インキュバス イン テイワット 作:朝潮
ジンがノエルに話を通してくると出ていってから少し経って。
オレの借りている部屋には早くも2人目の訪問者が来ていた。
メイド服を思わせる防具に身を包んだ少女。
なるほど、話に聞いていた以上に可愛い女の子だ。
こんな子が世話を焼いてくれるのだから慕われているのは当然だろう。
「こんにちは、旅人さん。
「よろしく、ノエル」
ノエルは綺麗なカーテシーで挨拶する。
メイドというだけあって、完璧な礼儀作法だ。
「ところで、旅人さん。もし宜しければ、旅人さんのことをご主人様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「えっ……どうして?」
「ジン様からは、今日一日旅人さんに支えて欲しいと言われています。つまり、今旅人さんは私のご主人様という事です」
「よくわからないけど、呼び方くらいなら自由にしてくれて構わないよ」
「ありがとうございます。ご主人様」
こんな可愛い子からご主人様呼びされるのは願ったり叶ったりというものだ。
この子は一体どこまで男心をくすぐってくれるというのだ。
主人とメイドの禁断の恋みたいで楽しいな。
「今日は買い出しをして、良い依頼があれば冒険者協会で依頼を受けたりするつもりなんだけど、大丈夫かな?」
「はい、勿論です!買い物も戦闘も、私にお任せを」
「頼もしいよ」
戦闘メイドとは、なかなかロマンがわかっている。
ノエルはジンに頼まれただけあって気合いが入っている。
「それじゃあ、早速だけど市場を色々見てまわりたいな」
「わかりました。モンドの案内はお任せください!」
オレたちは連れ立ってゲーテホテルを出た。
モンド城には今日も心地よい風が吹いている。
「ノエルは騎士を目指してるんだよね」
「はい!西風騎士団への入団を目指して精進しています!」
「でも、もう騎士団のメイドなんだよね?」
「メイドの仕事は気に入っています。ですが、私も正式な騎士になって皆様のようにモンド人として、国を、人を守りたいんです」
「へぇ。立派だね」
「いえ、まだまだです!」
確かに、どこかジンに似たような所を感じる。
特にその騎士道精神と向上心はそっくりだ。
「ご主人様。質問しても宜しいでしょうか」
「オレに答えられる事なら」
唐突にも、ノエルが足を止めて質問してきた。
まあ、彼女に限って変な質問はしてこないだろう。
「ジン様とご主人様は、一体どういったご関係なんでしょうか」
「うーん、関係か……」
困ったな。
こんな純真な子に、素直にセフレですとは言いにくい。
それ以外で言うと、義姉義弟の関係にあたるのだが。
それもバーバラからの返事を受け取っていないうちに言うこともできない。
オレが答えに窮していると、ノエルはハッと慌てて手を引っ込める。
「す、すみません!野暮なことをお聞きしてしまいました」
言い淀んだ事で何か勘づかれてしまったのか。
恥ずかしそうに顔を赤らめて俯くノエル。
可愛いなこの子。ちょっとからかいたくなってしまう。
オレが、えっちな関係って言ったらどうする?と言いかけた時。
聞き覚えのある声がオレたちを呼び止めた。
「お兄さん!……と、ノエル?」
「バーバラちゃん!ご主人様とお知り合いなんですか?」
1日ぶりに見たバーバラは、ノエルに負けないほど可憐だ。
そんな2人が仲良さ気に会話しているのだから眼福である。
「えっと、知り合いというか。私達、婚約してるんだ」
「そうなんですね!」
ノエルは、言いづらそうにしてたのはそう言うことかと納得した様子。
まあ、いたいけな1人の少女の心が守られたと思えばこれで良かったのかもな。
ジンには悪いが、バーバラと合流してしまった以上は計画中止だな。
「ノエルはどうしてお兄さんと?」
「私はジン様から、今日一日ご主人様の身の回りのお世話を頼まれていまして」
「お姉ちゃんが?」
バーバラは説明を求めるようにオレを見つめる。
ジンはバーバラに詰め寄られれば吐いてしまうだろう。
ここは何とか良い感じの理由を付けて言いくるめないとな。
「一度来たことがあるとはいえ、数年前の記憶だからな。ジンがモンドの案内をお願いしてくれたんだ」
「ふーん、そうなんだ。やっぱりお姉ちゃんとは
「ははは……そうなんだよ……」
バーバラの言葉がチクチクと刺さる。
オレは冷や汗をかきながら愛想笑いを浮かべるしかない。
バーバラはコソコソと寄って来てノエルに伝わらないよう耳打ちする。
「教会でもう噂になってたよ。騎士団の職務ばかりだったお姉ちゃんにも春が来たのかって」
やはりエンジェルズシェアでの一件は広まってしまっていたか。
酒飲み共は総じて口が軽いものだから仕方ないのだが。
「えっとだな、バーバラ。これには深い事情があって……」
「お姉ちゃんの次はノエルにえっちな事するの?」
全て見透かされている。
プロポーズした翌日に姉と仲良くされていたのだから不機嫌なのも無理はない。
街中とはいえ、もう誠心誠意謝るしかないか?
