※この作品はR-18です。

悪役令息はママが好き   作:埴輪庭

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★閑話:アヴィアナ

 ◆

 

 ノルン王国は万年雪と氷河に閉ざされた極北の地である。

 

 そこに住まう人々の気性もまた、その国土のように厳格で冷たい。

 

 武を尊び、力こそが全てを律するというわけだ。

 

 王都フロストヘイムの中心に聳えるのは王城「ヴァルハラ」。

 

 その謁見の間は今、外の凍てつく空気よりもなお冷え切っていた。

 

 玉座に座る男が放つ静かな怒りが、部屋の温度をさらに数度下げているかのようだ。

 

 男の名は“氷狼”グルンベルド。ノルン国王その人である。

 

 年の頃は四十をやや過ぎたところか。

 

 鍛え上げられた鋼のような肉体が、対する者に強い圧を与えていた。

 

 そのグルンベルドが、眼下の女を氷の視線で射抜いている。

 

「──弁えよ、アヴィアナ」

 

 グルンベルドの声は低く、地響きのように謁見の間に響き渡った。

 

「貴様は魔術師団長である前にこの俺の臣下だ。その事を忘れたわけではあるまいな」

 

 玉座の前に傅くのは“極北の魔女”アヴィアナ。

 

【挿絵表示】

 

 彼女はノルン王国魔術師団を束ねる、この国随一の魔術師である。

 

 人間と冬の精の血を引く彼女はその特徴を色濃く受け継いでいた。

 

 雪のように白い肌。

 

 氷の結晶を思わせる銀色の髪。

 

 そして人間離れした、凍てつくような美貌。

 

 そんな彼女は深く頭を垂れたまま、静かに応じた。

 

「重々承知しております、陛下。なれど、事態は一刻を争うと判断いたしました」

 

 その声に震えはなかったが、内心が平静でないことは確かだった。

 

 事の発端は大氷原に突如として出現したあの漆黒の竜。

 

 アヴィアナが『プロメテオル』と名付けた、災厄の化身である。

 

 彼女はその脅威を察知するや、国王の許可を待たずして冒険者ギルドを通じ、王国全土に非常事態を宣言した。

 

 それがグルンベルドの逆鱗に触れたというわけだ。

 

「貴様の独断が、この国の秩序をどれほど乱したと思っている」

 

 グルンベルドは玉座の肘掛けを強く握りしめる。

 

 ノルン王国は完全なるトップダウンの国家だ。

 

 王の言葉は絶対であり、それに逆らうことは反逆にも等しい。

 

「それだけではない。こともあろうに冒険者ギルドにまで接触したそうだな」

 

 グルンベルドの声には明らかな嫌悪が滲んでいた。

 

「冒険者などという、金にしか靡かぬ卑しき輩を信用すると申すか」

 

 彼は冒険者を心底軽蔑していた。

 

 忠誠心も誇りも持たない、ならず者の集団。

 

 そんな連中に国の存亡に関わる情報を漏らし、助力を乞うなど言語道断である。

 

 そして何より、彼らに先手を打たれたという事実が、王のプライドを深く傷つけていた。

 

 冒険者ギルドはすでに即応体制を整え、プロメテオル討伐のために高額の懸賞金をかけ、腕利きを集めているという。

 

 それはノルン王国軍が後手に回ったという証拠に他ならない。

 

「申し開きの機会を頂きたく存じます」

 

 アヴィアナは顔を上げ、真っ直ぐに王を見据えた。

 

 その瞳には恐怖ではなく、確固たる意志が宿っている。

 

「申してみよ」

 

 グルンベルドが促すと、アヴィアナは淀みなく語り始めた。

 

「私は遠見の術を以て、あの漆黒の竜を観測いたしました。その力は我らの想像を遥かに超えるものです」

 

 彼女の脳裏に、あの悪夢のような光景が蘇る。

 

 大氷原の絶対的支配者であるフロストワイバーンが、まるで玩具のように蹂躙され、食い殺された光景だ。

 

「あの竜が放つ悪意、敵意、そして害意……それはもはや、尋常な生物のそれではありません。あれは純粋な破壊の化身です」

 

 アヴィアナは言葉を続ける。

 

