◆
「……ふう。それにしてもハイン、私も試合は見ていたけれどあっという間に終わってしまったわね。あ、でも不正とかそういう事をしていたとは思っていませんよ。私は剣術の事は良く分からないけれど、きっと高度な技の応酬があったのでしょうね」
──!
なるほど、これはつまりもう少し見せ方を考えろという事か。
母上の言う通りだ。
劣等はとにかくか弱い。だから優しく撫でてやらなければならない。かといって、手抜きをしろというわけではないのだ。
劣等的観客に力を示威する為には勝つだけでは駄目で、分かりやすく勝たなければならないのだ。
俺としたことが何という失態……。
死を以て償うという選択肢が浮かんだが、しかしそれは単なる逃げである。
「次の試合は更に励むつもりです」
俺は目を逸らさず母上を見つめて言った。
すると──
「……そうね、ハイン。楽しみにしています。それと次の試合までは少し時間があるでしょう?」
母上がそんな事を言った。
気のせいだろうか? 何かこう、翳りのようなモノが見られる。
「そうですね、今暫くは猶予があるかと思われますが……」
「そう……でしたらこの後貴賓室へ来てちょうだい。話したい事があります」
叱責だ、と俺は看破した。
貴賓室とは上級貴族用に設けられた個室である。
部屋は魔術的な遮音結界が張られ、会話の内容が外部に漏れる心配もない。
また魔術的な防護機構も備わっており、魔術を用いた盗聴なども防ぐことができる。
寝台まで備えられており、
そう言う場所で話があるということなら、余程重い沙汰を下されるのだろう……。
俺は暗澹なる思いで小さく「……はい」と頷いた。
◆◆◆
「次の試合は更に励むつもりです」
その宣言と共に、ハインの体から魔力が滲み出した。
量としては僅かなものだったが、その質は貴賓席に集う貴族たちの背筋を凍えさせるに十分だった。
さきほどヘルガから漏れた魔力は毒を含んだ美しい花々が咲き誇る様を幻視させた。
だがハインのそれは。
ある貴族は、一瞬の間に意識を虚空へと放り出された。
空より遥かに高く、人智の及びもつかぬ暗黒の深淵。
そこで彼が目にしたものは常識を超えていた。
──青い、太陽じゃと!?
煌々と燃え盛る青い星が、限りない闇を照らし上げている。
その周囲には無数の流星が、まるで生き物のように縦横無尽に流れていた。
そんな数えきれぬほどの流星が、近づきたくても近づけないかのように中心の青い太陽の周りを旋回している。
貴族は我に返った時、冷や汗を流していた。
──こ、これがアステールの "星" か
アステール公爵家の血継魔術が星界に関係していることは知られていたが、その具体的な内容は謎に包まれていた。
先代当主ダミアンも、先々代当主ジャガンも、確かに優れた魔術師だったが、血継たる "星の魔術" を実際に使用する事は一度もなかったからだ。
それでも一族がアステールを名乗れているのは、共通魔術での実力に加え、彼らの血管に初代当主クトゥールの血が流れているからだと言われている。
だが今、その血がついに本来の力を示そうとしているのかもしれない。
──じゃが恐るべきは "星の子" ハイン・セラ・アステールではなく……
その貴族──ギザ・セラ・サリオン公はヘルガをこそ恐ろしいと思った。
ギザはフォーレの父であり、練達の結界術師として知られている先代サリオン公爵である。
既に公爵位はフォーレに譲っているため、現在では "公" を称している。
ともかくも、ギザの見立てではヘルガ・イラ・アステールは確かに優れた魔術師だが、それでも十二公家の一家の当主としては力不足に過ぎる。
だのに、あのハインを完全に掌握している事がギザには恐ろしかった。
──あの小僧はフォーレの奴を完全に見下しておった。あれは家畜を見る目ですらない。路傍に転がる石、あるいは生えている雑草を見る目。そのような目が出来る者が、ヘルガ・イラ・アステールの前ではまるで借りてきた猫のようではないか
貴族とは力の崇拝者だ、とりわけ帝国では。
実の親とはいえ、明らかに力量で劣る者に唯々諾々と従う気質は貴族らしからぬとすら言える。
だがハインはヘルガに対して渋々従っているという風には見えなかった。
──儂は以前、エスメラルダにハイン・セラ・アステールの心を掌握せよと申し付けた。しかしそれは間違っていたのかもしれん
ギザは二人して去っていくヘルガ達の背を見て、今後のアステール家との付き合い方について方針を変える事を決意した。
◆
重い!!!
