俺の相棒であり、同じく電脳将校桐島レイン少尉が繰り広げた。
――最初で最後の、死闘を描いた物語である。
甲はただひとり構造体に潜入して進む中、かつての部下である桐島レインと再会し説得を試みる。しかしレインが甲に告げたのは『開戦』という非情な二文字であった。
今連載している小説『ARR-another rain route-』の最終回二話前『君を手にかけるくらいなら』の先行掲載です。
これは千夏ルートのレインの記憶がある状態で突入するレインルートのお話です。
レインのことを想っているけど、正義の味方になりたかった甲さんが放っておけなくて千夏の元に行き、フェンリルに所属するレインと対立して一騎打ちに至ったという展開になっています。
時系列的には原作14章『トランキライザー』でレインと対決する辺りです。
●この小説はpixivにも投稿しております。
問いかける声が、先ほどとは打って変わって静まり返った
「……何故、撃たないんだ」
今しがた行なわれた戦闘の激しさを物語るように、辺りには大小様々の薬莢と、役目を終えた
付近一帯には、幾多の重火器が使用されたことを思わせる、硝煙の匂いが立ち込めていた。純白の機体は、爆発に巻き込まれたことにより微かに焼け焦げ、塗装のそこかしこが薄汚れ剥げ落ちて。
全身に、
長時間に及ぶ苛烈を極めた戦闘で疲弊し、片方の膝をついて力なくしゃがみ込んでいた。
「中尉、こそ……何故先ほど、斧を……あのまま、振り抜かなかったのですか……」
威嚇するように頭部を狙い、スナイパーライフルを構えたまま。
「目の前で、惚れた女が死ぬところを見るくらいなら。惚れた女に殺されるほうが、遥かにマシだからだよ」
「なっ……」
膝に手をつくと、関節ユニットの軋む不快な金属音が響く。俺はそれを気にも留めず、勢いよく立ち上がる。そして、彼女と真っ直ぐに向かい合うと、強い意思を籠めて言った。
「――もう二度と、あんな思いはしたくない」
「……っ!」
これは俺――電脳将校、門倉甲中尉と。
俺の相棒であり。同じく電脳将校、桐島レイン少尉が繰り広げた。
――最初で最後の、死闘を描いた物語である。
ARR-another rain route-
『君を手にかけるくらいなら』
俺の
交わされる視線の先に
それは先日まで他ならぬ俺の相棒を務めてくれていた、電脳将校桐島レイン少尉の愛機――アイギスガードだった。
「やはり、来てしまったのですね……」
「レイン……」
長年をともに過ごし、気心の知れた間柄だというのに。俺の選択により、今や敵へと変貌してしまった彼女。無情にもパートナーであった俺たちの間を、限界まで引き絞った弓を思わせる、ピリピリと張り詰めた空気が流れていく。
他に邪魔者のいない
両肩を覆っていた盾が外され、左腕部に装着された小型の盾のみとなり、
「……っ」
なんで遠距離戦闘型のお前が、わざわざ防御力を下げるようなカスタマイズをしたんだ。回避重視で軽量化でもはかったのだろうか。防御力を低下させてまで、回避力を上げる意味があるというのか。
それも情報戦メインの、
「このまま引いてくれれば手出しはしない」
「引けません、あしからず」
提案を毅然としてはねつけるレイン。その声音は、交渉の余地など微塵も感じさせない硬質な響きを含んでいた。
「レイン……」
拭いきれない違和感にいやなものを感じる。
……すぐにも飛びかかってきそうなくらいの強烈な、今の俺の身体が鋼鉄に覆われていなければ、肌がひりつくほどの殺気を感じる。どうにかして、こいつを説得するしかない。
「レイン、俺は……」
「――
言葉を遮りながら、レインは剣の切っ先のように鋭く強い意志を感じさせる、凛とした透き通った声をもって――高々と戦いの狼煙を上げた。
「っ……」
軍人として、
やむを得ない。得意の遠距離兵装による弾幕が張られる前にアイギスガードを叩き、動きを封じた上でレインを説得しよう。設定を変更し、呼び出した二つの手榴弾を両手へ握りしめる。
真っ直ぐにアイギスガードへ向かい、ブースターを消費し駆け出していく。アイギスガードは予想どおり、
