※この作品はR-18です。

ARR-another rain route-   作:のあむ

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 甲とレインが傭兵訓練所に入所してから三回目となる休日の前夜。甲がとっくに寝静まった頃、レインはひとり布団の中で悶々としていた。レインは先日目撃した甲の裸身を忘れることが出来ず、昂った感情を抑えるために自らを慰め始める……。
今回は明るく終わるお話なのでどうぞ安心してお読みください!
●この小説はpixivにも投稿しております


第二章『貴方の役に、立てたのならば』

 私たちがここに来てから三回目となる休日の前夜。消灯時間も過ぎ、寮に住む訓練生の多くが寝静まったであろう時間。ルームメイトである甲さんも例外ではなく、二段ベッドの下の段にある自分のベッドの上でとうに眠りについていた。

 私は、というと。上段の自分の寝床で、ひとり悶々と過ごしていた。訓練所に入所するまでは、毎日甲さんにキスと胸への愛撫をしてもらった後、一緒の布団で寝ていたのに。

 今も同じ部屋で一緒に過ごしていて、下のベッドで彼が寝ていることもあって、悪夢を見ることはないけれど。……ないのだけれど。私は、寂しかった。

 私が必要なくなるくらいに貴方が元気になってくれたことは、嬉しいことなのに。まだ、私は。

 

ARR-another rain route-

第二章『貴方の役に、立てたのならば』

 

「んっ……んんっ……」

 服の上から、甲さんに触れてもらった時のことを思い出しながら、自分の胸を揉み愛撫する。すぐ下で、貴方が寝ているのに。こんなことをするのは、淑女として許されないのに。

 どうしても、私はこの性的な衝動を抑制できなかった。先日の昼間に見た彼の裸身を、私は未だに、頭の中から消すことができていないからだ。ここに来て、鍛えられ逞しくなった甲さんの肉体。

 毎晩のように抱かれていた厚い胸板。それによって、あの頃の記憶が、甲さんからもたらされていた魅惑的な淫楽が、強く想起されてしまっていた。

 衣服越しに自分で胸を愛撫しても、さほど気持ちよくなることはできない。甲さんに触れてもらっていたからこそ、私はあそこまで快感を得ることができていたのだろう。……もっと、気持ちよくなりたい。

 そんな欲求に突き動かされ、自分の服の中に手を入れて、スウェットの下に着ていた肌着とブラジャーを、鎖骨の下辺りまで引きずり上げる。私は露出させた自分の胸に触れ、ゆっくりと揉みほぐし始めた。

 

「あっ……んぁ……」

 こんなはしたないことをすることに、淑女として恥じらいを覚えてしまう。それも、甲さんが同じ部屋で、すぐ下のベッドで眠っている部屋で。そんな状況にもかかわらず、私は妙な興奮を感じ始めていた。

 自分の乳房の、柔らかな感触が手に伝わってくる。私は女性であり、普段下着を着ける時や身体を洗う時に触るので、触っていても特にこれといって思うことはなかった。

 平均的な女性よりもバストサイズが少し大きめなせいで、私は日常生活で殿方にはいやらしい目つきで見られることが多い。正直に言うと、自分の胸に対してはあまりよい印象はなかった。

 一方で、形に関しては身体を鍛えているおかげもあって、綺麗に整えられているほうだと感じる。あと、肉質が柔らか過ぎて横になると脇に流れてしまうということもあまりないので、その点においても幸いだったと私は思っていた。

 

「うぅ……んぅ……」

 胸を触りながら、ぼんやりと考える。紳士だと思っていた甲さんですら、この私の胸の感触に夢中になっていたという事実。それは、私の性的な感情を強く昂(たかぶ)らせていた。

 以前甲さんが、私の乳房を長い時間をかけて揉んでいたことを思い出す。私に対し、一度もいやらしい視線を向けたことのなかった彼が、あんなにも私の胸を触ることに没頭するなんて。

 私にとって喜ばしいことではあったけれど。同時に、凄く恥ずかしくて、少し複雑な気持ちになった。……そろそろ、いい頃合いかもしれない。

 そう思い、愛撫を加えたことにより硬くなり隆起した先端に、恐る恐る指の先でそっと触れてみた。

 

