大学祭当日は、きれいに晴れた。深まった秋の透き通るような空気は、透明度の高い水晶を通したような煌めきに満ちてる。心地よい風がボクの髪を少しざわめかせて通り過ぎていく。気持ちいいね。
朝早くから、大学構内は多くの人が動き回って、活気があった。昨日のうちに用意された特設ステージ(その準備にも参加した)でも、軽音サークルやその舞台を借りるバンドの人たちが集まり、機材を運んだり、セッティングの準備をした。
自分たちのバンドのメンバーもみんな集まり、あちこちでお手伝い中。
バンドとしての準備はほとんど終わってる。
「曲順については、あとでもう一度ちゃんと決めよう」
シンジが言う。演奏の曲順だけ、まだみんなの意見がそろってなかった。
今日はまじめな女装でいこうかとも思ってたけど、準備の力仕事もあるので、ユニセックスなかっこいい系で決めてきた。風のある日は短いスカートは怖いし。
PAの準備も始まっていた。あっちはミキサーもスピーカーもでかいし、配線も大変だ。人員の半分以上はそっちに手伝いに行った。ちなみにPAも学生が行っている。そういうサークルがあるらしい。なんでもあるんだな。
でも、こういう雰囲気はいいね。わくわくしてくる。
準備ができたら、とりあえず午前出演のバンドは、ものすごい速さで、PAの音出しのチェックだけする。入念な調整なんてしてる暇はあまりない。最低限のことだけ。もちろん、リハーサルなんてしてる余裕も当然ない。ちょっと曲の最初だけやって、あとはもうPA任せだ。
音出しチェックにあわせて、バンド入れ替えのセッティング変更のチェックなどもする。これはかなり丁寧にPA側で行っていた。あらかじめ、必要チャンネルなどの申告はしてるらしいし、スケジュールの計画はたててるだろうから、そのあたりのすり合わせだろうと思う。
自分たちの音チェックが終わって、みんなとりあえずほっとして、ステージ脇で楽器を抱えて4人で座り込んでると、次のバンドのチェックでなんかもめてた。
ステージ上で、何人か集まって暗い顔で話し込んでる。何か問題が起きたかな? シンジが様子を見てくるといって少しだけ話して戻ってきた。
「次のバンド、結構大所帯なんだけど、自分たちのミキサーが調子悪くてどうしようって言ってる。PAに送る前にまとめるやつ」
「ああ、そういうトラブル、絶対あるやつねー。軽音とかで余ってるんじゃないの」
「あそこの機材、おんぼろもいいとこなのしかないしなぁ」
「まとめないでPAに直接入れればいいじゃん。あのでかいミキサーなら、余裕でチャンネル足りてるでしょ」
「なんか簡単にはいかないんじゃね? 詳しくはわからないけどさ。使用楽器の予定はもう出してるし」
向こうの人がこちらに来て、そちらで持ってるミキサーがないか、もしあったら貸してくれないか、尋ねてきた。切羽詰まってるみたい。
まあボクの部屋に6チャンネルの小さなミキサーがあることはあるけどさ。今から帰って配線全部とって持って来るとか、ちょっとしゃれにならない。あれ、結構重いんだよ…
ステージの上の女の子が泣き出した。
うーん、よそのバンドのことだしなぁ、うちが大学から近いといっても、時間も結構ぎりぎりになりそうで、嫌なんだけど。
「あの…うちに6チャンのミキサーあるけど」
あーあ、口にしちゃった。
そんなすがるような目で見られたら、どうしようもないじゃん?
