「突然すいませんでした」
「なに、構わないよ。それより、連絡してくれてうれしかった」
多分竜野さんも、ボクが何か事情があることは感じ取っているだろうと思う。なにしろボクはひどい顔をしてたと思うから。
でも、何も聞いてこなかった。
「夕食は済んでる? どこかに食べに行こうか」
「いえ、それより…」
ボクは竜野さんの袖をぎゅっと掴んで、うつむく。
竜野さんは、黙ってボクの肩に手を回すと、歩き出した。
色とりどりの人工的な光でいっぱいの夜の新宿は、顔なしの人々でいっぱいだ。
ボクらはその合間をすり抜け、歩いた。街は、まるで半導体のプリント基板の迷宮みたいだ。道しるべは電気信号の流れ。
生きている人はボクらだけだ。不思議な音をたてて街をうろつく「人に似たもの」は、ボクらに気づかない。意識がないのだから。ボクらは誰にも知られず、誰にも触れず、誰にも顧みられることはない。
竜野さんは、ボクよりずいぶん背が高い。ボクが寄り掛かっても、びくともしないで、支えてくれる。まるで包み込まれてるみたい。香ばしいような、いい匂いがする。
こんなに心が安らいだのは、いつ以来のことだろう。何があっても絶対守ってくれるに違いないという安心感がボクの心を満たした。刺々しく、嫌なもので満ちた外の世界から隔絶され、あらゆる敵意から守られたような気分。
女の子が、恋人にしたい男性の条件のひとつとして、自分よりも高い身長を必ずといっていいほど挙げる理由が分かった気がする。高い方がかっこいいとか、そんなんじゃない。背の高い人に抱かれると、ほんとに心が安らぐんだ。この人に依存したい、この人の喜ぶことなら、なんでもしてあげたい、そんな気分になる。
まあボクは女の子じゃないから、本当のところは分からないけどね。
今までボクがつきあってきた人たちは、男も女もみんな、ボクより背が低いか、同じくらいだった。だから、こんな気持ちを知ったのは初めてだ。
これは遥か昔、ほ乳類とか爬虫類、あるいは動物、植物に分岐するよりずっとずっと昔の記憶が、体の奥底に残っているんじゃないだろうか。大きな軟体生物が小さな軟体生物を捕食し、取り込む。捕食とはすなわち同化だ。より大きなものに同化される安心感。快楽。そんなものが起源の感覚なのかもしれない。
ボクらは、人の少ない中心街からちょっとはずれにあるホテルに入った。
エレベーターに乗って、ボクは竜野さんの腕にしがみついた。離されたくなかったから。ボクはもう発情してた。この人に置いていかれたら、もうボクには頼るものは何ひとつなくなっちゃうんだ。そしたらボクは、多分もう生きていけない。溺れて死んでしまうだろう。
ボクは求められれば、なんでもするつもりだった。なんとしてでも、この人を手放しちゃいけない。
でも、竜野さんはがつがつした人じゃなかった。大人だった。ボクやリョウみたいに、部屋に入るや否やすかさずお互いを求めちゃうような、子どもじゃないんだ。
ボクって、ほんと子どもだったんだなあって思う。竜野さんの前だと、何だか自分がどんどんちっちゃくなってく気分。でも、嫌な気分じゃない。だって、竜野さんはそんな子どものボクを守ってくれる存在だもの。
お茶を入れて、並んでソファに座った。
「まさか、連絡くれるとは思わなかったよ」
「すいません、突然で」
「なに、連絡っていうのは突然するものだろ?」
「…あの! ボク、この前…」
竜野さんがボクの手に優しく触れて、制する。
「誰しも、いろいろあるもんさ。こんなところで野暮はなしだよ」
「…はい」
「大丈夫、すべて忘れさせてあげる。ぼくに任せて」
「はい」
ボクは竜野さんの手をぎゅっと握り返した。竜野さんの手は大きくて、温かかった。
正直、竜野さんの立派なものを受け入れるのは、かなりきつかった。でも竜野さんは最初、ボクを壊れ物みたいに優しく優しく扱ってくれた。うれしかった。まるでボクはお姫様みたい。騎士にかしづかれ、手の甲にキスされるお姫様。
