小さいころから、かわいいものが大好きだった。
女の子向けのものばっかり欲しがってたから、親は呆れてたと思うけど、しょうがないなあって感じで、ボクの好きなようにさせてくれてた。
それが最初のきっかけだったかどうかはわからないけど、小学校低学年のころ、テレビのバラエティ番組に、まるで女の子みたいな素人の男の子が出てきて、そのかわいい帽子や服を見ていいなあって思ったのを憶えてる。
親にああいう帽子と服が欲しいってねだったっけ。どんなのだったかはもう憶えてないけど、身につけた記憶はないから、きっと買ってもらえなかったんだろう。
でも、その羨望の念だけはよく憶えてる。とにかく、うらやましかった。かわいい恰好して、みんなの前でくるくる踊ったり歌ったりできたらいいなあって。
それで大勢の人たちに注目されたら気持ちいいだろうなあ。ボクのかわいいしぐさひとつで、キャーキャー騒がれたり、褒められたり。楽しそう。
もうひとつ、実際にあったことかどうか、もうまったく定かではないんだけど…というか絶対ないと思うんだけど、ぼんやりとした記憶があって。
親に男の子の大事なものが嫌だから、切って欲しいって頼んだら、タオルをあてて、剃刀で切り落とす真似をしてくれてる情景。なんだそれは。そんなの絶対あるわけないよね? そんなこと、聞くに聞けないから、実際あったことかどうか、当然確認できなかった。夢か妄想かなぁ。
でもそれが妄想にしても、そういう願望がずっとあったのは確か。女の子になりたかったってわけじゃないと思うんだけど、とにかく股間についてるものが邪魔で、なんか嫌だった。
小さなころから、こんな感じで自分の性別にはあやふやな一面があったんだ。
でも、小学校低学年の時には、彼女がいたこともあった。
真っ黒に日焼けした、ちっちゃくて元気でかわいい子で、家に連れていって、親にも紹介した。
「この子と結婚するんだ!」
「あれれ、ずいぶんかわいい子連れてきたね」
今思うと、ちょっと母親似だった気もする。
まあ子どもの時のことだし、そんなに長くもたなかったはずだけど。それに、それはやっぱり恋愛感情というのとは、ちょっと違うのかな、子どもだしね。
中学では、なんてことない、ごく普通の学生だったと思う。相変わらずかわいいものは好きだったけど、学校でわざわざそういう恰好しようなんて思わなかった。だって目立つし…
でも、背も低かったし、どちらかといえば、かわいい系の顔立ちをしてたから、一度友だちに、
「○○に似てるな」
とか言われたことがあった。ボクは芸能人とか興味なくて、○○が誰なのか知らなかったけど、家に帰ってからネットで調べたら、AV女優だった…お前ら、そういう目で見てたのか…でもちょっとだけうれしかったかも。だって、その女優、かわいい女の人だったから。ちなみに、その後その女優のエッチな画像で、きちんと興奮しました*
そういえば、音楽と本格的に出会ったのは、中学の時だったっけ。吹奏楽部でサックスを吹いてた。自分でなんとなく曲を創ってみたり、ちゃんと弾けもしないのに、音楽室のピアノを気のおもむくままにそぞろ鳴らして楽しんだりしてた。
高校生になると、遊びのバンドも組み、ちょっとまじめに楽典、作曲の勉強したりするんだけど、数学みたいで面白かったな。
このころは、多分音楽が一番楽しくって、恋愛とかそんなのはまるで無関心だったかも。
田中くんと出会うまでは。
高校2年生の時、同じクラスになり、後ろの席になった田中ヒロユキくん。
「イケメン!」って感じじゃないけど、愛嬌のある、人あたりのいい好青年。ボクも背が低くてかわいい顔立ちだったけど、彼もどちらかといえば同じ傾向の子だった。まあボクよりずっと普通に男の子っぽかったけどね。