ということで、ボクは急遽自分の部屋からミキサーを持ってくることになった。まあ自分から言い出したことだけど。
「すまん、頼むわ」
今回の前準備で、向こうのバンドのリーダーとはちょっとつきあいがあったらしいシンジは、手を合わせてきた。
「大丈夫?」
リエさんが心配そうだ。
「急いで持ってくる。シールドとかはいらないよね?」
「ミキサーだけで大丈夫」
大学広いから、駅まで行くのも大変。とにかく、急いでうちに戻ることにした。まあ若干は余裕あるし、大丈夫でしょ。それでも軽く走った。
こういう時って、大抵タイミング悪いよね。気持ちが急いでいるから、都合の悪いところばかり印象に残るってだけかもしれないけど。駅に着けば電車は出たばかりだし、信号も必ず赤に出くわす。
自分の部屋に帰ってくると、とりあえずあわてて配線をすべて引き抜き、そこらへんに転がってたバッグにミキサー本体を入れて、家を出る。駅に着いたところで、電源ケーブルを持ってくるのを忘れたことに気づいた。
え、なんで? シールドを引き抜いた時に、一緒に電源ケーブルも抜いちゃったんだ。なんでそんなバカなことをしでかせるわけ? 信じらんない、なんで? ねえなんで?
ボクはもう泣きそうになりながら、再び部屋に走り戻って、ミキサーから抜かれてコンセントには繋がったままだった電源ケーブルを悪態をつきながらひっつかみ、部屋を飛び出た。ミキサーを入れたバッグが肩にぐっと食い込む。
もう最悪! よそのことなんて、無視してればよかった! っていうか、自分がバカすぎていやになる。
電車の中では半泣き状態だった。恥ずかしいから、窓のほうを向いて外を見てた。電車の進みがやたらと遅く感じる。もっと早く動いてよ!
時間的には、多分かなりぎりぎり。
次のバンド、本番前にいきなり初めての機材を使わなくちゃいけないなんて、どう考えても失敗の原因にしかならないと思うけど。でも、そんなことはどうでもいい、こっちが考えてる暇なんてないんだ。
まだ前のバンドが演奏してた。とりあえず肩で息をしながら、シンジにバッグを渡す。シンジはすぐにそれを持って次のバンドの人たちに渡しに行く。
座り込んだ。
「遅くてはらはらしました」
御園さん。
黙って、ペットボトルを渡してくれるリエさん。ボクはそれをぐっと一口飲んだ。ペットボトルを返すと、引き換えにボクのベースを手渡してくれる。
「もう最悪」
「大丈夫? もうすぐ順番だよ」
そう言いながら、ボクの背中に手を回してくれるリエさん。
とりあえず、何とか間に合ったみたいだ。ほっとした。
シンジが戻ってきて、バンドが演奏を終えた。ほんとにぎりぎりだったみたいだ。改めて周囲を見回した。思ったよりは多くの観客がいて、ぱらぱらというよりは多い拍手の音。大学生だけじゃなく、高校生のグループみたいのもいる。
息を整えて、みんなでステージに上がり、急いでセッティングする。
ステージに上がって、観客を前にして、緊張するというより、間に合ったという安堵のほうが大きい。シンジがなんか話してる。
駆けつけで演奏始めなきゃならないのはきついなあ。なんかめまいがしてきた。
ドラムのカウント。
最初の音をパーンと出して、頭の中が真っ白になった。
「え?」
思ってた曲と違う。まるっきり変な音を出してる。みんなの視線がこっちを向いてる。青い顔をしてた。なんだこれ?
