※この作品はR-18です。

ホロライブラバーズX ファンタジック・ピースメイカー   作:とも667

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 タイトル通りです。


資格の有無

沙花叉は、悪夢を見ていた。昔の、最悪な記憶の夢を。体に走る鈍痛、そして聞こえてくる怒鳴り声。

 

「嫌だよ、お父さん!! お母さん!! 沙花叉、痛いのヤダ!!」

 

「何度言えばわかるんだ!? 神のためなんだよ!! お前のためにやってるんだぞ!!」

 

「このわからず屋!! 私はこんなにも、こんなにも神を大事に思ってるのに!! どうして理解できないの!! この背教者がぁぁぁ!!!」

 

 ──ドゴォッ!!

 

 毎日殴られ蹴られ、おかしなところに連れていかれて注射をされる毎日。注射をされると、目の前がぐるぐるして、食べ物を吐いてしまう。それを見た親に、また沙花叉は殴られるのだ。そんなある日……

 

「えっ、今日は二人と同じ場所で食べていいの!?」

 

「そうだ。たっぷり食べろよ」

 

「ほら、食べなさい」

 

 目の前に差し出された、美味しそうなご飯。食べさせて貰えなかったまともなご飯を、沙花叉は一心不乱に食べた。

 

「美味しい、美味しいっ……!!」

 

「おかわりもあるぞ、食べろ!!」

 

「うんっ!!」

 

 泣きながら、沙花叉は食べ続けた。しかし、その時。沙花叉は強烈な眠気に襲われる。

 

「っ、あ……?」

 

「成功した……!! 神よ、貴方に生贄を捧げます!!」

 

「どうか、我らに救いを!!」

 

 寝る前に聞こえてきた言葉に、沙花叉は絶望する。そして、自分の死を悟った。

 

『信じるんじゃ、なかった』

 

 そう思いながら、沙花叉は意識を飛ばした。そして……そこで沙花叉が、目を覚ます。腕が頭の上で縛られており、動けない。

 

「起きやがったな、アバズレが」

 

「アンタは……ここはどこ? 警察の景色じゃないよね」

 

「俺の家だよ。目立つところに持っていくと、邪神連合に見つかりかねないからな」

 

 俊也がそう言って、目覚めた沙花叉を見る。沙花叉の知らない他のみんなも、部屋の中に立っていた。

 

「傷の治療はしておいたよ。完全に治るにはまだ時間がかかるけどね」

 

「……何のつもり?」

 

「傷が痛くて話すどころじゃない、じゃ困るからね」

 

 ノエルとフレアがそう言ったのを見て、沙花叉が俊也達の意図を察する。

 

「なるほどね。私から色々と、邪神連合のことを聞きたいってわけか」

 

「とりあえず、ここは安全だ。お前の体に発信機とかがついてないことは確認したからな」

 

「確認は私がやった。一応魔法で確認したけど、体内にもなかったよ」

 

 沙花叉はそれを聞いて、とりあえず自分が安全であることを知った。

 

「そういうことか……アンタ、碇俊也……だよね?」

 

「そうだが、どうした?」

 

「取引しようよ。私はなんでも情報を吐く、その代わりに……これからも私の安全を保証して欲しい」

 

 沙花叉はそう言って、俊也に取引を持ちかけた。るしあがそれに対して、怒りを顕にする。

 

「テメェッ!! 身の程弁えろ!!! るしあはテメェをいつでもバラバラにできるんだぞ!!!」

 

「ッ……安全が保証されないなら、私は何も吐かないよ。拘束されてるだけでも……」

 

「うん、わかった。それでいい」

 

 俊也は沙花叉が全て言い切る前に、要求を飲んでしまった。それを聞いて、沙花叉は耳を疑う。

 

「あいつらに追われるより……って、え? マジ?」

 

「それでいいなら、構わないぞ」

 

「……わかった。じゃあ、知ってることを答える。何が聞きたい?」

 

 沙花叉がそう言った瞬間、俊也が尋ねた。

 

「とりあえず、名前は?」

 

「沙花叉。下の名前は無い」

 

「無い? どういうこと?」

 

 フレアが疑問を投げかけたが、沙花叉は本当のことを言っているだけだ。

 

「そのままの意味だよ。沙花叉が苗字……名前は、つけてもらえなかった」

 

「……じゃあ、お前に命令をしたのは?」

 

「シミズ、邪神連合の研究所の偉い人らしいよ。沙花叉はよく知らないけど、まともじゃないね」

 

 シミズ。そう言われて、ノエルが秋月の手帳を思い出す。

 

「そういえば、秋月もシミズから資料を受け取ってたって……書類にも何回か名前が出てたし」

 

