今回は次回への繋ぎでもあるのですが、自分で次話が納得行くものが書けなければ書き直すかもしれません。その際は申し訳ありません。
タグについては、キャラとして登場したら追加いたします。
それでは本編をどうぞ!
外出の支度を終え、少し遅めの朝の空気のなか、蓮夜とラヴィニアは、イタリアにある自分たちの所属する魔法使いの協会のひとつ、〝灰色の魔術師〟を訪れていた。
多くの魔術師、魔法使いが集う施設内の通路を蓮夜は、ラヴィニアと腕を組んで歩く。
協会内でも有名な蓮夜とラヴィニアのふたりが連れ立って歩けば、目立つものだが協会所属の者ならふたりの関係も承知している。一瞥したあとは、自分たちの研究などに戻っていき、未だ驚いたり羨んだ視線を向けるのは新参者くらいなものだった。
そんな好奇の視線をスルーし、蓮夜とラヴィニアは目的の場所までやってきた。
漆喰の厳かな扉を蓮夜がノックすれば「どうぞー」と軽い声で応じられた。
蓮夜が「失礼します」と扉を開き、ラヴィニアもそれに続くと落ち着いた内装の部屋、窓を背にしたデスクに座っていた男性が笑顔で迎えた。
「──やあやあ、ふたりとも。よく来てくれたね」
「いや、少し遅くなりました父さん」
「お待たせなのです、メフィスト会長」
蓮夜とラヴィニアは、机を挟んで並んで向き合った男性にそう応じた。
メフィストと呼ばれた彼の名は、メフィスト・フェレス。
番外の悪魔に名を連ねる男性。高名な占星術師、降霊術師、錬金術師であった初代ゲオルク・ファウストと契約したことで知られる伝説の悪魔のひと柱だ。
赤色と青色の毛が入り乱れた頭髪はぴったりと固めて、切れ長の両眼は右が赤で、左が青というオッドアイ。蓮夜の瞳は、そんなメフィストの左目が遺伝した形だ。
基本的に正体は公にしておらず、協会である程度の特権を得た術士にのみ明かしている。
リベラル派の自由主義であるため、要求ばかりしてくる初代魔王とは仲が悪かったが、あれこれうるさく言わない二代目魔王との関係は良好。
そんなメフィストは、現在ひとりの人間の妻を持ち、ひとり息子を設けている。それがフェレス家の二代目である蓮夜だ。
そういった関係から協会では、正体が公になっていないメフィストから蓮夜にはよく連絡が入る。その用件は、ただの親子の話から協会の理事と魔法使いとしての話からいろいろだ。
そんなメフィストから不意にやってきた連絡は、親子の話から始まった。
「いやいや、構わないさ。急な呼び出しだったしね。それに、蓮ちゃんとラヴィニアちゃんが仲が良いのは、将来ラヴィニアちゃんの養父にもなる身としては嬉しいさ」
メフィストは、そんなふうに気安く応じた。
「それはいいけど、いい加減〝蓮ちゃん〟はやめてくれないか、父さん? 俺も今年で十七歳、高二だぞ」
「はっはっはっ。僕にとっては、まだまだ幼く手のかかるかわいい息子さ」
「そりゃあフェレス家の初代である父さんからすれば、二十年も生きてない俺なんていつまでも赤子みたいなもんだろうけどさ」
もう何度目になるかわからない苦言を呈してもメフィストは、堪えた様子もなく陽気に笑っており、蓮夜は短く溜め息をついた。そんなふたりをラヴィニアが微笑ましそうに見つめている。
それに気づいた蓮夜は、気を取り直して話の先を促すことにした。
「それで、今日はなんの用だよ、父さん?」
「うん、実は蓮ちゃんに頼みがあるんだ」
そう言ってメフィストは立ち上がり、ふたりにソファーを勧める。
蓮夜とラヴィニアが並んで革張りのソファーに座り、メフィストはテーブルを挟んでふたりと向き合う形でソファーに座った。
メフィストが指をパチンっと鳴らせば、ティーポットやカップ、ソーサーなどが宙を舞って紅茶を淹れ、テーブルに三人分のソーサーに乗ったカップが置かれた。人数分の砂糖やミルクも供えられている。
蓮夜とラヴィニアが紅茶で喉を潤したのを見て、ひと息ついたところでメフィストは口を開く。
「さて、頼みというのはだね。ふたりには、ちょっと日本まで出向してもらいたいのさ」
「また日本に?」
「また何かあったのです?」
蓮夜とラヴィニアは、目を細める。また、というのはふたりは四年前にもいろいろとあって日本に出向いていたことがあったからだ。
「いや、何かあったというよりかは、これから何かあるかもしれないといった感じかな」
「……また曖昧なことを」
「ははっ、すまないね。ちょっと手慰みに今後のことを占ってみたんだ。そうしたら、近い将来、日本に動きがある、かもしれないと出てね」
あのメフィスト・フェレスの占いだ。紛いモノとはわけが違う。半信半疑だった蓮夜も、真剣になる。
「……いまの三大勢力間の膠着状態が変わると?」
