ボクの世界は、今のところ、4つの部分で構成されてる。
自分の家での日常、男の娘カフェでのバイト、大学生活、そしてバンドだ。
家では、かなりぐうたらしてる。いろいろ外では忙しいからね。勉強しないといけないんだけど…ごめんなさい、あんまりしてません。
男の娘カフェで働きだしてから、お金の状況は大分楽になったかな。
服や小物はかなり多くなってきた。これからはリエさんにもちょくちょく遊びに来て欲しいから、きれいにするつもり。リエさんに嫌われたくないもん。
バンドは、曲を増やしてて、今のところ3曲。ボクの歌もの1曲、御園さんの歌もの1曲、ボクのインスト1曲。先日、リエさんの知り合いのバンドの紹介で、数バンドで対バンのライブをやった。下北沢での初ライブだ。
ライブ自体はなかなかいい反応だったんだけど、ボクはそれよりも、リエさんの昔なじみらしいバンドの男の人とリエさんが、妙に親し気に話しているのが気になって気になって。話しかけても上の空みたいな感じで、ボクは胸のあたりがもやもやしてたまらなかった。打ち上げの席でも、ボクはリエさんにちょっと腹を立てて、邪険な態度をとっちゃった。
リエさんにとっても久々のライブだから、ちょっと舞い上がってたみたい。
次の日は、リエさんへのもやもやと、どうしてあんな態度をとってしまったんだろうという自己嫌悪で、鬱々とした1日だった。
もっとも、次に会ったリエさんとはすぐに仲直りして、この出来事は、結局さらに激しく甘いエッチの香辛料扱いにしかならなかったんだけどさ。
バンドのメンバーにはボクたちがつきあいだしたことは言ってないけど、気づいてると思う。御園さんも何も言ってこない。平然としてる、ように見える。
リエさんは普段べたべたするような人ではないし、もうつきあいだしたんだから、ボクだってもう落ち着いたもんだ。
大学の生活は、まあまあだ。授業は結構楽しい。まだ1年生だから、一般教養の科目も多いけど、それも楽しい。高校とは違って、専門性は高くなるから、内容も深くて面白いのも当然かな。もちろん専門科目も楽しい。
先生もちょっと変な人が多い。まあ大学の教授なんて、一般の会社員とは違っていて当たり前なんだろう。一般教養の大講堂での授業は、普通はかなりラフな感じなんだけど、遅れてこそこそ入ってくと「ばかものっ!」と大声で一喝されるドイツ文学の山内先生は、怖いけど好き。サッカーが好きで、野球のグラウンドでサッカーして事務員にこっぴどく怒られたらしい。
地誌学の富田先生は、クライミングが趣味で、ヒマラヤ遠征とかも行ったことがあるとか。なかなか個性豊かだなあ。
同級生の中には、同じ附属高校からの人もいる。高校の時は全然知らなかったけど、大学に来てから知り合った。もちろん、日本全国から、いろんな人が入学してきてる。
ユウキは、一番の友だちだ。女性陣とはそれほど親しくなっていないけど、まあまだ1年だしね。そのうち知っていくんだろう。
みんな、最初はボクがどんどん男の娘化してくのに驚いたり、引いてたりしたんだけど、すぐに慣れちゃった。だって、ボク自身はそのままなんだから。そういうのは、すぐ慣れちゃうんだよ。まあせいぜい、変なやつ! とかその程度で、ごく普通につきあう。
ボクが「大学の教授は変な人!」というのと同じ程度の「変なやつ!」だよ。裏で何か言われてるかもしれないけど、正直そんなのはどうでもいいことだ。気になんてしない。ボクだって裏があるんだから、誰だって裏はある。
カフェでは、ボクはまともな女装をすることが多い。大体週に3回行き、毎回違う服を着る。着るものは、基本カフェで準備されているもの。下着は自分で用意してる。もちろん、女性用下着だ。これはバイトするようになってから、ネットの通販で購入した。
ヨウカちゃんの好きな、学生服モチーフのアイドルみたいな服。こういうの、憧れるんだよね。鏡の前でくるって回ったりして、気分はアイドル。歌ったり踊ったりはできないけど。
最初に着てみた時、子どものころ、テレビで見て憧れたのを思い出した。ちゃんとメイクもして、衣装を着て鏡の前に立ってすっごくどきどきしたよ。え、これボクなのって。
「きゃー、かわいい!」
「すごい似合ってるよ!」
周りで見物に来たお店の子たちが、褒めてくれる。その言葉が素直にうれしい。
鏡の向こうの自分を見てたら、なんか胸の奥のほうがじわじわ波立ってきた。ああ、ボクはずっとこうなりたいって願いを押し殺してきてたのかなって。ボクの中の女の子が、今、現実に存在できてる。
他の子たちのほめ言葉がうれしいのは、その子たちも、この思いを知ってるから。
ボクは思わず、ぽろぽろ泣いちゃった。
