「えっ! もう討伐されたんですか!?」
魔物の討伐を専門とするハンター協会。
その受付で新人の受付嬢が驚愕の声をあげていた。
「あ、あの……討伐の証明部位はありますか?」
疑惑の目を向けられた淫魔ハンターは、最近ではこういうのも珍しいな、と懐かしさを感じながら小さな包みを取り出した。
薄っすらと血の滲んだ小袋。袋の紐を解けば、その中には淫魔討伐の証である切り取られた尻尾の先端が入っていた。
逆さにしたハート形のような形をしたそれは紛れもなく淫魔の物であり、念のため魔道具によって調べると、中級以上の淫魔であることがすぐに判明。
虚言ではなかったため受付の少女は即座に頭を下げた。
証明部位の提出はハンターの義務なのだが、それでも疑ってしまったことに対して誠意を見せる。
「も、申し訳ございませんでした。難度Bの淫魔討伐おめでとうございます。それでは成功報酬です。ご確認ください」
「ありがとうございます」
気にした様子のない彼女の凛々しい微笑みに、受付の少女はドギマギしてしまった。
金貨の枚数を確認すると、彼女はすぐに受付を後にする。
その後ろ姿に受付の少女はただ感嘆して「ほぇー」と間の抜けたような声を漏らした。
「あの、先輩……早すぎませんかね? あの人結構高名なハンターさんだったり?」
中級淫魔ともなれば歴戦のハンターでも入念な準備と計画を立てなければ危険とされている。
クエストの場所はここから二日ほどの位置にある。
受注したのが三日前なので、往復の時間も考えれば余程時短を重ねなければあり得ないほどだ。
受付嬢として日の浅い彼女が驚いたのも無理はなかった。ほとんど歴代の最短記録に近い。
「あなたはシオンさんと会ったことなかったの?」
「ええ!? さっきの人があのシオンさんなんですか!?」
その名前は協会の新人も耳にしたことがあった。
先程のは最短記録に近い討伐期間だが、その”最短記録”を出したのがシオンなのだから。
「そそ、数少ない”S級”のハンターの一人よ」
そんなとんでもない人物に失礼なことを言ってしまったと、少女は慌てる。
しかし、先輩の受付嬢はシオンの人となりを知っているため特に焦った様子はない。
「あの人はとても理知的で優しい人だから大丈夫よ?」
「うぅ、本当ですか……?」
S級のハンターは貴族並みの影響力を持つ。
下手な身分では声をかけることすら烏滸がましい、と言う者もいるほどだ。
(怒らせたら私の今後なんて簡単に決められちゃいますよね……ど、どうしましょう)
明日無職になっていたらどうしよう、と新人は先ほどのことを思い返し、渇いた笑いを零すのであった。
◇ ◇ ◇
艶めく紫色のショートヘアを揺らしながらシオンはギルドを後にした。
肩を出した軽装。下も太腿を大きく見せるホットパンツといった動きやすさを重要視した格好だ。
ハンターは淫魔の持つ体液やフェロモンを防ぐために重装備、または魔道具で対策し討伐に挑むことが多い。彼女は後者だった。
最短で最速。一瞬で決着をつける超短期戦スタイルが彼女の戦闘だ。
人体を害する淫魔への対策に購入する魔道具は高額な装飾品だが、命には代えられない。
今日も魔道具店で何か掘り出し物はないかと、棚に置かれた品を眺めていた。
(今回はあまり良い物が揃っていませんね……なら無駄遣いすることもないでしょう)
先程の報酬で平民の一家のひと月分以上の生活費は確保できていたが、それでも不要な部分における節約を心がけているシオンはあっさりと踵を返す。
その際、ゆさっと大玉スイカのような乳房が揺れシオンは大きく溜息を吐いた。
(ハァ、また大きくなっているような……動きづらいんですけどね)
身長172センチのシオンではあるが、その女性にしては高身長な体格であっても彼女の胸部は目を引いた。
豊かすぎるほどに発育を遂げたスリーサイズは上から115・62・102といった女性からの恨みをダース単位で買うような抜群のスタイル。
