インキュバス イン テイワット 作:朝潮
ジン(0)
昨日エンジェルズシェアで依頼料を丸ごと渡してしまったから収支はマイナスだな。
今日も何か依頼をこなしてホテル代を稼がなければ。
オレがあといくら泊まれるかとモラを数えていると、扉が鳴った。
出てみると、そこには先程慌てて出て行ったはずのジンが立っていた。
「今日くらいは休めと追い返されてしまった」
それもそのはず。
いつもキッチリと決めている団服はシワだらけ。
髪は縛ったまま寝落ちしてしまったので所々跳ね、
膣内に残った精液のせいか歩き方もなんだかおかしい。
いくら自由の国とはいえ、帰れと言ってしまうのは無理からぬ事だ。
「何で帰ってきたんですか?もしかして、休みになったから今日は一日中したいとか?」
「そんなわけがないだろう」
オレは結構ノリ気だったのだが、ジンは仕事モードに戻ってしまったようだ。
「実は時間ができたら気にかけようと思っていた騎士団志望の少女がいるのだ。その事で、少し相談したい事がある」
時間ができたらというのは、一体いつからそう思っていたのやら。
ジンの時間は、早朝から深夜まで予定が詰まっている。
昔のオレも、ジンの時間を開けるのに奔走したものだ。
何せ誘おうにもまずそんな暇がないのだ。
「それで、その相談したい事とは?」
「その前に。君はモンドにはどの程度滞在する予定だ?」
「そうですね。多少前後するでしょうが、物資補給とお金稼ぎを踏まえて10日程の予定です」
モンドでは特産物や旅の食料を購入するつもりだ。
バーバラが旅に加わるなら、新たに野営道具も買わなければならない。
まあそのために稼いだ依頼料はジンとの一夜に消えた訳だが。
「それだけあれば充分か。……旅人。君はノエルという少女を知っているか?」
「ノエルちゃんといえば、メイドの?」
「……何故知っている。まさかもう手を出したのか?」
ジンからじとりとした目を向けられる。
何故こんなにも信頼がないんだ。
「まさか。噂話で聞いたんですよ」
「女の情報には詳しいのだな」
「いやいや、濡れ衣ですってば」
ノエルというメイド少女はモンド人の誰からも好かれている。
それは彼女がとびきり優しく世話好きで、騎士道精神に溢れているから。
岩元素の神の目をもつ彼女の実力は、並の騎士団員以上。
それでも騎士団に入団できていないのは、彼女の諸刃の剣とも言えるその頑固さだ。
助けると決めたら自分の身がどうなってでも助けるのが彼女の考え。
モンド人の殆どは、ノエルとバーバラ、どちらが好きかと問うたら、少し迷ってどちらもと答えるだろう。
だからこそオレもいつかそのご奉仕にあやかれないかと……待て。まだ未遂だ。
「君の女好きに関しては……まあ良い。今回重要なのは、彼女の事だ」
「そのノエルちゃんがどうしたんですか?」
「彼女には自己犠牲の嫌いがある。ノエルの人助けの精神はとても尊いものだが、時に行き過ぎた献身をしてしまうのだ」
それをジンが言うのかとは思ったが、あのジンがまさかツッコミ待ちということはないだろう。
ひとまず話を最後まで聞くことにする。
「昨日君を待って酒を飲んでいた時の話だ。少し泥酔した酒飲みに絡まれてな。一晩どうかと誘われたのだ」
「何?オレのジンに手を出そうとしたのはどこのどいつだ」
「まあ、君の想いは……少し嬉しいが。ここではベッドに誘うのは自由。もちろん私はキッパリと断った。
だが、もし彼女が成人した時に酒場に来たと想像すると、簡単について行ってしまいそうでな」
まあ確かに、酒を飲むと少なからず気が緩むのはよくある事だ。
普段は隙のない女性でも、酒を飲ませる事で連れ帰れたことは多々ある。
特に、貞操観念の高い璃月で、ガードが固かった彼氏持ちの女性を酔わせて持ち帰れた時はとても興奮したものだ。
あのお姉さんは彼氏と上手くやっているだろうか。
「そこで君には、彼女の手解きをお願いしたいのだが、どうだろうか」
どう、と言われても。
オレは騎士道精神など持ち合わせていないし、神の目も持っていない。
一応戦えなくはないが、騎士団に入団できるほどの人物に教えることなど何もない。
できる事と言えば、女性を悦ばせる事くらいだが。
「手解きと言うのは、そういう意味で合ってますか?」
「性教育というか、性指導というか。彼女が間違えてしまわないよう、君に導いてほしい」
「ジンさん。人様の娘の初体験を勝手に決めるのはお節介が過ぎますよ」
「だが、だが……ノエルが不埒な輩に襲われたらと思うと……
彼女には、どこか親近感があるのだ。できれば私のような幸せな初めてを経験して欲しい」
モンドは自由の国。しかし、自由とは責任も伴うもの。
もし性経験で失敗したとて、合意があるのならばそれは自分の責任。
璃月であれば裁判となる所でも、モンドでは自己責任と言われてしまう事が多い。
……それはそれとして、周りの人間がいたいけな少女を騙す悪人をどう扱うかは別問題だが。