「ひゃっ……」

 突如、強い刺激が身体に走り、私は小さく声を上げてしまった。直に触るとこんなに感度が強くなるものなの……? 服の上から甲さんに触れられた時よりも強い快感に驚く。

 

「ふあ……あ……んぁ……うぅ、ん……」

 乳首を指の腹で弄び、ゆっくりと擦る。触れるたびに、痺れるような刺激が胸に走っていく。……気持ちいい。甲さんに愛撫された時のことを思い出しながら、先端を指でつまんだり、擦ったりを繰り返す。

 

「はあっ……ふぁあっ……んっ……んぅっ……」

 そうして私は、肌が熱を持ち少し汗ばむ状態になるまで胸への愛撫を行なった。あの頃、甲さんは亡くなった彼女に操を立てているために、大体これくらいで私への愛撫を終わらせていた。

 今日、私はついに。これ以上の快楽を求めたいと、そう、思ってしまった。恥を忍んで、自分の服のショーツの中に、ゆっくりと手を入れていく。

 

「……っ」

 薄く生えた陰毛の下の“そこ”は触れた自分が狼狽するほどに、愛撫をしたことで分泌された愛液に濡れ湿っていた。強烈な恥ずかしさを感じ躊躇(ためら)いながらも、私は意を決してそこに触れ始める。

 ところが、触れてはみたものの。どこをどうすればよいのかわからなくなり、思わず手が止まる。

 

『女性 自慰 やり方』

 視界に表示されたネットの検索欄にワードを入力する。以前と同様に、またもやこんなキーワードでネット検索をする自分に呆れながら、視野透写された文字列に目を通していく。

 情報を照らし合わせながら、確認するために自分の女性器へと触れる。しかし、ネットの情報を得ても、私には自慰のやり方がよくわからなかった。

 こうして手探りで自慰を行なうことに限界を感じ、観念して布団から出ることを決めた私。枕元に用意しておいた鏡と電気式ランタン、そしてタオルを手に取る。……やはり、実物をこの目で見てみないといけない。

 強い、抵抗を感じる。けれど、私はそれに抗いながらライトのスイッチを入れた。電球色に調整された人工的な明かりが、ぼんやりと淡く周囲を照らしていく。何故、私がこんなものを所持しているのかというと。

 毎日甲さんよりも早く起床するため、彼の眠りを妨げないよう身支度をするのに支障がない程度の照明として、先日この電気式ランタンを購入していたのだった。薄い縦長の四角形の折りたたみミラーを開き、立たせてから角度を調整し、自分の秘部のほうへ向ける。

 寝巻きとして穿いていたスウェットパンツとショーツを脱いで、脇に置いていく。愛液で寝具を汚してしまわないためにお尻の下に厚地のタオルを敷くと、両脚を開いた体育座りの状態でその上に腰かけた。

 小さな明かりに照らされて、ぐっしょりと濡れそぼった自分の女性器が露(あらわ)になり、あまりの恥ずかしさで瞬時に顔が熱を帯びていく。

 

「うぅ……」

 すぐ下に、大好きな貴方がいるのに。こんなことをしている事実が、凄く、恥ずかしい。鏡で見ることによってとりあえず膣の位置がわかり、恐れを感じつつも、私は指を膣内へと入れてみることにした。

 初めての時、甲さんにも触れてもらえたけど。あの時は飢えと疲労とケガの痛みのせいで、よくわからなかったのが悔しい。もう二度と、私にあのような機会は訪れないのかと思うと、その事実がつらかった。

 あんな状況でも、愛する人に抱かれたということは、本当に幸せなことだったのだ。……たとえ、抱かれたのが“私自身でなかった”としても。私にとってあの記憶は、一生の宝物だから。

 その大事な、大切な記憶を。磨き上げるように、穴埋めするように。……改ざんするように。自らがもたらす快感で、補おうと思った。

 

「んっ……」

 ぬるっと、愛液で濡れた秘部に自分の指が入っていく。一度しか経験のない自分の膣内は、思っていたとおりきつく。それでいて柔らかくて、温かくて。予想以上に凹凸(おうとつ)があって。

