ひょんなことから同級生たちと同棲することになり、楽しいからいいやと油断していたら毎晩毎晩大変なことになった 作:松木ユキ
大学一年生の冬――唐突に、マンションの一室を貰い受けることになった。聞けば遠い親戚にものすごい資産家がいたらしく、遺産相続だなんだということで俺までその恩恵を受けることが出来たらしい。しかもそのマンションは俺の通う大学のすぐ近くにあり、一人暮らしには打ってつけの部屋だったのだ。
これ幸いと実家から引っ越し、移り住んではや数ヶ月。四月に入り、二年生に進級した頃――俺は途方に暮れていた!!
「広すぎる!!」
俺が貰ったのは、なんと百数十平米はありそうな4LDKの部屋だったのだ! いくらなんでも男一人で4LDKは持て余すわ! ってか、リビングだけで暮らせちゃうよ! 掃除が大変なだけじゃねえか!
「はあ……」
食卓でコーヒーを飲みながら、俺はいつも通りため息をついた。あーあ、どうすんだよこれ。一部屋は俺が寝ているからいいとして、残りの三部屋はどうしようもねえな。物置にするって言っても、そんなに荷物もないんだよなあ。
「大学行くか……」
俺はコーヒーを飲み終えると、鞄を持って玄関へと向かった。けどなあ、一度住んでしまった以上は実家に戻るってのも変な話だしな。さてさて、どうしたものか……。
***
「えー? 大島、そんな立派なマンションに住んでんの?」
「まあ、いろいろあってな。正直持て余してるんだよ」
「へえー、贅沢な悩みだなあ」
「家賃取って誰かを下宿させたいくらいだよ、あはは……」
俺は同じサークルの田口と囲碁を打ちながら、冗談を言い合っていた。俺はボードゲームのサークルに入っていて、放課後は部室で仲間たちと遊ぶのが日課だった。今日も講義が終わったので、こうやって駄弁りながら田口と碁を打っているというわけだ。
「ねー、今日飲みに行かない?」
「すいません、今日は無理なんです」
「そっかー、いっつも飲めなくて残念だなあ」
「ごめんなさい、いつか飲みましょうね」
田口は近くに座っていた
柊は長く綺麗な髪をしていて、顔立ちも整っている。背は女子の平均くらいで、胸はあまり出てないがスタイルは悪くない。そのためいろいろな男子がこっそり狙っていたらしいが、柊は飲み会なんかにほとんど参加しないので、大半の奴がチャンスすら得られていないようだ。まあ、きっと彼氏でもいるんだろう。……っと、チャンスだ!
「それ、隙あり!」
「あー、そこは無理だって!」
俺の一手で、向こうの石がたくさん死んでしまった。田口はうんうん唸っているが、流石にこれは勝負ありだろう。全く、勝負中に女子にうつつを抜かしているからだな。
「……負けたよ、大島」
「よっしゃあ! ジュース奢りな」
「ちぇー、分かったよ」
田口は渋々財布を手に持ち、部室を出て行った。これで部室の中にいるのは、俺と柊の二人だけというわけか。まあ、だからって何があるわけでもないけど。さて、もう一戦くらいしたら帰って――
「春くん、今の話は本当ですか!?」
「うえっ!?」
その時、突然横にいた柊に首根っこを掴まれた。ちなみに俺の名前は
「な、なんだよ柊!?」
「さっきのお家の話!! 家賃とって下宿させたいって!!」
「えっ、ええっ!?」
急にそんなことを言われても何がなんだか分からない。や、家賃……? ああ、さっき話してたマンションの話か!?
「お、俺の家の話か……?」
「そう、それです!」
「それで一体なんなんだよ!?」
「私を住まわせてくださいっ!!」
「えええええっ!!!??!?」
突然の言葉に、俺は動揺してしまう。住まわせてくださいって、柊と!? 俺が!? 同棲するってこと!?
「ちょちょちょ、急にどうしたんだよ!?」
「その、私って毎日大変なんです!」
「ってか、一旦離してくれ!」
「あっ、ごめんなさいっ!」
柊はようやく俺の首から手を離した。やれやれ、ひどい目に遭った。柊は落ち着きを取り戻したようで、息を整えて改めて話を始めた。
「えーと、その……実は、私の家って結構遠くて」
「あれ? 都内に住んでるって話じゃ」
たしか入学直後に話したときは都内在住だと言っていた気がするが。
「いや、恥ずかしいんですけど……『東京の人に舐められないようにしないと』と思って、嘘ついたんです」
「え、ええ……」
柊は顔を真っ赤にしてそう言った。東京以外に住んでいると馬鹿にされると思ったのだろうが、その発想が逆に可愛いというか……。しかし、それがどうして俺の家に住むことになるんだろう。
「でも、なんで俺の家に住みたいの?」
「私、毎朝三時間くらいかけて通学してるんです。始発に乗って、何本か乗り継いで、それでもギリギリで……。帰る時も終電が早くて、それでいつも飲み会に行けないんです」
「なるほどね」
なんだ、そういうことだったのか。最初に「都内に住んでる」と言ってしまったものだから、後に引けなくなって皆に打ち明けられなかったというわけだな。
「一人暮らしは出来ないの?」
「私の家、あまりお金が無いんです。一人暮らしするより定期代の方が安いですから……」
「そっか……」
柊は下を向いてしまった。……思ったよりずっと深刻な事情があったんだな。家賃を取って誰かを下宿させたいくらいだ、なんて冗談のつもりで言ったのだが。柊は仲の良い友人だし、一緒に住めば今の寂しい暮らしもいくらかマシになるだろう。しかしなあ、とは言っても同棲ってのはなあ……。
「そのさ、別に住んでもらうのは嫌じゃないんだ。けど、流石に男女一緒に住むっていうのは……」
「えっ?」
「柊だって嫌だろ? 別にうちは普通のマンションだし、特別仕切りとかがあるわけでもな――」
「私が気にしなければ住まわせてくれるってことですか!?」
「ええええええっ!!!!???」
「だって、春くんとは仲良くさせてもらってますから! 一緒に住んでも嫌じゃないですよ!」
「ええっ、じゃあ本当に――」
「住みます住みます! もう朝の満員電車とお別れできるなら何でもいいんです!」
「そ、そっか。じゃあ仕方ないね……」
とびっきりの笑顔を見せる柊に対し、俺はハハハと苦笑いするしかなかった。こうして、俺は柊との同棲生活を始めることとなった。そう、これからドギマギする夜を毎日のように送ることになるとは知らず――