やはり八幡の性春マジカルチンポはまちがっている。 作:ぷうち☆りん
「さっちゃん。ちょっといいかな?」
「さっちゃんは止めて貰えます? 店長……」
裏でうたた寝していると店長がいきなり話しかけてきた。今は小休止の時間なんだけどな……。
経歴を誤魔化して雇われている負い目があるからか馴れ馴れしい店長にあたしはどうも強気に出られない。それに、一応は上司だからね。すまじきものは何とやら……。
「インスタに写真挙げるからさ。ちょっとカクテル作って持ってくれない?」
「えっ、それは……」
あたしは未成年だし特定されたら……。だけど、ここで断るのは不自然だ。どうしよう……?
「頼むよ、さっちゃん」
「はぁ……わかりました。その代わり、あたしの顔は写さないでくださいね?」
「もちろん! ありがとう、さっちゃん!」
店長の満面の笑みにあたしは内心溜め息を吐くしかなかった。
練習がてらあたしはシェイカーを振っていた。何度か試したことはあるけどやっぱりまだ慣れないな。
ともかく、あたしは店長の言いつけ通りにカクテルを作ってグラスを持つと、スマホを構えている店長に声を掛けた。
「はい、どうぞ」
「ありがとー、さっちゃん♪」
カシャッというシャッター音と共にフラッシュが焚かれる。眩しいなぁもう……! ……ってあれ? 今の写真、なんかおかしくなかったかな? 気のせいだといいけど……。
「ありがとね〜。現役女子高生の川崎沙希ちゃん♪ 総武高なんて偏差値60超えのエリート校じゃん。俺みてーな高校中退とは格が違うねェ」
!? 店長の顔つきが変わっていた。さっきまでの針金みたいな細目以外は朗らかな雰囲気はまるでなく、どこか悪意を感じさせるような笑みだ。
「キミの事は合法的な範囲で若いヤツに調べさせたよ。ど〜も20歳にしては幼い感じだなって思ったらこれがドンピシャ。俺の選球眼もなかなかでしょ?」
「ふざけないで!」
声を荒げてしまったが店長はたじろぐ様子はまるでない。
「おいおい、俺達は騙された被害者なんだぜ? 履歴書のコピーもバッチリあるんだワこっちには。 言っておくが警察に行ってもまだ無駄だぞ」
まだ……? 何を言っているのコイツ?
まさか……!! あたしは最悪の想像をした。 全身から血の気が引き、足元がふらつく。そんなあたしに構わず店長は言葉を続ける。
「それに、だ。大志くん? だっけ。
姉さんが如何わしい仕事をしているなんて知れたら進学どころじゃなくなるんじゃないの? 可哀想にねえ。 姉の因果が弟に報いってヤツ?」
「だ、大志は関係ないでしょ!! やめてよ!」
あたしが怒鳴ると店長は更に笑みを深くした。まるで、あたしの反応を楽しむかのように。
「ところが関係あるんだよなあ。大志くんだけじゃなくて妹の京華ちゃんや御両親の勤め先もバッチリ押さえてるからさコッチは。娘さんが高校中退だなんてなったら一家離散コースまっしぐらだよ? あとな、逃げたらテメェの親と妹から潰してやる」
……!! あまりの事態にあたしは膝から崩れ落ちる。もう、あたしには何も残されていない。家族を護れるだけの力も資格もない。それが悔しくて情けなくて涙が出そうになる。そんなあたしを見て店長は満足そうに頷いた。あたしは絡め取られたんだ。まるで蜘蛛の巣にかかった蝶のように……。それかメスカマキリがハリガネムシに寄生されたかの様に食い物にされるんだ……。
「キミ、将来の学費が欲しいんでしょ?