最初は処女のようだったボクは、その気分の良さに、いつの間にか恥じらいなんてそこらのゴミ箱の中に捨て去ってしまってた。竜野さんは上手かった。
そのボクの変化に呼応するかのように、竜野さんも荒々しくなってくる。
ボクは、完全に彼のペースにいいようにされてた。荒波にもまれる小舟みたいに、暴力的とも思えるような動きに、翻弄された。
後頭部がつーんと痺れ、何も考えられない。もっと欲しい。もっといじめて欲しい。もっと苦しくなりたい。ボクの身体を、あなたの欲望で消費し尽くして欲しい。ボクなんて、なくなっちゃってもいい。
ほんとに、我を失ってしまったんだ。彼の大きなものを、必死になってしゃぶった。喉の奥まで突っ込まれ、えずくくらい、ボクは蹂躙された。それが気持ちよくてたまらないんだ。何度もむしゃぶりついた。気持ちよくなってほしかった。頭を掴んで、激しく犯してほしかった。
快楽で意識が薄らいでいく中で、しまった、これでボクはもう完全に竜野さんのものにされちゃったと思った。多分、もう抵抗なんてできない。こんなのを経験しちゃったら、この先、言いなりになるしかない。
「大丈夫かい?」
「…竜野さん」
「気を失ってしまったから、ちょっとあわてたよ」
ボクは竜野さんの首筋に抱きついた。ボクは竜野さんの所有物になった。ちょっとくやしかったから、首筋に歯を立てた。
「いたっ!」
「ふふ。これで、もう印はつけましたから。ボクを捨てたら、許さない」
「このっ!」
竜野さんはボクの両手を押さえて身動きできないようにベッドに磔にすると、キスしてきた。ボクが御園さんにしたように。絡まり合うふたりの舌と唾液。ボクはびくっと痙攣すると、唇を拒むように横を向いて、荒い息をした。だめだ、こんなキスだけで、もうボクの身体はすっかり準備ができてしまった。ボクっていつの間に、こんないやらしい身体になっちゃったんだ?
「やっぱり、きみはぼくが思ってた通りの子だったよ」
「そうなの?」
「あのカフェにいた子たちの中で、カオルくんが一番エッチな子だと思ったからね。こんな全身感じやすい子は初めてだよ」
「エッチな子って、なんかやだ」
「誉め言葉さ」
「それに初めてって、これまでいっぱいいたの? ボクみたいにした子」
「まあそれなりに、ね」
なんだかちょっと心配になってきた。やっては捨てを繰り返してきたとかじゃないだろうね。何かエッチもやたら慣れてるし、ボクもすぐ捨てられたりしないかな。でも、そんなこと聞けない。めんどくさい子って思われたくない。
今のボクには、もうこの人しかいないんだから。
「ねえ? もっと、忘れさせて」
「ああ、もうきみは、ぼくのものだ、ぼくの専有物だよ」
その言葉だけで濡れた。
ボクは藁をつかんで溺れずにすんだのに、結局はその藁そのものに溺れ、沈んでしまったのかもしれない。もっと果てしなく蒼い深海の中に。
ボクと竜野さんは、週に2回会った。大抵は新宿で、ボクはまるで通い妻みたいだった。
食事をし、ホテルに行き、愛しあう。愛してもらう。食事代とホテル代は、ボクが全部出した。竜野さんの負担は、できるだけなくしたかったから。最初は竜野さんも抵抗したけど、すぐにそれが当たり前みたいになった。それでいいんだ。「都合のいい女」でいれば、きっと捨てたりされないよね? 竜野さんにとっては遊びでもいいんだ。続いてさえくれれば。
そんなこんなで、お金は稼いでおきたかったから、バイトの日、時間を増やした。
というか、やることはそれしかないんだ。バンドもなくなった。家で音楽を作る気にも全然ならない。
大学はほとんど行かなくなっちゃった。どの面下げて、ユウキと顔をあわせられるっていうんだ。たまに、ユウキが一緒じゃない一般教養の授業だけ、顔を出したりしてみた。でも、誰かにばったり出くわしそうで、気が気じゃなくって、だんだん足は遠のいていった。
