インキュバス イン テイワット 作:朝潮
焚き火台の上でパチパチと火が爆ぜる。
その周囲には、串に刺さった魚肉が並んでいる。
「美味しい!」
「美味しいです!」
あの後も、2人に好きにやらせていたらみるみるうちに成長していた。
瑠璃グッピーにスイートグッピー、藍染グッピーと様々なグッピーを釣り上げた。
グッピーばかりなのはご愛嬌。
そんな彼女達の活躍に応えるため、オレは旅人の腕を振るう。
絞めた後にしっかりと内臓を抜いて、洗っておく。
ここが好きな人もいるようだが、オレは子供舌だからな。
それに、内臓は腐りやすい。
今日のようにすぐに焼くなら問題ないが、普段から取り除く癖がついている。
鱗とヒレを取り除き、ある程度の大きさに切り分けたら。
焚き火に使わずに取って置いた枝を尖らせて作った串に突き刺す。
遠火でじっくりと焼き上げ、胡椒を振って。モンド風焼き魚の完成だ。
もし寄生虫がいても大丈夫なように、時間をかけて中までしっかりと焼くのが大切だ。
2人に倣って、オレも口をつけてみる。
癖のない香ばしい魚肉。ピリッと刺激のある黒胡椒が食欲を唆る。
噛むと小さい体にぎっしりと詰まった旨みが溢れ出す。
しっかりとした味の魚の後に、間に挟んだ野菜を食べる。
胡椒で辛くなった口をリセットして飽きさせない。
「うん、美味いな」
新鮮な釣れたての魚を外で食うのは、店で食べるのとはまた別の美味さがある。
今日作ったのはモンド風だが、同じ材料でも璃月風のチ虎魚焼きはまた違った風味で美味い。
あれは強火で焼くから、焦げないようにするのが大変なんだ。璃月についたらもう一度食べたいな。
オレはモンド風焼き魚最後の一口をかぶりつき、残った串は焚き火に投げ入れる。
「ごちそうさまでした」
いつの間にか、数匹釣ったはずのグッピーは全て3人のお腹の中に入っていた。
一串が小さいこともあり、これならいくらでも食べられるな。
「2人とも、釣りはどうだった?」
「楽しかった!」
「私も楽しかったです。それに、とても美味しいです。少しお魚さんがかわいそうではありましたが」
ノエルは、メイドらしく調理の手伝いに名乗り出てくれたのだが。
彼女は小さく可愛いグッピーを捌くことがどうしてもできなかったのだ。
「それが命を頂くって事だよ。せめて美味しく食べてあげないとね」
2人はオレの言葉を胸に刻むように、神妙に頷いた。
サバイバル生活といっても、無闇に何でもかんでも命を奪っていくものではない。
必要な時に、必要な数だけ。捨てたり腐らせたりするのはもってのほかだ。
「バーバラ。今日はテントを張ったり食料調達をしたりしてみたが。やっていけそうか?」
「初めてのことばかりで大変そうだけど、楽しみでもあるんだ」
「その意気だ」
バーバラは心底楽しそうで、オレも釣られて笑顔になる。
可愛いバーバラの頭を撫でる。今から2人旅が楽しみになってきた。
「さて、このまま景色を眺めながらキャンプといきたい所だが……
そろそろ片そう。少し早いが、テントの代金を払いに行かなきゃな」
釣りや料理で忘れかけていたが、今はテントを借りているのだった。
なかなかの額だが、それだけの性能をしている。
オレは購入を決めて、飛んでいくモラに思いを馳せる。
もっと便利なものもあるだろうが、キャンプは不便な事を楽しむのも醍醐味の1つだ。
「ちょっと名残惜しいね」
「そうですね。景色も綺麗でしたし」
オレたちは協力して、設営したテントや焚き火台を回収し、マジックポケットに収納する。
あの大きさの物をこの鞄に突っ込めるの、何度見ても慣れないな。
オレたちはモンド城まで戻り、テント売りの店主にしっかりと代金を支払う。
これで名実共にオレの物となった。
「今日は食べてばかりだから、少し運動したいかな」
「運動か……」
不意にバーバラが何気なく呟く。
このまますぐに運動したら胃の中の物が出てきそうだ。
「それでは、冒険者協会で何か依頼を受けますか?」
「うーん、それも良いんだけど……私はベッドの上で運動したい気分かな」
バーバラ……なんてキラーパスを出すんだ。
オレは悪戯っぽく笑うバーバラに内心で抗議を入れる。
「ベッドの上ですか?ストレッチのような物でしょうか」
そんな中、ノエルは想像以上にピュアだった。
バーバラの言いたいことがわかっていないようだった。
純真無垢というか、知らぬが仏というか。
「えへへ。見てのお楽しみだよ。ノエルも来るよね?」
「はい。今日1日はご主人様にお供します」
突然ヤる気になったバーバラが積極的すぎる。
確かに手伝ってくれるとはいっていたが……
オレは妙なことを口に出さないよう口を噤む。
「それではホテルに一名様ご案内〜」
バーバラはノエルの手を引いてズンズンと歩き出す。
ノエルも、よくわからないなりに楽しそうについていく。