俺がいいバイト紹介すっから♪ さっちゃんクラスなら学費どころか一年で奨学金丸々稼げるって♪」
それが何を意味するのか解らない程あたしは子供じゃない。闇バイトや売春……つまりはクスリの運び屋や身体を売れという事だろう。それも、複数の人間に……。
「い、イヤだ……」
思わず口から涙と共に言葉が溢れる。けれど、その言葉を聞いた店長は信じられないといった表情を見せた。
「え〜っ! 何で嫌がるの!? こんな良い条件他にないよ!! キミみたいな美少女JKが自分から股を開いてくれるんだから男としてこれ以上光栄なことはないよ♪ もっと自分の価値を知らないと」
下卑た笑いを見せる店長に対してあたしは何も言い返せない。悔しいけどその通りだった。だって、あたしは今怯えている。これから自分が何をされるのか解っている。
「ま、取り敢えず屋上のナイトプールに行こうや。展示用の写真撮るからサ」
「い、いやだ……。いやだ……」
力無く呟くあたしに店長は嗜虐的な笑みを浮かべた。そして、ポケットからスタンガンを取り出すとあたしの首筋に当ててスイッチを入れた。強烈な電流が全身を駆け巡る。
「うあっ!?」
身体が痙攣して意識を失いかける。そんなあたしの髪を掴んで無理やり立ち上がらせると、店長はドスの効いた声であたしに命ずる様な声で言う。
「さっちゃんさぁ、あれもやだ、これもやだってガキじゃねンだからさ?
それによ……お前みたいな気の強い女こそ屈服させるのが楽しいんだよなぁ。ハハッ」
『それはどうかしらね、人魚姫さん』
雪ノ下の言った言葉が頭の中でぐるぐる回る……ああ、あたし……もう、おしまいなんだ……とぼんやり考えていると、もう一つの言葉が浮かんできた。
『人魚姫じゃなくて赤ずきんかもな』
ひき……がや……? まさかあいつ……いや、そんな事が有るはずないよね……。
あたし、アイツに色々酷い事言っちゃったし……。
ー
「おいおい比企谷。何をそんなに焦っているんだ?」
俺のいつもらしくない焦りっぷりに手を引かれている平塚先生がたじろぎながら訊いてくる。その問いには答えずに俺は一心不乱に足を動かしていた。
猛烈にイヤな予感がする。それこそ川崎の一生が台無しになってしまうようなとんでもない事が起こりそうな……そんな予感だ! ご丁寧にエレベーターは節電中だと来たもんだ!! 俺は平塚先生の諌めも聞かず階段を駆け上がる! 心臓が痛い! 足も引きつりそうだし息も苦しい。頭も酸欠のせいでクラクラする……!
走れメロスじゃないが何だってこんな事しなきゃいけねえんだ……!?
たかがクラスメートじゃないか……知らんふりしていればいいじゃねえか……!
だが俺の根っこにある邪神様とは違う何かが、ここで向かわなければ取り返しのつかない事になると言っている……! そんな想いで最後の一段を蹴り上げ、最上階へたどり着いた。
すると妙な男に付き添われてどこかに向かおうとする川崎の顔が見えた。
今まで見たこともない様な怯えきった顔をしているのを見て確信した……! やっぱりヤバいことになってやがる!! しかもあの顔……!! 相当追い詰められてる顔だ!!
「カヒュー……ひっ、は、はあっ、ま、待てえっ……!」
我ながら情けない声であったが構わず叫ぶ! いきなり現れた俺に驚いたのは川崎だった。
「比企谷!? あんた……なんで!?」
信じられないと言った表情だった。
そりゃ俺だって不思議だぜ。散々な事を言われたのに半グレ相手にぼっちが助けに来てんだからな……。
こんなにも心強くない味方もそうそうないもんだ。
「ん? 誰キミ? さっちゃんの知り合い?
実は俺達付き合ってンだよね……?
な、さっちゃん?」
半グレらしきハリガネムシみてーな細い目の男は川崎の胸を揉みながらそう抜かした。川崎は泣き笑いの顔になって俺から目線を外して続けた。
「そ、そうなの……。だ、だからあんたは部外者なの……。あたしの事なんかに構わずに帰りなよ……」
明らかなウソだ。コイツはこの状況にあっても俺を巻き込みたくないのだ。由比ヶ浜といい川なんとか……いや川崎といい、優しい奴等だ。こういう優しい奴等が悪いオオカミの食い物にされるだなんて……我慢できるかってんだ!
「違うだろ川崎! 助けてって言え!」
俺の言葉に川崎は一瞬キョトンとした顔を見せた。ああ、知ってるさ川崎沙希という女は素直じゃねえって事くらいよ。でも、今は意地張ってる場合じゃねーだろうがよ!