過剰に成長したメートルオーバーサイズの胸だというのに形は強靭なクーパー靭帯によってツンと上を向いた張りのある形状。
そして、腰のくびれと豊かなヒップとのコントラストが暴力的なまでの美しさを醸し出していた。
深い紫のつり気味の瞳。鼻梁は整い、その造形は完璧な左右対称。
すらりと伸びた健康的な白い手足。全体的に細身ではあるが、身体は息を呑むほどに淫らで美しかった。
女性らしさを帯びたプロポーション。通行人たちの視線の多くは、彼女の絶世と形容できるほどの美貌と、しなやかな美脚やくびれ、Mカップの乳房へと向けられている。
同性でさえ思わず息を吞んでしまう程に完成された美貌。
劣情、羨望、嫉妬。
男女問わず様々な感情を向けられて、シオンは二度目の溜め息を吐いた。
(重いだけですし、邪魔なんですけどね……)
もう少し小さかったら、というのは贅沢な悩みなのだろうか。
(とはいえこの身体目当てで淫魔も寄ってきますし、ある意味ではありがたいかもしれませんね)
複雑ながらも自身のコンプレックスをそう肯定した。
それからシオンは寝泊りしている宿屋の一室に入る。
一人になれたことで視線を感じなくなりようやく一息つくシオンだったが、気を引き締め直すと彼女は、とある事件の少ない手がかりの情報資料を机の上に広げた。
十年以上前の古びた資料の紙束。
「ここから北西の辺りは粗方調べましたね……となると次は……」
ハンター協会にて新しく入手したものと、インクで印のつけられた地図などを見比べて深く考える。
これは全て復讐のための下準備だった。
それは十年以上前のこと。
シオンは幼い頃に一緒に暮らしていた妹と共に、淫魔に連れ去られていた。
「っ!」
肉体に刻まれた調教の記憶。
彼女自身は何とか逃げることができていたが、その後遺症は決して軽い物ではなかった。
それを想起したシオンは下腹の奥がキュンと甘い疼きを発したのを感じる。
しかもそれはただの発情というにはあまりに重すぎるものであり、今の一瞬で感じた疼きは子宮が引き絞られるかのような強烈なものだった。
先程まで冷静に思案していた彼女の身体は、一瞬で何年も焦らされ続けた身体が愛撫を渇望しているかのような状態に陥ってしまう。
背筋にピリピリとした悦楽が走り抜け、くんっとしなやかな身体を弓なりに仰け反らせた。
思わず腕で身体を抱いてしまう。
「くぅ……あぁ……ん……ッ!」
腰がくねり僅かではあるが情けない前後の動きを繰り返し、膝がガクガクと震えている。
どれだけ切なげに身を捩っても欲望はほんの1割も満たされず、シオンは思わず自慰行為に耽りそうになってしまう手を必死に留める。
もどかしい感覚に悶えるシオンだが、それでもなんとか平静を保つ。
呼吸を整え、胸の鼓動を落ち着かせて、身体を鎮める。
そんなシオンの身体を蝕む疼きは今や理性を崩壊させる一歩手前まで来ており、彼女はそれを必死に歯を食い縛って抑え込んでいた。
先程から断続的に襲ってくる甘い衝動。
子宮が収縮するような感覚に、机に肘をつき豊かなお尻を突き出したような状態でガクガクと身体を震わせてしまう。
身体の芯から溢れてくるような熱と甘美な切なさ。
シオンの額に玉のような汗が滲み、荒くなった息遣いはなかなか治まらない……彼女は無意識のうちに潤った股間に手を伸ばしていた。
「ハァハァ……くっ!」
マズい、このまま呑まれてはいけないと大きく呼吸を吐いて気を落ち着けると、強靭な精神力で身体の奥底から湧き上がるリビドーを抑え込んだ。
(ま、また、ですか……)
荒くなった呼吸を落ち着けると、忌々しげに表情を歪める。
淫魔の根城から命からがら逃げ延びてから始まった症状。
それは日常に支障をきたすほど淫らな後遺症だった。
一度味わった敗北は魂にまで刻まれ、その屈辱と苦痛はシオンの心と身体に深く根付いている。
淫らな身体にされてしまったシオンは、日常のふとした瞬間にさえもその刺激を求めるようになってしまったのだ。
異常なまでに変質してしまった肉体の疼きは日を追うごとに強くなっている。