シンジの「しまった!」という顔付を見て気づいた。曲順間違いした。とりあえず決めた曲順から、直前に変えたんだろう。どさくさに紛れて、それをボクに伝え忘れたんだ。
その先のことは、もう詳しく書きたくない。
「ごめんっ! ほんとにごめん、おれが悪い、伝え忘れた」
シンジがボクの前で頭を下げてる。
ステージから逃げるように下りて、ボクはさすがにシンジに怒鳴った。
「なんで教えてくれないんだよっ! 変えたんならちゃんと言ってよ!」
でも、いたたまれなくて、とにかくその場を離れたかったから、ボクはステージの後ろで楽器をしまうと、人の多い校舎から離れて庭の木の陰にへたり込んだ。
みんなついてくる。
シンジは走ってきて、謝った。でも、ボクはもうその言葉も聞こえず、頭の上に数トンの重りを載せられたように感じて、うなだれた。とんでもない恥をかいちゃった…あんな大勢の観客の前で。同級生もいただろう。思い出すと、体の中が、かーっと熱くなってきた。だって、ご丁寧に曲間でしっかりメンバー紹介だってしたんだよ…
演奏はそのまま続けた。イントロはベースなしで、歌が入って弾き始めた。でも、動揺して、全然ちゃんとできなかった。そのあとも、何にも耳に入ってこない感じだけど、とりあえず手だけは自然と動くことは動いた。
まあ次の曲からは、一応はちゃんと演奏はできましたよ? とても満足できるようなものじゃなかったけど。前を全然向けなかった。最悪。
「いや、もういいよ、ちゃんと確認しなかったボクも悪いし…」
力ない言葉。
「こういうことだってあるさ、とっとと忘れよう! あははは、は、…ごめん…」
リエさん、その言葉は今は無理です。こういうとこあるよね、リエさんって。
「まあバチが当たったんですね。終わったことはしょうがない」
と御園さん。
なんのバチだよ…まあでもそうかも。なんかいろいろとバチが当たったのかも。悪いこといっぱいしてるし。
まだ反論とかそういう元気は全然ないので、ボクはなんにも言い返したりしなかった。
次のバンドの演奏が聞こえる。どうやらミキサーはちゃんと使えたみたいだ。よかったですね、うまくいって。こっちはこのざまですけどね!
今日はとりあえずやることはない。見て回るくらいだ。明日の夕方には、ステージのあと片付けをしなきゃならないけど、それまでは特に用事はない。
しばらく気を落ちつけてから、みんなで食堂に行くことにした。人の目が恥ずかしくて、校舎のほうにまだ行きたくなかったけど、ここにずっといてもしょうがない。ちょっと他の人たちの演奏も聴きたくない気分。
午後、みんなと別れてひとりで食堂に残り、何か見に行きたいところもあるわけじゃなし、テーブルにつっぷしてた。
隣に人が座る気配を感じて起き上がったら、リエさんだった。戻ってきてくれたんだ。
「リエさん」
「ひどい目にあっちゃったな」
「このくらいの失敗、よくあることでしょ」
「まあね」
「でもずっと準備してましたから」
「だよなぁ」
「ミキサー持ってくる時、電源ケーブル忘れて一度駅から家に戻って、時間ぎりぎりになっちゃったんですよねえ。ああいうバカなことしなければ、もっと余裕あっただろうし」
「悪いことは重なっちゃうよな」
「…甘えていいですか」
「ここで?」
「ここはまずいか」
「…こっち来て。今日、持ってる?」
「…持ってます」
リエさんは立ち上がって、ボクの手をとった。ボクも立ち上がり、ベースを背負う。
リエさんは、絶対に避妊具なしではさせてくれない。大丈夫な日だったらといっても、首を縦にはふってくれないんだ。どんなに酔っぱらってても、どんなに甘い雰囲気になっても、そこだけは絶対に忘れず譲らない。ボクにはそこがいつも不満だった。
だから、ボクはリエさんとつきあうようになってからは、いつでも持ち歩くようになった。もちろん今日も。
文学部棟の裏に回り、樹々の中の細い道に入ると、森の中にベンチがひとつあった。すぐ隣には他施設のグラウンドがあるみたい。周りには人の気配がない。
「こんな場所があったなんて、知りませんでした」
「夏だと虫でいっぱいで大変なんだけどね、ほとんど誰も知らなくて、たまーにカップルが使ってる。らしい」