ボクの後ろの席になり、すぐに仲よくなった。ボクも彼も帰宅部だったから(高校では吹奏楽部は入ってすぐやめちゃった、なんかつまらなかったから)、一緒に駅まで帰ったり、途中でアイス食べたり。
ある日の休み時間、後ろの彼が、ボクの髪の毛を指先でもてあそびながら、
「髪、ずいぶん伸びたね」
なんて優しい口調で言ってきた。彼は特になんの気もなかったに違いない、いつものじゃれ合いの一環みたいな感じのつもりだったんだろう。
でも、ボクはその時、心の敏感な襞をちくちく刺激する、今まで感じたことのない自分の感情に気づいてしまった。それがどういう感情か、その瞬間はよくわからなかった。
でも、皮膚の表面を青い電磁波がさざ波のように走り抜けるのを、確かに感じた。つまりね…勃っちゃったんだ…*
それまでは、ごく普通の男子学生みたいにエロ本とかを見ることもあったけど、普通に女の子が好きだったと思う。
だから、自分で自分の感情と反応が、よく理解できなかったよ。確かに仲もいいし、割とかっこいい子だったけど、だからってなんで…って。
その日から、彼の顔を今までのように見れなくなっちゃった。だって、胸がざわつくんだもん。
授業中も、常に背後の彼の息遣いが気になって気になって、内容が全然頭に入ってこなかった。
休み時間、しゃべりかけてくる彼の唇を盗み見ながら、人差し指で触ってみたいなあって思った。自分の唇と触れさせてみたら、一体どんな感触なんだろうなぁなんてことばかり、考えるようになっちゃった…
自分はおかしいんだって思った。普通だったら、自分の友だちをつかまえて、こんなこと考えるわけない、後ろからぎゅってしたいなんて、思うわけない。ぎゅっとしてほしいと願うなんて、おかしいよね。だからこれは自分の頭がバグってるんだって思った。
でも、自分のおかしさに悩んだりしたわけじゃない。同性愛というものがあることは当然知ってるし、それに彼のこととはまた別に、女の子だって普通に好きだったし(なんたって女の子はみんなかわいいしね!)。
もともと深く悩んだりしない、単なる莫迦だったんだろう、ずっとなにかに悩み続けたりできない性質だったから。
だから、いつの間にか、もう当然のことのように、彼に対する感情を受け入れてしまってた。
でも、もちろん、この感情を口に出して彼に伝えたりはしなかったよ。そんなことをすれば、間違いなく気持ち悪がられるだろうし、距離をおかれてしまうことは明らかだったから。それだけは何があっても避けなくちゃいけない。近くにいられなくなるなんて、話せなくなるなんて、間近で顔を見られなくなるなんて、考えるのもいやだ。おそろしさに身震いしてしまう。
嫌われるだけならいいんだ。嫌うってことは、意識してくれてるってことでもあるから。激しく憎んでくれるなら、もうご褒美だ。
場合によっては、クラス中に広まってしまえば、最悪な状況になってしまう可能性だってあるし(彼がそれを他人にバラしたりするような子じゃないってことは、なんの疑いも持ってなかったけど)。
だからボクは、彼への思い、性愛的なものも入り混じったこの思いを、完全に自分の中に封じ込めたまま、表面的には彼とごく普通の友だちの関係を保ち続けることにしたんだ。
妄想の中では、幾度彼に押し倒されて、エッチなことをされたか数えきれない。体のあらゆる部分に感じる彼の指や唇の感覚の幻。この世界でふたりきりの、甘い時間を想像しては、ボクは自分を慰めた。ちょっと強引なのが好きだった。
その妄想の中では、ボクの心は完全に女の子だ。
体の奥まで彼を感じたい、彼だけのものになりたいという感情は、鬱々としたボクの体を侵食し、汚染する。それはおそれであると同時に甘美でもあった。
