※この作品はR-18です。

悪役令息はママが好き   作:埴輪庭

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吸血女王の災難②

 ◆

 

「0だ! フェリ」

 

 俺がそう告げた瞬間、フェリの気配がふっと掻き消えた。

 

 まるで陽炎が揺らめいて消えるかのように、本当に一瞬の出来事だ。

 

 次に奴が姿を現したのは、玉座の間に群れていた劣等血吸い虫共の只中だった。

 

 目にも留まらぬ、とはこの事を言うのだろう。

 

 そこでフェリは()()()

 

 まるで舞の様に捉えどころのない動きで劣等共へ触れていく。

 

 打撃を加えている様子はない。

 

 斬り裂いているわけでもない。

 

 体系化された魔術の行使をするわけでもない。

 

 ただ触れるだけ。

 

 だがその結果ときたら壮観だ。

 

 フェリの指先が軽く触れた劣等の一匹が、突然その皮膚を泡立たせた。

 

 ぶつぶつと無数の水疱が瞬く間に全身を覆い尽くし、次の瞬間にはそれらが一斉に破裂する。

 

 ずるり、と。

 

 まるで熟れすぎた果実の皮が剥け落ちるように、そいつの皮膚が骨肉から滑り落ち、床にはただの不快な肉塊が転がった。

 

 悲鳴を上げる間もなかったようだ。

 

 また別の劣等はフェリのつま先が軽く膝に触れた途端、狂ったように叫び出した。

 

「あ────ー!!! あ──ー!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛──ーッ!!」

 

 意味のない絶叫を上げながら、自らの頭部を床に何度も何度も叩きつけ始めた。

 

 ごん、ごん、と鈍い音が響く。

 

 やがてその頭蓋が砕け、赤黒い脳漿を周囲にまき散らして事切れた。

 

 そう、フェリのやり方は古来、人間種が最も多く死体を積み上げてきた由緒正しいやり方──すなわち、毒殺である。

 

 魔力毒とでも言うべきか。

 

 悪意、敵意、殺意、害意、そういった負の感情を凝縮し、相手の生命力そのものに直接流し込む。

 

 呪いの一種と言ってもいい。

 

 実に陰湿で変態的だ。

 

 俺に踏まれたがったり、俺の衣服や下着を延々と見つめているだけはある。

 

 フェリにふさわしい殺り方だ。

 

 一体、また一体と、劣等たちは奇怪な死に様を晒していく。

 

 ある者は内側から破裂し、ある者は自らの身体を掻きむしって絶命する。

 

 俺の目の前に立っていた、比較的マシに見えた劣等男と劣等女。

 

 それと、隅の方で全裸で震えていた女の劣等。

 

 その三匹を残して、他の有象無象が全て肉塊か染みに変わるまでおそらく十秒もかかっていなかっただろう。

 

 フェリがすっと俺の隣に戻ってきた。

 

 その表情は常と変わらず、涼やかですらある。

 

「終わりました、若様。そちらの女性はアンデッドではございませんでしたので、一応手出しは控えましたが、ご命令とあらば即座に始末いたします」

 

 フェリは床に転がる全裸の女をちらりと見て、そう言った。

 

「そうか。まあ、罪なき一般劣等かもしれんからな。それはいい」

 

 俺は頷いた。

 

 ──『良い? ハイン……貴族とは時に残酷な決断をしなければならない事があるけれど、無用な殺生をしては駄目よ』

 

 脳裏に母上の言葉が甦る。

 

 そうして俺は改めて、生き残った二匹の劣等に視線を向けた。

 

「さて、そこの劣等女と劣等男。そう、お前たちのことだ」

 

 俺はゆっくりと告げた。

 

「お前たちの判断が遅かったばかりに多くの部下を無駄死にさせてしまったな。哀れなものだ」

 

 上が盆暗だと下が哀れな事になる。

 

 俺も日々精進しなければな。

 

「だが、これは自業自得というやつだ。俺の言葉を無視した罰だな」

 

 俺は一歩、連中に近づいた。

 

「しかし、だ。俺は寛大だ。お前たちに二度目のチャンスを与えてやろう。“夜の雫”を渡せ。持っているんだろう? なら渡せ……死にたくなければな。持っていなければある場所をおしえろ。そうすれば命だけは助けてやらんでもない」

 

 

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