もしかして以前使ったことがあるのかな、と思った。ボクが知らない昔のリエさんと、別の誰かがここに二人きりでいたなんて、考えたくもない。突然、胸の中にむらむらと嫉妬心が湧き上がってくるのを感じる。
ベンチに並んで座って肩に手を回し、多少強引に引き寄せる。ちょっと抵抗を感じたから、さらに力を込めて、リエさんの唇を奪う。
リエさんはボクのものだ! 誰にも渡さない、もしリエさんが昔の思い出にちょっとでも遠慮したっていうなら、そんなもの忘れさせて、リエさんのすべてをボクだけにしてやる。
もしかしたら、リエさんも、そういうボクの感情に気づいたんだろうか。両手でボクを軽く押して、体を離そうとする。唇が離れた。
「ちょ、ちょっと、そうあせるなって」
「…」
ボクは黙ってまたリエさんの唇をふさぎ、胸に手をやった。忘れさせたい! リエさんの昔の思い出なんて、全部上から塗りつぶしてしまいたい。
ひとりでそう思い込んでるだけかもしれないけど、ボクは自分で勝手に嫉妬と加虐の炎を燃え上がらせた。
リエさんも、ボクの激情にあてられたか、次第に自らボクの誘いに乗ってきてくれた。
「リエさん! ボクだけを見て!」
「うん、見てるよ、いつも、カオルくんだけ…」
ボクとリエさんは、服を着たままさんざん愛しあった。胸をはだけ、座ってるボクの上に乗ってきた。なんとなく、こういう場所でやるのに慣れてるのかなって思えて、またボクはもやもやして、加虐的にリエさんを愛した。
だって、リエさんの身体も心もボクだけのものだもん。他のやつがリエさんのことを見たり、ましてや触れたりすることに我慢ならない。たとえ昔のことであっても。
こういう独占欲は悪いことなのかな? わがままでない愛なんてあるのかな? ボクにはそんなものがあるなんて、想像がつかない。
お互いにわがままに、相手のことを欲した状態が相思相愛なんじゃないの? だとしたら、独占しようとするのは当たり前だよね。
もし誰かに見られてたとしても、気づきもしないし、気にもしてなかった。
ボクとリエさんは、ぎゅっと手をつないで食堂に戻った。
かなり疲れてたから、ふたりしてぐったりもたれかかって座ったけど、手は離さなかった。顔を見合わせると、恥ずかしくて嬉しくてちょっと笑った。
なんとなく、今日は最後にはリエさんと心までひとつになれた感じがした。
リエさんも、わがままにボクのことを欲してくれたような気がした。
「なんかあたしってさ、実はレズっ気があるのかな? 周りからも、ぱっと見、そういうふうに見えるんじゃね?」
「さあ、どうなんでしょうね」
急にいまさら何言ってんですか。
お店の外を、数人の女子が歓談しながら通り過ぎる。
それを見て、リエさんが、はっと上体を起こした。
「しまった、忘れてた」
「?」
「今の同じクラスの友だちなんだけどさ、一緒に見て回る約束してたんだ。ちょっと行って謝って断ってくる」
「でも、いいんですか?」
「逆にカオルくんはいいの?」
「やです、一緒にいたいです」
「だろ? ちょっと待ってて」
もうリエさんの友人たちは見えない。リエさんはボクの手を離すと、急いで席を立ち、お店の外に出てあとを追った。
あーいっちゃった。振り返りもしなかった。なんだよもう。ボクはテーブルに突っ伏した。
横から声がした。
「先輩?」
ボクのことだとは最初、気づかなかった。声はボクの真正面に移動した。
「吉田先輩?」
顔を上げると、真向いの席に、高校の制服を着た女の子が座ってた。ボクの出身校の女子制服だ。自分が入る予定の大学の大学祭に見学に来る生徒も多い。でも、ボクを「吉田先輩」なんて呼ぶ知り合いの後輩女子なんて、ひとりしかいない。
一瞬息が止まった。目を疑った。
「ミウ…ちゃん…」
「お久しぶりですね、先輩?」
ミウちゃんは、以前よりもほんの少しだけ大人になった感じがした。でも記憶の中の彼女とはちょっと違う気がする。
「…」
「ずいぶん変わっちゃいましたね。最初気づきませんでした。バンドの紹介で名前聞いて、やっと気づいて、最初びっくりしちゃった」
あれ、見てたんだ。いきなり襲ってきたさまざまな感情の波に押し流されまいとしたけど、無理だった。ボクは顔を赤くして、口を開こうとしたけど、言葉は出てこなかった。
「あ…」
「大勢の前で恥かいちゃいましたね」
以前のミウちゃんなら、絶対こんなこと言わない。これって、やっぱりバチ? バチがあたったの?
