「25歳でお互いフリーだったら結婚しよう」なんて他愛もない約束を覚えていたダウナー系絵描きの幼馴染に筆おろししてもらって「約束通り」になる童貞の話 作:夜の機動戦士
<3>
童貞の鼓動は否応なしに昂る。急激に近づいた幼馴染との距離は、いつの間にか鼻が触れ合うほどになっていた。少し顔を傾けたらそのまま唇同士がくっついてしまいそうだ。
パーソナルスペースの内側に誰かを入れたことなんてない。戸惑いを覚える翔真に、美春はなおも迫ってくる。
「チューしたことある?」
「……ないよ」
「ふーん……じゃ、ファーストキス、もらうね」
ちゅっ……
潤ったものが唇に当たった瞬間、脳天に電撃が迸った。目を白黒させる間もなく鼻が擦れあい、ソフトな追撃が押し付けられる。
「ふふ、息は止めなくていいんだよ」
「いや、その」
「逃げないの♡」
鼻息が顎先をくすぐった。翔真の右手を、絡みついた美春の左手が握りしめる。唇の間には何も言葉が紡がれない。だが、初めて味わう好意は、掌や唇を通して流し込まれてくる。
重ねた唇から、くぐもった溜息。
小さい頃に飲んだ麦茶の味がした。
「顔、真っ赤……」
「仕方ないだろ、美春と、こんな」
「照れてやんの。可愛いじゃん」
「うるさ――」
しんと静まり返ったリビングに、唇を啄む音が生々しく響く。込み上げる多幸感に翔真は窒息しそうになっていた。漫画や動画で見てきた男女の営み。その入口に足を踏み入れた実感が、疼きとなって身を震わせる。
「翔真は知ってるかな。キスって、女にとってはハードル高いんだよ」
「そ、そうなのか?」
「唇を許してあげるのって、下手したら、エッチするより特別だから」
至近距離で、美春が見つめてくる。潤んだ瞳に吸い込まれそうだ――翔真の動揺を助長するように、生温かいものが唇をなぞってきた。もっと濃厚なキスを求められているようだ。
「舌、入れたいな。入れるね……♡」
「ン……!」
ぐちゅり。体重がかかると同時に、口内へ「ナニカ」としか形容できないものが入ってきた。喉の方へ引っ込んだ舌が引きずり出される。唾液を纏った美春の舌が絡みつき、ナメクジの交尾みたいにねちょねちょと口蓋の内側で水音を立てる。
「……! ……っ!」
舐め回される。唇の裏側、歯茎の根元、頬の内側を。ぬらぬらの肉びらを伝って流し込まれる唾液は生温くて、ほのかに甘い。反射的に喉の奥へ嚥下して体液を共有すると、自分が作り替えられてしまうのではないかと翔真は錯覚した。
鼻息がかかる。酸欠になりそうで必死な翔真だけではなく、美春もまた、息を乱していた。言葉にならないくぐもった声色には、幼馴染に対して思い描きもしなかった官能が溶け出している。至近距離でそれを浴びる翔真の股間は、はち切れそうになっていた。
「ま、まっ、美春……」
「ん〜……?」
押し倒されそうになって、翔真は美春の体を軽く押し返した。脚の間に割り入ってきた膝が、ジーンズに張ったテントに迫っていた。
「その、た、勃ってきちゃった……」
「へぇ〜……あ、ホントだ〜♡」
膝の頭が、ぐりっと押し当てられた。圧迫感に思わず、翔真は肩を跳ねさせる。
「幼馴染にコーフンしちゃったんだ♡」
「ごめん……」
「謝ることじゃなくない? 男と女なんだからさ。『家族みたいで美春じゃ勃たない』とか言われたらどうしようって思ったけど、安心したよ」
口元をにんまりと吊り上げて、美春が目を細めた。意地悪い眼光を帯びた瞳は、真っ直ぐ翔真を覗き込む。翔真は込み上げる恥ずかしさを誤魔化そうと口を開いたが、すぐさまその口は塞がれてしまった。
「ン……っちゅ、ちゅ……翔真、ひゅき……♡」
呼吸ごと貪られる。互いの吐息が荒くなっていく。粘膜を絡め合う快感に、脳の皺が溶かされていくようだった。手と手を繋ぎ、唇同士で睦み合っていると、混ぜ合った唾液で潤っているはずの喉がジリジリと渇いていく。頭の奥底で本能が煮えだす。
もうたまらない、唇だけでは物足りない――張り詰めた糸がキリキリ言い出した頃、
「ぷは……っ♡」
美春は唇を離した。互いの唇に銀糸が伸び、吊り橋のようにたわんで、ぷつりと切れる。息を荒げ、顔を火照らせる翔真とは対照的に、美春はほんのり頬を染めているだけだ。
「やらし~気分になっていくね、ひひ……♡」
フォークダンス以外で異性と手を握るのだって初めてだった。愛情表現のキスだってしたこともなかったし、ましてや、舌を絡め合うセックスのそれなんて。
踏み出した一歩から、何段も飛ばして階段を駆け抜けていく。ほんの数段上がっただけにもかかわらず、翔真の胸には謎めいた自信が芽生えようとしていた。さっきされたことをすればいいだけだ。
気が大きくなった翔真は左手で細い肩を抱き、顔を近づけたのだが――唇に当たったのは、美春の人差し指だった。