 なんというか、爬虫類の皮膚を思わせる感触で。……正直に言うと、少し気持ち悪かった。ネットで検索した時に、膣内がミミズや数の子にたとえられているのも納得してしまった。

 自分のものも、断面図で見てみるとグロテスクな見た目をしているのかと考えると、私は憂鬱になってしまう。そのほうが男性に深い快感を与えられるせいで喜ばれるとはいえ、乙女心としては納得のいくものではなかった。

 デコボコのないツルツルした綺麗な形状のほうがよかったのに。そんなことを感じながらも、既に甲さんは私の中に指を入れたことがあるという事実を思い出すと、なんだか照れてしまう。

 彼は私の中の感触を、私のすべてを、もう知っているのだと。……こんなもの、なんだ。自分の膣内の形状のことを考えながら先ほどから指を少しずつ動かしていたけど、それによる快感は自分の想像よりも低いことに私は落胆していた。

 でもきっと彼に、甲さんに入れられていたら、もっと。自分よりも太く逞しい、彼の指が自分の膣内(なか)に入ってくるイメージで、私は脳内を埋め尽くしていく。

 

「あっ……んんっ……甲さぁん……んぁ……ぁっ……」

 私と言う人間は、ひどく単純だった。小声で彼の名を呼びながら、愛撫されているという妄想をし始めた途端、膣内は少しずつ快感を覚え始めた。静寂の中に、くちくちと、卑猥な水音が響いていく。

 これだけじゃ、足りない。快感に浸るため目を閉じて胸に手を回し、揉みながら突起を指で転がした。

 

「甲さん……んぅっ……あぁ……もっと……ふあぁ……もっと、強くぅ……はぁあっ……」

 気持ちいい。私は夢中になって胸を揉み、膣内への指の抽送をし続けた。しばらくそうしていたけど、それ以上の快感は私の身体に訪れてはくれない。どうしよう。

 でも、このまま終わるなんていや……。経験が乏しい自分の自慰で与えられる快感の限度を感じ、先ほど表示した情報を思い出す。――陰核(クリトリス)という所を刺激すれば、女性は絶頂に達することができるということを。

 さっきから置いたままになっていた鏡の存在を思い出し、再び視界に表示した画像の女性器の欄を参照しながらその部位を探す。ここ、でいいのだろうか。

 そっと、ひだの内側にあるサーモンピンクの小さな突起に手を伸ばし、指で触れてみる。

 

「やっ……!」

 他の部位とは比べ物にならないほどの鋭い刺激が身体に走り、反射的に身体がびくりと震え、思わず声を上げてしまった。

 

「んっ……」

「…………」

 下から甲さんの声が聞こえ、私は慌ててランタンの電源を落とす。明かりを消したことにより、部屋は再び深い闇に包まれる。鼓動が速くなると同時に、激しく動揺した。どうしよう。甲さんが起きてきたら。

 こんなことをしていたことを知られてしまったら。私がこんな淫らな女だと知られてしまったら。今度こそ、きっと幻滅されてしまう。目尻に、涙が浮かんでくる。

 私はじっと、ベッドの上で身体を震わせながら彼の状況をうかがうことにした。

 

「…………」

 身動きひとつせず少しの間そうしていたけれど、私の心配とは裏腹に、甲さんが起きてくる気配はない。どうやら甲さんは、毎日の疲れもあって熟睡しているらしい。

 

「……はあ」

 一安心して、小さくため息をつく。よかった、甲さんに気づかれなくて。私がこんないやらしいことをしている事実を知られなくて。

 

「……っ」

 動揺したことによりさらに興奮した私の身体は、自慰の続きを求めて疼(うず)き、火照っていた。……続きを、したい。

 

「んうぅっ……!」

 もの凄い、刺激。自慰を再開してそこに触れると、先ほどと同じ痺れをともなう心地よさが、私の身体を襲う。これなら私でも絶頂に達することができるのだろうと、確信を得るほどの途轍もない快楽があった。

 

「あっ……甲さぁん……あぁ……んぁ、あっ……ぅっ……うぅんっ……!」

 指の腹で軽く擦っているだけなのに、あれほど感度が高いと思った乳首よりも強い、段違いの刺激が下腹部に走っていく。最初に触れた時は乾いていたその突起は、愛撫を始めるとすぐにくちゅくちゅと、あふれた愛液でまみれ淫猥な音を立て始める。