「ジンさんの気持ちはわかりました。ですが、初めての相手は彼女自身が
「そう……だな。取り乱してすまなかった」
ジンは自分が興奮していたことに気づいたのか我に返る。
意気消沈した彼女はしょんもりと眉が下がっていた。
「ですが。彼女自身がオレで良いと思ってくれるなら別の話です。
オレも可愛い女の子と仲良くするのは大歓迎ですから」
「全く、スケベなのは変わらないな」
オレの言いたい事がやっとわかったのか、ジンは困ったように笑う。
「では、私は旅人の事をノエルに紹介しよう。それからどんな関係になるかはノエルの自由だ」
オレは嫌がる相手には無理矢理手を出したりはしない。
例外的に、命を狙って来た奴には容赦しないが。
「まずはノエルへの連絡だな。次にアンバーに朝のランニングを一緒にできなかったことを謝りにいかなくては。そうだな、詫びも兼ねて騎士団に何か差し入れでも買っていくとしよう。同時にリサの朝食を買う。リサは放っておくとアフタヌーンティーで一食済ませてしまうからな」
ジンは突然非番になった事で崩れたスケジュールを組み直す。
休日にもスケジュールを組むのかとその職業病にため息をつく。
「その前にまずは入浴が先ですよ」
「む……そうだな」
「一緒に入りますか?」
「遠慮しておこう。いつまで経っても出られなくなってしまいそうだ」
よくわかっている。
オレが裸のジンを目の前にして我慢できるはずもない。
「リサさんに会うなら、渡して欲しいものがあります」
オレはそうだと思い出し、マジックポケット*1から数冊の本を取り出す。
八重堂*2で購入した娯楽小説だ。
「稲妻の土産の娯楽小説です。向こうで人気だったものを何冊か買ってきました。
図書館に置いても、自分用にしても構わないと伝えてください」
リサさんとは西風騎士団の図書館司書。
いくらモンドの図書館とはいえ、海を挟んだ国の最新小説は揃っていないだろう。
もうあるのなら、リサさんへのプレゼントということにしよう。
「ジンさんの好きそうな恋愛モノも買ってあります。
それはジンさんへのお土産なので、リサさんのとは混ぜないように」
オレは別に取っておいた恋愛小説も取り出して渡す。
プレゼント用に包装紙に包んでいるから間違えはしないだろう。
「ありがとう、旅人。感謝する。君からの贈り物は2度目だな」
忘れもしない。彼女に渡した『少女ヴィーラの憂鬱』を。
スケジュール表に書かれた、『書類作成が深夜三時までかかってしまったため月末の褒美の書籍購入は取り消し』という文字。
それがあまりにも不憫で、オレは彼女の好きな書籍を聞き出して、モンドを立つ日に渡したのだ。
「これから何度だって送りますよ」
「ありがとう。……しかし、バーバラからは何も聞いていなかったのだが。まさか何も渡していないのか?」
ジンからは非難めいた視線を向けられる。妹の事となると嫌に鋭いな。
オレは観念して、一足先にジンにみせてやることにした。
「……秘密ですよ?」
オレは綺麗に梱包された小箱を取り出し、開けてみせる。
「稲妻の珊瑚宮*3で探した珊瑚真珠*4を加工して作ってもらった婚約指輪です。
バーバラが婚約を受け入れてくれたら渡そうと思っています」
「ほう……」
ジンもやはり女性。
結婚指輪にも多少の憧れはあるのだろう。
じっくりと見つめる目には羨望の色が見える。
オレは、ふと好奇心が湧いて問いかけてみる。
「ジンさんも婚約して、オレたちと一緒に旅しませんか?」
「……ふふ。それは楽しそうだな。だが、私にはこの蒲公英騎士*5の称号にかけて、モンドの民を守る使命がある」
駄目で元々だったが、やはりフラれてしまったか。
そういう所もしっかりとしていて好感が持てる。
一緒に行きたいというのも本音だが、頷かれたら失望していたかもな。
「しかし、だな。私も女だ。結婚に憧れがないわけでもないというか」
ジンは歯切れ悪そうに
しばらくモゴモゴとしていたが、こちらを伺うように問う。
「30になっても行き遅れていたら、バーバラと一緒に私も貰ってはくれないか?」
「そんなに待てません。2年後のバーバラとの結婚式までには決めておいてくださいね」
「う、うむ……」
ジンは照れ臭そうにオレから視線を逸らす。
モンドの大聖堂で、姉妹揃って結婚するのも良いだろう。
まあ、既にスメールで結婚を約束してしまった子がいるので最低でも3人同時の結婚になってしまうが。
そんな事口が裂けても言えないな。風圧剣でぶっ飛ばされそうだ。
「で、では。ノエルの事よろしく頼んだ」
そんなことを考えていると、恥ずかしいのか気まずくなったジンが立ち上がる。
オレは話は終わったとばかりに部屋を出て行こうとするジンを呼び止める。
「次は使ってる張り型も持ってきてくださいね。お尻に挿れて2穴プレイをしましょう」
「お、お尻はもうダメだ!」
ジンはお尻を押さえて逃げ出した。