インキュバス イン テイワット 作:朝潮
エンジェルズシェア(1)
生きていくにはモラ*1を稼がなければならない。
しかし国を跨いで旅をする旅人にまともな就職はできない。
そんな時に便利なのが、全国を股に掛けて展開している冒険者協会*2だ。
一度冒険者として登録すれば他の国でも共有されるため、旅人からすると有り難い組織だ。
ちなみに教会じゃなくて協会だ。
いくら神が鎮座していないとはいえ、神を祀る教会が2つあるわけではない。
「星と深淵を目指せ!冒険者協会へようこそ」
「やあ、キャサリン」
彼女は険者協会の受付嬢キャサリン。
何故かどの国に行っても受付をしている不思議生命体だ。
「あら、旅人さん。依頼の報告ですか?」
「ああ。街道の魔物退治は終わらせてきたぞ」
「ありがとうございます。無事今日の依頼を達成しましたね。では報酬をどうぞ」
オレの受けた依頼はよくある常設依頼の1つ。
旅人や商人に危険がないよう、人の通る場所に魔物がいたら倒したり追い払ったりする依頼だ。
街道には特に、はぐれのヒルチャール*3がよく現れる。
神の目*4を持たないオレでも、ヒルチャールくらいなら倒せる。
ヒルチャール集落の殲滅のような、
「それと、旅人さんに伝言です。今夜エンジェルズシェア*5で待っているとのことです」
「そうか、ありがとう」
場所から考えるに、未成年のバーバラではないな。とすると、彼女の姉か。
あるいはワンナイトの経験のある子達が噂を聞いて呼んだのかもしれないが。
ここは行ってみてのお楽しみといこうか。
それに、もうオレも成人の身。
酒の国とも呼ばれるモンドの本場の味には興味がある。
オレは依頼報酬からゲーテホテル*6を予約して今夜の宿を確保する。
ホテルで少し休んで、夜も更けてきた頃。
呼び出しに従いエンジェルズシェアへと向かうと。
カウンターで酒を煽る麗人がオレを待ち構えていた。
彼女……ジンは仕事終わりなのだろう。
上着を脱いで、しっかりとした正装を崩していた。
「マスター。オススメを一杯」
オレはマスターに注文しつつジンの隣に座る。
「やあ、旅人。それとも、弟と呼んだ方が良いだろうか?」
「ジンさん。もう飲んでるんですか」
「堅苦しいな。気楽にお姉ちゃんと呼んでくれ」
聞き間違いかと耳を疑う。
ジンは真面目という言葉が服を着ているような人間。
こんな冗談を飛ばすような人物ではない。
「相当飲みましたね」
「今日くらいは良いだろう。……はあ。バーバラが結婚とは。時間が経つのも早いものだ」
「もう聞いたんですか」
「ああ。バーバラが嬉しそうに報告しに来た」
ジンはバーバラの実姉にあたる。
幼い頃に両親が離婚し、互いに離れ離れになっていた。
昔は気まずい関係だった2人も、今ではこのように仲良しだ。
「次はどこの国へと向かうんだ?」
「
「まあそうなるか。入国したら手紙をくれないか」
「わかりました。とびきりの旅の写真も送りますよ」
「それは楽しみだ」
ジンは、どこか羨ましそうに呟いた。
そしてその想いを飲み下すように、酒をあおる。
「『蒲公英、蒲公英、風とともに遠くへ行くがいい』私達が幼い頃に読んだ童話だ。
成人前は少し早いとは思うが、バーバラも旅立っていくのだな」
「今はまだ婚約という形ですかね。成人する頃にはまた戻って結婚式を挙げます」
「ではあと2年か。寂しくなるな」
「シスコンは変わりませんね」
「家族だからな。もし泣かせるような事があれば、例え海の向こうにいようとも一撃与えるまで逃がさない」
「その時は大人しく一太刀受けますよ」
はははと笑い合うが、ジンの目は本気だった。
勿論泣かせたくはないが、嫁が増える度に泣かせてしまいそうで心配だ。
背筋に冷たいものが走ったので、少し空気を変えてみる。
「お、おい。それは私のだ」
「今更良いじゃないですか。何回キスしたことか」
「ば、馬鹿者……誰かに聞かれたらどうする……っ」
オレが手元のグラスを奪うと、ジンは周囲を気にしながら小声で抗議してくる。
おやおや。これは行けそうな感じだな。オレはジンの指に手を絡ませる。
「もう一回してみますか?」
「な、何を言っているんだ……」
ジンは生娘のようにあわあわと狼狽えていた。
「ジンさん、もしかしてアレから一回もシてないんですか?」
「う……し、仕方ないだろう、私には騎士団の仕事があるのだ……」
数年前、モンドに来ていた時。
自由なモンドの気風を良いことに、数人のセフレを作っていた。
そのうち、騎士団で若くも頭角を現していたジンに興味をもち。
あれやこれやで一晩肌を重ねた事があった。
処女で堅物な彼女だったが、一度内側に入り込めばあとは簡単で。
むしろ積極的に責めてくる、かなりの好き者だったと言う記憶がある。
性を解放させてからは、モンド人らしく色々なセックスを経験していると思っていたのだが。
「じゃあかなり大変でしたね。ジンさんって凄くエッチじゃないですか」
「そんな事こんな場所で言うな……っ!」
「そろそろガス抜きした方が良いですよ」
「お、お前はバーバラと結婚するのだろう?」
「でもまだ結婚はしていませんよ」
「そんなの、言い訳にならなひぁっ!?」
オレはジンの白い太ももに手を這わす。
ぴっちりと閉じられた足の隙間に割り込み、内ももを優しく撫でる。
「本当はこういうつもりで呼んだんじゃないんですか?」
「馬鹿を言うな、私は真剣に婚約を祝おうと……」
「じゃあキスはお預けですね」
「と、当然だ。何を言っているんだ……」
顔を真っ赤にして、平静を取り繕うジン。
オレはそんな彼女と口を重ねる。
突然のキスに驚いている隙に、抵抗する唇をこじ開けて、舌をジンの中へと差し入れる。
肩へ手が置かれ、弱々しく抵抗される。
やはりかなり飲んでいたのだろう。
アルコールの匂いと熱い吐息が混ざり合い、気分が高揚していく。
2人の間を透明な橋が繋ぎ、プツリと切れた。
「ジンさんベロキス大好きでしたよね」
「や、やめてくれ……」
スイッチ入るのが早い。さすがモンド人だ。
ちょっとチョロすぎないか心配になるが。
オレは酒を口に含み、再びジンの唇を奪う。
酒が移りそうなほど長く唇を合わせ、互いの口内に注ぎ合う。
ちゅ……じゅる……ちゅずずっ……
ぽけーっとした表情でキスを受け入れるジン。
そのうちジンの舌は積極的に動き回り、口内を嬲り尽くしていた。
全て酒を飲み干したところで、やっと口付けが終わる。
「な、情けない……私は淫欲に負けて妹の婚約者とこのような事を……」
頭ではわかっていても、体が言う事を聞かない。
そんな様子で悔しげに瞳を濡らすジンに興奮が高まる。
誘い受けなのではないかと疑ってしまうほどだ。
「マスター。釣りはいらない」
オレは会計の時間も勿体無いとばかりに、カウンターの上にキャサリンからもらった依頼料を置いた。
キスから見られていたのか、あるいはモラを投げた音で注目されたのか。
酔っ払いどもの口笛と共に、ジンの手を引き酒場を出た。