「……助けて!! 比企谷!」
「ありゃま。とんだ青春白書じゃねえの。
けど、そういう奴等に現実を教えてヤルのって堪んなく好きなんだよねぇー」
半グレの雰囲気が変わった。明らかに今まで何人か殺ってきたであろう反社特有の邪悪なオーラを醸し出している。
こうなったら川崎だけでも……!
「逃げろっ!」
俺は出たトコ勝負で半グレにタックルを仕掛けた! 10秒だけでもいいからとヘロヘロな身体に喝を入れて距離を詰め、引き倒そうとしたが……!
バキッ!! と今までにない衝撃と痛みが襲い目の前に閃光が走った様な気がした次の瞬間、肺の中の空気が全部吐き出された様な感覚に陥った。咳き込むと同時に口の中に血の味が広がる。俺のタックルに合わせて半グレが膝蹴りをカウンター気味に喰らわせたのだと気付いた時には、すでに床に這いつくばっていた。身体中が痛ぇぇぇ!!! しかし、痛みに悶えている暇などないとばかりに半グレは俺の鼻面にトーキックをかました。
グチャッ……とした嫌な感触が鼻から伝わってくる……。折れたのか……? 鼻血がドバドバと流れているのがわかる……。
痛い! 痛い! 痛いっ!!
更にグシャッ! と頭を踏まれて床に擦り付けられる様に押さえつけられる……。
ダメだ……意識が朦朧としてきた……。
『なあ、もういいじゃないか。キミはよくやったよ。十分私を愉しませてくれた』
邪神様の囁きが聞こえる……。
もういいだろう? ここまで頑張ったんだから……。あとは任せろって言いたいのか?
……そうだよな。俺みたいなぼっちがこんなとんでもない反社野郎に勝てるわけねえよな……。このまま眠れば楽になれるよな……。
『そうだとも。あとは私の力でなんとかしてやるとも』
……そうかな……そうかも……?
……違う! 違う!! 違うっ!!!
そうじゃねえ! そうじゃねえんだ!!
勝てるから戦うとか! 勝てないから戦わないとかそういう問題じゃねえだろ!
「うあああああっ!!!」
俺は自分のどこからこんな声が出たのか解らないくらいの雄叫びを上げてタックルを再び仕掛けた。
「やめて!! 比企谷! もういい! もうやめてよ!!」
「五月蝿えーっ!!!」
お前のためだけにやってるワケじゃねえ!
助けたい気持ちもあるが……! 戦っているのは俺だ! 俺の意思だ!
もう見ないふりや俯く真似はしないっ!
「ぐ……! 、あっ!! て、テメェ……!?」
俺の決意、あるいは逆ギレが功を奏したのかタックルに対しての膝蹴りに対して頭突きのダブルカウンター! たぶん奴の膝にヒビくらいは入ったはずだ……! そして怯んだ隙を狙ってそのままアキレス腱に思い切り噛み付いた!
まるで暴れ馬ばりの凄まじい蹴りが飛んでくるが俺は鼻が潰れかけ前歯が折れているにも関わらずひたすら噛み付いていた。
皮膚が裂け、血が噴き出しても離さない! いや離せない! 離したら最後だ! 今だけは死んでも離すものか!!
「ギャアアアッ!! このクソガキィ!!
ぶっ殺してやるっ!!」
シャキン、と折り畳み式のナイフを取り出して肩にブスリと突き刺してくる……! だが、それでも、絶対に、離れない……!! そんな時、視界の隅に川崎が見えた。恐怖で怯えて泣いている様だ。そりゃそうだ、誰だって怖いわな……。
「私の生徒に何をするかっ!!」
直後、平塚先生の怒号と共に半グレの顔にアラサーストライカーによるフリーキックが放たれた。おお……すげえ……なんか格ゲーばりに芸術的な軌道を描いて顔面にヒットしたぞ!? 先生は俺と川崎を守る様に立ち塞がり続ける。 だが、その足はガクガク震えていた。 当たり前だ、先生だって本当は恐くて仕方ないのだ。なのに何でこの人はこんなに頑張ってくれるんだろう。この人もまた誰かのために頑張れる人なのだ。 教師としてではなく、人間として立派だと思った。 あ……ヤバい……意識が……。
ー
「……見知った天井だ」
俺はふとそんな風にひとりごちた。
だってこれで2回目だぜ? 人生で2回も同じ救急病院に運ばれるだなんてそんなヤツいるか? 顔の傷は邪神様が治してくれていたらしいが肩の傷は治してくれなかった様だ。
『いや、そうしないとさァ。半グレくんが川なんとかさんを脅して夜の店で働かされていた所を前から不審だなーとクラスメートとして心配していたキミが平塚先生を呼び出して助けようとした。ところが実はヤク中の半グレくんが突然ブチ切れてキミをナイフでぶっ刺したというストーリーが成立しなくなっちゃうから。あと、半グレくんは搬送中に違法薬物の過剰摂取による心臓麻痺により死亡だってさ。クスリ、ダメ、ゼッタイ』
うわー……怖いなー(棒読み)
麻酔による夢現な状態なためか現実世界でもコンタクトを取ってくる邪神様はそうおっしゃいますが平塚先生とか川崎の将来はどうなるんです……?