屈強な機体の両肩から射出されたミサイルは、空気を震わせながら一発ずつ左右から弧を描き、挟み込むようにして
「ふっ……!」
「っ……!」
こうすることにより、ミサイルの軌道をずらし、
手榴弾でミサイルを抑え、最短距離でアイギスガードへと接近する。背後から迫り来るミサイルを、呼び出した二丁のサブマシンガンで振り向きざまに一掃すると、即座に兵装を解除していく。
「丸腰でいったいどうなさるおつもりですか」
距離が近過ぎてホーミングミサイルはもう使えないと。俺が武器を外し、素手による近接格闘に出ると考えたのだろう。兵装をリーチのあるランスへ変更し、
それに対して、俺は。
「こうする……」
そのまま足を止めることなく接近しながら手を振りかざし、手中に現れた武器をアイギスガードへ向けて、疾風の如く降り下ろす。ランスと同じく、近距離兵装の中では攻撃範囲の広い物であり、反った特異な形状の刃を持つサイス。
その特徴的な刃を用い、ランスの円錐型の棒の根元に引っかけて捉え、アイギスガードごと勢いよく手繰り寄せた。
「つもりだよっ!」
「くっ……!」
下方へと引き寄せたアイギスガードの手へ膝蹴りを加え、瞬時にサイスの兵装を解く。かろうじて武器を保持していた、もう片方の手へ拳を当て槍を叩き落とし、彼女が拾えぬよう即座に蹴り飛ばす。
くるくると回転し、床と擦れ合うことで耳障りな音を立てて、俺たちから遠ざかっていくランス。アイギスガードが武装を切り替える前に、両腕をつかみ押さえ込むことにより自由を奪う。
「レイン! お前では俺には勝てない! 撤退しろ!」
「もう、会話は無用です」
言った傍から。巨大な
「ぐぉおっ!」
まるでその打撃の強さを表すかのように。ほぼ同じタイミングで、先ほど投げた手榴弾の爆発音が、連続して辺りへと響いていく。普段の模擬戦闘の時とは、比べ物にならないほどの威力で当てられた膝蹴りに驚かされ、思わず大きな呻き声を上げてしまう。
こいつ……本気って、ことなのか……?
「レイン! このわからず屋が!」
再び蹴りが放たれる気配を感じ、仕方なくアイギスガードの腕を放し距離を取る。
「レイン!
頼むから撤退してくれ。そう切望して、レインへの説得を継続していく。
『それならどうか、戦場には二度と出てこないでください。この私に、貴方へと銃を向けさせないで。そんな死ぬよりもつらいことを、したくはありません』
『レイン……』
『ですがその時が来ればきっと、私は貴方へと、
もう俺の言葉など、敵となった彼女の耳には届かないのだろうか。別れ際にレインと交わした最後の言葉が、頭の中へ蘇る。
「…………」
そんな俺の悲痛な願いは、彼女に届くことはなく。アイギスガードは沈黙したまますぐに間合いをはかり、ランサーユニットを呼び出し右腕へと装着した。クソッ。これ以上の説得は無駄か。
再びダブルサブマシンガンに兵装を変えて、俺はアイギスガードを迎え撃つことを決意する。
「うぉおおぉおおおぉっ!」
咆哮し、両手に携えた短機関銃をアイギスガードへ向けて撃ち放つ。弾が発射されるとともに、銃身から身体へと強い衝撃が伝わっていく。サブマシンガンの激しい筒音を自らに聞かせ、強烈な反動をこの身に感じ大声を出すことで、意図的に全身へとアドレナリンを駆け巡らせる。
――彼女と戦うことに対して、
まるで、樹木の枝が空へ向かい生長するかのように。放たれた電撃は
「ちっ!」
ランサーかと思ったら、よりにもよってサンダーボルトかよ。バーニアを吹かし高速で後退し、心の中で毒づく。ランサー・チャージ・サンダーボルト・ホーミングレーザー。
共通して使用するユニットから、それら四つの兵装に当たりを付けていたが、その中で
兵装をリサーチミサイルに切り替え、両肩に出現させた発射装置から二発ずつ、計四発のミサイルをアイギスガードへ向けて両サイドから発射する。
「行けっ!」
両脚を踏ん張った状態の
対するアイギスガードは前方へ向けて、対電子戦資材である