「基地の場所はわかるか?」

 

「えーと、確か……隣町にある山の中を進んだところにあるはずだよ。そうやって向かってたから」

 

 その内容を真面目にメモする俊也。るしあは、そんな沙花叉を恨めしそうに睨んでいる。

 

「シミズはどんな奴だ? あと、能力はどんなだ?」

 

「一言で言って、狂人だね。常に言ってることと真逆の行動をしてくるし、行動理念がわからない。能力もわからない、戦ったことあるわけじゃないしね……」

 

「人格破綻者ってわけか……あ、聞き忘れてたな。お前の能力は、どうやって手に入れたんだ?」

 

 俊也がそう聞くと、沙花叉は言いづらそうにしながらも……口を開いた。

 

「シミズの奴に、色々やられたみたいでね。睡眠薬で眠らされてたから、何されたかはわかんないけど……多分、アンタ達の言う『邪神人間』ってのと同じだと思うよ」

 

「邪神の力ってこと? でも、触手とかは出してなかったんだよね?」

 

「沙花叉はそういうのがない……読めなかったからわかんないけど、とにかくそういう物に『した』らしいよ」

 

 俊也はそれを聞いて、ノエルとフレアに確認する。俊也はどこまで行っても素人、ノエルとフレアはプロだ。どちらが嘘を見抜けるかは一目瞭然だろう。

 

「どうだ? 嘘はついてなさそうか?」

 

「うん。嘘をついてるヤツの顔じゃないね、安心していい」

 

「そもそもあっちから取引を持ちかけてきたわけだし、信用していいんじゃないかな」

 

 俊也はそれを聞いて、頷く。そして、沙花叉に尋問の終了を告げた。

 

「ご協力どうも。これで聞きたいことは全部だ」

 

「案外優しいんだね。もっと酷いことされるかと思ってたよ」

 

「何勘違いしてんだ」

 

 そこでるしあが、底冷えするような声を出した。沙花叉はその声に、本能的な恐怖を煽られる。他のみんなもその声を聞いて、体が震えた。

 

「ちょ、ちょっと、るーちゃん……!!」

 

「な、なに……? 安全は保証するって、言ってくれたはず……」

 

「そんな美味しい話があると思ったか? お前のようなアバズレに!!!」

 

 るしあが手を上に掲げて、アンデッドを何体か呼び出す。そして、怯える沙花叉に歯軋りしながらるしあが言い放つ。

 

「ひっ……!!」

 

「お前はもう、用済みだ。頭パッパラパーのゴミ連合のお仲間め……地獄に堕ちろッ!!!」

 

「るしあ!! やめろ!!」

 

 俊也の声は聞こえていないらしく、るしあがアンデッドに命令を出す。アンデッド達が、沙花叉に手に持った武器を振り上げた。

 

「死ね!!!」

 

 ──ズジャッ!!

 

「……えっ?」

 

「ぐっ……やめろって、言ってんだよ!!!」

 

 俊也が沙花叉を庇い、アンデッドを蹴り飛ばす。そして、るしあを思いきり怒鳴りつけた。るしあは俊也に反論する。

 

「邪魔しないで!! こいつは邪神連合の仲間だ!!」

 

「だとしても!! 俺は、この人の身の安全を保証すると言っただろ!! 約束は守る!!」

 

「殺されかけたんだよ!? もう少し遅かったら、俊也くんは!!」

 

 るしあがそう言うが、俊也に沙花叉を殺す気はなかった。

 

「俺はこの人を許す!! お前に勝手に殺す権利はない!! とにかくやめろ、この人に謝れ!!」

 

「ッ……わかってくれないなら、もういい!!」

 

「えっ、どこ行くの!? るしあ……えっ!?」

 

 マリンがそれを追おうとしたが、フレアが肩を掴んで止める。

 

「やめときな。彼女はちょっと頭を冷やさないと」

 

「俊也くん、大丈夫? 怪我とかしてない?」

 

「大丈夫だよ。それよりも……この人が大丈夫じゃなさそうだ」

 

 沙花叉は、酷く怯えていた。腕を縛られているので動けないが、ここから逃れようと身を捩っている。

 

「いや、だ……死にたく、ないよ……」

 

「……それで、どうするの? 身の安全を保証するとは言ったけど」

 

「俺の家で預かる。少なくとも、邪神連合が壊滅するまではな」

 

 俊也はみんなにそう伝えて、沙花叉は俊也の家で預かられることになった。その後、沙花叉の震えが落ち着いたのを見て、俊也が謝罪する。

 

「すまない。俺の身内が迷惑をかけたな」

 