 

「甲さん……あ、あんっ……それ……すごくきもちいい、ですぅ……んぁっ……もっとして、ください……甲さぁん……!」

 自慰をする手を、止めることが、できない。今度こそ、私は完全に、快楽に耽溺(たんでき)していた。甲さんに胸を触れてもらった時と同じくらい、いや。

 それをも凌駕する、この圧倒的な悦楽の虜(とりこ)になっていた。

 

「ふぁあっ……あ、はぁ……んっ……あぁ……ん、ぅう……!」

 いつしか私は、彼に触れられる想像もせず。名を呼ぶこともなく。ただ、自らで加える快感のみに没頭していった。きもちいい。ただその一言で、私の頭の中が埋まっていく。

 今までは、愛する人以外との性行為に溺(おぼ)れる人の気持ちがまったく私には理解できなかったけど。

 

「あっ……んぅ、うんっ……きもち、いい……ふあぁあっ……んあっ……あぁあっ……!」

 今日、理解できてしまった。圧倒的な快楽の前に、人は簡単に理性を捨てることができる、ということを。

 

「あんっ……んぁ、あっ……ふぁあぁあっ……んっ、うんっ……あはぁあっ……!」

 ……今のこの、私の姿のように。

 

◇ ◇ ◇

 

 ――どれくらいの時間が経ったのだろう。暗闇で時折卑猥な水音が響く中、突然に“それ”は訪れた。私が少しだけ、強く肉の芽を擦った瞬間に。

 

「ひぃっ、ん……!?」

 びりびりと、電流を思わせる強烈な快感が身体に流れ、たちまち両脚が痙攣し、がくがくと強く震え出した。こんな風になったことは初めてで、私は恐れてしまう。

 

「あっ……はぁ………はあっ……はぁっ……」

 それと同時に、私にとってまったくもって未知の。今まで一度も感じたことがない。甘い、甘い痺れが。下腹部と両脚の太もも上部の筋肉の辺りに留(とど)まり、流れ続けていた。

 これが、絶頂に達する(イく)、ということなの……?

 

「はーっ……はーっ……」

 荒く、息をつく。私は初めて訪れた深い快感に、すっかり心を奪われて。痙攣が治まった後も数分の間、下腹部に手を置いたまま放心してしまった。

 

◇ ◇ ◇

 

 自慰の後処理を終わらせ、今度こそ私は寝ることにした。男性と違って女性は快感が長く続くと、ネットの情報には書いてあったけど、それは本当だった。

 絶頂の余韻は、未だに心地よい痺れをともなって、私の下腹部と太ももに残り続けている。初めて自慰を行なって絶頂に達してしまったこと。それと甲さんと同じ部屋で、あんなことをしてしまった気恥ずかしさから。

 

「うぅ……」

 私は頭の上まで、すっぽりと布団を被ってしまった。――でも待って。あの感覚は、以前にも覚えがあった。あれはたしか、訓練所に入る前日の夜に。先ほどの快感よりはずっと軽いものだったけど、まさか。

 ……そう、私がイったのは今日が初めて“ではなかった”。あの時、甲さんからキスと胸への愛撫をされただけで、私は。

 

「……っ!」

 今度こそ本当に恥ずかしくなり、私は目を閉じて眠ることにした。

 

◇ ◇ ◇

 

「レイン……レイン……」

 夜が明けて朝が訪れたことを知らせてくれる、部屋の外の木々に留まる鳥たちの可愛らしい鳴き声が聞こえてきた。甲さんが私を起こそうとゆさゆさと、布団越しに身体を揺り動かしている。

 昨日は夜更かしをしたこともあり、私はなかなか起きずに今日は彼に起こしてもらっていた。訓練所に入って間もないのに、こんな体たらくではいけないというのに。

 本当はすぐに起きることができたのだけれど、そうするのがなんだかもったいなく感じられて。

 

「…………」

 でも幸いなことに今日は休日だったので、私は少しだけ、寝ているフリをしてしまった。

 

「ふふっ」

 思わず、笑い声が口から漏れる。まるで甲さんと同棲しているかのような状況を、私は心のどこかで楽しんでいた。

 

