ホロライブラバーズX ファンタジック・ピースメイカー 作:とも667
これはお姫様の童話ではない。潤羽るしあの物語である。
るしあと別れた後、俺は家に帰っていつも通りの鍛錬をして……風呂に入り、ベッドに寝転がった。
「ふぅ、今日のところはこんなもんでいいか……」
腕と足が痛くなってきたので、そろそろ切り上げることにした。風呂に入って、歯を磨いて……枕元に宝物を置いて、ベッドに潜り込む。
「遊びの誘い、軽い気持ちでOKしちゃったけど……これデートだよな。だとすると……るしあも俺のこと、好きなのか?」
ぺこらの時はそうだったしな。とりあえず、心の準備はしておくか……杞憂ならそれでいいが。
「……もうぺこらがいるけど、付き合ってもいいのかな?」
明日、ぺこらに聞いてみるか。そう思いながら、俺は眠りに落ちた。そして、次の日……いつも通りに揚げ物弁当を四人分作ってから、学校に向かう。
「おはようぺこ、俊也!!」
「おはよう、ぺこら。そういえば昨日、結局なんの話をしてたんだ?」
「あぁ、るーちゃんが俊也のこと好きみたいだからさ、ぺこらは共有してもいいよって言ったぺこ」
それを聞いて驚いた。まさか、ぺこらの方からOKが出るとは……
「何だって!? じゃあやっぱり、あれはデートの誘いか!!」
「そうだけど、他になんだと思ってたぺこ?」
「いや、考えすぎかと思ってたが……そうなんだな」
考えすぎではなかったらしい、俺はそんなに好かれてるのか……!!
「もしかして、嫌ぺこか?」
「いや? すごく嬉しいよ!! そんなに好かれてるなんてな。ぺこらにダメだって言われると思ってたんだけど、OKしてくれて嬉しい」
「じゃあ、俊也もるーちゃんに気があるって言っとく!! るーちゃん喜ぶよ!!」
友達思いなんだな、自分のことのように喜んでいる。そういうところも好きだ。
「優しいな。そういうところも好きだぜ」
「も、もう……照れるからやめてよ……でも、ありがと」
「ぺこらくらいかわいい女の子が、二人になるんだな……すごく嬉しい!!」
ダメだと言われたら、諦めるつもりでいたが……もう許可が出ていたなら、好都合だ。
「あっ、でも一つだけ……」
「ん?」
「るーちゃんと付き合っても、ぺこらのこと飽きないでね?」
もちろん、飽きるはずがない。こんなに可愛い子に、飽きてたまるものか。
「絶対飽きない、約束する!!」
「そうだよね、安心した!!」
「よし、学校行こう!!」
それから学園に歩いていき……しばらくして。
「あれ? るーちゃんは?」
「来ないな……どうしたんだろう」
「るしあが遅れるなんて珍しいね……」
それからしばらくしても、るしあは来なかった。この状況……すごく、すごく嫌な予感がする。みんなには、まだ言っていない。今は昼休みだ……みんな心配し始めている。
「るーちゃん、来ないね……」
「ぺこら、見に行ってみる?」
「うん、見に行ってみよう!! 俊也も来るぺこ?」
二人とも見に行くらしい。なら、見に行くか……
「あぁ。見に行かせてもらうよ」
「決まりぺこだね、行こう!!」
「るしあの家はこっちだよ!!」
マリンとぺこらに案内されながら、るしあの家に向かう。
「……鍵がかかってるね」
「おーい、るーちゃん!! いるなら返事して!!」
「応答無し、か……窓も閉まってるな」
強烈に嫌な予感がする。こじ開けてでも入ろうかと、そう思った時……
「……通知? ッ、これは!?」
「え、どうしたぺこ? 何が……」
『速報 街に骸骨の怪物が出現』
そう書かれただけの、シンプルな記事。それだけで、俺とぺこらが事を理解するには十分だった。
「……るしあ!!」
「そんな、るーちゃん……!!」
「え、何があったの? どういうこと?」
話はあとだ。マリンを巻き込むわけにはいかない。
「話はあと!! 避難しとけ!!」
「えっ!? ちょっ、どこに行くの!? 帰らないと時間が……」
「病欠するって言っといて!!」
二人で街に走る。こんなことをできるのは、人をそんな怪物に変えられるのは……ひとつしかない。
「神気取りめ……懲りずに出てきやがったな!!」