「それは謎さ。良くも悪くも冷戦中ないま、何が、どのように転ぶかはわからない。だが、それが日本が中心になるというのは間違いないよ」
蓮夜の問いにメフィストは、曖昧さと確実さを含んだ答えを返した。
「さて、どうする? すべては、蓮ちゃんに任せるよ」
(……まあ、最近は魔法の研究や、槍術と体術の修業ばかりだったしな。久しぶりに日本……母さんの故郷に行くのも悪くないか)
メフィストの笑みに蓮夜は、内心そう考える。それに、どうせ答えもわかっているのだろうとも思う。
「……行くのは構わないけど、俺たちは四年前に少しいろいろあったからな。また日本に向かうなんてなったら、各勢力とかうるさくないか?」
「少なくとも、五大宗家や堕天使勢力は、何か言ってきそうなのです」
「ああ、それは大丈夫さ。関係各所にはすべて通しているしね。住む場所とかもすでに確保済さ」
蓮夜とラヴィニアの心配は、メフィストによって軽く片付けられた。
「ずいぶんと準備がいいな」
「まるで、最初から私たちが行くことをわかってたみたいなのです」
「ははっ、そんなことはないさ。たまたまだよ、たまたま。長生きしていると、いろいろと根回ししておきたくなるものなのさ」
蓮夜とラヴィニアに半眼で言われ、メフィストは朗らかに笑って受け流す。相変わらず読めないが、少なくとも自分たちをハメることはないだろうと、ふたりは考える。
蓮夜は、ラヴィニアと視線を交わして頷いたあと、メフィストに向き直った。
「……まあ、それはいい。それで、日本といっても、日本のどこに?」
「ああ、日本の地方都市、駒王町さ」
「駒王町……誰かの縄張りだったりするのか?」
「うん。グレモリーの次期当主、リアスちゃん。シトリーの次期当主、ソーナちゃんのふたりが居るよ。リアスちゃんが駒王町、ソーナちゃんはその隣町が領地だね」
聞いなこともない町だったが、続いて出た名前に聞き覚えのあった蓮夜は顔を顰めた。
「あのふたりか……」
──リアス・グレモリー。
──ソーナ・シトリー。
どちらもある意味で有名な若手悪魔で、良くも悪くも上級悪魔らしい悪魔だ。
「ははは、ずいぶんと嫌そうだねぇ」
「〝そう〟ではなく、嫌なんだよ父さん」
良くも悪くも上級悪魔らしい、悪魔の貴族令嬢がふたりで連れ添っている。
そんな場所に行くともなれば、さすがの蓮夜も頭を痛めた。
(たしか、ひとつの学園をふたりで分割管理してるんだったか? 珍しいことだが、噂どおりのふたりか、それとも違うのか……なんにしろ、なんらかの渦中になるってことならある意味で妥当ではあるな)
うんざりするが、噂でしか知らない以上、ひとまずは会って確かめ、対応を考えればいいと蓮夜は思い直す。彼は、何事も自分の目で見て、耳で聞いて、直接関わってから判断するようにしている。
噂どおりの人物とは限らない、そんな一縷の望みもあるにはあった。
(悪魔に希望なんてあるかは知らんがな)
そう、皮肉げに思う蓮夜は、臨機応変に頑張ろうと割り切った。
「……わかりました。その仕事、お請けします」
と、蓮夜は公私を割り切って父親ではなく、協会の会長であり、最古参の最上級悪魔でもあるメフィスト・フェレスに対してそう応じた。
メフィストも、自慢の息子に父親としてかっこいいところを見せたいのか、真面目に応える。
「うん、悪いけどよろしく頼むよ。こちらでも、可能な限りのバックアップはするからさ。当面のお給料や研究費用も変わらず出すしね」
「わかりました。眷属は、みな連れて行きますが……」
「もちろん構わないさ。蓮ちゃん──いや、蓮夜。キミの眷属だからね。好きにしなさい。むしろ彼女たちのうち誰かを置いて行かせたなんてなったら、僕といえどもあとが怖いよ」
そう言ってメフィストがラヴィニアを見れば、彼女は「当然なのです」と頷く。
「レオくん、私を置いて行ったらやなのですよ?」
「ああ、わかっている。当然、眷属はみな連れて行くさ」
蓮夜も当たり前と頷く。今更彼女たちと離れて生活することは、蓮夜にとっても考えられないことだった。
しかし──
(日本に行って環境を変えたら、もしかしたら新しい眷属候補にも出会えるかもしれないしな)
──とも蓮夜は考える。最近は、気に入った相手もあまり見つからず、眷属集めも滞り気味であったため、そんな期待もあった。
そうと決めたのなら、善は急げと蓮夜はソファーから腰を浮かせる。
「さて、そろそろ行きます。日本に行くなら、いろいろと準備があるので」
「ああ、蓮ちゃん。ちょっと待ってくれるかい? まだいくつか話があってね」
「そうなんですか? ならラヴィニア。先に戻って眷属たちに今回のことを通達しておいてくれ。どうせ日本に向かうにも、二、三日は準備に時間がかかるしな」