「……どうして庇ったの? あのまま沙花叉が死んでも、アンタに不利益はないでしょ」

 

「ある。あなたとの約束が守れない」

 

 俊也はハッキリとそう言い切った。それを見て沙花叉が一言。

 

「……バカなの、アンタ?」

 

「バ、バカ!? バカって言う方がバカなんだぞ!!」

 

「……とりあえず、ここにいれば安全っていうアンタの言葉は信じてあげる」

 

 沙花叉はそう言って、とりあえず俊也を信用する事にした。こんなバカが、隠し事などできるはずもないからだ。

 

「あ、ありがとう……とりあえず、ご飯持ってくるよ」

 

「いらない。沙花叉は別に……」

 

 ──ぐぎゅるるるる……

 

「お腹は正直だな。作るから、ちょっと待っててくれ……あ、そうだ」

 

 俊也が気づいて、沙花叉の腕を拘束していた縄を解く。その無警戒さに、沙花叉は少し呆れた。

 

「無警戒すぎるでしょ。さっき私に殺されかけてるんだよ、アンタ?」

 

「昔の話だろ? それに、ずっと縛られてたら手首痛くなりそうだし……ご飯作ってくるから、漫画でも読んで待ってて!!」

 

「……やっぱりこいつ、バカだ」

 

 沙花叉はそう呟いて、目の前のベッドに寝転がる。人生初めてのフカフカのベッドに、沙花叉は驚く。

 

「お布団と枕って、こんなに柔らかくて暖かいんだ……」

 

 これでいつも、俊也が寝ていると思うと……沙花叉は俊也が妬ましくなった。

 

「今くらい、いいよね」

 

 沙花叉はそう呟いて……布団を被って、枕に頭を乗せて目を閉じる。疲れ切っていた沙花叉はそのまま、眠ってしまった。

 

「……お待たせ、何が好きかわからなかったから、とりあえずハンバーグを……って、あれ?」

 

「ぐぅ、ぐぅ……」

 

「寝ちゃったか……無理もない、戦ってすぐだもんな。ここに置いといてあげよう」

 

 俊也は料理にラップをかけて、沙花叉の前の机に置いて部屋を出る。そして、一時間後。

 

「ふわぁ……あ? いい匂い……」

 

 そこには、昔一度だけ食べたハンバーグが置かれていた。あの日、騙された日に食べてしまったもの。

 

「……だけど」

 

 沙花叉の腹の虫は、鳴き続けている。目の前のハンバーグは、とても美味しそうにできていた。沙花叉の口から、涎が流れ出る。

 

「食べても、いいのかな……?」

 

「心配しなくても、毒なんて入れないよ」

 

「ひゃっ!?」

 

 いきなり俊也が出てきて、沙花叉の体が跳ねた。ドアの前に立っていたようだ。

 

「ごめん、どうしても心配でさ……毒なんて盛ってないぞ。心配なら、俺が半分食べてもいい」

 

「ダ、ダメ!! これは沙花叉の!!」

 

「だよな。ほら、冷めないうちに食べちゃえ」

 

「……いただきます」

 

 俊也にそう言われて、沙花叉は目の前に置かれたハンバーグを食べた。温かいご飯とスープまでついている。

 

「どうだ、美味しいか?」

 

「……美味しい」

 

「よかった、冷めてないか不安だったんだよ」

 

 沙花叉はあっという間に、綺麗に食べきってしまった。

 

「ごちそうさまでした」

 

「お粗末さまでした!!」

 

「……ねぇ、沙花叉一応『捕まってる』んだよね? 全然そんな感じしないんだけど」

 

 俊也はそう言われて、少し考えたあと……何かに気づいたように言った。

 

「……そういえばそうだった。まぁ、細かいことはいいじゃん!! あ、寝てていいからな!!」

 

「忘れてたのかよ……」

 

「とりあえず、しばらくはソファーで寝よう」

 

 沙花叉は寝ていていいと言われて、また眠る。お腹いっぱいになって、ゆっくり寝る……初めての感覚だ。

 

「ホント、馬鹿じゃないの……」

 

「あ、お風呂は……」

 

「絶対入らない」

 

 沙花叉はそう言って、即答で風呂を拒否した。

 

 

 

 時間は少し遡り……るしあの家。るしあは、俊也の様子を思い出す。今までにないほど怒っていた顔。メールを送っても、返事がない。

 

「……るしあ、見捨てられたのかな」

 

 何が原因なのかは、考えずともわかった。ついさっきあったことだから。

 

「約束したから……当たり前のことだよね」

 

 一度冷静になると、るしあは罪悪感が湧いてきた。その時、るしあの耳に声が聞こえてくる。

 