「あの時の化け物だよね、神気取りって……るーちゃんもやられたの!?」
「そうらしい、くそぉっ!! 阻止できなかった……!!」
悔しいが、それを飲み込んでそれでも走る。街に行くと、情報通りに骸骨が暴れていた。しかし、ただの骸骨ではない。
「なんだ、ピンクの髪が生えてる……?」
「あれ、ゴスロリ……? お洒落な服……それにあれは、王冠?」
「あの服と髪、やっぱりるしあだ!!」
るしあが見せてくれた、童話のお姫様。それにそっくりの背格好をしている……それを証明するかのように、周りにはアンデッド達が湧いてきている。
「これ、るーちゃんのネクロマンス……!?」
「おい!! 神気取り、懲りずにまた出てきやがったのか!? 俺だぞ、喋りやがれ!!」
『……また会ったな、忌々しい愚か者め』
神気取りの声がして、空っぽだった骸骨の目に赤くて丸い光が灯る。それがこちらを睨みつけてくる……
「喋った!? お前、心の中以外でも喋れるの!?」
『貴様は……あの時救いを受け入れなかった、愚かな女か。また会ったな』
「愚かなのはテメェだ、神気取りが!! 今度はるしあに手を出しやがったか!?」
俺がそう言うと、神気取りはため息を吐いて続ける。
『違うな、この者が怪物になることを選んだのだ。いい加減に理解しろ』
「ふざけないで!! るーちゃんも私も、こんなこと望むもんか!!」
『獣如きが、うるさく吠えおって……その声帯を潰してやる。覚悟しろ、今度はそう上手くはいかんぞ』
アンデッドが動き出す。俺たちを殺すつもりか……!! 奴の体に触れられれば、あの時のように入れるかもしれない。まずはそれを目指さなければ……!!
「来るぞ、ぺこら!!」
「わかってる!!」
「ウォォォォォ!!」
向かってくるアンデッド達に対して、構えをとる。数は多いが、一人一人は弱い……!! 跳躍して、足を伸ばして……回転しながらアンデッドの群れに突っ込む。
「竜巻旋風脚ッ!!」
「グォォォッ!!」
「俊也に手ぇ出すなぁぁぁ!!」
ぺこらも人参型のハンドハンマーを振り回し、次々アンデッドを粉砕していく。頭を砕かれたアンデッドが、次々倒れて消滅してゆく……やるなぁ。
「俺も負けていられないな!!」
「ウォォォォォ!!」
「セントルイススマッシュ!! からの……!!」
蹴り飛ばしたアンデッド達が、建物にぶつかって砕け散ってゆく。さらにその蹴りの勢いを利用して、その場で縦回転しながら、アンデッド達に足裏を繰り出す!!
「喰らえ、サイクロンディザスター!!」
「ギャアァァ!?」
「うぉらっ、どりゃあぁ!!」
三回縦回転した後に、地面に着地し……更にその場で右足軸で回転。右足裏を中段に叩き込む……!!
「ソニックサイスッ!!」
「グォォォォォ!!」
「おらおら、どけどけぇ!!」
アンデッド達は、ぺこらのハンマーに為す術なく吹き飛ばされていっている。しかし……
「まだ湧いてくるのか……!!」
『この者の力だけなら打ち止めだが、我は神だ。これが神と凡人の違いよ』
「何言ってんの、ぺこらの時は俊也に負けたくせに!!」
それを聞いた神気取りは、機嫌を損ねたのか不機嫌そうに言う。
『あれはまぐれだ。負けはもう有り得ない』
「どうかな、こっちだって強くなってるぜ!?」
『図に乗るなよ……やれることは、アンデッド召喚だけではない!! 『黒蛇』ッ!!』
地面に五本の黒い炎が走る。それは俺とぺこらめがけて、蛇のように走ってきた。
「くっ、そうか……呪術も得意なんだったな、るしあは……!!」
『跳んで躱したつもりか?』
「が、骸骨の塊……!?」
まるでドッジボールでもするかのように、骸骨の塊……骸骨ボールが投げつけられる。まずい、これは……避けられない!!
「させるかぁぁ!!」
『チッ、兎田ぺこらめ……無駄なことを!!』
「ありがとう、ぺこら!!」
骸骨ボールはハンマーで叩かれ、見当違いの方向へと飛んでいった。しかし、着地点にはアンデッド達が待ち構えている……
『油断したな!! 今度こそ……』
「甘いぞ!! マンチェスタースマッシュ!!」
「グギャッ!?」
まだ残っている……これで一掃だ!!