 その声には切実な響きがあった。

 

「率直に申し上げます。ノルン王国軍の総力を結集したとしても、あの竜を討ち滅ぼすことは叶いますまい」

 

 その断言に、謁見の間に控えていた重臣たちの間に動揺が走った。

 

 だがグルンベルドは表情を変えない。

 

「……ほう。この“氷狼”が率いる軍が、たかが竜一匹に遅れを取ると」

 

「はい。ゆえに私はあらゆる手を使うべきだと判断いたしました。冒険者ギルドの力を借りる事も、その一つです」

 

 アヴィアナはかつて、上級冒険者として名を馳せた過去を持つ。

 

 ギルドの上層部にも顔が利き、彼女の声には重みがあった。

 

「彼らは確かに金で動く者たちかもしれません。ですが、その中には人知を超えた力を持つ者もおります。彼らの力を利用しない手はありません」

 

 それは建前だった。

 

 ──冒険者たちの力だけでは到底足りない。

 

 アヴィアナはそう確信していた。

 

 プロメテオルはそれほどまでに強大なのだ。

 

 だからこそ、冒険者たちを先遣隊、あるいは囮とし、その隙を突いて国軍が総攻撃を仕掛ける。

 

 連携なくして勝機はない。

 

 そして軍を動かすためには王を動かさねばならない。

 

 アヴィアナはグルンベルドの性格を知り尽くしていた。

 

 誇り高く、誰よりも負けず嫌いな王。

 

 彼が冒険者たちの独走を黙って見ているはずがないと。

 

 彼らの存在が、王の対抗心に火をつけるだろうと。

 

 ──全てはこの国を護るため。

 

 アヴィアナは内心で呟く。

 

 この独断専行の責任は全て自分が負う。

 

 どのような罰を受けようとも、それは覚悟の上だった。

 

 グルンベルドはアヴィアナの言葉を吟味するように顎に手を当てて考え込む。

 

 彼は決して暗愚な王ではない。

 

 アヴィアナの能力を誰よりも高く評価しており、彼女の見立てが的を射ているであろうことも理解していた。

 

 そして彼女の策謀の意図も。

 

 やがて彼は深く息を吐き出すと、傍らに控えていた軍務卿に目を向けた。

 

「聞いたな。直ちに討伐軍を編成せよ」

 

 グルンベルドの声は決断に満ちていた。

 

「冒険者どもに手柄を独占させるな。プロメテオルの首はこのノルン王国軍が頂く」

 

「はっ」

 

 軍務卿が恭しく頭を下げる。

 

 アヴィアナは内心で安堵の息を漏らした。

 

 これでようやく対抗策が動き出す。

 

 だが安堵も束の間であった。

 

 グルンベルドが再びアヴィアナに視線を戻した。

 

 その瞳には先ほどまでの怒気とは異なる、粘りつくような昏い熱が宿っていた。

 

「アヴィアナ」

 

「はい」

 

「貴様の忠義は認めよう。だが勝手な真似をした罰は受けねばならぬ」

 

 グルンベルドはゆっくりとアヴィアナに近づき、その細い顎を乱暴に掴み上げた。

 

「今宵、俺の閨へ参れ。貴様のその身を以て、俺の怒りを鎮めてみせよ」

 

 その言葉に、アヴィアナの華奢な肩が微かに震えた。

 

 罰。

 

 それはアヴィアナにとって、最も屈辱的で、そして抗い難いものであった。

 

「……かしこまりました、陛下」

 

 アヴィアナは再び深く頭を垂れ、か細い声で応じた。

 

 その表情を窺い知る者は誰もいない。

 

 ◆

 

 ノルン王城ヴァルハラの最奥、国王の私室。

 

 暖炉の火が赤々と燃え、室内を満たしている。

 

 だがその熱はアヴィアナの凍りついた心を溶かすには至らない。

 

 アヴィアナは部屋の中央で立ち尽くしていた。

 

 纏っているのは透けるほどに薄い亜麻布一枚。

 

 魔術師団長としての威厳を示す装束はとうに剥ぎ取られていた。

 

 これは罰なのだと、アヴィアナは自分に言い聞かせる。

 

 王の許可なき独断専行の咎。

 