ただ、お店のほかの子たちとちょっと違うのは、ボクは首を隠したりしなかったところ。どんなにきれいに女の子みたいになっても、首を出してると喉ぼとけで、いっぱつで男だとわかっちゃう。ボクはそのへんはあまりこだわらなかった。だって、実際は男なんだから。
この頃は、声を出すときも、いつも喉に少し力を込めて低域の音を減らすことが習慣になっていたけれど、あまり意識はしていなかった。管楽器の経験があるからか、喉を狭めて音を出すイメージがしやすかったのかもしれない。
ヨウカちゃんはダンスを習ってるみたい。お店でも、時折披露したりして、喝采を浴びてる。本当のアイドルになりたいのかな。でも、男の娘のアイドルなんて、今はまだゲームやアニメの世界だけだ。
マヒルさんは、必ずメイド衣装だ。踊るなんて、はしゃいだりはしない。とても品のあるたたずまいで、ボクも着てみたけど、とてもマヒルさんみたいにはできない。ボクはどちらかというと、品のない短いスカートのメイド姿が多いかな。
他にも働いている人は数人いる。マサキくんは、純粋に女装が趣味の男の子。「男の子っぽい言動のまま、かわいい恰好させられてる」という設定。またかわいいんだ、これが* セーラー服やブレザーの学生服が多い。
リョウも学生服メイン。好きな男の子を振り向かせるために、かわいくなりたいと思って、女装を始めたそうだ。リョウとはなんとなくウマが合う。
アイちゃんは、トランスセクシャルで、薬を飲んでる。薬のせいか、この娘は、匂いがもう女性だ。女装掲示板のオフ会でも何人も会ったけど、薬を飲んでる娘は、そうでない娘と比べて、すぐわかる。お金をためて手術して、とっちゃうことを目指してる。
ボクはお店でもズボンをはくことがあるし、一番中途半端かもしれない。
でも、そんなボクのことを一番に推してくれるお客さんも中にはいる。
たとえば、竜野さんという、20後半くらいの男性もそのひとりだ。背が高くて、かっこいい。何の仕事をしてるかは知らないけど、お金には不自由してないみたい。
彼が来店してボクの仕事が一段落すると、横に呼ばれて、お話しさせてもらう。なんでもよく知ってて、話も面白い。ボクはバンドの話や、大学での話をしたりする。音楽も詳しいので、楽しいんだ。
一度、帰り際に会計をしている際、さっとボクの手に何かを渡してそのまま何気ない顔で帰っていった。1枚の紙切れに、電話番号。ほんとは、こういうのダメなんだからね。
もちろんその番号にかけたりしてない。一応、登録だけはしといた。
まあプライベートでどうしようがお店が口出しする筋合いは本来ないはずなんだけど、やっぱりお店の評判を落とすようなことはできないし、働き手の価値はお店の価値でもあるわけで、軽はずみな行動はとらないように、結構強く言われてる。
軽はずみな行動というのは、まあつまり、個人的に体を売ったりとか、そういうこと。
多分そういうのがバレたら、即座に首になると思う。
これは、お店の他の男の娘たちからも、そういうのは絶対やっちゃダメだよって言われた。変な面倒に巻き込まれたりするかもしれないって。
だから、結構高い給料をもらえてるわけだしね。
でも、ボクなんかの身体を高いお金を出してまで欲しがる人がいるっていうのは、とても不思議な気がする。それに、正直ちょっとだけ、うれしい気もするんだ。自分の価値を認めてもらったみたいで。
ちなみに、お客さんは女性も多い。仕事帰りのOLさんとか、主婦とか。
ユニセックスな感じのボクは、割と人気がある。女性でも、やっぱりお店の外では個人的に会ったりはしないように、と言われてる。
会うつもりはないです。だって、今のボクにはリエさんがいるもん! リエさんほどかわいい人はいないからね。
時には、お店の子たちと一緒に飲みにいったりするんだけど、これも楽しい。バンドのメンバーや同級生と飲むのとは、また違うんだよね。
さっき書いたリョウとは、時々ふたりで飲みに行く。
リョウは、男の子が好きな子。本物の女の子には一切興味ないらしい。時々そういう掲示板で待ち合わせて、見知らぬ人と、その場限りのエッチなこともするらしい。それでセフレも見つけたとか言ってた。
そのサイトも、スマホで見せてもらった。
リョウには、ひとりエッチのいろんな方法とかも教えてもらった。彼が言うには、「男の娘の必須科目」だってさ。えっと…男の子にもある、後ろの穴を使ったやつね。
リョウはエッチな子だ。
「知らない人と会うの、怖くないの?」
「正直怖いかも。でも、すっごくどきどきするんだ。いけないことしてる感がすごくて、やめられなくなっちゃう」
「そうなんだ…」
「でも、おすすめはしないよ」
あのさーそんなの聞いちゃったら、すすめられてるのと一緒だよ。
「いつか、ぼく、痛い目みるかも…」
「でも、やめる気はないわけね?」
