27巻軸、三天戦争後の病室からのシーンを千冬視点で書きました。さくしゃの完全自己解釈なので、苦手に感じた方は閉じてください。
時間が間に合わず前編のみの公開になってしまいましたが続きは書きますので何卒よろしくお願いいたします。
ふゆタケに幸あれ(* 'ᵕ' )☆
タケミっちが関東卍會との抗争で瀕死の重傷を負い病院に担ぎ込まれたと聞いた瞬間、オレの目に映る全てのものから色が失われた気がした。オレに何の相談もなしに喧嘩をして、傷付いて死にかけている。それがただ悲しくて、痛かった。
全てを一人で背負い込む癖がタケミっちらしいと言えばらしいんだろう。でも…オレ達は相棒だ。天竺に乗り込む前に、何かあったら二人で心中だって言ったはずだ。オレを頼ってほしい。オレにだけできることで、オマエを守らせてほしい。どうして…どうして一人で傷付くことを選んだんだよ、なあ、相棒…
◇◇◇
覚束無い足取りで病院へ向かい、震える手で病室のスライドドアを開ける。
ベッドに固定されたタケミっちの身体には点滴やら医療機器が繋がれ、無機質に響く電子音が心臓の拍動を伝えて「生」があることを教えてくれている。オレは少しだけホッとして備え付けの丸椅子に腰掛けた。
「千……冬?」
椅子を引き摺る音が聞こえたのか、タケミっちが視線をこちらへ寄越してオレの姿を捉えた。
今までになく暗く淀んだタケミっちの瞳に言葉を失った。そうだよな、ドラケン君が目の前で亡くなったんだ。正気で居られるわけないよな。そんな気持ちと同時に「一人で傷付くな」という感情がオレの中でまたぐらぐらと湧き上がり、堪えていた気持ちをぶつけてしまいたくなった。
タケミっちにだって事情はあったんだろう。そんなことはわかっている。ドラケン君の死が避けられなかったものであることだって…
頭の中で一つずつ整理しながら、言葉を選びながら、ドラケン君の葬儀に参列したことを告げる。何が起こったか皆わからないといった様子で、久しぶりに会う人もいたのに一言も交わせずじまいだったことが悔やまれる。
自分の気持ちを一つずつ整理しているはずなのに、思い起こせば起こすほどにドラケン君の死に対する悲しみや、タケミっちがオレのいない所で傷付いたことに対する寂しさが綯い交ぜになっていく。
「なんで戻ってきちまったんだよ!?オマエのせいでドラケン君は!!!」
――気付けばオレの口からは、心にもない言葉が叫びとしてこぼれ落ちていた。
ただ繰り返される電子音にはっと我に返り、自分の口から出た言葉を飲み込むように右手で口元を覆う。こんなことをしたってこぼれた言葉がなくなるわけじゃないのに。
気まずくなったオレはベッドの上のタケミっちから視線を逸らして「ゴメン…タケミっち」と聞こえるか聞こえないかの声で謝ることしかできなかった。
その直後、酸素マスク越しの掠れた声でタケミっちが呟く。
「いいんだ…千冬。全部オレのせいだから」
「え?…オマエ」
「一人にしてくれないか…」
何を言われたのかわからなかった。いや、わかってはいるけど、理解したくなかった。
オレがオマエを、一人にする?
できるわけないだろう?
オレは、オマエを相棒って呼び始めたあの日からもう、オマエに惚れていたんだ。場地さんに対する尊敬とは違う、ずっと深くまで知りたくて愛したい気持ちを押さえることができなかった。
初恋、だった。
すぐ口を開けばまた本心でない言葉をぶつけてしまいそうで、出かかったそれを奥歯で磨りつぶすように少しばかり黙ったオレは「タケミっちも混乱してんだよな、一人にしてほしい時だってそりゃあるよな」と心の中で自分に言い聞かせてから、改めて言葉をかけた。
「わかった…はやく怪我治せよ…そしたら思いっきりぶん殴ってやっから」
ああ、オレって素直じゃないな。それもこれも、タケミっちを大好きだからなんだろうな。一人になんかしてやらない。惚れたオマエを一人になんてできない。
小さく息を吐いて病室のスライドドアを閉めた所でヒナちゃんに呼び止められたけど、不本意な言葉をかけてしまった手前もう病室には戻れなくて「もういいんだ…ヒナちゃん」とだけ言い残し、オレはその場を去った。
◇◇◇
地に足がつかないようなふらついた気持ちのまま、あれから一ヶ月余りを過ごしていた。授業中もバイト中も、そこにオレがいない感覚。タケミっちが側で笑ってくれていたら、きっとこんな感覚には陥らないのに。
