※この作品はR-18です。

ハイスクールD×D〜聖魔の槍使い   作:星屑の騎士

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まず一話書き直しました。目を通していただけたら幸いです。

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眷属+α集合

 

 ──夢を見ている

 

 それを明晰夢と呼ぶと理解しながら、蓮夜はかつての自分と師匠になってくれたクー・フーリンとの初めての修業の風景を俯瞰する。

 

「──よし。んじゃまあ、まずは走り込みからいってみっか」

 

「槍を教えてくれるんじゃないんですか、師匠?」

 

 クー・フーリンの言葉に首を傾げて不満そうな当時の自分を見て、蓮夜は我ながらこのときの自分はわかってないな、身のほど知らずだなと苦笑を浮かべて呆れる。

 

 それはクー・フーリンも同じなのか、または別の理由か、苦笑すると蓮夜の頭をわしわしと乱暴に撫でて未熟な弟子に説明する。

 

「ああ、約束だからな。もちろん、いずれ教えてやるさ。だが、おまえさん、父親が魔法使いの協会の理事で魔法ばっか勉強してたろ? んっなもやし小僧にいきなり槍なんて持たせられっかよ、危なっかしい」

 

 そう、体作りなどまったくやったことないとひと目で見抜いていたクー・フーリンからしたら、いきなり槍術を教えるなどあり得なかった。まずは、槍術を教えるための教えが先である。

 

「確かに魔法使い、お貴族さまならそれでもいいがおまえが覚えたいのはそうじゃねぇだろ? それに何をするにしても体力がないと話にならねぇ。だからまずは、体作りからだ。槍を持ってもふらつかない、構えて振れるてめぇになってみな。話はそれからだ」

 

「なるほど……わかりました、師匠!」

 

(ほんとに我ながらこのときは、どれだけ無謀なことを言っていたのか……いまならよくわかるな)

 

 夢の中の自分といまの自分が同時に納得し、蓮夜は苦笑する。

 

 かつてのインドア派な己では、槍など握っても振るどころか構えることすらできずによろけて転ぶだけに終わることがよく理解できていた。

 

 素直に頷く昔の蓮夜にクー・フーリンは面白そうに笑って言う。

 

「おっ、言ったな? ならまずは、そうだな……とりあえず一週間ほど走り込みすっか」

 

「一週間、ですか? それだけでいいんですか?」

 

 一週間の走り込みなど人間でもできる、と考えた当時の自分に蓮夜は、すぐに考えを改めることになるんだよなぁ、と苦笑する。

 

「あ? なに勘違いしてやがる。一週間ってのは、走り込みの時間のことを言ってんだぜ」

 

「……いやいや、冗談ですよね!? 普通に死にますよ!?」

 

 そう、クー・フーリンは一週間のなかの決まった時間ではなく、一週間休まずに不眠不休で走り続けろと提案していたのだ。

 

 あまりの認識の違いに驚くかつての自分に、蓮夜はいまでこそ当たり前にできるがわかるぞと何回も頷く。

 

「修業にそんなくだらねぇ冗談言わねぇよ。言っとくが一秒でも止まったら最初からカウントやり直しな。あ、眠気や体力切れは気にすんな。ルーンでちょいちょいっと回復してやっからよ。飯は、オレ特製の栄養価が高い果物をくれてやるから走りながら食え。そうすりゃあ腹が膨れても動けるようになるからな。どうだ、優しいだろ?」

 

「あまりのことに涙と震えが止まりませんっ!」

 

(本当に栄養価高いんだよな、あの果物。ついでに水分もまとめて摂れるから効率もいいんだ。それに最初はまだいいんだが、修業も進むと生き残る手段の一環として食い物や水の確保なんかは自分でやらされるからな)

 

 師匠の無茶苦茶な話に皮肉と涙混じりに返す当時の自分に、蓮夜は気持ちはわかると何回も頷きながらこれから先に待ち受けるさらなる過酷な修業に若干遠い目になる。

 

 おかげでサバイバル技術を始め、生きる術は多く学べたがそれだけつらかったのだ。

 

 弟子の皮肉をわかっているのかいないのか、クー・フーリンは野生的な笑みを浮かべて頷く。

 

「そうかそうか。よかったな。影の国では、弟子入りしたオレらもよく修業で死にかけたり、死んだときはよく師匠にルーンで蘇生されてたっけなぁ、懐かし……くはねぇな。嫌な思い出だぜ……」

 

 と、途中でクー・フーリンがいまの蓮夜のように遠い目をしてボヤくが、それを聞かされた当時の蓮夜は目が死にかけていた。

 

 だが、クー・フーリンは、こんなこと考えでたら、それこそ師匠が来そうだと嫌な記憶を追い払う。

 

「──っと、んっなことはどうでもいいんだ。さて、そうなるとあとはやる気、気力の問題だが……もし途中で気持ちがだれても安心しな。そんときは、オレが後ろから槍でつついてやっからよ。ケツに火をつけるってな」

 

「スパルタ式にもほどがある!?」

 

「いや、スパルタ式じゃねぇよ。ケルト式だ。まっ、軽めだがな」

 

「これでっ!? 式というよりは、死期が見えそうなんですがっ!?」

 

 あんまりな内容にツッコミが止まらない当時の自分に、蓮夜は本当に軽めなんだよなぁこれ、と微苦笑を浮かべる。

 