『そう。あなたは罪を犯した』

 

「誰だ!?」

 

『私はあなた。あなたは私……本当は『あの時』に会うはずだったけど、あなたは私を見てなかったからね』

 

 るしあの目の前に、るしあが現れた。その光景で、るしあは思い出す。

 

「アキヅキ……!! テメェ、まだ生きてたのか!!!」

 

『違うよ。私は、あなたの精神が不安定になったから出てきた……『もう一人のあなた』だよ』

 

「もう一人のるしあ……?」

 

 もう一人のるしあが頷いて、るしあに言う。

 

『うん。それで、早速聞くけど……あなたの夢は?』

 

「……急になに?」

 

『答えなさい』

 

 そう言われて、るしあは仕方なく答える。

 

「あの童話の、お姫様になること」

 

『そうだね。じゃあ、思い返してみて。お姫様はあんなことをするかな?』

 

「……ううん」

 

 そんなことを、お姫様が絶対にしないことは、るしあが一番よく知っている。

 

『じゃあ、お姫様はどんな人?』

 

「可愛くて……強くて、かっこよくて……」

 

『それだけ? 違うよね』

 

 るしあはその続きが、自分に当てはまらないことを知っている。だから、言えない。

 

「それから……」

 

『それとも、目を逸らし続ける? るしあはそれでもいいよ。その先で、全てを失うことになるだろうけど……自分で読んだ童話のように』

 

「ッ……!!」

 

 そう言われて、るしあは思い出す。心の中で、秋月が取り憑いた時に読んだ……『自分の話』を。

 

『気づいた? あれが『私』なの。あの時は俊也くんのおかげで見つめ直しただけで、私も一時的に眠っただけ。向き合えてはいなかったんだよ』

 

「……どうして、今出てきたの?」

 

『あなたは、あの子に怒っていた。あの子を憎んで殺そうとした……私は一度怒ると、周りが見えなくなって、他人を見ることができなくなる』

 

 昔のことを思い出しても、それに対する反論はできない。るしあは俯くしかなかった。

 

「じゃあ、あなたは……?」

 

『強いて言うなら、あなたの『良心』かな。あなたにも、あるんだよ。お姫様に成れる素養はね』

 

「るしあにも……」

 

 るしあは机の上を見る。常に置いてある、あの絵本を手に取った。

 

『読んでみて。そこに答えはあるはずだよ』

 

「ネクロマンサーの、お姫様は……優しくて、思いやりがあって、その力を誰かのために使う……」

 

『そう。今のあなたとは、まるで正反対……』

 

 るしあはそこで、これまでの自分の間違いを漸く自覚する。

 

「怒りだけじゃ、守れない……」

 

『夢も、友達も……大好きな、あの人も』

 

「俊也くん……」

 

 るしあは想い人に想いを馳せる。そして、もう一人のるしあが言った。

 

『今なら、わかるんじゃない? どうして……俊也くんが蹴ったアンデッドが、私に一つも当たらなかったのか』

 

「……るしあに当たらない方向に、蹴った? あの一瞬で?」

 

『俊也くんは、それくらいできる人でしょ?』

 

 そう言われて……るしあは、どうしようもない程納得させられた。自分の愛しい人が、何ができて何ができないかくらい、わかっているから。

 

「怒ってても、るしあを……」

 

『お姫様は、約束を破らない。今のあなたじゃ、お姫様にはなれない』

 

「……どうすればいいの? そんなにすぐに、変われるものなの?」

 

 るしあがそう言うと、もう一人のるしあが笑う。

 

『簡単だよ。私を受け入れてくれればいい』

 

「あなたを……受け入れる……」

 

『怒りを抱いたなら、思い出して。隣にいる人達のことを』

 

 もう一人のるしあが、るしあの頬に手を添える。

 

「あっ、体が透けて……」

 

『消えるんじゃない。あなたの中に、戻るだけ』

 

「待って、まだ話してたい……!!」

 

 粒子になって、もう一人のるしあが笑って消えていく。

 

『どうか思い出して。あなたの中にある優しさと思いやりを……』

 

「あ……」

 

『そして、忘れないで。お姫様の童話を……あなたなら、きっとなれる』

 

 そう言われた瞬間、るしあがハッとする。辺りを見回しても、もう一人のるしあはどこにもいない。

 

「……出てきてくれたのかな、るしあのために」

 

 何故だかるしあは、心が暖かかった。

 

「明日、あの人に謝ろう」

 

 そう言って、るしあは……寝る前に、トークアプリで俊也にメッセージを送った。

 

『今日はごめんなさい。明日、直接謝りに行きます』

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