 だがそれだけではないことをアヴィアナは知っていた。

 

「随分と待たせたな、アヴィアナ」

 

 背後から響く、低く重い声。

 

 グルンベルドである。

 

 グルンベルドはゆったりとしたバスローブ姿で、その手には葡萄酒の杯が握られていた。

 

「……お召しにより参上いたしました、陛下」

 

 アヴィアナは平静を装い、答える。

 

 だがその指先は微かに震えていた。

 

 グルンベルドはゆっくりとアヴィアナに近づき、その背後に立つ。

 

 そしてアヴィアナの耳元で囁いた。

 

「陛下、ではないだろう」

 

 その言葉と共にグルンベルドの太い指がアヴィアナの顎を捉え、強引に上を向かせる。

 

 間近で見る王の瞳。

 

 そこには昏く、粘りつくような欲望の色が浮かんでいた。

 

「私と二人きりの時はどう呼ぶと約束した?」

 

「……お兄様」

 

 掠れた声で、アヴィアナはそう呟いた。

 

 その瞬間、グルンベルドの口元に満足げな笑みが浮かぶ。

 

「そうだ。それでいい」

 

 グルンベルドはそう言うと、アヴィアナの纏う薄布を乱暴に引き裂いた。

 

 露わになるアヴィアナの裸体。

 

 その均整の取れた肢体はまるで氷の彫像のように美しい。

 

 この美を穢してやりたい──グルンベルドの口の端が醜くゆがめられる。

 

「まずは口で俺を鎮めよ」

 

 グルンベルドはそう命じると、寝台に深く腰を下ろし、上衣の前を寛げた。

 

 露わになる昂りきった剛直は凶器のように禍々しく、熱を帯びている。

 

 アヴィアナはゆっくりと膝を折り、床に跪いた。

 

 そうして目を閉じ、震える手でそれに触れる。

 

 その熱と硬さに思わず吐き気を催すアヴィアナだがそれを表に出すことは許されない。

 

 意を決し、その先端をゆっくりと口に含む。

 

 口内に広がる、雄の臭いと苦味にむせかえりそうになる。

 

 だがアヴィアナはそれを舌で転がし、奉仕を始めた。

 

 グルンベルドは満足げに喉を鳴らし、アヴィアナの銀髪を乱暴に掴んだ。

 

「そうだ、もっと深く咥えろ」

 

 グルンベルドはそう言って、アヴィアナの頭を前後に揺さぶり始める。

 

 その動きは次第に激しさを増し、アヴィアナの喉の奥深くまで剛直が突き立てられた。

 

「んぐっ……!」

 

 息が詰まり、涙が滲む。だがグルンベルドは容赦しない。

 

 グルンベルドはアヴィアナの口内を犯し続け、その苦悶の表情を愉しんでいた。

 

 ──思考を殺せ。これはただの義務だ

 

 アヴィアナは内心でそう呟き、自らの感情を押し殺そうと試みる。

 

 だが肉体は正直だった。

 

 繰り返される暴力的なピストン運動によって、アヴィアナの体は次第に熱を帯び始める。

 

 思考と肉体の乖離。

 

 それがアヴィアナをさらに苦しめた。

 

 やがて、グルンベルドの呼吸が荒くなり、その体が大きく震えた。

 

「出すぞ」

 

 その言葉と共にアヴィアナの口内に熱い液体が迸る。

 

 その量は多く、アヴィアナの口から溢れ出し、喉を伝って胸元へと流れ落ちた。

 

「ごほっ……!」

 

 アヴィアナは噎せ返り、床に蹲る。

 

 口内に残る生臭い後味と、喉の奥に残る異物感。

 

 アヴィアナはそれを必死に飲み込もうとするが、体がそれを拒絶する。

 

 グルンベルドはそんなアヴィアナの様子を見下ろし、嘲るように笑った。

 

「どうした、アヴィアナ。まだ始まったばかりだぞ」

 

 グルンベルドは立ち上がり、部屋の隅に置かれていたチェストから何かを取り出した。

 

 それは細くしなやかな革製の鞭。先がバラになっており、それぞれの先端には金属製の鋲がつけられている。

 