「でもね。私が一番なら、いいよ」
「えっ」
「ノエルとえっちするの、手伝ってあげる」
バーバラはそれだけ言うと、返事も聞かず悪戯っぽい顔でオレの傍から離れていった。
許されたのか……?オレは訳もわからずバーバラを見送る。
「お2人とも、とっても仲良しなんですね」
「えへへ〜」
まさか自分が犯される許可を勝手に出されていたとは夢にも思わないノエルは嬉しそうに笑っていた。
「そうだ。私がお兄さんについて行く事、ヴィクトリアさんとお父さんに許可貰ったよ。これで気兼ねなく旅に出られるね」
「そ、そうか……バーバラ。婚約を受け入れてくれてありがとう」
「私も、お兄さんの事好きだから。幸せにしてくれる?」
「勿論」
オレはいじらしいバーバラを抱きしめる。
ふんわりと柔らかいバーバラの体を腕に、重婚で悲しませてしまう以上に、喜ばせることを誓う。
「バーバラちゃん、モンドから出て行っちゃうんですか?」
「うん、そうなんだ。まだ婚約だけだけど、結婚するまで、できるだけ一緒にいたいから」
「そうなんですね。素敵です!でも、少し寂しい気持ちもあります」
「私もだよ。手紙いっぱい送るからね!」
「はい!待ってます!」
もう少し滞在する予定なので、ほんの少しだけ気が早いが。
バーバラを預かるにあたって報告は必要だろう。
オレも手紙を書くが、バーバラも書くなら一緒に配送ができるな。
「そうだ。バーバラ用のテントとか日用品とか買わないとな」
「旅道具のお店なら、このノエルにお任せを!騎士団でも採用しているしっかりとした品質のものをお選びいたします!」
「頼もしいね、ノエル」
「えへへ……ありがとうございます、バーバラちゃん」
ぐぅ、と小さくお腹がなる。
そういえば、ジンと運動してばかりで朝食を食べてなかったな。
「ご主人様。朝食がまだでしたら鹿狩りで何か食べてからにしましょう」
「そうだな。悪いが付き合ってくれ」
よくよく考えると、昨夜も蒲公英酒の他に何も口にしていないな。
そりゃあ腹も減るわけだ。
「バーバラちゃんは朝ごはんを食べましたか?」
「私はスパイシードリンクを飲んだから大丈夫だよ」
「ダメですよ。三食しっかりと食べなくては……」
オレたちは3人でレストラン鹿狩りへと向かう。
朝食の時間を少し過ぎているからか、客はオレたち3人だけだった。
「鶏肉のスイートフラワー漬けを1つ」
「私はじゃあ……ニンジンとお肉のハニーソテーで」
「ノエルは頼まないのか?」
「私は朝ごはんを食べたので大丈夫です」
「せっかく来たんだから、たまにはデザートでも食べてみたら?ノエル、パンケーキ好きだったよね?」
「ですが、全部食べられるかどうか……」
「じゃあ、3人で分け合って食べようか」
「それなら……午後のパンケーキを1つ」