そして、その疼きが強まれば強まるほど、淫魔に敗北し、屈服させられた時の快楽が鮮明に思い出されてしまう。
心が折れるほどの調教を思い出してしまい、それを求めて浅ましく身体が反応してしまっていた。そして、耐え難い程の欲求が膨れ上がってしまう。
元々人一倍敏感だった自覚はあった。
しかし、今のシオンの身体はその比ではない。
感度を抑える魔道具『不感の指輪』を着けていなければ歩くことさえままならないほどに開発されてしまっていた。
指輪を外せば歩くだけで全身が感じて、風が吹くだけで腰は砕け愛液が噴き出る。
肌表面への軽い愛撫で悶え狂い、状況によっては淫語を囁かれるだけで触れられることなく絶頂を予感してしまう。
常に気を張っていなければそれほどの快感を発し続ける極限の感度。
淫らに開発されてしまったシオンの肉体はもはや全身が弱点と言っても過言ではなく、正しく身体中が性感帯の結晶のような状態であった。
淫魔の調教は何でもない箇所さえも性感帯に改造し、元々のシオンの性感帯を更なる弱点へと変質させている。
高価な魔道具を着けて感度を抑えていてもその感覚は常人の数倍以上。淫魔と戦うにはあまりにも致命的だ。
特に乳頭部。
調教によってあらゆる刺激に怯え隠れるように退化した陥没乳首はシオンにとっての醜いコンプレックスになっていた。
色素が濃い肉厚なパフィーニップルは下着の類が無ければ服に擦れるだけで全身が震えてしまい日常生活もままならない。
そして、何よりその内側が問題だった。
勃起し豊かな媚肉の中から顔を出すのはMカップの爆乳に見劣りしないやや中太りした長さ2~3cm程の巨大な開発済み乳首だ。
僅かな刺激や発情をトリガーとして顔を出し、完全に姿を現してしまえばこれ以上ないシオンの急所となってしまう。
女王級淫魔によって作り替えられた乳首。そこに張り巡らされた快楽を感じるための神経の量と密度は調教を受けたクリトリスをも遥かに上回る。
醜く埋もれた乳首は勃起すれば空気の流れにさえも愛撫され、耐え難い疼きを発し続ける淫宝玉。
高位の淫魔によって擦り切れるほどに調教を繰り返された陥没乳首は、次元の違う感度故に自分の手であってもろくに触れることさえ躊躇われるシオンの極点だった。
指輪が無ければ下級の淫魔にだろうと苦戦を許してしまう。
戦闘スタイルを短期決戦型に振り切っているのはそのためであった。
幾度もあの女王級淫魔――クロハに堕落と屈伏を味あわされた身体の弱点を突かれる前に決着をつける。
実際それでS級のハンターにまで登り詰めたのだから、シオンの過酷な努力と才能は本物だったということだろう。
しかし、もしクロハと出会ってしまえば短い時間で決着がつかない場合、危険度は跳ね上がる。
もし再びあの地獄のような快楽を与えられてしまったら、自分はもう立ち直れないのではないか?
シオンはそう予感せずにはいられなかった。
「……弱気になっては駄目ですね」
そんなシオンが絶望することなく今も生きているのは復讐のため。
シオンと共に調教を受けた妹はその過程で命を落としている。
彼女は妹の亡骸を置いて逃げてしまっていた。
肉欲に疼く身体を必死に抑え込みながら、いつかあの淫魔を殺すためだと自分を納得させて……
それは後悔してもしきれない彼女の弱さだった。
自分の幸せの全てを奪った淫魔を殺すために過酷な修行にも耐えてきたのだ。
だからこそ彼女は淫魔を殺すハンターになった。
「ユノ……」
思わず口を出るのは妹の名前。
当然その言葉に妹が答えてくれることはもう二度とない。
幸せだった。
子供ながらにその時間が永遠に続くと朧気に信じていたのだ。
なのに――今でも彼女の記憶にある妹が無念を訴えかけてくる。
シオンはぎりっと歯を食いしばった。
「クロハ、お前は絶対に許さない……いつか必ず喉元に刃を突き付けてやります……!」
劣化することのない感情は未だにシオンを炙り続けている。
彼女は静かに闘志の火を燃やすのだった。