自分のなかには、男の子と女の子両者に対する欲情がどちらも存在したけれど、その相反するものの両立には特に苦労したことがなかった。
もしかしたら、女の子に対する時は、自分の外側にあるかわいさを求め、田中くんに対する時は、自分の内側にかわいさを見出していたからかもしれない。
あれは、文化祭の最後、日も沈んでゆっくりと暗くなりつつある校庭の真ん中で、盛大にキャンプファイヤーが行われた時のこと。西の空低く真っ赤に染まった雲と、東の空の濃紺のグラデーションに、周囲360度すべてが包まれてた。まるで全世界が海の下に沈んでしまったみたい。
あまり集団行動は好きではないし積極的ではないボクだったから、彼はどこに行ったんだろうと、ひとりでふらふら歩き回っていた。
火のむこうからボクを見つけて、「おーいっ!」と叫び手を振ってくれたキミは、浴衣姿だったっけ。はじめて目にする学生服じゃないキミに、ボクの心は激しく波だった。
躍り上がる胸のうちを必死に押し隠し、それでもつい小走りになってキミのもとに向かうボクを迎えてくれる田中くんは、なんてすてきに輝く笑顔だったことだろう。ああ、大好き、大好きだよ。
その溢れ出る思いをぶちまけたいという抗いがたい感情を抑えるのに、ボクは必死だった。もう耐えられず、泣きそうだった。
その時のキミの姿が、今でも脳裏に焼き付いて離れないんだ。むしろ、時間がたつごとに、彼の浴衣の青と炎に照らされたキミの頬は鮮やかさを増して、ボクの心をキミ色に染め上げていく。
これがボクのむくわれることなんて絶対にない初恋だった。
でも、3年になってクラスが分かれると、なんとなく疎遠になり、そんな気持ちもおさまっていく。廊下で会えば、笑いかけるし、言葉をかわすし、うれしい。
でも、2年の時のような燃え上がるような心は、すーっと引き潮のように離れていってしまう。高校生は日々忙しいのだ。心にとめておかなければいけない出来事は数多く、普段一緒にいない人のことは優先順位が落ちていってしまうんだ。
こんなにもたやすくあの感情が失われてしまうなんて、信じられなかった。
特にうちの高校は大学の附属だから、大学受験のことを考える必要がないとはいえ、成績が悪ければ上にはいけない。志望の学部に行ける人数は決まっていて、単純に成績が上の人からその枠に入れるシステムになっている。
だから、入試勉強でなく、普段の授業から真面目に勉強してなければいけないのだ。
3年になれば、のんきな附属校とはいえ、クラスのなかの雰囲気は変わってくる。
そんな、妙に存在感のないゆるい緊張が常に続いている高校3年の秋、後輩の2年生の女の子に告白された。
ある日、机の中に1通の青い封筒が入っていた。放課後、学校のとなりの神社境内で待っていますと、震えるかわいらしい文字で書かれた手紙だった。
なんとなく空虚な気持ちをもてあそんでいたボクは、男の子なら誰だって期待感に胸おどらせるようなこの状況を、ずいぶん冷静に受け止めてた。
その日ためらいがちに訪れた、神社の境内。徐々に朱色に染まりだした見上げるような樹々の下、午後の光のなかでぽつねんと立ちつくしていたのは、かわいらしいちっちゃな2年生の女の子。ショートカットの髪、子どもっぽけれど、徐々に女性らしさを現し始めた体型、黒曜石みたいな黒い瞳は、不安7期待2諦め1といったところ。
もうすぐ学校からいなくなってしまうあこがれの先輩を思うあまり、衝動的に手紙を書いてしまい、なかば後悔しているみたいだった。
真っ赤になってうつむくその姿に、ボクは優しい声をかけてあげた、好きってわけじゃない、だって、その時はじめて会ったんだもん、ほかにどうしろと。ただ、その震える姿は、かわいいの擬人化みたいだったんだ。かわいいぬいぐるみが、思わず向こうからやってきてくれた、みたいな?