「シャワー浴びてくるね」
「ええっ、なんでっ!」
「ぷっ、あっははっ……! なんで、って……」
「――あ、ご、ごめん……」
咄嗟に思わぬ駄々を捏ねたのが情けないやら恥ずかしいやらで、翔真は顔から火が出そうだった。そんな翔真を見て、美春はけらけら笑っている。
「可愛いね」
「う、うるさい、っ」
「まぁ、待っててよ。体洗って、いい下着つけてくる。そしたら――今の続きしよ♡」
しなやかな指先が、翔真の熱くなった頬を撫でる。立ち上がり際に鼻先へキスしてから、美春は浴室の方へ歩き去っていった。
* * * * *
翔真は瞬きもせず見詰めていた。さらさら揺れる金髪を、くびれた腰を、丸いお尻を。そして鼻をヒクつかせて、薄くなっていく美春の匂いを追いかける。
――ヤバい……
――早く、さっきの続きがしたい……!
魔法にかけられたように、翔真の頭は美春でいっぱいだった。テレビでも見ようかと思ったけれど、リモコンはすぐに手の届かない所にある。手を伸ばす前に遠くからシャワーの音が聞こえてきて、そちらの音に意識を全て持っていかれた。小さい水音を、鼓膜が全力でかき集める。
裸だ。裸なのだ。
いま美春は、一糸纏わぬ姿。
自分の体を洗っているのだ。
あの大きな膨らみの内側――乳首は何色なんだろう。陰毛は濃いのだろうか。あの柔らかくていい匂いのする体を抱き締めたい。髪を撫でたい。ぷるぷるの唇ともう一度キスしたい。舌を絡めあう、天にも昇る幸福感を味わいたい。
普段サバサバした印象の美春も、セックスの時は甘い喘ぎ声を出すのだろうか。絶頂する時にどんな顔をするのだろうか。妄想が無限に湧き出してきて、翔真は悶々としてしまった。
マグロ号で飲んでいた時には考えもしなかった。幼馴染を女として見始めた途端、体の奥底からドロドロの劣情が湧きだしてくる。
いま思えば、翔真と会っていた時はいつもそこそこ露出が高かった。さっきまで見ていた私服姿もセクシーに思えてきて、頭の中で美春を汚したくなってしまう。ジーンズがはちきれてしまいそうだ。
――早く、早く早く早く早く……!
盛りのついた犬みたいに息を吐き続けること、およそ10分。シャワーの音が止んだ。ひたひたと足音が近づいてくる。立ち上がろうにも股間が突っ張って、上手く姿勢を変えられない。
「はい、お待たせ」
風呂上りの美春は、簡素なルームウェアだった。無地の白いTシャツと、ピンクのドルフィンパンツ。真っ白な生脚が眩しい。足首、ふくらはぎ、太腿と、視線が上へ上へと引っ張り上げられていく。
膨らみに押し上げられた白Tの布地に、うっすらピンク色が透けて見えた。下着の色だ、と脳が認識するも、翔真の目はもう、濡らさないようアップにした髪の下に覗くうなじに吸い寄せられている。
ごくり――喉が鳴った。
「えっと、あの、美春っ」
「というわけで、翔真も行っといで」
「え、えっ、え~~っ!」
「ダメだよ、こういう時は清潔にしとかなきゃ。臭い翔真はイヤだよ?」
「あ、っす、そ、そ、そうだな」
よろめきながら、翔真が立ち上がる。膨らんだ股間を隠そうと前屈みになったが、白い歯を見せてニヤける美春には、もう隠す意味もなさそうだった。
「シャワーが済んだら……ね♡」
「~~~~っ……!」
耳打ちしてくる美春に、翔真は歯ぎしりした。
これじゃ、生殺しじゃないか、と。
背中をポンポンと促されて、結局翔真は浴室に行くほかなかったのだが。
* * * * *
脱衣籠の中には何もなかった。ドラム式洗濯機の蓋は閉じられている。そこは流石に覗き見るわけにはいかないと、翔真はいそいそと着衣を脱ぎ捨てた。石鹸の濃厚な残り香が脱衣所を満たしていた。
中折れドアを押し開けると、浴室からむわっと蒸気が押し寄せる。むせ返るほどに濃厚な、女の匂いがした。
「ヤバい、この匂いだけで……」
ついさっきまで美春が裸になっていた場所だ。バスタブに湯は張られていない。シャワーヘッドからは水滴がぽたぽたと垂れ落ち、床のあちこちにはまだ温かい水溜まりが残っている。
「…………」
ガチガチに勃起した陰茎は、先端からヌルヌルの先走りを滴らせていた。
コックを捻り、今この瞬間に最も汚れている所へお湯を当てる。水滴の当たる衝撃だけで肉竿が跳ね上がる。手で握り締めて乱暴に扱いたら、それこそ三擦り半で果ててしまうに違いなかった。
全身をお湯で濡らしながら、翔真は目を閉じた。ついさっき目にした扇情的な恰好と、曲線美のシルエットが、目蓋の裏に思い浮かぶ。
あの柔らかい手で扱かれたら。
あの温かい口で咥えられたら。
あの大きな胸で挟まれたら――
仕事中よりもよっぽど迅速に回転する頭で、幼馴染の愛撫を妄想する。手で泡立てた石鹸を、根元からカリ首まで塗り付ける。
――あぁ、ヤバい……美春、美春、美春っ……!