「喰らえ、サイクロンディザスター!!」
「グェェェェ!!」
『お、おのれ……!! 喰らえ、『苗床の残滓』!!』
飛んでくる火球は躱したが……キリがないな。削り切られては元も子もない……一気に接近しよう。
「……ぺこら。一気に突破する、手伝ってくれ!!」
「オッケー、ぺこちゃんに任せなさい!!」
『図に乗るなよ、愚か者共が!! 『苗床の残滓』ィ!!』
投げつけられた大きな火を躱しながら、アンデッドの群れに突っ込む。そこで、ぺこらが後ろからハンマーを投げて叫ぶ。
「みんな!! 出番だよ!!」
『……忌々しい獣共!? また出てきおったか!!』
「アンデッド共は頼むぜ、野うさぎ!!」
野うさぎはアンデッドに噛み付いて動きを止めてくれている、突破するなら今だ!!
「あ、また道が塞がって……」
「問題ない!! 喰らえ、龍尾烈脚!!」
「ギャッ!?」
炎を纏った右脚でアンデッド達を蹴り上げて、足裏を二回ぶち込む。そして……足を伸ばし、そのまま蹴り進む!!
「うおりゃあぁぁぁ!!」
「グギャアァァ!?」
『近寄るな、汚らわしい!! 『黒火球』ッ!!』
また大きな炎の塊が、奴の手の中に出現する。投げつけてくるつもりだろうが……
「甘い!! 竜巻旋風脚ッ!!」
『なに、すり抜けただと!?』
「セントルイススマッシュ、エアフォース!!」
奴の頭蓋骨に、一撃入れてやった。大きな音を立てて、頭蓋骨にヒビが入る……
『グゥッ!! おのれ……!!』
「ぺこら、俺の手を掴め!!」
「わ、分かった!!」
宝物が光る。その状態で奴に触れて……名前を呼ぶ。
「るしあっ!!」
「るーちゃん!! 起きて!!」
『ぬぅっ、またこの光か……!!』
目の前が光に包まれて、見えなくなる……
「俊也、何も見えない……どうなってるの!?」
「大丈夫だ、これでいい……!!」
「あれ、光が収まった……?」
成功だな、どうやら入れたようだ!!
「……流石に荒れてるな、街じゃないようだが」
「ここは……もしかして、るーちゃんの心の中?」
「あぁ、間違いない。ぺこらの時と同じならな……この景色、ぺこらはわかるか?」
さて……ここの地理は、俺には分からない。どういう場所なのかが知りたいが……
「多分、魔界だと思う。荒れてるけど……お城の形とか違うし」
「お城の形……なるほどな、るしあは多分あそこにいるぞ!!」
「……そっか、骸骨はお姫様の服着てたもんね!!」
ここが心の世界で、お城が『ネクロマンサーのお姫様』が住む場所なら……るしあはあそこのはずだ。そう思って、歩き出す。
『……むかしむかし、あるところに。ネクロマンサーの女の子が、ひとりぼっちで住んでいました』
「この声……るーちゃん!? どこにいるの!?」
「るしあの心の声だ……これ、あの童話?」
あれを読んでるのか? とにかく進まないと……!!