「次は貴様のその身に、俺の怒りを刻み込んでやる」

 

 グルンベルドは鞭を手にアヴィアナに近づく。

 

 アヴィアナは恐怖に目を見開く。

 

 鞭。

 

「や、やめてください……お兄様……。それは……痛いのは、嫌です……」

 

 アヴィアナは後退り、必死に懇願する。

 

 だがグルンベルドはそれを無視し、アヴィアナの腕を掴んで無理やり立たせた。

 

「脚を広げろ」

 

 冷たい命令が下る。

 

 アヴィアナは首を横に振るが、グルンベルドはアヴィアナの頬を強く打った。

 

 乾いた音が部屋に響き、アヴィアナの白い肌に赤い紅葉が浮かび上がる。

 

「俺の命令が聞けぬのか」

 

 グルンベルドの声は低く、その圧力にアヴィアナは抗えなかった。

 

 アヴィアナはゆっくりと、震える脚を広げる。

 

 露わになる、アヴィアナの秘部。

 

 グルンベルドはその様子を満足げに見つめると、ゆっくりと鞭を振り上げた。

 

 そして──

 

 ビュッ、と。

 

 空気を切り裂く音と共に鞭がアヴィアナの太腿の内側に叩きつけられた。

 

「あっ……!」

 

 鋭い痛みが走り、アヴィアナは短く悲鳴を上げる。

 

 白い肌に一本の赤い線が刻まれた。

 

 グルンベルドは次々と鞭を振るい、アヴィアナの全身を打ち据えていく。

 

 背中、尻、そして胸。

 

 そのたびにアヴィアナは身を捩り、苦悶の声を漏らす。

 

 痛みは次第に熱へと変わり、アヴィアナの体を内側から焼き尽くしていくようだった。

 

 そしてグルンベルドは最も残酷な一撃を放った。

 

 鞭の先端が、アヴィアナの秘部の中心を正確に捉えたのだ。

 

「ひぃぁぁぁっ!」

 

 それまでとは比べ物にならない激痛が走り、アヴィアナは絶叫した。

 

 その場に崩れ落ちそうになるが、グルンベルドがそれを許さない。

 

 グルンベルドはアヴィアナの髪を掴み、無理やり立たせ続ける。

 

「どうだ、痛いか? だがこれは貴様が招いた事だ」

 

 グルンベルドはそう言うと、再び鞭を振るった。

 

 今度もまた、アヴィアナの最も敏感な場所を狙い撃つ。

 

「あっ、んんっ……!」

 

「やっ……」

 

「あ゙ッ!? ひぎぃぃッ……!!」

 

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 グルンベルドは泣き叫ぶアヴィアナの様子を見て、ようやく満足したように鞭を床に放り投げた。

 

「さて、仕上げだ」

 

 グルンベルドはアヴィアナを抱き上げ、寝台へと乱暴に放り投げる。

 

 そして自らもその上に覆いかぶさった。

 

 グルンベルドの剛直は再び昂り、その先端からは先走りの雫が滴り落ちている。

 

 そうしてアヴィアナの脚を大きく広げさせ、その中心に自らの欲望を宛がい、一気に腰を突き入れる。

 

「ああっ!」

 

 準備も潤滑も不十分なまま暴力的に挿入された異物に、アヴィアナは甲高い悲鳴を上げた。

 

 狭い膣内を、グルンベルドの剛直が無理やり押し広げていく。

 

 その痛みは先ほどの鞭打ちとは比べ物にならないほど鋭く、そして深い。

 

「痛い……お願い、やめて……」

 

 アヴィアナは涙を流しながら懇願するが、グルンベルドはそれを無視し、激しく腰を動かし始めた。

 

 その動きは荒々しく、まるで獣の交尾のようだった。

 

 グルンベルドはアヴィアナの体を貪り、その白い肌に次々と鬱血の痕を残していく。

 

 そうしているうちにアヴィアナの意識は次第に遠のき、ただ目の前の光景を虚ろな瞳で見つめるだけになる。

 

 ──私たちは兄妹なのに……

 

「お前には穢れた血が流れている。本来ならば処断されて然るべきだ。だが、俺がこうしてお前に使い道を見出してやった。お前はそれを受け入れるべきなのだ」

 