重すぎる、足が重い。
俺はこれでも足腰は鍛えているほうだ。
10トゥン、20トゥンといった重りを魔術で作成し、山を登った事もある。
その俺の鍛えぬかれた足がここまで重く感じるとは、これは物理的な重さではなく精神的な重さなのだろう。
母上に叱られたくない……そもそも俺は次は頑張ると言ったではないか、酷いよママ……。
これが劣等的いじけ根性であることは理解できているのだが、俺にもどうしようもない事だってあるのだ。
そんな事を思っていると、意外にも──
「ハイン、ほら、ぼうっと歩かないの」
そう言って手を引いてくれた。
ただそれだけで元気になってしまうというのは、俺は単純なのだろうか……?
・
・
・
貴賓室の前につくと俺は率先して扉を開く。
「あら、ありがとう」
母上はそういって俺の頭を撫でて部屋へと入っていった。
こういう所が好きなのだ。
俺は母上の全存在が大好きだが、いや、愛している……愛!? うん、愛しているが、母上は小さいことにも「ありがとう」と言ってくれる。
母上のこういう所が特に好きだ。
いや、別に礼が欲しいわけではない。
ただ、俺という存在が母上に認知してもらえているという事そのものが嬉しいのだ。
まあともかく、母上の入室を見送って俺も入室すると──
◆
「むっ」
おもわずそんな声が出てしまった。
この弾力、この香り、この魔力、この優しさは母上の胸である。
つまり、俺は母上に抱きしめられてしまった。
「気付いてあげられなくてごめんなさいね」
母上がそんな事を言うが全く心当たりがない。
「──ここ最近、私はあなたへ少し冷たく当たっていた気がするの」
そうだろうか?
「でもハインに冷たくしたかったわけではないの。あなたが私に依存することで、周囲の貴族たちや、ひいては帝国から……いえ、それは言い訳ね……」
なるほど……。
母上が仰りたい事が分かった!
俺は舐められていると言う事だ……。
この、ガイネス帝国から!
許しがたい事だが、更に許せない事がある。
それは、俺が舐められる事で母上も舐められるということだ。
その証拠がまさにあのサリオンオス劣等の態度だろう。
全てがつながった。
つまり俺はこの大会では
・分かりやすい形で勝つ
・力を見せつける形で勝つ
・アステール公爵家が二度と舐められない様な形で勝つ
この辺を意識していかねばならないと言う事だな。
でなければ俺は母上の愛を受けるに値しないということ。
わかりました、母上。
このハイン、愛の為に劣等共に地獄をみせてやります!
そう決意し、万が一の失敗もないように他の劣等参加者共の情報を得ようと観戦に戻ろうとするが──
母上は離してくれない。
「あなたの目を見てわかりました。さっきも言ったけれど、気付いてあげられなくてごめんなさいね。もっとしっかり褒めてあげれば良かったと思うの。ハインの目はあんなにも雄弁にものを言っていたのにね。さあ、ハイン。何でもいいなさい。私に何をしてほしい?」
なんでも!?
つ、つまり褒美の前払いということか……。
先に褒美を受けておいて、俺の不名誉を払しょくできなければ俺はどうなる?
死ぬだけならまだ良いかもしれないが……、最悪勘当という可能性もある。
ならば断るか?