『女の子が友達を作ろうとしても、その力を怖がって、誰も友達になってくれませんでした。女の子は寂しがり屋で、毎日泣いてばかりいました』
「俊也、あれ……!!」
「やっぱりアンデッドか、ぺこらの世界だと野うさぎモドキだったが……!!」
童話の朗読を聴きながら、前に進むためにアンデッド達を薙ぎ倒す。竜巻旋風脚とサイクロンディザスターで一掃しながら、どんどん先に進む。間に合わなくなる前に、何とかしないと。
『ある時、そんな女の子を可哀想に思った神様は、女の子に友達ができるように取り計らってくれました。兎の女の子や、海賊になるのが夢でオッドアイの女の子です』
「なっ……話の内容が変わってる!? ぺこらとマリンになってるぞ!?」
「つまり、これは童話の朗読じゃなくて、るーちゃんのお話ってこと……?」
あの後、気になって読んでみたからわかる。これが指している人物は、ぺこらとマリンだ。
『女の子はとても喜び、みんなと仲良く学校に通ったり遊んだりしはじめました。そんなある日、女の子は思い立ちます』
「くそっ……数が多くなってるぞ!?」
「邪神の力が強くなってる……急がないと!!」
どうにかアンデッドを吹き飛ばして、前進する。その間にも、るしあの朗読は続いてゆく……
『『この力をみんなの役に立てれば、みんなともっと仲良くなれるかも!』そう思った女の子は、みんなの役に立てるために、自分のネクロマンスを使い始めました』
「この野郎、どけっての!!」
「どんどん空気が重くなってるような……」
確かにそうだ……だが、これはハッピーエンドの童話のはずだぞ。
『……しかし、現実はそう甘くありませんでした』
「えぇっ!?」
「し、失敗したの!?」
一番重要なところで失敗してしまった。るしあはそのまま、『ひとりぼっちのネクロマンサー』を読み続けている。
『女の子のネクロマンスはとても不気味で、誰一人受け入れてはくれませんでした。挙句の果てに石を投げられたり、攻撃されたり……アンデッドのいるお墓を壊されたりもしました』
「お、おいおい……!!」
「俊也、後ろ!!」
後ろから、奴が投げていた骸骨の塊が転がってくる。どうにか躱したが……普通のアンデッド達も、健在だ。骸骨ボールに轢かれたのに、何事もなかったかのように立ち上がっている。
『女の子は怒って、人間達をアンデッドで追い払いました。女の子はその後、誰とも仲良くなれなかったことに泣き出してしまいました。ですが、そこに友達の二人がやってきました』
「まさか、絶交だとか言うんじゃねぇだろうな……!?」
「るーちゃん、ぺこらもマリンもそんなことしないよ!!」
ぺこらがそう言っても、空気は重くなってゆく一方だ。アンデッド達も次々湧いてくる……
『二人だけはそれでも、女の子の友達でいてくれました。女の子は喜んで、二人とまた遊びはじめました……二人だけが、女の子の友達だったのです。しかし』
「もうめでたしめでたしでいいだろ、何が……まさか!?」
「なにか心当たりがあるの?」
ある。嫌な予感がする……!!
『海賊になるのが夢だった子は、寿命で死んでしまいました。女の子と仲良くしていたせいで、お金をそこまで稼げず……夢は結局、叶いませんでした』
「や、やっぱりか……!! くそっ、神気取り野郎め!! セントルイススマッシュ!! サイクロンディザスター!!」
「寿命!? そっか、魔族と人間じゃ寿命が……それは、ぺこらもだよね……」
アンデッドの数は増えていく一方だ。いくら進もうとしても、まともに進めない。
『次に、兎の女の子も死にました。寿命でした』
「どけっ!! この……!!」
「お城まで、もうすぐなのに……!!」
るしあの声が、震え始めた。それに呼応するかのように、アンデッド達が湧き出す。
『女の子は全てを失いました……自分のせいで』
「違う、るしあのせいじゃない!! ぐっ……!!」
「俊也!! こんのぉぉ!!」
ゾンビに噛み付かれる。そのままゾンビにならなくて良かったが……毒でも打たれたのか、右腕が動かせない。
『王子様は、女の子を迎えに来ませんでした。無能で、性格が悪くて嫌われ者の女の子を、迎えに来る理由などないからです』
「ぬぅあぁぁっ!! 龍尾烈脚!!!」
「るーちゃん、ダメ!! 自分を責めないで!!」
神気取りが……るしあを傷つけて、何が楽しい!?
『そんな女の子が買い物のために街に出た時、王子様に偶然出会いました。王子様は、女の子を見て言いました。『なんて不細工な女だろう』と……』
「なんてこと言わせてんだ、神気取り!!」
「ふざけないで!! るーちゃんは可愛い子だよ!!」
そう言っても、るしあにも神気取りにも届くことはない。るしあは、バッドエンドの物語を続ける。
『女の子は、大粒の涙を流しながら、家に帰りました。神様すら女の子に失望し、女の子を見放しました。そんな女の子は、ついに死を決意し……』
「やめろぉぉぉぉッ!!!」
「もうやめて、こんな話聞きたくないよ……!!!」
怒りの声を上げながら、アンデッドを薙ぎ倒す。漸く入口が見えた。
『みんなどうせ死んじゃう。王子様だって来やしない。るしあが救われる権利なんて、あるはずない』
『その通り。だからこそ、私が貴様を救いに来たのだ。感謝しろ』
「ふざけんじゃねぇ、神気取り!! 結局殺すんだろうが!!」
るしあをいいように使いやがって……絶対に許さん。扉を開けて……中に侵入する。
「るーちゃん!! 返事して!!」
『すぐに死んでしまうこと、友達になってくれないこと、酷いことを言われないこと……三つとも、解決する方法があったんだ……!!』
「な、なんだ……? 神気取り、何をさせる気だ!?」
るしあの声から、狂気が滲む。
『みんな、ふぁんでっどさんになればいい。そうだよ、るしあのネクロマンスで、みんなをふぁんでっどさんにしちゃえば……誰も死なない。ずっと一緒にいられる』
「な、なんだって!?」
『悪口なんて言ってこない、ふぁんでっどさんならみんな友達……王子様だって、るしあの傍に来てくれる!! なんだ、簡単なことじゃない!! あははははは!!!』
全人類が、アンデッドになればいい……? あまりにもめちゃくちゃな理論だぞ。それはつまり、一度全人類を殺し尽くして……るしあの傀儡として、甦らせるということ……!!