 グルンベルドはそう囁きながら、さらに激しく腰を突き上げる。

 

 そのたびにアヴィアナの体は大きく跳ね、その口からは掠れた喘ぎ声が漏れた。

 

「お兄様……お願いだから、やめて、ください……私たちは兄妹で……」

 

 アヴィアナは無意識のうちにそんな言葉を口走っていた。

 

 だがその言葉はグルンベルドの耳には届かない。

 

 グルンベルドは自らの欲望を満たすことに夢中になっていた。

 

 そしてついに。

 

 グルンベルドは低く唸り声を上げ、その欲望をアヴィアナの体内に解き放った。

 

「おおおおっ!」

 

 グルンベルドは咆哮を上げ、アヴィアナの膣内に大量の精液を注ぎ込んだ。

 

 その熱い感触にアヴィアナの体もまた、びくりと痙攣する。

 

 行為が終わっても、グルンベルドはアヴィアナの中から抜け出そうとはしなかった。

 

 グルンベルドはアヴィアナの体を抱きしめたまま、荒い呼吸を繰り返している。

 

 アヴィアナは虚空を見つめたまま、動くことができなかった。

 

 体内に残る異物感と、全身を襲う倦怠感。

 

 そして何よりも深い絶望感がアヴィアナの心を支配していた。

 

 暖炉の火が静かに燃え続け、部屋の中には二人の荒い息遣いだけが響いている。

 

 その静寂の中で、アヴィアナは静かに涙を流した。

 

 脳裏にはあの漆黒の竜──プロメテオルの姿が浮かんでいる。

 

 ──あの竜が、全てを破壊してくれたら

 

 そんな破滅的な願望が一瞬、アヴィアナの心によぎった。

 

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 ◆

 

 アヴィアナ・ノルドの生い立ちは複雑であり、この国の暗部そのものであった。

 

 先代国王は若かりし頃、大氷原で一人の冬の精と出会い、道ならぬ恋に落ちた。

 

 その間に生まれたのがアヴィアナである。

 

 つまり、現国王グルンベルドとアヴィアナは異母兄妹なのだ。

 

 成長したアヴィアナは辺境で冒険者として活動をしていたが、そんな彼女を王都へ呼び寄せたのは他ならぬ先代ノルン王だった。

 

 先王は彼女の才能を愛し、魔術師としての教育を施した。

 

 強大な力を正しく導き、国のために使う術を学ばせるためだ。

 

 アヴィアナは先王に深い忠誠を誓い、その期待に応えるべく研鑽を積んだ。

 

 そしてついに彼女は魔術師団長にまで上り詰めた。

 

 だが先王が崩御し、グルンベルドが即位してから状況は一変する。

 

 グルンベルドも、当初はアヴィアナを妹として扱っていた。

 

 不器用ながらも、兄として振る舞おうとしていたのだ。

 

 しかし時は人を変える。

 

 アヴィアナは年を経るごとに母を思わせる、息をのむような美しさを備えていった。

 

 そしてグルンベルドの心もまた、変わっていったのである。

 

 兄としての情愛が、いつしか男としての欲望へと変質した。

 

 彼はアヴィアナの才能を認めつつも、それ以上に彼女を一人の女としてしか見なくなった。

 

 そして力ずくで彼女を屈服させ、己の所有物としたのだ。

 

 アヴィアナはそれを拒むことができない。

 

 彼女ほどの魔術師であれば、王を呪い殺すことなど容易いはずだ。

 

 だが彼女にはそれができない。

 

 彼女はまだ忘れられないのだ。

 

 かつて自分を慈しんでくれた、優しかった兄の面影を。

 

 今のグルンベルドの中にその欠片を探し求めてしまう。

 

 だからこそ、完全に拒絶することができない。

 

 過去の幻影が、彼女の心を縛り付けているのだった。

 

 ◆

 

 翌朝。

 

 王の執務室には重苦しい空気が漂っていた。

 

 朝日が大きな窓から差し込んでいるが、部屋の空気を温めるには力不足だ。

 

 軍務卿バーラントが、プロメテオル討伐軍の編成状況について報告を行っている。

 