「あっ……んぁっ……ふあぁっ……あんっ……」

 ……でも甲さん、どうして手の位置が“そこ”なんですか。できることなら、もう少しだけ上のほうにしてもらいたかったです。これは、布団を被って寝ているせいだけではないのだろう。

 触れられた場所のせいで。顔が、身体が、熱くなってしまう。甲さんが触れているのは、ちょうど私の上半身の中央部にある。大抵の女性であるならば、男性よりも“盛り上がった部位”。

 ――いわゆる乳房、の位置だった。

 

「ほら、起きろってば。もう九時近いぞ。俺より起きるのが遅いなんて、今日はいったいどうしたんだよ」

「きゃあっ! やあっ……だめっ……そんな、激しいですっ……!」

 乳首に触れられた私はとうとう我慢できずに、大きな声を出してしまった。昨日自分で触れたせいなのか。少し触れられただけだというのに、その先端は刺激を敏感に感じ取り、すぐに反応している。

 うぅ、恥ずかしい……。

 

「も、もう、甲さんったら!」

 胸に触れてきた甲さんに文句を言おうと、私は布団を持ち上げて顔を出した。

 

「あ、起きたな」

「……ひどいです、あんな所を触るなんて」

「あんな所って、どんな所だ? さっきはHな声出してー、どんな所か説明してくれよ」

 布団の横で意地悪そうに腕組みをした状態で膝立ちをしていた甲さんは、ニヤリと。まるで、小さないたずらっ子みたいな顔を私へと向ける。

 

「……っ」

 それを見た私は、彼への抗議の言葉を失ってしまう。

 

「ん、どうかした?」

「……なんでも、ないです」

 言いながら微笑み、両胸を甲さんから隠すために片手で押さえながら布団から全身を出した。甲さんがはしごを下りたのを見届けると、私はベッドから出て枕元のライトと鏡を持ち、下へ降りるためにはしごへと足をかける。

 ギシギシッ。一段ずつ降りるごとに、甲高い悲鳴を上げて私を非難するはしご。……失礼な。これは、はしごが古いせいで軋んでいるだけであって。私の体重が重いせい、ではないはず。

 はしごを上り下りするたびに、そう自分へと言い聞かせていた。やはりベッドは上のものではなく、下のものを使わせてもらえばよかったのかも。この後悔はきっと、訓練所を卒業するまで毎日続くだろう。

 昇降の際、すっかり習慣になってしまったため息をつくと、私は憂鬱な気持ちになりながらはしごを下りていった。

 

「レイン、髪に寝グセついてるぞ?」

「えっ?」

 はしごから降りた途端、そんなことを告げられて驚く。

 

「その鏡、貸して」

「はい……」

 手に持っていた折り畳みミラーを渡すと、甲さんはそれを開いて私の顔へと向ける。

 

「ほら?」

「……っ!?」

 昨夜布団を頭の上まで被って眠ったためだろう。小さな鏡に映された私の左右の髪に、ふくらんだ寝グセがついてしまっている。それを見た鏡の中の私も同期(シンクロ)して、呆けた顔から驚きの表情へと瞬く間に変化していった。

 

「…………」

 ショックを受けた私はうつむくと、慌てて両手で髪を押さえながら早歩きで洗面所に行き、洗顔をしてすぐに寝グセを直し甲さんの元へ戻った。

 

「失礼いたしました……」

「別にルームメイトだし、気にしなくていいのに」

「気にします!」

 つい、甲さんに対して大きな声を上げてしまう。ひどい、そんなことを言うなんて。私たちはここで両性生物のクソにならなくてはいけないかもしれませんが、貴方の前ではきちんと身だしなみを整えた女性のままでいたいのに。

 

「俺はさっきみたいに、寝グセのついたレインを見られて嬉しかったけどな」

「どうしてですか?」

 何故そんな感想を述べるのだろう。ムッとしながら甲さんに尋ねる。

 

「ここに来てからすっかり完璧になったレインでも、そういう抜けたところがまだ残ってるってことがさ。まあ、俺の前でだけ。かもしれないけど」

「……そうですか」

 私としては、貴方の前でそんな姿を見せるのは恥ずかしいことなのだけれど。貴方に喜んでもらえるのなら、少しくらいなら我慢できるのかもしれません。……でも、ほんの少しですよ?

