、もう一人のるしあはどこにもいない。
「……出てきてくれたのかな、るしあのために」
何故だかるしあは、心が暖かかった。
「明日、あの人に謝ろう」
そう言って、るしあは……寝る前に、トークアプリで俊也にメッセージを送った。
『今日はごめんなさい。明日、直接謝りに行きます』