その感覚に付きまとわれながらバイトをしていた夏休み中のとある日、ペットショップのドアベルの音が鳴り、待ち焦がれた人が店に立ち入った。
「千冬…」
痛々しい絆創膏も包帯もすっかり外され店の入口に立つオレの愛しい人は、頭をわしわしと掻きむしりながらどこかぎこちない笑顔を浮かべていた。
駆け寄って抱きしめたい気持ちを押さえてゆっくりと歩み寄ったオレは、タケミっちの顔をそうとは気付かれないように、愛しい気持ちを込めて見つめた。そして嬉しさで喉が震えるのを隠すように軽く咳払いしてから話し出した。
「久しぶりだな。なんか用か?」
オレの言葉に一瞬ぴくりと身をちぢこませて、タケミっちは視線を泳がせる。
「あ…あのさ、バイト何時に終わる?ちょっと大事な用事があって、さ…」
その様子から、何か重大な決意をしたのだろうがなかなか切り出せないのだろうと察する。『重大な決意』をいの一番にオレに発表しにきたのかと思ったら、鼻の奥が少しだけツンとした。
大事な用事なら店の中では話しにくいだろうからと、店長に時間をもらって外で話すことにした。
「なんだよ、大事な用事って。退院したから殴られに来たのか?」
「あのさ…なんか…ごめん…」
「アン?」
「オレらしくなかったっていうか。オレ…馬鹿なりに悩んじゃってさ」
知ってるよ。オマエが本当に言いたいことある時って、なかなか話し出さないよな。
「そんなくだらねぇこと話しに来たんならもう行くぞ」
タケミっちの発言を誘導するように踵を返して店に戻ろうとすると、案の定「あっ、あのさ」という声が飛んできた。そのあと、関東卍會に負けないチームを作りたい、迷惑かもしれないけど一緒に戦ってくれないか、と……続けて話してくれた。
一人にしてくれって言葉をキャンセルしに来るのが、という思いで
「……遅ぇよ」
一言放ち、タケミっちに背を向けたまま滲んだ涙が引いていくのを待った。
黙り込んだかと思うと、わかりきっていたというような声でタケミっちは「だよな…」と、ぽつりと吐き出した。
そういう意味じゃねぇよ。
「辞表出してくるから待ってろ!」
「……え?」
「店には迷惑かけれねぇだろ?」
「オマ…」
オマエ、と呼ばれかけたのを遮ってオレは、ずっと言いたかった言葉を振り向きざまにタケミっちに伝えた。
「待ってたぜ!相棒!!」
タケミっちは見開いた目に涙を溢れさせて、大声で「千冬ぅぅ!」と泣きながらオレの背に飛びついてきた。柔らかい腕の温もりに、照れ隠しでみっともねーから大声で泣くなと応じてしまう。オレはいつ素直になれるんだろう?
◇◇◇
それから、この一ヶ月必死に考えたチーム名をタケミっちに告げた。
『サウザンドウィンターズ』
オレの名前を直訳で英語にしただけだが、なかなかかっこよくて耳障りのいい名前だと思う。タケミっちには長いし言いづらいと文句をつけられたがここは譲れない。
しかも
『とうきょうまんじかい』
と一文字しか違わない。長くはない。
「で…実はさ、特攻服も、もう作ってあったり…」
どさくさに紛れて、タケミっちに家で完成した特攻服を見ていかないかと誘う。特攻服と言ってもTシャツに自分で考えたマークを業者さんでプリントしてもらったものだが、淡い水色に黒猫と雪の結晶のモチーフが映えるいいデザインだ。
日も暮れかけているからと断られると思ったが、タケミっちは「おう!じゃあ見せてもらおっかな」と意外にも二つ返事で乗ってきた。今夜はオレの母ちゃんパートで留守だけど、タケミっちのお袋さんも留守なのかな。だったら、泊まっていってくれねぇかな…
団地の部屋に続く階段をタケミっちに先に登ってもらう。久々に大好きな人の背中を眺めてぼうっとしながら階段を登っていたものだから、タケミっちが何かを話している声が聞き取れなかった。大丈夫、この先話す時間なんていくらでもあるんだ。
部屋の前で立ち止まり「久々だなあ…ペケJは元気?」と振り向いたタケミっちの笑顔に耐えられなくなってその手首を軽くつかんで玄関に引き込み、扉の内鍵を後ろ手でがちゃりと施錠する。
「千冬?待って!?」
焦った様子のタケミっちを、ふわりと抱きしめて壁に押し付ける。
「…んだら、…う、しようかと思った」
「千冬?…なんて?」
「タケミっちが死んだらどうしようかと思った!!もうオレのとこに返ってこねぇのなんて嫌だって!ずっと言いたかった!」
タケミっちと二人きりになって、やっと素直になれた。その胸に耳を当てると、電子音ではない鼓動が確かに響いて「生」を伝えてくれている。嬉しさに震える手でタケミっちの身体を撫でて、Tシャツの中に潜り込ませる。