シンジにはほんとに悪いことをしたと思ってる。あんなにやる気いっぱいだったのに。せめて、ベースとドラムを入れ替えて続けて欲しいけど、ボクが言える立場じゃないよね。
電話で一言謝った時、やっぱりか、という雰囲気だった。ほんとにごめん。
そんな妙に地に足がつかない日常を送っていたある日。
いつものように竜野さんと食事をしていた。気にかかることでもあるのか、ちょっと竜野さんは上の空の感じで、ボクは不満だった。
「今日はどうしたの? 何か心配なことでもあった?」
「いやあね、実は…いや、やめとこう」
「なんだよ、余計気になるじゃん、ねえ教えてよ」
「うーん、実は昔お世話になった知り合いのお店のことなんだけどね」
風俗のお店らしいのだけど、辞める子が続いて、人出不足らしい。相談されて、どうしようかと考えていたという。
「そのお店っていうのが、カオルくんみたいな子のお店でねえ。きみを誘っていいものかどうか、悩んでたんだよ」
「なんのお店なの?」
「男の娘デリバリーのお店さ。でも、やっぱり今の話はなしにしてくれ、きみにはそんなことさせたくないからね」
竜野さんはちょっと暗い顔でうつむく。
男の娘デリって、ようするに男の娘専門の風俗店ってことだよね。そんなのがあるんだ。
「…もし、竜野さんがどうしてもっていうなら…」
「やってくれるの? もしもやってくれると、すごい助かりはするんだが…」
身体を売るってことだよね…さすがに抵抗があった。男の娘カフェとは全然違う。直接、性を売り物にするお店。今までの自分の意思からの行為とは意味合いがまるで異なる。
「ちょっと考えさせてください…」
竜野さんの顔が一気に暗くなった。
だめだ! ここで嫌われたら、捨てられちゃうかもしれない。そんなのやだ! 竜野さんがいなくなったら、もうボクには誰もいなくなっちゃう。ほぼ無意識のうちに、口にしてた。
「わかりました。やります」
「本当かい? 助かるよ!」
ぱっと明るくなる竜野さんの表情を見て、よかったと思った。何、これまでだって、散々いろんなことしてきたじゃないか。多分、そう大したことないよ、きっと。
「本当はぼくも嫌なんだけどね…」
「いえ、それで竜野さんが助かるというのなら、よろこんでします」
「ありがとう」
その日、上機嫌の竜野さんにいっぱいボクは愛してもらった。
ああ、よかった! こんな風にしてもらえるなら、男の娘風俗くらい、なんてことないさ。大体最初の経験だって、ネットを介した行きずりの経験だったじゃないか。似たようなもんじゃないかな?
数日後、ボクは初出勤した。今日はまだ実際には客をとったりはしない。でもボクは、ウィッグをつけて完全に女装した。化粧も濃いめ。
男の娘カフェの方に迷惑はかけられない。絶対バレないようにしないと。ただ、ちょっと不安ではある。場所も割と近めだから…
お店は新宿のマンションの1室を使って営業されている。雇われ店長ともうひとり店員のいる小さな一室と、あとは全部男の娘たちの待機室になってる。
他の子たちにあいさつしたあと、店長からいろいろ説明があった。とても丁寧で親切そうな人だった。ちょっと安心。
ボクの給料の5分の1は紹介者に支払われるってなんだ? 竜野さんのことみたい。それならまあいいや、どうでも。別にお金のためにするわけじゃないし。
店長から一室で講習を受けた。
ホテルで待つお客さんのところに行ったり、お客さんの家に行ったり、あるいは指定の場所で待ち合わせしたり、いくつかのパターンがある。お客さんへのあいさつから始まって、どう対応して、どういうプレイをして、等々。店長相手に実践して教えてもらう。講習では挿入等は実際にはしなかったけど、実際のサービスではすることになる。
ボクは風俗って今まで行ったことなかったから知らなかったけれど、こんなことまでするのかと驚いた。本当に入れたりもしちゃうんだ…えぇ、やだな…
「きみは受けも攻めもできるんだよね」
「…はい」