結果、放ったミサイルはレーダーシステムが混乱しロックできなくなり、アイギスガードを無視してあらぬ方向へと直進していった。
「……だよな」
アイギスガードがチャフを装備しないなど、さすがにこれは我ながらバカな考えだった。兵装を切り替え迷子になったミサイルをサブマシンガンで片付けると、気を取り直して再びアイギスガードへと銃口を向ける。
「厄介なもんをばら撒きやがって……」
チャフが邪魔だ。だが今は、チャフをなんとかして減らしていくしかない。短機関銃をフルオートから三点バーストへと切り替えて、無数に散らばるチャフへ順に狙いをつけ、排除することにしよう。
周囲にばら撒かれ、アイギスガードの全身を覆っている
「クソッ……」
かろうじて
「またサンダーボルトかよっ!」
自らを守るチャフごと向かい来る銃弾を焼き尽くし、消し去っていくアイギスガード。兵装の選択に、少し疑問を持ちつつも。電撃を回避するためにブースターを使い後退し、サブマシンガンを解除した。
次は近距離でのヒットアンドアウェイといくか。アイギスガードがサンダーボルトを発射し終えたタイミングを見計らい、サーチダッシュで急接近していく。
それを察知したアイギスガードはライフルユニットを呼び出すと、左腕のシールドキャノンに装着し、
決まった弾数だけ発射される武器だが、
弾数は固定されてしまうがスナイパーライフルよりも反動が少ない上、発射までの時間が短く牽制に使うのに最適なリニアライフル。弾の威力で劣っていても、的確に狙いをつければ強力で使いやすい武器だ。
「くっ!」
仕方なく左右に身体を揺らし、リニアライフルの弾を避けていく。念のためサブマシンガンを手に実体化させ再び後退するが、アイギスガードはそれ以上
ミサイルはチャフで。ダブルサブマシンガンはサンダーボルトによって。それぞれ無効化されてしまう。
「さて、どうする……?」
いったい、どう出るべきか。俺はここまで効果的にチャフや遠距離兵装を使う相手とは戦ったことはなく、こうもやりづらいものなのかと悩まされた。
特に使用することの多い、ダブルサブマシンガンを無効化するサンダーボルトが特に厄介だった。これは恐らく、彼女の計算の内なのだろう。
俺はどちらかというと近接タイプであり、ここまで遠距離が得意な敵とこの状態でやりあったことはなかった。このまま遠距離で戦い続けていてもジリ貧になるだけだろう。
自然とそんな状況へと誘導する戦い方をする自分の相棒に対して、改めて優秀さを実感してしまう。この非凡なパートナーに、今までいったいどれだけ支えられていたのか。
敵になり本気を出されると、ここまで恐ろしく厄介な敵になるのかと。……だが、少し妙だ。アイギスガードが使う遠距離兵装のバリエーションが、通常時よりも少ない。
得意のミサイルはいったいどうしたんだ。まさか、ホーミングミサイルしか用意していないというのか。たしかに
しかし、リニアライフルを使用することといい、ホーミングミサイルを二発しか放たなかったことといい。弾幕にいつもほどの濃度がない。俺はそこに、レインの用意した隠し玉の存在を感じ取っていた。
先ほどから後方へ退避したまま思考を続けていたが、ずっとこうしていても埒が明かない。そうしびれを切らしかけたのも束の間、
「……っ!」
どうやら彼女はそんな俺の隙を見逃さず、攻撃を仕掛けてきたらしい。サーチダッシュを使用してローラー音を響かせ、瞬く間に
通常時ではその重量から動きの鈍い機体であるが、ブースターを使うことにより、移動速度を爆発的に上げていた。
「なにっ!?」
接近戦だと。まさか、後方支援型のレインが近接戦闘を仕掛けてくるとは。それも両肩の盾を外し、防御力を大幅に下げた状態の機体で、だと……! 近距離戦闘に出ないという俺の油断を誘うために防具を外した、とでもいうのか。
思いがけない行動を起こされ、呆気に取られて動きが鈍る。しかし、ブースターを使用していたとはいえ、これはあまりにも速過ぎる。いったいどういう訳だ。
チャージを使う時と同様に、膝下・足裏・テール部のローラーを駆動させた、高速移動が可能な
