因習村でまたハブられたので、もう一回美少女全員嫁にする 作:るっぴぃ
冷え冷えするような空気が境内を満たしていた。
夜は暗く、月は白く、その境をぴりりと空気が裂いていた。夜とは思えぬほど鮮明な社屋の影は、よく見れば霜が立っているのがわかるだろう。
山中の村の、さらに入り組んだ道の先にある神社。季節感に乏しいこの景色も、あとわずかばかりの時があれば白い雪に覆いつくされるだろう。
白く、白く。雪と月に挟まれた夜がこの神域を一層引き立てるのだろう。
そんな境内に、一人の女性がいた。白い肌と銀の髪に、麻呂眉の下には吸い込まれるように深い黄金の瞳、豊満な体と巫女装束に似た服装と、どれを取っても神々しさを感じるような女性だが、彼女を始めて見た人間が目にするのはそれとは別の場所だろう。
頭上の狐耳と、腰から伸びる狐の尾。
いずれも白銀の体毛で覆われたそれらは、そこにあるのが当たり前のように血が通っていて、彼女が只人ならぬことを示していた。
そんな彼女は今――
「うーーーーーーーーーーーむ」
何事かを悩んでいた。
軒下に腰掛け眉間を指で揉んで、これでもかとアピールするように悩んでいた。
彼女がこうして呻き始めてから、かれこれ数時間にもなる。喉元まで出かかっているような表情を浮かべているが、その中身を吐き出すことはできていなかった。
数時間である。
彼女が常人でないのはその耳と尾が示す通りであり、また身体性能が人間離れしているのも事実ではあるが、肉の楔から解き放たれたわけではない。春から初夏にかけてのあの事件で大きく力を削がれた今ならなおさらである。
ゆえに。
「……ん? ……ふぁ、ぶえっっっっっくし!!」
思わず親父臭いくしゃみをした。
そしてそれを恥じらう暇なく、何かに思い当たったかのように顔色を変え、すぐに真っ青にして。
「し、しまった……!」
何かに怯えるようにぶるりと震えると、慌てて走り出した。
その姿を見ているものは、頭上に光る月だけだった。故にこの翌日、朝から始まる新たな騒動の原因に気づけた者は、この時点ではまだ誰もいないのだった。
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母は言う。
『いつかきっと、誰かを愛してあげてね。今はまだ難しいかもしれないけど、愛する人と一緒に見る世界は何よりも美しく見えるものだから』
父は言う。
『誰かに愛されたら、そしてそれが嬉しかったら、同じように返してあげるんだよ。そうして掴んだものは、やがて何にも代えがたい宝物になるんだ』
恩師は言う。
『向こうで生活が落ち着いたら、そしたら連絡をちょうだいね! 教師って生き物は、すべからく生徒のことを愛しているんだから! 愛する生徒が元気でいることが、一番嬉しいんだから!』
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久々に夢を見た気がする。
三月三日から始まった
それに今の俺は三十人以上の嫁を抱える「神子」だ。外聞のためにも「修行」を欠かすわけにはいかなかった、というのはやや言い訳がくさいな。
何にせよ、この半年近くの間で夢を見るほどぐっすり寝たのは数えるほどもないはずだ。完徹する夜もそれなりにあったし、もはや睡眠は嫁たちを不安がらせないように半ばポーズのために取っているようですらあった。
思い返せば少し無理をしていたかもしれない、と考えながら布団から出る。睡眠中に冷えた部屋の空気が衣服の上から肌を撫でるが、中学時代から朝は苦手ではなかった。起きれなければバスケの朝練に行けなかったからな。
まだ朝早いが、君恵さんとの「修行」をして学校に行こうか。あの儀式以来ノックされたことのない君恵さんの部屋の扉を躊躇なく開ける。
「おはよう、君恵さ――」
声をかけたところで俺は首を傾げた。君恵さんがいない。
君恵さんは割と朝の「修行」を気に入っていて、眠っている間に俺に襲われるのを喜んでいるのが常だった。だから嫌になったとかではない――はずだ。そんなことを言われたら俺は泣く。
朝食の準備……にはまだ早い。となると体調不良か? 君恵さんには定期的に閉月の秘薬を飲んでもらっているし、正直「修行」の回数も群を抜いて多いので、最近はいつもツヤツヤしているくらいなのだが。
お手洗いと風呂場、一応台所も確認するが、いずれも君恵さんの姿は見当たらない。既に嫌な予感がし始めた俺は、慌てて玄関に向かう。
靴は――ない。
既に俺の脳裏には嫌な予感がどっしりと横たわっている。一度引き返して自室と君恵さんの部屋とリビングを検める。こんな急にいなくなるのであれば、君恵さんなら書置きくらいは残していくだろうからな。