「お客さんは受け希望の人のほうが多いから、前日・当日の個人的な行為は、できればちょっと控えて欲しいかな。勃たないと困るから。それがきみの一番大事な商売道具だからね。薬もあるから、必要なら言ってください」
「わかりました」
「服を着たら、ホームページ用の写真を撮るからね。その後は、1階の医院で性病の検査。実際に客をとるのは、検査の結果が出てからだから、最短で5日後になります。検査は定期的に受けてもらうことになるから」
いろいろ面倒なんだね。店長、にこやかに接してくれるから、気が楽になる。いい人だな。
でも、仕事内容を知って、ボクはちょっと落ち込んだ。
これからボクは、不特定多数の人たちに、自分の身体を売るんだなって思った。
振り返ってみれば、ボクは男女とも、そんなに多くの人と経験したわけじゃない。それも、全員、よく知ってるボクが好きな人たちだった。
モノみたいに自分の身体を使われることになるのかな。ちゃんとできるのかな…
甘くみて、安請け合いした自分を恨めしく思った。
ううん、でもがんばらなきゃ、竜野さんをつなぎ留めておくためだもん。
1週間後、仕事を始めた。
初めてのお客さんは、結構年上の優しそうなおじさんだった。マンションの近くのコンビニの前で待ち合わせた。そこが指定場所なんだ。100%女装した若く初々しいボクを見て、とってもうれしそうだった。何度も来てる常連だそうだ。店長が、初めてのボクの相手は慣れてる人がいいだろうと、おすすめしてくれたみたい。
「今日から始めました。いおりです。おじさまが初めてのお客さんなんです。いろいろ教えてくださいね。よろしくお願いします」
「それは光栄だね。こちらこそよろしく。緊張してる?」
「はい、もうガチガチです…優しくしてくださいね?」
ボクは、いおりと名乗ることにした。もちろん、男の娘カフェのカオルとバレないためだ。カフェの評判に関わるから。もしこっちを続けるなら、向こうは辞めなくちゃならなくなるかもしれない。でも、それは絶対やだ。カフェの子たちと別れたくないよ。
ボクはおじさんの腕をとって、すぐ目の前のホテルに入った。
この日、ボクは娼婦(夫)になった。
初日に相手をしたのは2人だった。
二人目は、一人目のおじさんより少し若い人。といっても、ボクから見たらおじさんであることに変わりはないけど。
最初のおじさんは基本受けだったのでボクは攻め中心だった。おじさんは優しくて、気を遣ってくれた。だからボクも、年の離れた恋人みたいに振舞った。特に演じる必要はなかったよ。自然と恋人気分になれたし、お話しも面白かった。
二人目は、攻めだった。ボクは上も下も、時間いっぱい、いいように犯された。辛かっただろうって? ううん、気持ちよかった。
話しもほとんどしなかったし、乱暴ではなかったけど、自分の情欲をぶつけてくる感じ。でも、それがボクには気持ちよかった。頭を掴まれて激しく動かされて、正直きゅんきゅんきたよ。ボクってやっぱり変態? おかげで、ボクを気に入ってくれたみたいだった。
初日のせいもあって結構疲れたボクは、ふらつく足取りでマンションを出た。これから先、もっと長時間、何人も相手にできるようになるのかなあ。
待ち合わせに使ったコンビニ前の道端に、小柄でスリムなセーラー服の少女が立ってた。スカートが短すぎて、こっちがはらはらしちゃう。
ちょっと気怠い雰囲気を漂わせ、淡い栗毛のつやつやショートヘアがかわいい。いたずら好きっぽいくりくりした大きな目は、面白そうなものを決して見逃さないだろう。棒のついた飴を左手に持って舐めてる。
彼女はじっとボクを見てた。
その視線を少々気にしながら通り過ぎようとするボクに、彼女は軽い足取りで近寄ってくる。なんだろう、こんなホテルや風俗店しかない治安悪そうな場所なのに。風俗嬢にしては若すぎる。案の定、ずいぶん気安く話しかけてきた。仕方なく足を止めた。
「ねえねぇ、キミさぁ」
「なに?」