思案している間に、俺はアイギスガードによって間合いを詰められてしまった。こちらの動揺を好機と考えたらしく。彼女はあろうことか、リニアライフルを解き――“素手”による攻撃を繰り出してきた。
「――っ!」
反射的に、銃を持ったまま防御姿勢を取る。それに対し、深くお辞儀をするように。接近しながら、体勢を低くしゃがみ込ませるアイギスガード。そして
「ぐうぅっ!」
予測よりも速く重い打撃をくらい、唸り声が口から漏れ出る。なんだ、この鋭い一撃は。
驚きと衝撃の両方が俺を揺さぶり、シュミクラムの鋼の身体にダメージが伝わっていく。俺の心の強い揺らぎを、知るや知らずや。冷静に、そして正確に。アイギスガードは厚く大きな
「がっ……はっ……」
ジャンプを同時に行うことにより、先ほど放たれたものよりもさらに強力な勢いをつけられたニーキック。それは俺の意識を刈り取ろうとする、強い意志を感じさせるほどの威力をともなって。
着地し終えるとランスを手に出現させ、矢継ぎ早に先端を
「くっ……!」
痛みを堪え、直ちに手に持った邪魔な短機関銃を解除して、
武器同士が擦れ合い、金属音が鳴るのに合わせて火花が散り、押し出された槍の勢いが削がれ弱まっていく。だが速い。速過ぎる……! 後ろへ退き変更しつつ、攻撃を受け流しながら俺は強く
【※変更:合気剣術における、敵の攻撃線を避ける身体捌きのこと】
ブースターを使わない時ですら、アイギスガードは明らかに通常時よりも速い速度で動いている。それだけではなく、俺はレインの攻撃から感じる奇妙な
戦闘開始前に感じた違和感の正体を探るべく、その機体をくまなく見ることを決める。
「……っ!」
ランスの刺突攻撃により、アイギスガードの腕が伸びきった後のわずかな時間。ほんの一瞬だけ脱力した、無防備な状態を目がけて。峰で受け流した状態から、返した手首を元に戻す。
今度はサイスの峰ではなく、刃を。接近しながら円錐型の棒へ滑らせ絡めさせて、下方から持ち上げ押しつけて
【※
「くぅうっ……!」
添え手である左手にも力を籠め、槍を握りしめるアイギスガード。バランスを崩しそうになるのをよろめきながら数歩後ずさり、両脚で踏ん張ることによりなんとか堪える。
苦悶の声を上げながらも、彼女は必死に押し合いへ耐えていく。
「ぬうぅっ……!」
兵装を解除され、
隙を見せたらすぐに崩される! レインは合気系の技が得意。得物を持った状態からもスムーズに合気柔術への移行が可能なことは、今までの戦闘訓練で痛いほど思い知らされてきた。
「ぐぅうっ……!」
軽量級である
だからこのまま
こいつなら持っているのが槍だとしても、それくらいやってくる!
【※
正面から打ち込んだ剣先を右下へ流し落とされ、次の瞬間。振り被られた竹刀が自分の面を直撃していた時は、本当に驚いたものだ。鎌を握る力は緩めずに、視線はアイギスガードの身体へと向けていく。
「……っ!」
間近で観察することにより、アイギスガードの機体の変化の詳細に、俺はようやく気づくことができた。――アイギスガードの“装甲そのもの”が、通常時よりも薄くなっているということを。
そうか、さっきの違和感はこれだったのか。レインは俺と戦うために両肩のシールドだけでなく、機体の装甲の厚みを減らすことによりさらなる軽量化をはかっていたのか。
巨大な両肩の盾ばかりに目が行って、気づくのが遅れてしまった。何度も使う機会があったにもかかわらず、今日一度も使われていないことから。左手に装着されたシールドキャノンの散弾砲はおそらく、中身を抜かれただの飾りになっているのだろう。
他にも普段
しかも先ほどまではそのことを悟られぬよう、意図的に移動・攻撃速度を落としていたと見られる。そうでもなければ、この機動力の急激な増加のつじつまを合わせることなど、できはしなかった。
「はあぁっ!」
突如として、ランスを持ったまま、アイギスガードは
「うおっ!?」
怯み、反射的にサイスを持つ手から力が抜けてしまう。こいつ、体をぶつけて無理矢理
動揺した俺を見て、好機と考えたのだろう。再度、体当たりが加えられる。