「いつも、もうこれでやめようやめなきゃって思うんだけどね。カオルは、男の子も好きなんでしょ?」
「好きになったことはあるよ、でも、男の人とそういうことはしたことない。してみたいとは…やっぱ思うけど」
不自然な空白。
「…ね、キス、してみない?」
「…」
「ごめん、うそ。忘れて」
「リョウはさ、男の子とキスしたことあるんでしょ」
「うん。いっぱい。一昨日も昨日もした。今日はまだしてない」
「ボク、まだないんだ」
「嫌なら…」
「優しくしてくれる?」
メニューでお店の喧騒から顔を隠し、ボクらは3秒くらい、唇を合わせた。お互いの舌の先端が触れ合う。
唇を離したら、彼のこちらを見つめる目が間近に見えた。ボクは顔を赤くして、うつむいた。
リョウの息遣いがかすかに聞こえる。
いつの間にか、リョウの手が、ボクの太ももの上に置かれてる。
「ね、ちょっと触って、いいかな」
ボクはうつむいたまま、小さくうなずいた。
彼の手がズボンの上をゆっくり動いて。軽くボクのものに触れ、次に少し力を入れてぎゅっとした。身体がびくってなった。
「勃ってる」
「ばか」
「おわびに、ぼくのも触っていいよ」
ボクの手首をつかんで、自分の下半身に誘った。
初めて触る、他人のもの。ズボンごしのリョウのものも、硬くなってる。おっきい。ボクの息が荒くなる。リョウは手をさらに強く押し付ける。
「ん」
「…リョウも勃ってるじゃん」
ボクはささやくような小声で言った。
「うん」
身体の奥が、もやもやする。ボクはぎゅっと目をつむって、湧きあがってこようとする疼きと欲求を、必死に抑え込もうとした。それはとても不可能なことのように思われた。でもここで抑えなきゃ、このまま流される。間違いなく。それでもいいかなと思ったけど、だめだよね…だめなのかな。いや、だめだめ! ここ、普通の飲み屋だし!
「…お願い」
「ごめんね。ぼくって悪い子だね。ほんとごめん」
ボクの手を自分の股間から離して、解放してくれた。いつの間にか涙ぐんでたボクの頭を優しくなぜてくれる。ボクの放り出された欲望は、お店のやかましい空間をふわふわと漂って、あっけなく消えた。
身体の奥の欲望の疼きは、家に帰っても、なんとなくわだかまったまま残ってた。右手の人差し指で唇をなぞってみる。ボクの男の子との初キス。お試しみたいな感じで雑に奪われたけど、別に後悔なんてない。さっきの感触はまだボクの心をおののかせるには十分なくらい、はっきりとした形を保ってる。
ベッドの上に体を投げ出すと、無意識のうちに両手が下半身に向かう。
ばかばか、リョウのばか。
なんてことすんのさ。
ああ、だめ、がまんできないよ。
ボクの欲望と好奇心は、すっかり目を覚ましてしまった。
ボクは起き上がって、ちょっと震える手でパソコンを起動した。
リョウから教えてもらったサイトに行ってみる。
まるっきり知らない人が相手なわけで、ちょっと怖い気もする。でも、好奇心と欲望が上回っちゃった。
サイトを通じて、家の近くの駅で待ち合わせることになった。タイミング悪く、こんな近くでの出会いを希望する相手が見つかっちゃうなんて。
レスを書き込んだ後、ちょっと後悔した。やっぱり怖い。行くのやめようかな…
相手の男の人、怒るかな。でも怒ったところで、こっちのことはわからないんだから、実害はないだろう。
…でもやっぱり行ってみたいな…
意を決して、T-シャツとショートパンツのラフな格好で、出かけることにした。
人の少ない深夜の駅だから、相手はすぐわかった。
もしかして高校生? 結構若い子だ。ものすごい緊張してる。
ボクだって初めてなんだけど、これじゃあこっちがリードせざるを得ないじゃん。
手を引いて、駅のトイレの個室に入った。暗くて汚いトイレだった。下品な落書きが書いてある。こっちの胸の鼓動が聞こえないか心配になるくらい、どきどきした。
それは多分向こうも同じなんだろう。薄暗い中、ボクを見て、すごく興奮してるのが手に取るように伝わってくる。きっと、思ったよりかわいい男の娘が来たって思ってるんだ。
「キスしていい?」
男の子は、声もなく、うなずいた。
ボクは、最初は控えめに、次第にとびきりエッチにキスしてあげる。男の子は、もしかして初めてのキスだったのかもしれない。すごくたどたどしかった。もしかして、ボク、キミのファーストキスを奪っちゃった? こんな雑に奪っちゃってごめんね。実はボクもさっき奪われたばかりなんだ。でも女の子とのキスは慣れてるから…
その緊張する様子を見てたら、何だか初めて会ったこの子がいとおしくてたまらなくなってきた。なんとかして、気持ちよくしてあげたい、楽しい時間にしてあげたいと思う。見返りなんかいらない、ボクが、キミの喜ぶこと、なんでもしてあげる。だから、緊張しないで、もっと気を楽にして?