『そうだ、それでいい。さぁ、真なる願いを我に願え』
「ふざけるな、神気取り!!!」
「うぉらぁぁぁぁぁ!!!」
二人でドアを突き破って、玉座の間に着いた。るしあの体を乗っ取った神気取りが、こちらを向く。
「遅かったな。ここまで辿り着いたことは、一応褒めてやる」
「黙れ!! るしあを返せ!!」
「やれやれ、せっかく夢が叶う方法を提示してやったのに……恩知らずな奴らだな」
ふざけるな。あれのどこに恩を感じるんだ、どこからどう見ても暴論だろうに。
「暴論提示して恩着せがましいんだよ、神気取りが!!」
「フン、やはり神の心は愚者には理解できんか」
「あんな方法、るーちゃんが望むはずない!! 早くるーちゃんを返せ!!」
それを聞いた神気取りが、大きく息をついて言う。
「全く話を理解していない……二人揃って、途方もない頭の悪さだ……!!」
「黙りやがれ!! とっととあの形態になりやがれ、神気取り!!」
「そんなに死にたいか? よかろう、望み通りにしてやる!! はぁぁぁぁぁ……!!」
奴の体にアンデッド達が吸い込まれて、骨の体と服が構成されてゆく。空っぽの眼孔に、赤い光が灯った。
『我こそ神、願いの化身なり!! 真なる願いに立ち塞がる者は、尽く滅ぶべし!!!』
「えっ……なんか大きくない!?」
「この状態じゃ倒せない、『宝物』を見つけて呼びかけないと!! ぺこらが探しに行ってくれ!! 俺が、時間を稼ぐ!!」
奴の前に立ちはだかる。どれくらいやれるかわからないが、やれるだけやるしかない。
『おっと、そう上手くはいかんぞ』
「えっ……アンデッド!? なんて量……!!」
『取りに行ける状況にしてやるとでも? 残念ながら、そこまで詰めは甘くない』
くそっ……どうする。どうにかできないか!?
『中枢はアンデッド共に探させている。何せいくらでも出せるからな、便利だよ』
「くっ……!!」
「諦めてたまるかよ!! マンチェスタースマッシュ!!」
奴の拳を避けて、腕に踵落としを叩き込む。そこに、横から火球を持った手が飛んでくる。
『『黒火球』!!』
「サイクロンディザスター!!」
「このぉ!! どけっ、どけぇぇ!!」
ダメだ、アンデッドの数が減る様子がない。あのままじゃ、中枢をアンデッドに見つけられるのは時間の問題だ!! 早く勝負を決めねば……!!
『無駄だと言うのが……む?』
「うぉぉぉぉ!! 龍尾烈脚ッ!!!」
「あ、腕が……!!」
奴の腕を、へし折った。やったぞ……!!
『中々やるな、神の腕をへし折るとは……しかし、忘れたか? この体もアンデッドであることを』
「なっ、なに!?」
『死ね!! 『黒炎』!!』
プラモデルが組まれるかのように、修復された腕から黒い炎が放たれて……我慢をかけたが、モロに食らってしまった。体が焼け焦げて、落下する。
「ぐっ、う……!!」
『終わりだ!!』
「っ、くそぉ……!!」
拳を何とか避けた。ぺこらに加勢したいところだが、こいつが大人しく逃がしてくれるとも思えない。
『喰らえ、『苗床の残滓』!!』
「竜巻旋風脚!! サイクロンディザスター!!」
『何度へし折っても無駄だ、いくらでも治せる!!』
これでもダメなのか。くそっ、埒が明かないぞ……!!