ボクは恥ずかしくて情けなくて、泣きそうになりながら下を向いた。え、ボクは何でこんなみっともない状況におかれてるんだ? なに? これは。
「違う…あれは」
「今まで一緒にいた女の人、彼女さんですか? そんな恰好なのに、彼女がいるんですか」
ボクの言うことなんて聞く価値なんかないとでもいわんばかりに、ボクの言葉を無視して口を開く。やっぱりこんなのミウちゃんじゃない! もっと恥ずかしがりやで内気で、消極的で、優しくて。
「…違う」
なんで嘘なんてつくんだろうボクは? こんなすぐにバレるような嘘が、なぜか口からもれてしまう。そんなつもりないのに。
「知ってます? 先輩って、した後って、必ず手を握ってきて、人差し指で指をすりすりしてくるんですよ? 私、あれされるの大好きでした。さっきあの女の人にも、してたみたいだけど」
「…」
「そうやって都合悪くなると、黙るのも高校生の時と同じですね」
ミウちゃんはふふっと楽しそうに笑った。
すっと立ち上がると、テーブルを回ってボクの隣に座ってきた。ボクはそっちに顔を向けることができない。だめ、そこはさっきまでリエさんが座ってたところだ、ミウちゃんが座らないで! お願いだから!
ミウちゃんは、ボクの手に自分の手を乗せてきた。引っ込めようとしても、強引に掴まれた。ミウちゃんは弱くてすぐ壊れそうな女の子。だからボクには、力任せに引き離したりなんて乱暴なことはできない。
久しぶりのミウちゃんの感触。思い出す、ミウちゃんとの日々。ふいに記憶の海から浮かび上がってきた、明瞭なミウちゃんの身体の肌触り。ボクはこの女の子の身体の隅々まで知ってる。その指の1本1本、か細い手首、敏感な耳たぶ、控えめな胸のふくらみ、舐めるとびくってなるおへそ、汗ばんだ温かい内股、ちっちゃな足の指1本1本まで…。
だめだ! 今、そんなこと考えちゃだめ! ボクにはリエさんがいるんだから!
「来春には私もここに来ますから。忘れちゃいやですよ。どうしてそんな風に変わっちゃったのか、興味あるなあ。まさか男の娘になっちゃうなんて」
「ごめん、ボクは」
「さっきの女の人、年上ですよね? そういうのが好みだったんですか? もしかして、実は私って先輩の好みじゃなかった? だから私、捨てられちゃったの?」
「ミウちゃん!」
ミウちゃんは、突然、すっと手を離すと、席を立った。
「それじゃ、私もう行きますね」
「え」
「あんまり外でしないほうがいいですよ、見られちゃうから」
「あ」
ボクはミウちゃんに対して、一言もまともな言葉が発せなかった。
ただただ、ミウちゃんの吹く息にあちこち好きなように弄ばれる、1枚の木の葉に過ぎなかった。だって無理だよ! あんなに急に現れて! ボクを嬲るようなこと言って。
気づくと、ミウちゃんの姿はもうなく、リエさんが目の前に立ってた。走って同級生を探しに行って戻ってきたのか、ちょっと息が荒い。
「今、女子高生がここにいたよね? 同じ高校の知り合い?」
「あ、ええ、高校の時の後輩で…」
「ふうん」
ボクの正面の席に座った。
「つきあってたとか?」
「…いえ、ただの後輩ですよ」
「…まあいいけど」
リエさん、どのあたりから見てたんだろう。話は聞こえちゃったかな。
ミウちゃんに、リエさんとの、見られてたってことだよね。ライブのあと、ずっと後をつけてきてたのかな。最悪だ…
ボクは混乱気味に考えた。頭の中がぐしゃぐしゃになりそう。
なんでまたリエさんにも嘘ついちゃったんだろ、別に昔つきあってた彼女って正直に言えばいいじゃん、嘘ついたって、どうせ後々困るに決まってる。それにリエさん、絶対信じてないよね?
自分の優柔不断さに腹が立つ。今ならまだ嘘だって言える、本当のことを言える。
でも、結局、ボクは言わなかったんだ。