「あのマンションから出てきたよねぇ?」
「うん?」
「あそこってぇ、男の娘デリ入ってるじゃない? もしかしてキミって、男?」
「…そうだけど」
「へぇ! すごいねぇ、もう全然女の子まんまじゃん!」
タルそうな喋り方。彼女の視線が、無遠慮にボクの全身を嘗め回す。ちょっと細めて、胡散臭そうなものを見極めようとしてる目だ。ボクは居心地の悪さにじりじりして、さっさとそこから去ろうと歩き出した。
「ちょっと待ってよぉ! ねえ、ちょっとお話ししよ」
「やだよ、疲れてるんだから、早く帰りたい」
「今日はそんなに沢山客とったのぉ?」
「どうでもいいじゃん」
「なんだよぉ、キミさぁ、ノリ悪すぎ。ほら、飴あげる。ん!」
ボクの腕をとると、ふところから自分が舐めてるのと同じ飴の、まだ包装されたものを取り出して、こっちに差し出してきた。
変なのに絡まれた。面倒だなぁ。仕方なく飴を受け取った。どうすんだよこれ。
「あたしさぁ、キミみたいなのと知り合ったことなくてさぁ、全然知らないんだよね。ああいうお店、すっごい珍しいじゃん?」
「そうなの?」
「そうなのって、自分のお店のことでしょ」
「今日が初めてだったんだよ」
「えぇ、今日が初めてって、このお店ではってこと? こういうお仕事がってこと?」
「こういう仕事が」
「まじでかぁ、今日が初体験かぁ、このエロっ子め!」
彼女はこっちこっちと言いつつ、無理やりボクをコンビニの裏手に引っ張っていった。コンクリートの土台の縁に座ると、隣を手でぽんぽんと叩く。座れってこと? ボクは彼女の隣に座った。スカート汚れそうだなぁ。彼女はずいっとおしりを滑らせて、馴れ馴れしく距離をつめてくる。ボクはちょっと離れた。
彼女は興味津々といった感じで、ボクの顔をじーっと覗き込んでくる。
「お客さんって、男の人なんでしょ?」
「そうだけど」
「やっぱあれ? BLみたいな感じ?」
「BLなんて見たことないし」
「ちょぉ興味あるなぁ。やっぱタチとかネコとかほんとにあるの?」
「…そりゃあるけど」
「ぎゃーまじかぁ。ねぇ、キミは?キミは? キミはどっち? 女装してるってことはやっぱ女役ってことだよねぇ? きゃー!」
ひとりで盛り上がってる。その様に、つい苦笑しちゃった。
「そんなの言いたくないよ」
「いいじゃんさぁ」
「…どっちもできるけどさ」
「そうなんだぁ。ってことは、ちゃんとあれはついてるってことだよね」
「もう! 下品すぎ!」
「でもとっちゃった人とか、薬飲んでちっちゃくなっちゃった人とかもいるんでしょ?」
「いるよ」
アイちゃんの顔が脳裏に浮かぶ。
「キミってぇ、やっぱり女の子になりたいの? とっちゃいたい?」
「とりたくないよ。女の子になりたいのかどうかは…よくわかんない」
「わかんないんだ。ふーん。複雑なんだねぇ」
「きみは女子高生? どうしてこんなとこにいるのさ」
「そうだよぉ。まあ全然学校なんて行ってないけどね!」
「それなのに制服なの」
「これ、便利だからぁ」
彼女は制服の胸のあたりをつまんで、けらけら笑った。
「これ着てるだけで男ウケ150%アップってとこ? ほら、あたしぃ、おっぱいちっちゃいからぁ、他のところでアピールしないといけないの」
「なるほど」
彼女はすっと立ち上がった。短すぎるスカートが翻って、ちらっと白いものが見えた。そこも、男ウケ200%アップって感じ?
「あたしはナツキ。キミは?」
「カオル…じゃなくっていおり」
「カオルちゃんね、ふふふ、じゃあね、つきあってくれてありがとぉ、またね!」
ふらふら歩いて行った。あっという間にいなくなっちゃった。
ボクの手にはまだ飴がそのまま。
ボクは、もらった飴を舐めながら歩きだした。
ずいぶんあけすけに聞いてきたけど、あっけらかんとしてるからか、不快感とかは全然なかった。なんかいろいろ余計なことも話しちゃった気もするけど、まあいっか。
ナツキちゃん、変な子だったなぁ。