ラジエルがアンジェリカとの稽古を終えた後、彼は唯一の楽しみである趣味のお菓子作りをしていた。
ラジエルの作るお菓子、特にクッキーは中々の出来であり、同じ使用人達の間では彼のクッキーを食べながら談笑するのが、一番の楽しみになっている。
「あむっ!ん~~っ!ラジエル、お前のクッキーは本当に美味いな!」
「果物のジャムが乗っているもの、サクサクしていて食べやすいもの、甘くて苦い茶色のも美味しい。」
「ほんと、ほんとっ!こんなにも美味しいクッキーは無いですよ!お店出したらどうですか?」
「俺のはただの趣味で作ってるので、店とかは出せませんよ。……あ、そろそろ行かないと。」
ラジエルは何かを思い出したのか、作ったクッキーの入った箱を閉じると、どこかに行く支度をする。
「ん?ラジエル、何処か行くのか?」
「はい、ちょっと友達の所に行ってきますので、失礼します。」
ラジエルはクッキーを詰めた箱を持つと、足早に何処かへと向かっていった……。
◆◆◆
ラジエルSide
「(今日はなかなかの出来だけど……。)」
俺は今、作ったクッキーを手に“ある人”の部屋へと向かっている。
あの人は俺の友達で、アンジェリカ様と同じくらい仲が良い相手だ。
「『コンコンッ』姫様、ラジエルです。お待たせしました。」
「お待ちしてましたよ、ラジエル。」
優しげに微笑むブロンドの美しい髪の女性が扉を開けてくれる。
この人はエリーゼ様。
本名をエリザベート・フォン・エルスタインと言い、このエルスタイン王国の王女であり、国民から絶大な人気を誇る姫様である。
俺がエリーゼ様とお会いしたのは、10歳の頃であったが、その頃にはアンジェリカ様とも一緒に居て、少しずつ仲良くなった。
……アンジェリカ様からは、とても鋭い目で睨まれたが。
「姫様、今回のクッキーをお持ちしました。
今お茶を……姫様?」
「むぅ……。」
「あの〜姫様?」
「ぷいっ!」
「……エリー。」
「はい♡」
エリーゼ様は何故俺が“エリー”って呼ばないと機嫌が悪くなる。
何故機嫌が悪くなるのかは分からないし、どうしてなのかは分からないが、不機嫌になると大変厄介なので、“2人っきり”の時はエリーと呼ぶ事にしている。
「あむっ……!ふふっ、とても美味しいですよ、ラジエル♡ジャムの風味とサクサクのクッキーがたまりません♪」
「それは良かったです。」
「ラジエルも一緒に食べましょう?」
「い、いいえ、使用人が姫様となんて……畏れ多すぎます。」
「いいえ、一緒に食べなさい。
これは、姫としての命令です。
従わなければ、アンナに報告しますよ?」
「えぇ……!?は、はい、分かりました。」
最強の脅し文句を使われて、俺はエリーゼ……エリーと2人でクッキーを食べながら談笑していた。
エリーはとても頑張り屋だが、それ以上に気弱である。そう思ったのは、彼女が1人で泣いていたのを見つけてからだ。
その時はエリーは健気に笑ったが、その笑顔が辛そうに見えた俺は、咄嗟に彼女を抱きしめて、「泣きたかったら、泣くのが一番」って言ったが、それを聞いたエリーは泣き出してしまった。
そこから俺は、エリーと仲良くなっていき、暇を見つけては彼女とお菓子を食べながら談笑している。
「えっと、ラジエル……。」
「ん?なに、エリー?」
「私は、皆さんの思う王女を出来ているでしょうか?
私は皆さんの思うような王女に。」
「う~ん……逆にさ、止めてみたら?」
「え……?」
「だから、民の思う王女とか悩むの止めて、自分を曝け出してみたらどうだ?
……その方がエリーを見る民達の目も変わるんじゃないか?」
「自分を、曝け出す……。」
「たまには飾らない自分を見せてみたらどうだ?
あ、時間だ……では、エリーゼ様、失礼します。」
俺はそれだけ言うと、エリーゼ様の部屋から出ていき、仕事に向かうのであった……。
遅くなりました。
次回、あのクズ魔道士を破壊する予定です。