いや、それはできない。
むしろ受けるべきだ。
退路を無くすことで言い訳が出来ない状況に自分を追い込む──これだ。
だから言った。
俺が今、本当にしてほしい事を。
「じゃ、じゃあまた前みたいに、ちゅうしてください……」
すると母上は──
「……そう、じゃあハインも試合が終わったばかりだし、疲れているでしょうからお昼寝しましょうか。昔みたいに」
そう言って俺の手を引いて、貴賓室の豪奢な寝台へと向かい。
そこで俺は母上に唇を奪われた。
◆
母上の舌が俺の口内へ入り込んできた。
そして俺の口蓋の上の方を愛撫してくる。
自分でやれば分かるが、人間の体というのは口内も感じるものなのだ。
上顎の裏を舌で擦られると、背筋がゾクゾクする感覚がある。
とはいえ、強烈なものではなく耐える事は容易い──本来は。
しかしこういう事をするのも随分久しぶりな上、相手が母上とあっては。
このままでは立ったまま果ててしまうかもしれない!
そんな危機感を感じ始めた頃、ようやく唇が解放された。
母上は艶めかしい目で俺を見つめて言った。
「あなたは良い子よ、ハイン。ママはあなたの事をとても大切に想っています」
俺は言葉もない。
母上が、ママが俺を大切に想ってくれていることは十分理解できているが、それでも面と向かって言われると感無量である。
「……っ、ありがとう、ございます……」
感動のあまり泣き出してしまいそうになった。
いかん、感情を抑制せねば──が、そんな俺の決心はあっという間に崩されてしまう。
ママの繊手が俺の股間を優しく撫で上げてきたからだ。
「私はね、ハイン。あなたとこうする事に少しの罪悪感を抱いているの。本来、母親と息子はこんな事をするべきではないから」
ママはそんな事をいうが、手の動きをとめようとはしない。
それどころか益々激しくなる一方だ。
「……でもね、だからこそあなたをこうして愛してあげたいという想いもあるの」
ママの手が俺の下腹部に直接触れる。
「異常な事だとはわかっているし、こんな事が知れたらアステール公爵家の名誉が地に落ちる事も分かってはいるのだけれど」
俺は息を荒らげ、ママの胸に顔を押し付けた。
するとママは何と胸をあらわにし──
「ハインは好きでしょう? ママのおっぱい」
そんな事をいって、巧みに体位を入れ替えて、俺はいつのまにかママに膝枕されてしまっていた。
そして口元に乳首があてがわれ、同時に下半身に触れられている。
こ、これは…………。
「あむ……んっ、ちゅっ……ちゅぱ……んくっ……」
俺は必死に乳首を吸いながら、急激に知能が退化していくのを感じていた。
いや、退化というか退行というか。
勿論ママのおっぱいからはミルクは出ないが、問題はない。
時が圧縮された精神世界で仮想の揺籃時代を構築し、多重投影した俺の人格に仮想の血肉を与え、その上で幻想の母乳を口に含めば味を思い出せばいいだけの話だ。
簡単簡単──ではなかった!!
ママの手が俺の精神を搔き乱し、集中どころの話ではない。
「こんなにすぐに元気になってしまって……」
くちゅくちゅと音を立てて、ママの手が俺の股間を愛撫する。
「あっ、ああっ! ママぁ!」
「あらあら、甘えん坊さんなんだから♡」
瞬間、俺は達してしまった……。
秒殺だ。
情けないとは思わない。
ママの手に掛かればこんなものである。
だが──
「沢山出しちゃったわねぇ」
と言いながら手に風を集めて俺の白いアレを剥がし、小さなつむじ風でくるくると回して遊んでいるママを見ていると──
なんだか酷く恥ずかしい気持ちになってきた。
更にいつのまにか現れたフェリが、蒸らしたタオルでママの手を拭き取り……その後で回転中の俺の白いアレを包み込んでいるのを見ると。
なんだかもう、何とも言えない気持ちになってしまうのだった。