限界まで膨れ上がった海綿体が、熱さにジンジン痺れてきた。恥垢の一片も残さないよう丁寧に洗うが、あまりの快感に腰が浮き、爪先立ちになってしまう。途中休憩を挟みながらでないと、浴室の壁を精液で汚してしまいそうだった。
――早く戻ろう。
浴室の何もかもが、オスの本能を煮立たせていく。深呼吸を繰り返し、翔真は先走り混じりの石鹸をお湯で洗い流した。
* * * * *
「あ、お帰り~」
リビングに戻ると、美春は前髪をヘアクリップで持ち上げ、ビューラーで睫毛を整えていた。ゆでたまごみたいにつるんとした額を見て、そういえばカチューシャを着けていた時期もあったな、と、翔真は懐かしんだ。
「ちゃんと隅々まで綺麗にした?」
「……した」
「こっそりヌいたりしてないよね?」
「ぬェっ?! し、してない、してないっ」
「ほんとぉ?」
「だって……」
「だって、何?」
「み……美春がしてくれるかも、って思ったから……」
「ふぅん、ヌキヌキしてほしいんだ~♡」
か細い声で口にして縮こまる翔真に「いいよ」と囁くと、美春は意地悪く目を細めた。
「ギラついた目をしちゃってさぁ……♡ あっ、ねぇ翔真、手を見せて」
言われた通りに掌を翳すが、美春が見ようとしていたのは右手の爪だった。人差し指、中指、薬指を摘まむと、美春は眉根を下げて苦笑した。
「不合格。はい、コレ。短く切って」
「爪切り? どうして?」
「エチケットだよ。爪が長いのはダメ。そのままナカに入れたら痛いんだから」
「ナカに――あっ」
「……分かった? というわけで、よろしくっ」
爪切りが手渡された。翔真の持っているそれよりも高級感のある、いぶし銀のボディだ。早速刃をあてがって使ってみると、サクサク切れる。爪を刈り取る音も何だか心地よい。
「ナカに入れたら」という一言が、翔真の心をくすぐっていた。性器に指を入れる行為まで、美春は許してくれると言っている。ドルフィンパンツから覗く太腿に思わず目が行った。その視線に気づいた美春は、挑発するように裾を摘まんだ。
先に身支度を済ませたのは美春だった。爪のやすりがけを丁寧に行う翔真の隣に腰を下ろし、胡坐をかく膝を撫でてくる。言いようのない期待感が翔真を包んでいた。
「ドキドキしてる?」
「……してる」
「アタシのこと、好きになった?」
「分からない。好き、だと思うんだけど、ただヤリたいだけかも、しれないし」
「ふ~ん、美春ちゃんとヤリたいんだ♡」
揶揄う美春に、翔真は頷くしかなかった。
「ごめん。カラダ目当てとか、そういうつもりじゃないんだ」
「謝ることじゃないんじゃない? 男女の〝好き〟って、カラダ目当ても含むでしょ。セックスしたいのは、本能だよ」
「……そう、か」
「アタシも同じ気持ちだよ。ベッドまで待てないな~、ここで押し倒しちゃおうかな~、とか、おちんちん弄られたら翔真はどんな顔するんだろうな~とか、あ~、早く挿れたいな~♡ とか、やらしいこと考えてるもん」
爪切りを畳むと、また美春のキス。香水は落とされていて、石鹸と、小さい頃から知っている美春の匂いがした。
「ベッド、行こ♡」
手を引かれて、翔真は立ち上がった。
<4>へ続く
<4>へ続きます