「うぐっ……!」
しかも、今度はただ身体を当てるだけではなく。
「――っ!」
左手を槍から離し、盾の縁を用いた鋭い肘打ちによる一打が、風切り音とともに頬をかすめていった。
「うっ……」
とっさに首を反らしたことで、直撃こそしてはいないが。
「はっ!」
アイギスガードは攻撃を終えるとただちにランスを解除して、
「…………」
拳とともに向けられる、無言の眼差し。……素手でやり合おうってのかよ。近接戦が得意な
「仕方ねえな……。そっちが肉弾戦に出るっていうのなら……お望みどおり、相手になってやるよっ!」
俺は威勢よく啖呵を切り、サイスを解除して
「おぉおっ!」
拳を交わしながら、思考する。さっき身体を押さえつけられた時すぐに膝蹴りをかましたのは、機体の変化に気づきづらくなるよう距離を取るためだったのだろう。
それは至近距離からしばらく観察して、ようやくわかるくらいの厚みの変化なのだから。最初の攻撃で、後方へ逃げることなく
盾を二つ外しただけのアイギスガードだと誤解させ、隙を見て近距離戦闘を仕掛け、驚いた俺を一気に倒すつもりだったのだろう。これが電子戦メインで戦闘能力において
本来の目的である、機体の重量を下げるため。防御力を低下させることで、近距離に出るはずがないだろうという俺の油断を誘うため。目立つ盾を外すことによって、装甲も薄くして大幅に軽量化していることに気づきにくくさせるため。
その三つの目的で防具を外していたのか。そもそも、サイスでアイギスガードのランスを手繰り寄せた時、真っ先に感づくべきだった。多数のセンサーや長距離支援火器等を搭載し、堅固で重量があるはずのアイギスガードを引き寄せた時に感じた、手応えの軽さ。
彼女へ対する迷いがあったとはいえ。それになにも感じなかったのは、
通常時なら、反動などものともせず。その場からわずかにも動くことのない頑強なアイギスガードが、ミサイルの反動ごときで下がらされていたという事実に。
こうしてヒントはあちこちに散りばめられていたというのに、俺の脳はレインの説得を最優先にしていた。彼女に対する
敵に情けをかけることをやめた、普段の俺ならすぐに気づいただろう。だが、迷うのも当然だ。今俺が相対するのは、長い間ともに歩み戦ってきた
「ぐおぉっ!」
硬く強化された盾の側面を打ち当てられることで、胸部装甲がへこみ強烈な衝撃が伝わる。放たれたのは、
正確に言うと、
まさか近距離兵装を増やすだけでなく、
習熟訓練として、俺の
普段は俺をサポートするために電子戦装備で欺瞞と撹乱を行ない、遠距離兵装で戦ってくれていた。そもそも
遠距離兵装を封じられ、近接戦のみに出ざるを得ない状況で。さらに全力を出した彼女に、果たして俺は勝てるのだろうか。
「やぁあっ!」
「くぅっ!」
アイギスガードが振るう攻撃を見ていると、自分はいつもこんな風に攻撃をしていたのかと、改めて気づかされる。まるで自分自身が敵になって戦っているような、不思議な気分に襲われた。
レインとは、数えきれないほど戦闘訓練を行なっていて。本来のアイギスガードの動き・攻撃速度・移動速度を、この鋼鉄の身体は痛いほどに覚えている。自分の考えた
普段のアイギスガードとの速度差のせいで、つい反応が遅れてしまう。
「あぐっ……!」
わずかに動作が遅れ、防御が追い付かず。普段アイギスガードを相手にしていたら、くらうはずのない攻撃を受け、次第にダメージが蓄積されていく。
「うっ……」
間違いなく俺にとって、今のアイギスガードはこれまで出会った中で――最強の敵だと、そう断言できた。
「ぐうぅっ……!」
ボディを狙った拳を、両手で受け止める。後ずさりさせられるほどの衝撃が、痛みとともに手から腕へと走っていく。レインが全力で振るう拳はここまで重いのかと。アイギスガードが繰り出す攻撃を受けるたびに驚愕させられる。
確かにお前は強い。短期間でここまで近接戦闘の腕を上げたことは称賛に値する。……だがな、そもそもお前が模倣した俺のデータは“いつのもの”なんだ?