一体ボクのどこが気にいってくれたんだろう? よくも告白なんて大胆なことができたなあってびっくりするほど、内気でおとなしい子だった。
こんなかわいい子が、勇気を振り絞ってボクに好意を伝えてくれたんだから、その思いに報いてあげなくちゃいけない、と思った。もちろん、こんな女の子に告白されて、うれしくない男の子がいるわけないし。
その子のことは、ミウちゃんと呼んでた。
時々、放課後に一緒に帰って、もよりの駅でケーキを食べに行ったよ。甘いものはボクも大好きだからね。小物屋さんにもよく行ったっけ。ボクもそういうの見るの好きだから、楽しかった。
ボクには、恋人っていうより、女子が同級生と一緒に遊びに行くみたいな感じに思えた。ミウちゃんがどう感じてたかは、知らない。
学内では、誰にも気づかれないようにしてた。時折廊下ですれ違っても、ちらっと目くばせするだけで、知らないふり。みんな知らないけど、この子がボクの彼女なんだぞ、ふふんっ! って感じ。
一見内気に見える子だけど、しばらくつきあってみると、人って見かけによらないもんなんだなと気づかされた。
最初に手を握ってきたのも、ミウちゃんからだった。ためらいがちに延ばされた指がボクの手に触れると、びくっと手を引っ込める。でも、しばらくすると、また同じことが繰り返される。
何度かの試行のすえ、ボクの手をつかまえるのに成功した彼女の手を、ボクはもう逃がさないとばかりに、握り返す。
お互いに、前を向いているのに、多分何も見えていなかった。全神経が、手先に集中してた。
駅の改札まで送ってあげた時、きょろきょろして周りの人が途切れたのを確認するや、ボクの袖をぐっとひっぱってさっとキスすると、ダッシュで逃げてった。なにこのかわいい存在* あのどきどき感、忘れられないなあ。
冬の休日、一緒に鎌倉に遊びに行った。ボクのよく行く、北鎌倉の楽器がたくさん置いてある喫茶店でコーヒーを飲んだあと、源氏山公園に登り、そのまま山の上を大仏まで歩かせたっけ。ボクの秘密の場所のひとつだったんだ。大仏まで歩いてこれるんだっておどろいてた。
小町通りの人波のなか、ボクらは繋がれた2槽の小舟のようだった。
実家は鎌倉の近くだったから、帰りに家に誘った。親はいなかった。ミウちゃんは、うなずいて、黙ってついてきた。ボクの左手の指をぎゅっと握って、絶対に離そうとしなかったっけ。
もうずっと前から覚悟してきたんだろうと思う。もっと思い出をくださいって言われた。もちろんこっちだって、家に来ない?って聞いた段階で、緊張しまくってる。はじめてだし、男の子だし。
ミウちゃんの、まだ膨らみかけの胸のかわいらしさといったら! その柔らかさに夢中になるボク。我を忘れて、ミウちゃんの小さなピンクの先っちょを、舌で愛撫した。ミウちゃんは、赤ちゃんをなだめるように、優しく微笑みながらボクの頭をなぜてくれた。陶然とした。こんなとろけるような世界が存在したなんて! 世界は快楽の神秘に満ちてる。
ひとつになった時、ミウちゃんはボクの背中にしがみついてきた。爪をたて、ボクを傷つけていることにも気づかないくらい、必死になって痛みを我慢して、ボクを受け入れてくれてるんだ。そんなミウちゃんがかわいくて、愛しくて、たまらなかった。できるだけゆっくり動いたつもりだったけど、舞い上がってるボクがそんな気遣いをちゃんとできたとは思えない。
でも、相手を傷つけ、苦しみを与えることさえも、愛のかたちなんだと気づいちゃったんだ。ボクはミウちゃんに一生消えない傷を残し、ミウちゃんはボクの背中をかきむしって血を流す。
お互いが相手に、けっして消えることのない自分の烙印、聖痕をつける儀式。それは呪いだ。一生を縛り続ける呪い。もし解放されたかったら、死ぬしかない。でもその呪いがなければ、人になれないんだ。
帰り、駅まで送っていく間ぎゅっと手を握りあってた。じっとりと汗ばむミウちゃんの体温がいとおしくてたまらなかった。恋愛ってこんなにもうれしくって楽しくって、恐ろしくって、気持ちいいものなんだって呆然としてた。
その後、卒業まで、普通につきあってたんだけどね。