キスしながら、手を男の子の下半身に這わせる。もうがちがちだった。かわいいな。
ボクは、立っている男の子の前にしゃがんで、ズボンを下ろしてあげた。下着の上から、優しくキスしてあげる。ねえ、気持ちいい? ボクにまかせて?
ボクって、こんなふうに尽くすタイプだったっけ。何だか、女の子と接する時と、全然違う。性欲にまかせてとかじゃ全然なくって、相手を気持ちよくしてあげたいっていう気持ちでいっぱいになる。そのためだったら、多分、なんでもできちゃう。なんでも許しちゃえる。
こんな気持ち、初めて。息がつまりそう。
男の子のものは、ボクのよりちっちゃくてかわいかった。
初めて口にしたそれは、しょっぱかった。嫌悪感なんてまるでない。だって、男の子のものって、かわいいじゃん?
ボクも男だから、どうすれば気持ちいいか、どこが一番いいか、よくわかる。
「ん…」
ボクは夢中で男の子をなめまわし、ぱくっとくわえた。口の中に感じるおちんちん。不思議な感じ。
口に含んだ男の子のものを、舌で優しくかわいがってあげながら、上目遣いで彼の顔を見上げる。男の子は明らかにその状況に興奮して、口の中のものがさらに硬くなり脈打つ。口を離して、男の子の先端とボクの舌がえっちな橋をかけるのを見せつけてあげる。
なんだこれ。なんだこれ。
女の子とするのと全然違う気持ちよさ。
男の子の前でみっともなくしゃがみ込んで、あれをしゃぶるなんていう屈辱的な行為を、自分自ら喜んでしてる。男の子が喜んでくれるのが、自分のことみたいにうれしいんだ。
だんだん動きを早めて、彼がちゃんとイクのを導いてあげる。できるだけ奥までくわえて、歯が当たらないように注意しながら口内に密着させると、ぴくぴくと震えた。
口の中に、彼の熱いものがほとばしる。変な味。ちゃんと出してくれてうれしい。ボクの初めてのフェラでいってくれた。すごくうれしいよ。吐き出すなんてもったいないことできない。ちょっと苦しかったけど、ごくっと全部飲んじゃった。彼の熱いものが、喉を通り過ぎていくのを感じる。
男の子の分身を、ボクは自分の中に取り込んだ。これで、キミとボクは特別な関係になれたんだね。行きずりで、多分もう二度と会うこともないだろう、名前も知らないキミ。でも、キミの一部はもうボクのもの。
多分、男の子にとって初めてのキスとフェラ。彼の記憶の中に、ボクは一生残り続けるはずだ。ボクの記憶の中にも、キミとの体験は死ぬまで残り続ける。これほどの快楽が他にあるだろうか。
ついにやっちゃった…ボクは腕を組み、自分の二の腕をぎゅっとつかんで、その余韻に身を任せた。
男の子と別れたあと、トイレの水道で口をゆすいだ。
恥ずかしさと、興奮と、いろいろ入り混じってごちゃごちゃの心に耐え切れず、ボクは思わず口をおさえた。
まだ感触や味が残ってる。男の子のおちんちんの形が、舌の上に、口の中に、明瞭な記憶となってはっきり感じ取れる。
数日間、その感触はずっと残っていて、思い出すたびに「うっ」てなったけど、その感覚さえもがなんかいとおしかった。
こういうのって、リエさんに対する不実となるんだろうか。浮気? 多分多くの人はそうとるのかな。でもボクには、それがあまりに女の子との経験と違うので、全然そうは思えなかった。
ただただ相手のことだけを考え、尽くす。自分のことなんてどうでもいい。むしろ、自分の身体なんていくらでも投げだせる。こんな気持ちになったのは初めてだ。
でもリエさんが知ったら、きっとすごく嫌がるよね。もし知られちゃったら、あっという間にふられそう。リエさんとエッチできなくなっちゃうのはやだ。
ごめんなさい、リエさん、あなたの恋人は、身も心もこんな汚れたやつなんです。
ふと気づいたら、昨日触ったリョウのものはどんななんだろう、してあげたいな、なんて考えてる自分に気づいた。
だから、こういうのはもうしないことにした。
何度も続けると、多分二度と抜け出せなくなりそうだったから。