「はい、お任せなのですよ」
しかし、それをメフィストに引き止められた蓮夜は、ソファーに座り直すとラヴィニアに指示を出した。
「ああ、荷造りなんかの主導はシルファに任せる」
「了解なのですよ」
蓮夜の言うシルファというのは、彼専属のメイドであり、眷属でもある剣士だ。
指示を受けたラヴィニアがソファーから立ち上がると、メフィストは、今度は彼女にも声をかける。
「──ラヴィニアちゃん」
「はいなのです、メフィスト会長」
「蓮ちゃんのことをよろしく頼んだよ?」
「はい、任せてくださいなのです。レオくんは、私が……私たちがしっかり支えるのですよ」
メフィストは、ラヴィニアの様子に安心したというふうに微笑を浮かべ、彼女の背中を見送った。
そして、ラヴィニアが退室し扉が閉まった音を聞き、少し冷めた紅茶を口にした蓮夜がカップをソーサーに置くと切り出した。
「──それで父さん。話とはいったい?」
「うん。日本への出向を頼んでおきながら悪いんだけど、出立前にちょっと仕事をこなしてもらいたいんだ」
「……ああ、なるほど。実際に行ってみてからでないと、どうなるかはわからないが、日本に行ったらしばらくは協会──というかイタリアには戻って来れないからな」
メフィストの話に蓮夜は、納得げに頷く。
蓮夜は、〝王〟としてだけでなく、〝灰色の魔術師〟所属の魔法使いとしてもさまざまな仕事や責務が存在している。
そんな蓮夜がおそらく長期の間、協会を離れるとあっては、少なくない滞るものがあるのだ。例え今回の出向も仕事の内だとしてもだ。
「そういうことなら、引き受けよう」
あっさり承諾した蓮夜にメフィストは、申し訳なく思いながらも微笑を浮かべる。
「ありがとう。すまないね。急な話が立て続けになってしまって」
「別に構わないよ、父さん。やるべきこと、やりたいことが一致しているんだしな。それなら、それは俺の仕事だ」
「そうかい。そう言ってもらえて助かるよ。──さて、早速だけど仕事の内容についてだ」
本当に気にしていない様子の蓮夜に、メフィストは我が子ながら頼もしくなったな、と嬉しく思うも居住まいを正した。
父親ではなく協会理事としてのメフィストを前にし、蓮夜も居住まいを正して相対する。
メフィストは、組んだ両手に顎を乗せて話を切り出す。
「仕事の内容としては、はぐれの魔術師が持ち出した御禁制の品の回収だよ」
「……御禁制の品、ですか?」
「うん。どうにも協会を抜ける際に
「なるほど……ちなみに、その御禁制品とは?」
「使用者の願望を叶える、とされているものさ」
「願望を……」
御禁制品と聞いて嫌な予感がしていた蓮夜だが、内容を聞いてそれは確信に近いものへと変わった。
「蓮ちゃんの想像するとおりさ。たしかに、願望は叶えてくれる。だが、それはその願いを歪んだ形で叶える呪いのアイテムなのさ」
例えば大金が欲しいと願えば、使用者を乗っ取って周りの人間を皆殺しにし、財産を奪ったあとに体を返す。
例えば恋人が欲しいと願えば、使用者の体を乗っ取って異性を殺してその体を抱きしめた状態で体を返す。
過程も結果も最悪だが、文字通りに欲しいモノが手に入るのだ。
「……頭が痛くなる話だな。まさに悪魔的だが」
「そうだね。僕たちに限らず、有史以来、何かを得るためには、何かを奪う必要がある。だからある意味では、それを突き詰めただけになるね」
「かといって許すわけにはいきませんね。協会を追放されたような輩が、何を願うかなんてわかりきってますしね」
自分を認めなかった者たちに復讐を。そう願えばどんな歪んだ災厄がこちらへ降りかかるかわかったものではない。
「もちろんだとも。蓮ちゃん。キミの任務は、御禁制品の回収もしくは破壊。はぐれ魔法使いの討伐。このふたつだ。最悪、前者だけは必ず果たしてもらいたい」
「了解です。どちらも必ず果たしてきます」
「うん、頼もしいね。お願いするよ」
「任せてください」
「よろしく頼むよ。詳細は、蓮ちゃんの端末にデータとして送っておくからね」
「わかりました。早速出ます」
メフィストとやり取りを終え、蓮夜は端末にデータが送られてきたのを確認すると、ソファーから立ち上がって部屋をあとにしようと扉のドアノブに手をかけ──
「蓮ちゃん」
そこへメフィストに声をかけられ、動きを止める。
「これは、理事としてではなく父親としての言葉だ。──気をつけるんだよ」
「……ああ、父さん。行ってくる」
優しい声音に力強く返し、蓮夜は今度こそ部屋をあとにするのだった。
END
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