「……みんな!! もう一回お願い!!」
『無駄な抵抗を……頭数も質も、こちらの方が上だ!!』
「……賭けるしかないか!!」
ぺこらの元に走る。無論、奴が簡単に俺達を逃がすわけがない。
『好都合だ、まとめて死ね!! 『苗床の残滓』!!』
「っ、しまっ……」
「……ゴハァッ!!」
『我慢』をかけて、まともに食らう。避けてしまえばぺこらに当たってしまうから……
「しゅ、俊也!! 何やって……」
『なるほどな。広範囲攻撃で自分達を一掃しようとするのはわかっている……まさか、終わるまで庇い続けるつもりか?』
「そうだって言ったら、どうする……!?」
俺が一緒に攻撃してしまえば、その最中に撃ち落とされたり、アンデッドの攻撃に当たったりするのがオチだ。だからって、あいつの元にずっといてもボコボコにされるだけ。なら、もうこれしかない。
「無茶だよ俊也、やめて!!」
「無茶でもやるんだ!! ぺこら、お前を信じる!! だからお前も、俺を信じろ!!」
「ッ……もう、わかったよ!! けど、絶対死なないで!! 死んだら別れるからね!!」
それは御免こうむるな……と思っていると、次の攻撃が飛んできた。それに体を焼かれて、倒れ込みそうになるが……
『自分で自分を殴って耐えたか……フン、愚かな。何も変わらんというのに』
「変わるさ、ぺこらは……やってくれる!!」
「みんな、頑張って!! ぺこらは……やらなきゃいけないんだ!!」
ぺこらが頑張っているのに、俺が頑張らないわけにはいかない。絶対に、死んでやるものか。
『喰らえ、『黒火球』!! 『黒蛇』!!』
「がっ、ぐぎっ……うがっ……!!」
『これでも死なんか。本当に、愚かな奴だ……もう体は限界だろうに……よかろう、そろそろ楽にしてやる』
奴が拳を構えた。俺を叩き潰すつもりか? あれは、喰らえない。避けなければ……!!
『死ね』
「死んでたまる……か……?」
『フン!!』
奴の掌が、降ってきた。地面に埋まりながら、血反吐を吐き散らす。虫でも潰すかのように、体を潰された。
「ぐ、ごぶっ、う……」
『……まだ死んでいないのか。本当にしぶといな』
「うぉぉぉーっ!! 『ボルテックフィニッシュ』!!!」
ぺこらが、アンデッドの群れを貫いてゆく。やってくれたんだ。
「俊也、道ができた……って!?」
「文句なら、後で聞く……今は、るしあだ……!!」
『しつこい。死ね、『苗床の残滓』』
しまった!! 避けられない……後ろにはぺこらがいるから、竜巻旋風脚も使えないし……終わるのか。こんな奴に殺されて……
「……ぐぅぅっ!!」
「なっ……ぺこら!?」
『ほう、恋人を庇ったか……しかし、貴様もアンデッド共とやり合って無傷ではあるまい?』
酷い怪我だ、その上焼かれてしまっている……
「どうして、どうして庇った!?」
「こっちの、セリフだよ……なんで、避けないの……死んじゃうでしょ、俊也!! 死なないって約束でしょ!?」
「俺が避けたら、ぺこらに当たるだろうが!!」
ぺこらは立ち上がって、歯を食いしばっている。
「それくらい、なんてことない。傷つく覚悟はとっくにできてる!! ぺこらにも俊也を守らせてよ!!」
『全く美しい恋愛だな。そのまま死ぬがいい、『混沌の苗床』!!』
「……竜巻旋風脚ッ!!」
二人で躱して、奴の頭を狙う。頭を狙えば……少しは効くはずだ!!
「セントルイススマッシュ、エアフォース!!」
「喰らえぇぇぇ!!」
『ぐぅっ!? くそっ、無駄だと何度言ったらわかる!?』
まだだ、もう一撃……!! 奴を踏みつけて……!! 右脚で、踵落とし!!
「マンチェスタースマッシュ!!」
『ぐぅぅぅ……!! くそぉ!!』
「サイクロン、ディザスター!!!」
回転しながら、三回頭蓋骨に足裏を叩き込む。ぺこらもそれに合わせて、ハンマーを叩き込んでいる……すると。
『なっ……神の頭蓋骨が、割れて……!!』
「流石に頭蓋骨は、簡単に治らないだろ!! あっちでも頭蓋骨割ったら、少し動けなくなってたしな……!!」
「今のうちだよ、俊也!!」
道を塞いでいるアンデッド共を薙ぎ倒して、進む。
「龍尾烈脚!!」
「ボルテックフィニッシュ!!」
「グギャアァ!?」
……あった。多分、この部屋だ!!