あんな愉しみを知ってしまった好きあうふたり。しばらくは、土日は1日中、無我夢中で求め合った。平日も、放課後、絶対人が来ないだろうところで、何度か愛しあった。
ミウちゃんが今日は大丈夫だという日は避妊しなかったけど、今考えると、ちょっと多すぎた気もする。本当に安全日だったんだろうか。たとえ0.02mmでも、それはふたりを隔てる不愛想な壁だった。よくできちゃわなかったものだなぁ。
卒業式の時は、絵に描いたような涙の場面。
そのあとも、そのまま何度も会っていくのかなと思ってたんだけど。
すーっと気持ちが引いていくのを他人事のように感じてた。
あ、田中くんのときとおんなじだ。
大学に入学するとなれば、いろいろ忙しい。休みの間に、はじめての一人暮らしの準備もしなくちゃいけない。
入学後は、高校生の時とはまったく違う生活になる。新しい出会いもいっぱいある。それが楽しくて、普段つながりの薄い事柄はどんどんボクのなかで希薄になり、抜け落ちていってしまう。
自分でも不思議なくらい、心が冷めていく。
なんだろう、ずっと欲しかったおもちゃが手に入ってしばらく遊んだあと、ふいに興味がなくなって、ぽいって置き去りにしちゃう感じ。あとからおもちゃを見ると、なんでいままであんなに執着してたんだろうって不思議な気持ちになるみたいな。
学校で会えなくなった後は、連絡の頻度が、みるみる少なくなっていった。
今思い返しても、これって最低男だよね…
自分でも、これはいくらなんでもひどいと思う。それは自分でもわかってる。でも、どうしようもないんだ。もともと「卒業する前に」なんて前書きがあったせいで、卒業して一段落って気持ちになっちゃったのかもしれない。
自分の心って、自分でどうやったらコントロールできるの? ボクにはわからないよ。そんなこと絶対できない。やり方を知ってたら、ぜひ教えてほしい。
メールの短い文面からも感じ取れる、ミウちゃんのとまどいと悲嘆。彼女は、けっして激しい感情を文面にのせない。それがわかっているから、ボクはそれにつけこむ。
ボクは気づいてしまった。
自分ってもしかして、最低のクズなんじゃないだろうかって。人との深いつながりを欲しているくせに、ちょっと時間がたてば、すぐにどうでもよくなってくる。
新しい生活がちょっと忙しいといって、あんなにもボクのことを思ってくれていたミウちゃんのことは、あっという間に忘れて過去のことにしてしまおうとしてる。
いや、そもそもボクはミウちゃんのこと、好きだったのかな。うん、多分本当に好きだったと思う。でも、もしかして、そこらへんにある、かわいい小物に対するのと同じくらいの、その程度の好きだったのかな。
もしそうだとしたら、相手の自分に対する愛情をいいように利用して、自分の性的欲望を満たしただけなのかな。
それって、最低すぎる。クズ野郎すぎるだろ…
ミウちゃんにいくら罵倒され責められても、なにも言い返せない。絶対彼女はしないことはわかっているけど。もし刺されても、ボクは納得する。
卒業式の時のミウちゃんの顔を思い出す。ぼろぼろ泣いて、ぐしゃぐしゃになったミウちゃん。ボクの袖をぎゅっと握って、離そうとしなかったミウちゃん。はじめてひとつになった時、必死に痛みをこらえ、ボクにしがみついてきたミウちゃん。
心がきりきりと痛い。本当に痛いんだ。息をするのもつらいくらいに。あの時感じたいとおしさは、絶対偽物じゃないと思う。心と体がひとつになってたと思う。
でも、ちょっとミウちゃんは、重すぎるんだよな。
自分は人を好きになっちゃいけない類の人間なのかもしれない。
でもそんなの無理だ。誰かを好きになるって、たとえそれがむくわれなくても、なによりも心が震える体験だもの。それを知ってしまった。もう知らなかったころには戻れない。これに替わることなんて、この世にあるんだろうか。
でも、ボクが人を好きになると、その人を傷つけてしまうのかもしれない。そして、それをまあ仕方ないで流してしまえるような、ひどい人間なのかもしれない。
それとも、こんなふうに考えて、自分を悲劇のなかの人みたいに考えて快感を得ようとしてるだけなのかな?
…でもまあいっか。自分じゃどうしようもないことだもんね。
これ以上しつこく考えるのはやめとこ…。