「タケミっちは…オレがいつからこんな気持ちになったか分かるか?」
「ぁ…ち、ふっ」
「オレがオマエを、相棒って呼ぶことを決めた時にはもう、オマエを好きになってた」
Tシャツの中でタケミっちの腹を撫で回し、そのまま背中へと手を滑らせる。
「ん…ぁ…っ、やっ」 ぴくりと身体を揺らすタケミっちの顔が、薄らと赤くなっている。「オマエがタイムリーパーだって打ち明けてくれた時、それを知るのはオレだけでいいって思った」
それが独占欲と気付いてしまったオレは、未来と過去を行ったり来たりしているタケミっちをオレの元に留めてしまいたいと――何度枕を濡らしたか分からないくらいには泣いて過ごした。 「オマエも同じ気持ちでいてくれたらいいなあって……思ってた」と言葉にしたすぐあと、浅い息を繰り返すタケミっちの唇に自分の唇を重ねる。
誰もいない部屋の玄関に、深く重ね合わせる唇の水音が響く。幸せすぎてどうにかなりそうなオレの肩をとんとんと叩いて、タケミっちが軽く首を左右に振る。
「嫌…か?」
嫌われたと思ったオレは、タケミっちの身体から手を放して後ずさろうとする。
「違うよ。嫌じゃねぇんだ…息が苦しかった」
よく見ると、タケミっちの顔が真っ赤だ。自分で気付かないくらいにがっつきすぎた。
「ごめん…」と謝るオレの頬にそっと触れて、タケミっちは眉尻を下げたふにゃっとした笑顔を作って言葉をこぼす。
「女の子相手にも…こんな気持ち抱いたことがなかった。ヒナに対しての気持ちとも違う。友達以上の気持ちを…もちろん相棒とは思ってたけど…それが恋だなんてわかんなかった。今…千冬がキスしてくれて初めて自覚したっつーか…鈍くてごめん、な」
オレは、勢いよく左右に首を振りタケミっちのその言葉を否定して、また柔らかくタケミっちの手首をつかんで自室へと連れ込んだ。
◇◇◇
自室のドアを閉めてすぐさまタケミっちをベッドへ連れていき、とさりと押し倒す。
「タケミっち……好き」
「ん…お、れも…」
タケミっちの口からオレを好きって言葉を聞くことができた。キスもできた。あとは…
「タケミっち…シよ?」
今じゃなければ当分口にする機会がないワードを、思い切って放った。緊張でからからに乾いた喉から「う、ん」と声を出したタケミっちは、その声と一緒に頷いた。
ベッド下の収納からまだ箱に入ったままのローションとゴムを取り出してベッドの上に並べると、タケミっちは恥ずかしげにふいと顔を背ける。
「ちふゆ、いつこんなん揃えたんだよ」
「え…オマエが見てないだけで前からあったぞ」
「そのっ…やり方知ってんのかよ?!オレは二十六…だから、知ってるっちゃ知ってる、けど」
「え…雑誌で読んだからある程度は。っていうかタケミっち童貞だろ?なんで知ってんだよ」
「は?千冬だって童貞だろ!オレも雑誌買って…読んだんだよ」
そんなやり取りがおかしくて、目を合わせてクスッと笑う。
「まあ、好き同士なら童貞だろーが関係ねえよな」
全ての箱を開封し終えたオレは、再びタケミっちに覆いかぶさった。首筋に顔を埋めると、タケミっちの匂いがいっぱいで心地よい。そのまま舌を出して首筋を舐め上げ、時折唇で強くぢゅっと吸ってはキスマークを散らす。
身体をふるわせながら、タケミっちはうわ言みたいにオレの名前を呼んでいる。
「もう気持ちいいの?」確かめるように訊くと「すごく気持ちいい…」と答える。
「もっと気持ちよくするから」と笑ったオレは、タケミっちの腕をシーツに縫い止めて、Tシャツの裾をそろりと捲りあげ上半身を露出させた。
「タケミっち…やっぱ傷残ってるな」
「ん…でももう痛くはねぇから大丈…夫っ、」
言い終える前に、白く浮いたひとつひとつの大小の傷を優しく指でなぞる。
「ここは?」「あ、痛くな、いっ」
「じゃあ、これは?」「んっ……あっ!」
びくびくと大きな反応をしたタケミっちの顔が、涙でぐっしょりと濡れている。
「ごめ……痛いか?」
「ち、がうっ。幸せすぎて、怖い」
「え?」
タケミっちは話してくれた。
「だか、ら…千冬を失うのが今、一番怖い」
「…ん。分かった。少しあったまってからの方がいいかもな。一緒に風呂入るか?」
タケミっちは泣きながら少し笑って、オレの胸にしなだれかかった。
「千冬になら、何されてもいい」
その言葉を合図にオレは、タケミっちを風呂場へと連れ込んだ。