「ひとつだけシンプルな扉……多分、これだ!!」
「あれ、ここって……るーちゃんの部屋?」
『うぐっ、あ……!!』
アンデッドがいる、あれは『中枢』を持っているのか!? やらせるか!!
「竜巻旋風脚!!」
「グギャァ!!」
「サイクロンディザスター!!」
アンデッド共を弾き飛ばして、着地する。とりあえずこれでよし……
「俊也、アンデッドは任せて!!」
「よし……任せたぜ!!」
「ぺこらが相手だよ!!」
今のうちに確認しよう……これは、『ひとりぼっちのネクロマンサー』だ。でも、表紙が違う……
「まさか、朗読してたやつか……!?」
中を読んでみると……やっぱりそうだ、改変されている。だからぺこらの時の写真みたいに、輝いていないのか。けど、どうすれば……
『おのれ……碇俊也、兎田ぺこら……!!』
「まずい、奴が来る……!! 何かないか……!?」
「やらせないっての!!」
ぺこらが頑張ってくれているが、あいつが来たら終わりだろう。早急に何とかしなければ……!!
「チラシと、マジックペン……これだ!!」
『何をしようと無駄だ、この者の心は既に壊滅している!!』
「それはどうかな、やってみなきゃわからんぞ!!」
一心不乱に、書く。一枚目、二枚目、三枚目。そして四枚目!!
「できた!! あとはこれを、この本にテープで貼り付ける……!!」
『えっ、これ……なに?』
「物語の続きさ。読んでみな!!」
俺がそう言うと、朗読がまた始まる。
『死のうとしていた女の子の元に、突然王子様がやってきて言いました。『奴は偽物だ、傷つけてしまって申し訳ない。君は美しいよ』と……』
『なに!? 貴様、何をした!?』
「簡単なことさ。続きを書いてやったんだよ!!」
まだ『おしまい』とは言われてない。ここからハッピーエンドだ!!
『女の子は嘘だと言って疑いましたが、王子は諦めずに言います。『私は君と一緒にいたいんだ、私の友達をたくさん紹介するよ』と、真摯な目で言いました……』
『そんな都合のいい話があるか!! 騙されているぞ!!』
「これは創作だ!! ご都合主義の何が悪い!!」
そう叫んで、三ページ目。
『女の子はそれを信じて、王子様について行きました。その結果、長命のお友達がたくさんできた上、ネクロマンスを人の役に立てることもでき、色んな人から感謝されました……』
『勝手に続きを作るんじゃない!! 物語はここで終わりだ!!』
「るしあの人生はこれからも続く!! お前こそ、勝手にピリオド打ってんじゃねぇ!! 引っ込んでろ、神気取り野郎!!」
次で最後のページ。頑張って絵を描いた……下手だけど。
『女の子は、子供の頃に夢見た童話と同じように、髪が桃色に変わり、力もとても強くなりました。神様も女の子を見直し……女の子は、それから死ぬまでずっと……とてもとても、幸せに暮らしました。めでたし、めでたし』
『潤羽るしあッ!! いい加減に気づけ、王子などどこにいる!? そんな物はどこにもいないんだぞ!!』
「いるぜ、ここにな!!」
堂々と叫ぶ。俺はるしあの王子様だ、るしあがそれを望むなら。
『俊也くんが……るしあの?』
「俺じゃ、ダメかな?」
『……よろこんで!!』
震える声で、嬉しそうにるしあが言う。そこで奴が、ようやく来た。
「待てぇっ!!」
「っ、しまっ……」
「一足遅かったな、神気取り!!」
童話の絵本が、輝く。るしあが力を取り戻したんだ……!!
『な、なんだ!? アンデッド共、何故こっちを向く!?』
『みんな!! そいつを殺っちまえ!!』
「グォォォォォ!!」
奴が、現実と同じサイズにまで縮んでゆく……さらにアンデッドの攻撃を受けている。
『ぐぁぁぁぁぁっ!!! お、おのれ、アンデッド如きが私の邪魔をするなぁぁ!!!』
「今だよ、俊也!!」
「わかってる!!」
足に炎を纏って……一発、奴の胸を蹴る。服が焼け焦げて、中の心臓部が見えた。あそこからるしあの気配がする!!