あとストーリーがガバガバすぎますって。
スカッと系の動画じゃないんですから。
『そこはほら川崎さんは被害者だから無罪放免。 平塚先生は生徒のために奔走した熱血教師の鑑。 キミはまあ……半グレ相手に大立ち回りする様なキレると何するかわからん不良を通り越したヤベー奴って扱いになるけど、それは諦めてね?』
それで一週間の停学処分ですか……。
泣けてきた。ぐすんぐすん。いや、実のところ川崎が助かったからあまりイヤな思いはしてないんだよな。
しかし進学とかは大丈夫なのか、いや小町の進路に影響は出ないのか、そんなヤツに分け隔てなく接する由比ヶ浜や戸塚に悪い噂は立たないのか、まあ材木座は別にいいか、と色んな事が頭の中を駆け巡っていると……。
「入って……いい?」
「もう入っているじゃねえか」
川崎が気まずそうに見舞いに来た。
別に気にしなくてもいいのにほぼ毎日の様に見舞いに来てくれる。ついぞんざいな口調になってしまった。
「ゴメン……あたしっていつもこんなんでさ」
「いやいや真面目か。そういう時は『わざわざ見舞いにきてやったのに何よその態度』とか『あんたの為に来てやったんじゃないんだからね!』とか言ってくれればいいんだよ」
「……あんたさ、そういうのがタイプなの?」
伏し目がちかつ照れながら川崎はまたしてもバカ真面目に聞いてくる。うーん、これはアレですね……。コイツ、チョロインってやつですよ!
「冗談だよ。それよりお前は怪我なかったのか?」
「うん、大丈夫だったよ……」
「そうか、良かった」
「あのさ、ありがとう……助けてくれて」
「ああ、気にするなよ。俺が勝手にやった事だしな」
「ううん、あんたが来なかったらあたしは今頃どうなってたかわかんないよ。……近くに座っていい?」
「嫌だ」
嫌だって言うのに川崎は何も言わずに椅子へ座りやがった。しかも距離が近い!
「あんたってさ、ホント素直じゃないよね」
「お前程じゃねーよ……。それはそうと俺はお前に紹介したスカラシップ制度を利用して親の金を中抜きしたのがバレて散々なんだぞ」
「流石にそれはあんたの自業自得だよ。
悪いけどそこまで面倒みきれないから」
頼みもしていないのに由比ヶ浜が見舞いに持ってきた林檎の皮を向いていた川崎は俺の与田に対して嘗ての彼女を彷彿とさせる姿になる。
「川崎はやっぱりそういう感じの方がやりやすいな」
「あたしが言うのもなんだけど、アンタも大概捻くれてるよね……」
そう言って苦笑いしながら優しく俺の肩を撫でる川崎の手はとても優しかった。まるで母親が子供をあやす様な仕草……ではない? 何か話の流れが変わってきた!?
切りわけたりんごを咥え、俺の首筋に手を伸ばして来た川崎はそのまま俺の身体を引き寄せるとキスをしてきた。え!? マジで!? ちょっと展開早すぎない!?
「愛してるよ……♥私の猟師さん♥」
顔を真っ赤にさせながら告白までしてきた!? この間の赤ずきんの事を言っているのか!? ばっ……あれは雪ノ下の言葉に対しての合いの手みたいなモンだ!!
『抱けーっ! 抱けーっ!! 抱けーっ!!!』
じゃかましいわ!! この邪神がっ!!
結局いいタイミング(?)で材木座が見舞いに来たから事なきを得たが……。