 私は甲さんのそんな言葉に、割り切れない心境になってしまう。

 

「ふあぁ……」

 うっかり、大きなあくびをしてしまった。甲さんの前でこんなはしたないことはしたくなかったけど、生理現象なのだから私には為す術がない。

 それに対するせめてもの抵抗として。甲さんへ見られないようにするため、両手で口元をしっかりと覆い隠すことを私は忘れなかった。

 

「レインがあくびをするなんて珍しいな、昨日は中々寝つけなかったのか?」

「えっと、その……はい」

 昨晩の秘め事を思い出して顔が熱くなり、口を覆った手で顔を隠したまま、甲さんから眼を逸らす。今目の前にいる人に抱かれる妄想をして自慰を行なったことを、思い返してしまう。

 

「……っ」

 鼓動が、高鳴った。

 

「ふーん」

「…………」

 私が普段規則正しい生活を送っているからだろう。納得がいかない、といった調子の声が聞こえる。口元を隠していた手を少し下げて、胸元で両手を握った。トクッ、トクッ。

 胸に触れた腕から、心臓の高鳴りが、伝わってくる。言えるわけ、ないじゃないですか、あんなこと。……あんな、恥ずかしいこと。そう言いたいのを我慢して、ぎゅっと重ねた手を組む。

 熱を持った顔を甲さんのほうへ向けると、目が合った。

 

「なに?」

「……いえ、なんでもありません」

 先ほどの幼い少年のような表情といい、灰色のクリスマスの直後の彼からは考えられないほどに、落ち着いた顔つきと活力に満ちた瞳。私はそれを見て、あれから長い間留(とど)まっていた胸のつかえが取れていく感覚を覚えた。

 貴方がまた、元気を取り戻してくれて本当によかった。自分から申し出たこととはいえ、亡くなった彼女(空さん)の代わりになることは、私にとって凄くつらい思い出だったけど。

 貴方が少しでも以前の状態に近づけたのであれば、それ以上に喜ばしいことはないんですよ、甲さん。貴方のお役に立ててよかった。今はただ、貴方のそばにいられるだけで。……私は、幸せなんです。

 組んだ手から導かれるように、聖堂へ通った日々が目蓋に浮かび、おのずと祈りを捧げていた。自身の幸福を実感しながら、ただ彼の幸せを願って。――穏やかな春の暖かな日が差し込んだ、陽だまりに似た幸福感で、胸がいっぱいに満たされていく。

 それにつられて、私の頬は次第に緩んでいった。

 

「その様子だと、今日はなにかいい夢でも見られたのかい?」

「あ……」

 私が微笑んでいたからだろうか。甲さんは私に“笑顔”を向けながら、そんな質問をする。あの時の、彼の顔を思い出してしまう。

 

『いやだ。俺は、いやだ』

 入院していた頃に病室で、また笑えるようになるのがいやだと言っていた、彼の悲嘆と苦悩に満ち満ちた表情を。

 

「……そんなところ、ですっ」

 そうやってまた、笑いかけてもらえたことが。太陽のように温かな、貴方の笑顔を見られることが。本当に、本当に、嬉しくて。私は返事をすると同時に、心からの感謝を告げたくて――今の自分にできる限りの笑顔を、彼へと向けたのだった。

 

第二章『貴方の役に、立てたのならば』

終




【補足】作中の「先日の昼間に見た彼の裸身を~」というのは、原作で二回目の休日の昼間に甲さんが半裸で鏡の前でポーズを取ってる所をレインに見られるシーンのことです。

えっちなお話でどれか読みたいと思うものはありますか?ちなみにもちろん全て甲レインで、『記憶を失くした俺と、彼女の初体験』(愛と快楽の会議で最後までする話)が一番書けています。一番内容が薄いのは初日にHする話です…。

  • 愛と快楽の会議で最後までする話
  • 枕代わりに使ってと言われて甲を眠姦する話
  • 嫌がるレインを襲って最後までしちゃう話
  • 愛と快楽の会議でHしないと出られない部屋
  • レインルートの初日でレインとHする話
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