「龍尾……!!」
『ぐっ、がは……!?』
「烈脚ッ!!!」
二発の蹴りで肋骨を砕き……最後に蹴り進んで、心臓部を破壊する。出てきたるしあを抱き止めて……体内を蹴りつけて、脱出した。
『ギャアァァァァッ!!!』
「回収完了、ってな……!! さて!!」
「俊也、トドメだ!!」
奴はアンデッドに捕まって動けない。やるなら、今だ!!
「これで終わりだ!!」
「うぉぉぉぉーっ!!」
『は、放せ!! 放さんか!! やめろぉぉぉぉ!!!』
これが、俺たちの合体技……!! マンチェスタースマッシュと、ボルテックフィニッシュの合わせ技。名付けて!!
「ボルテック!!!」
「スマァァァッシュ!!!」
『グァァァァァァ!!!』
奴の体が、砕けてゆく。俺達の勝ちだ。
「やったな、ぺこら」
「うん、俊也!!」
『認、めん、認めん、ぞ……こんなことが、ある、はずが……』
奴が消えてゆく。俺達の勝ちだ……そこでるしあが、目を開ける。
「あ……」
「るしあ、待たせたな」
「るーちゃん、大丈夫? 痛くない?」
るしあが涙を流しながら、笑う。
「うん……!! 二人とも、迎えに来てくれて……ありがとう!!」
「当たり前でしょ? 友達だし!!」
「当たり前だろ? 王子様だし!!」
目的を終えたこの空間が、消えてゆく。るしあの満面の笑みを最後に、目の前が光に包まれた。
「うっ……ここは?」
「現実だ……俺達、勝ったんだよ」
「……邪神が、消えた……」
落ちてくるるしあを、受け止める。るしあはすぐ目を開けて、俺を見た。
「あ、王子様……」
「うん?」
「……こんなるしあでも、一緒にいてくれますか?」
そう言われて、頷く。
「もちろん、お姫様!!」
「ありがとう、俊也くん……大好き!!」
「思ってた形と、だいぶ違う告白になっちゃったね……まぁいいか!!」
そんな時。後ろから、野暮な声がした。
「貴様ら、感動の再会はそこまでだ」
「ッ……邪神連合!?」
「秋月支部長からのご指示を頂いた。今の貴様らなら、私たちでも仕留められるはずだとな」
それは……間違っていない。もう、戦う力は残っていないからだ。三人相手では、分が悪すぎる。
「くっ……」
「ぺこらは、まだ……うぐっ!!」
「やはり無理なようだな。死んでもらおうか」
奴らが武器を抜いた。くそっ、こんなところで……!! せっかく、ハッピーエンドなのに……!!
「これで終わりだ、背教者共!! 地獄で永遠に懺悔し……」
「地獄に行くのはテメェらだ、ドブカスがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「えっ?」
素っ頓狂な声が出た。いつの間にか、アンデッドが奴らを取り囲んでいる。るしあがそこに走っていって、呪術で攻撃を開始した。
「なっ……ぐはっ!?」
「ごふっ、ぐはっ、やめ……ぎゃあぁぁぁ!!」
「死ね、このゴミ連合が!! その腐肉より腐ってる頭を直してやんよぉぉぉぉぉぉ!!! オラ、『黒炎』!! 『黒炎』!!! 『黒炎』ッ!!!」
……さっきまでのるしあとは思えないキレ方だ。
「なぁぺこら、るしあってああいう感じなのか?」
「本気でブチ切れると、ああいう感じになるんだよね……マリンがチンピラに絡まれた時も、ああなったらしいし」
「そうなんだ……るしあは怒らせないようにしよう」
というかめっちゃ痛めつけてるな、そろそろ死んでしまいそうだ。
「腐れ狂信者風情が調子こきやがって。これに懲りたらもう二度とるしあと俊也くんに近寄んじゃねえぞ、このボケカスどもが!! ペッ!!!」
「るしあ……その辺に、しといてやれ……」
「あっ! ごめんね、俊也くん!! 怖かった? るしあ、ついカッとなっちゃってさ……!! 嫌いにならないでね……?」
あぁ、普通のるしあに戻ってる……一安心して、そのまま倒れた。
「あ!! そうだ、二人とも大怪我して……本当にごめんね、救急車呼ばないと……!!」
るしあの気遣いに感謝しながら、俺はそのまま意識を失った。
めでたし、めでたし。