※この作品はR-18です。

悪役令息はママが好き   作:埴輪庭

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更新1/2
次は3時間後


揺籃

 ◆

 

 魔力の波長は固有のものだ。

 

 同じものは何一つ存在しない。

 

 なぜ存在しないのかは俺にも分からない。

 

 ただ、そうなっている──世界の法則なのだ。

 

 そして、魔術とはこの法則をどれだけ知っているかが肝でもある。

 

 時には法則に従い、時には法則を騙し、また時には法則を改変する──それが魔術の根幹。

 

 だから()()()()()も出来る。

 

 俺は言うまでもなく母上の魔力の色、匂い、形を良く知っており、だからこそ()()することが可能だ。

 

 だが俺の魔力を母上のそれと装う事で一体何が起こるのか? 

 

 それは──

 

 ・

 ・

 

「母上!」

 

 次の瞬間、俺は母上の目の前に立っていた。

 

 "世界"が同じ波長の魔力が二つあるという不具合を察知し、それを修正した結果がこれだ。

 

 ただ、そこらの劣等が同じ真似をしたらひどい目に遭うだろう。

 

 その場合はおそらく異なる2つの存在が無理やり融合され、おぞましく奇怪なオブジェが出来上がってしまうものと思われる。

 

「ハイン!?」

 

 俺が声をかけると母上は駆け寄ってきて、俺を強く抱きしめた。

 

 昂っていた精神が瞬く間に鎮静されていく。

 

 というか、トんでしまう。

 

 ・

 ・

 

 と思っていたらトんだ! 

 

 あれは過日、俺がまだ二足歩行も出来なかった頃だ。

 

「ほら、ハイン。沢山成ってるでしょう、ヴィーワの実って言うのよ。ママの実家……エルデンブルーム伯爵家は昔は平民だったらしいの。それもその日のご飯も満足に食べられないほどの……。でもある日、見慣れない樹を見つけてね。それを植えてみたら、それがヴィーワの樹で……飢えをしのげたっていうお話があるのよ」

 

 母上がそんな事を言っていたのを思い出す。

 

 ヴィーワは橙色をした小ぶりの実で、さっぱりとした酸味と甘みが特徴だ。

 

 甘すぎないというのが俺好みだったりする。

 

 樹木は母上がアステール公爵家へ入る時に持ち込んだらしく、いまでもその樹は中庭に生えている。

 

 管理も万全だ。

 

 オーマがしっかりと管理をしている。

 

 俺は余り食にはこだわらないのだが、このヴィーワの実は口に合い、幼い頃から多く食べてきた。

 

 母上に抱かれ、ヴィーワの実を食べ──そのせいだろうか、母上の胸とくればヴィーワの実を連想してしまう。

 

 ヴィーワの実が腹を満たし、体が温まっていく心地よい感覚。

 

 それに勝る母上の抱擁。

 

 幼い俺は母上の乳房に縋り付き、吸おうとしたものだった。

 

 弄び、頬を寄せ。

 

 その肌触りたるや余りに(やわ)く。

 

 抱かれても抱かれても飽き足りない程だった。

 

 俺にはただ母上の乳房さえあればよい、そんな思いを抱いていたものだ。

 

 あの時、母は俺の(すべ)てであり、今もそれは変わらない。

 

 ・

 ・

 

「は、ハイン? どうしたの? 動かなくなっちゃって……ハイン?」

 

 俺は母上の声で正気に戻った。

 

「いえ、つい昔のことを思い出しておりました。それはともかくたった一人で供もつけずに……オーマが伝えに来たのですぐにお迎えに上がることができましたが……」

 

「それを言うならハインも同じよ。でも私が悪いわね。あんなことを言ってしまってごめんなさい。伝えるにしても伝え方というものがあったと思うわ。でもね、ハイン……」

 

「お待ちください、母上」

 

 俺は母上の言葉を遮った。

 

「母上の言いたいことはわかります。納得はしかねますが。しかし、私たちの親子の在り方が()()の親子関係ではない事はあくまでも知識としては知っております。ただ、私はこれまで、それでもかまわないと思ってきました。他人に、周囲に合わせる必要などはないと考えてきました。しかし母上は、それではダメだと仰るのでしょう。アステール公爵家が周囲にどうみられるかもまた重要だと考えている──私は、僕は……すぐにはそれを飲み込めないかもしれませんが、少しずつ形を変えていければと、おもい、ます……」

 

「ハイン……」

 

 俺の精神はもはやグロッキー寸前だった。

 

 星を百発落としてもこれほど疲れはしないだろう。

 

 後日、実際に落としてやろうか。

 

 旧魔王軍とやらがここ最近帝国に喧嘩を売ってきている様だし。

 

 だがともかく! ……もう今夜はこれ以上この話題を話したくない。

 

「帰りましょう、母上。僕らの家に」

 

 母上への愛情は些かも変わっていない。

 

 きっと母上も俺に対しての愛情は変わっていないんだろう。

 

 それでも、俺は──

 

 ・

 ・

 

 その日、俺は久しぶりに独りで眠った。

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