「──以上、竜騎士団を中心とした三個大隊を編成。先行して大氷原の周辺地域に展開させます」

 

 バーラントは白髪交じりの髭を蓄えた、歴戦の勇士である。

 

 その報告は的確で、淀みがない。

 

「うむ、ご苦労」

 

 グルンベルベルドは重厚な椅子に深く身を沈めながら、満足げに頷いた。

 

 だがその傍らにはこの場に似つかわしくない光景があった。

 

 アヴィアナが、まるで侍女のように王の隣に控えていたのだ。

 

 その顔色は蒼白で、如何にも憔悴しきった様子である。

 

 纏っているローブの隙間から覗く首筋や手首には、痛々しい痣がいくつも浮かんでいた。

 

 昨夜の「罰」が、どれほど過酷なものであったかを如実に物語っている。

 

 軍務卿は目の前の光景に眉一つ動かさず、淡々と報告を続ける。

 

 彼にとって、これは見慣れた光景だった。

 

「引き続き、情報収集を怠るな。あの竜の動向を逐一報告せよ」

 

 グルンベルドは報告を聞きながら、ごく自然な動作でアヴィアナの腰を抱き寄せた。

 

 そしてあろうことか、その豊満な胸を鷲掴みにする。

 

「んっ……」

 

 アヴィアナが小さく呻き声を漏らす。

 

 唇を噛みしめ、必死に声を抑えようとしているが、その体は微かに震えていた。

 

 グルンベルドは彼女の胸を乱暴に弄びながら、軍務卿に指示を出す。

 

 その態度は傲慢不遜そのものだった。

 

 まるで己の所有物を誇示するかのように、アヴィアナを弄ぶ。

 

「承知いたしました」

 

 軍務卿は深く一礼すると、静かに執務室を後にした。

 

 扉が閉まる音と共に、室内に再び静寂が訪れる。

 

 グルンベルドはアヴィアナの顎を掴み、無理やり自分の方を向かせた。

 

「昨夜は随分と楽しませてくれたな、アヴィアナ」

 

 その声には嗜虐的な響きがあった。

 

「……光栄でございます、陛下」

 

 アヴィアナは感情の読めない声で答える。

 

 ◆◆◆

 

 執務室を出た軍務卿バーラントは回廊で待っていた宰相オルセンと合流した。

 

 オルセンは初老の、痩せた男である。

 

「……終わりましたかな」

 

 オルセンが声を潜めて尋ねる。

 

「ええ。相変わらずのご様子で。朝からお盛んなことです」

 

 バーラントはそう答え、口元を歪めた。

 

 二人は並んで歩き、話をする。

 

「羨ましい限りですな。あれほどの美貌と才覚を持つ女を、意のままにできるとは」

 

 宰相の声には下卑た響きがあった。

 

 ノルン王国は純血主義が根強い国だ。

 

 人間以外の血が混じった者は半端者として蔑まれる。

 

 ゆえに彼らの目に、アヴィアナへの同情など欠片もない。

 

「まったくです。あの澄ました顔が苦痛に歪む様はさぞかし見物でしょうな」

 

 軍務卿も同意する。

 

 あるのは好色な興味だけだ。

 

「それにしても、あの女の図太さには感心しますな。あれだけの仕打ちを受けておきながら、平然と公務をこなすとは」

 

「ふん。所詮は化け物の血よ。人間の心など持ち合わせておらぬのだろう」

 

 軍務卿が吐き捨てるように言った。

 

「化け物、ですか。ですが、その化け物の肌はさぞかし冷たく、そして滑らかなのでしょうな」

 

 宰相は想像を逞しくする。

 

「陛下が夢中になるのも無理はない。あれほどの美女はこの大陸中を探してもおりますまい」

 

「噂では最近は随分と手の込んだ趣向を凝らしておられるとか」

 

 軍務卿が声を潜める。

 

「ほう? 例えば?」

 

 宰相が興味深そうに身を乗り出す。

 

「薬を使って感覚を鋭敏にさせたり、あるいは逆に感覚を奪ったり……。まあ、詳しくは控えますが」

 

「はははそれは傑作だ。さすがは陛下、やることが違う」

 

 二人は下品な笑い声を上げながら、回廊の角を曲がっていった。

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