だが、それも見当たらない。
この唐突さは、あの日以来だ。
三界供譲の儀の翌日、君恵さんに始まりありとあらゆる村人に無視され続けたあの日だ。俺を凌辱し、俺が凌辱したあの儀式によって、この村の何もかもに絶望と怒りを抱いたあの日のことを思い出す。かぁっと頭に血が上る。
また、なのか。
また俺は、誰かを凌辱して――
――やえの。俺はもう、誰かを陵辱して生きたくない。
思い出す。俺の二つ下の後輩に慰められて、自分の生き方を定め直した日のことも。
深呼吸する。落ち着け、まだ“そう”と決まったわけじゃない。君恵さんがうっかり書置きを忘れたとか、びっくりさせようと隠れているなんてことがあるかもしれない。
俺が怒るのは“そう”であることを確認してからでいい。だから……まずは先に確認をこなす。
脳裏に村の地図を思い浮かべる。まずは村の中心にある高校に向かう。最後に行くのは銀木薬局なので、東側の丸山商店が次だ。北側の中学を通って西へ、喫茶店に寄ってから銀木薬局に向かうルートを想定しておく。高校で何もないことが分かれば、それはそれでいい。
時計を見れば、普段はまだ君恵さんと二人で寝ている時間だ。いくら何でも今から行くには早すぎる。君恵さんがすぐに戻ってくるかもしれないし、出かければ昼食が取れるかどうかも怪しい。先に朝食を食べておこう。
君恵さんほどは上手に作れない食事は、まるで味がしなかった。
いつもよりかなり遅く着いた教室は、やはり嫌な想像が当たっていたとしか言いようがなかった。
エロの伝道師こと、山田基助。
NTR漫画家志望、田中太一。
性欲を俺に向ける男、佐藤薫。
茸農家の期待の星、鈴木武。
身体特徴データマン、後藤賢太。
以上五名。これだけしかいないし、彼らは
一目見ただけで分かった。あの時とは様子が違う。三界供譲の儀では常識を操作することで、
山田や田中のいがぐり頭をべしべしと叩いてそう結論する。あの時こんなことをすれば、痛みで少しくらいは顔が歪んだものだ。
女子のいない教室に近藤先生が入ってきたところで俺は教室を出た。三年生がこうなら、他の学年の様子も見ておかなければならないだろう。
朝のHRに乗り込めばいいだけなので、下級生の確認はすぐに終わった。紅葉と青葉、穂村、やえの、四谷姉妹、基子、眞紀、北見と進藤先生、東先生で十一人いなくなっていた。
不思議だったのは陸上部の二年三人娘が誰一人いなくなっていなかったことだ。「修行」で何度か抱いているのでてっきりいなくなっているものかと思ったんだが……。
一応職員室や図書室、各部室も覗いたがいずれも空振り。秘密基地も確認したがやはりここにもいなかった。
学校での探索を諦めて、次は丸山商店へ。町への道に近い商店は最終目的地の神社から最も遠く、しかし確認しなければならない場所なので早めに回ることにしていた。
それから望みは薄いが、丸山先輩がいれば車を出してもらえるかもしれないというのは大きい。移動するのが俺一人なら原チャリでいいが、複数人連れて移動することになれば車を借りた方がずっと楽だ。
そういうわけで丸山商店にやってきたのだが……。
『本日臨時休業』
待っていたのは無慈悲な看板一つ。裏口含め一応回っては見たが、いずれも開いてはいなかった。強引にこじ開けることも考えたが、それは最後の手段だろう。丸山先輩に迷惑かけることが目的じゃないしな。
引き返して今度は北に。中学校でも確認する。いないのは雪と榎木の二人だけだ。やはり依涼や涼乃はいなくなっていない。向こうも俺には気づいていないようだったが。
一抹の寂しさを胸にさらに西に。喫茶店『コーヒーショップ・朝露』を訪れれば、やはり臨時休業の看板。こちらは合鍵を貰っているので家の中も探索するが、やはりフィオナさんの姿はない。どうにも朝食は済ませたのだろうという痕跡はあったが、それだけだ。
君恵さん。
クラスメイト十人と下級生九人、先生が三人。
丸山先輩。
雪と榎木。
フィオナさん。
ここまで二十七人だ。陸上部二年の三人娘がいた時点でよぎった想像通り。つまりはまぁ、春のあの儀式に関係しているのだろう。
となれば、予定通りだ。この調子だと銀木薬局に冬先輩もいないだろうが、『あいつ』がいないとは到底思えない。
目的地はその先、この村で一番高い場所にある三狐神神社だ。
朝から心臓に悪いドッキリかましてくれた駄狐には、たっぷりお仕置きしなきゃなァ。
一応公開可否は原作者CloudWagon氏に確認済みです。
公式でも公認でもないので分析は全て筆者にあります。