「…………」
そう考えながら、アイギスガードのフックを見切り、紙一重で回避する。
「……っ」
攻撃が空振りに終わり、その動きに微かな動揺の色が見られるアイギスガード。亜季姉ぇから贈られた、自己進化ロジックの搭載された
「ふっ……!」
次のストレートも組み手をするように軽くいなしていく。今この瞬間、攻撃を受ける最中ですら成長し続ける
俺はアイギスガードの攻撃が終わるタイミングを見計らい、ようやく反撃を開始することを決めた。ここまで防戦一方だったのは不意を突かれたせいでもあったが、アイギスガードの機体に熱量が溜まりきるタイミングを伺っていたためだ。
視界に映る
……悪いなレイン。ここからは、俺の時間だ。
――まずそれは、空間を捻じ曲げることで視覚に訴えかけ、最初の異変を知らせていた。
「――っ!?」
前方で直立しているはずのアイギスガードの身体が、幻のようにゆらゆらと、揺らめいている。放出されずに溜まり続ける熱で、既定のデータ量を超越したことにより、エラーが起こる。
周囲の空間が細かくゆがみ震えていき、発生された零と一の霞で織り上げた衣が、アイギスガードの機体を包んでいく。そして次に周りの空気を揺らし、戦闘機を思わせる甲高い音が、共鳴するように辺りへと響き始める。
限界を超えることに対し、まるでアイギスガードの機体が、全身で苦痛の喘ぎを上げているかの如く。
「レイン、お前……まさか……」
「…………」
ヒートゲージの限界まで、熱が溜まっているにも関わらず。アイギスガードはブースターを使い退避することなく、フォースクラッシュである――イニシャライザを使用したのだ。
機体のリミッターを解除して行動速度を上げ、熱量が溜まりきり最大の攻撃力を出せる状態の機体で。
前方から伝わる、うだるような熱気だけのせいではない。
俺ですらデメリットが大き過ぎて、必ずレインがともに戦場へ立つ時のみに。それも、極わずかでしか使用してこなかったイニシャライザ。そんなフォースクラッシュを、慎重派のお前が使うなんて。
限界を超えた運用をすることにより、使用すると機体データが破損する恐れがある。運が悪ければ、本人の電子体そのものが壊れ
ここまでリスクを冒し、全力を尽くしてくるなんて。お前は本当に、俺のことを――殺す気、なんだな。俺は今まで一度も自分の相棒から向けられたことのない、明確な殺意というものを。この時初めて、感じ取ったのであった。
『君を手にかけるくらいなら』
終
次回『
●Q&Aコーナー
Q:手榴弾の設定どうなってんの!? 原作と違くない!?
A:未来で
Q:手榴弾の起爆時間が長くなると、敵に投げ返されるリスクが出てくるから危険なのでは?
A:起爆時間は自由に設定出来るため、相手がどれくらいの長さに設定したか全くわからないので、巻き込まれるリスクを負ってまで投げ返そうと思う人はいないと思います……。
ちなみに常時、視野に起爆するまでの残り時間が表示することが出来て、音声アナウンスのオンオフ、仲間とリンクしてマップに自分たちが投げた手榴弾の位置・影響範囲が表示され把握できるようになっていて、味方が投げた手榴弾の影響範囲に接近すると通知が来るようになっています。
安全対策は万全です!
Q:カスタマイズしたアイギスガードのパラメータ―教えて
A:耐久力は機動力のために犠牲になったのだ……。
【カスタマイズしたアイギスガード】
耐久力:E
射撃:B
格闘:C
機動力:B
Q:アイギスガードの機動力が上がっただけなのに、甲さん驚き過ぎじゃない!?
A:DiveXでアイギスガードを操作してみてください!
機動力Dであそこまで遅かったアイギスガードが、いきなり機動力Bになったら驚くと思います!
いつも一緒にいたらなおさらです!
Q:なんでいきなり合気剣術描写を入れたんですか?
A:原作でレインが合気道の使い手という設定になっていて、震機狼戦のために合気剣術の本を買ったので入れてみました。
実際私が読んだ本の合気道は柔術・拳法・棒術・槍術・剣術・二刀剣術・小太刀術と広く応用が利くタイプだったのでピッタリだと思ったんです!
戦闘訓練回の『武を極めるということ』でそこら辺は説明するつもりです。
●あとがき
連載開始からそろそろ一年で、今のペースで連載していると、ここまで来るのにあと五年かかる計算になってしまいます……。
その上読者さんの年齢は高齢な方が多いと予想していて、その方達を五年も待たせるのは酷だと考え、今回先行掲載に至りました……。
私も五年後には四十×歳になってしまうので仕方がないと思います!
「これを載せずに死ねねぇ!」と思い続ける日々に終わりを告げたかったので!
盛大に死亡フラグを立てた気もするけど、気にしないでいきます!
次回『一日の長』もアップしようと思っているのですが、一応読者さんの意向を知りたいので、アンケートにて『一日の長』の掲載の是非を問います。
たぶんいつもどおり一票くらいしか入らないと思うんですけど、一応行ないます!
協力して頂けると嬉しいです!
一票も入らなかったら載せちゃいますので!
9/19を締め切りとします!
よろしくお願いします!
今回『君を手にかけるくらいなら』を先行掲載しましたが、書き上げ済みの次回『一日の長』も今読みたいですか?
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我慢できないから今アップしてくれ
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何年でも待てるから今はアップしないでくれ