 クー・フーリンは、当然とばかりに頷くと言う。

 

「おうよ。影の国なんかじゃケルト式トライアスロンって言ってな。教えを乞うためには、そりゃあもう地獄のような……ってか地獄を越えなきゃなんねぇのよ」

 

 クー・フーリン曰く、広大な荒野を走り、草原を突っ切り、森を抜け、波が逆巻く海原を泳いで渡り、谷間を飛び越えることでようやくスカサハの住む影の国に入国できるというのだ。

 

 しかし、当然それで終わりではない。これはあくまで入国審査にすぎないのだ。

 

 ここから更にスカサハの住む居城に辿り着くには、難所に囲まれた七つの城壁と九つの柵を備える堅牢なもので、それぞれの柵にはひとつずつ首が掛けてあったとされ、それらを守護する竜種を始めとした魔物を打ち倒してようやく影の国の女王に謁見できるのだ。

 

 しかも、城の外よりもなかのほうがさらに危険でスカサハを狙う強力な死霊が渦巻いており、これらも当然のように気紛れで命を狙ってくる。

 

 進むも地獄、戻るも地獄、進んだあとまで地獄というまさにケルト神話の冥界に相応しい有り様だ。

 

 あんまりな内容に当時の蓮夜は、「おっふぅ」とよくわからない呻き声を漏らすと眩暈を起こしたように右手で目元を覆う。

 

「どうだ? それを考えたらいまの自分が恵まれてると思えねぇか?」

 

「……なんだが不思議とそんな気がしてきました!」

 

 なんだか半ば自棄糞感が出てきたのか、当時の蓮夜はクー・フーリンの言葉になんとなく自分が恵まれている気がしてきたのか、光のない死んだ目で頷く。

 

 現在の蓮夜としてもケルトはやっぱり頭おかしい、と考えながらいまの自分でも影の国は行きたくないなと思う。

 

「だろ? それにおまえさんが強くなりてぇのはなんのためだ?」

 

「……大切なものを守れるようになるためです!」

 

 クー・フーリンの言葉にハッとなった当時の蓮夜は、目を見開くと改めて決意を口にする。

 

 これに対しクー・フーリンは、破顔し頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でながら言う。

 

「そうだな。そして、そんなおまえさんの前に立ちはだかるのは、こんなもんじゃねぇ。だってぇのにいまから、んっな弱気でこっから先やっていけんのか?」

 

「……!」

 

 背筋を正し、子供ながらに強い意思を秘めた目に、男の顔になった当時の蓮夜にクー・フーリンは、ニッと男臭く笑う。

 

「うっし、いい面構えになったな。じゃあ、始めるか?」

 

「はい! よろしくお願いします、師匠!」

 

「おう、気張ってけ!」

 

 背中にかかるクー・フーリンの言葉に「はい!」と返すと、当時の蓮夜は走り出した。

 

 過去の蓮夜のその背を同じく過去のクー・フーリンと見送る現在の蓮夜は、微苦笑を浮かべる。

 

(このあと本当に師匠に槍を持って追い回されるからなぁ……)

 

 蓮夜は、『ほ〜れ、早く走らねぇと刺しちまうぞ〜?』などと言いながら悪い笑みを浮かべて後ろから槍を片手に追い回す当時のクー・フーリンのことを思い出し、絶対楽しんでたよな、と考えると一発くらい殴っても許されるのでは? と思うが強くしてくれたことには感謝しているため、なんとも微妙な感じになる。

 

 そんなことを考えているうちに意識が浮上する感覚を覚え、蓮夜は自分の目覚めが近いことを察した。

 

(でも、まあ……ありがとうございました、師匠)

 

 当時の世間知らずで弱い自分を最後まで見捨てず鍛えてくれたクー・フーリンの背に、いまの蓮夜は頭を下げるとそこで意識が薄れていった。

 

 

 

 

 

       §

 

 

 

 

                       

 

 

「──知らない天井だな……」

 

 早朝のとある家の洋室。

 

 品のある洋式の家具が置かれた部屋に鎮座する、キングサイズのベッドの上に眠るひとりの青年が目を覚ますと同時にそんなひと言を呟いた。

 

 先ほど見ていた明晰夢と相俟って見慣れぬ天井に一瞬、自分がどこに居るのか曖昧模糊としていたが青年は、記憶を探ること数秒、思い出す。

 

「……ああ、そういえば日本に引っ越してきたんだったな」

 

 『灰色の魔術師』の根拠地があるイタリアの実家から、メフィストの依頼で青年は、一昨日の土曜日に日本の地方都市のひとつ、駒王町に用意した一軒家へと引っ越してきたのだ。

 

「……まったく眠くないのは幸いだな」

 

 青年は、苦笑する。日本とイタリアの時差は、八時間。時計を確認すれば現在の日本時間が七時だから、イタリアは深夜の十二時、つまり真夜中──普段なら仕事の時間だ。

 

 血筋的な体質もあって二重の意味で目は冴えていた。

 

 そして、今日は月曜日。

 

 新しい学校への転入日でもある。

 

 転入初日から遅刻するわけにもいかないしと、青年は掛け布団を剥いで上半身を起こして軽く伸びをするとベッドから出た。

 

 短く切り揃えた母親譲りの黒髪、父親譲りの碧眼は鋭く強い意思力を感じさせ、まだまだ伸び盛りな176センチの長身は細く引き締まって鍛え抜かれたしなやかな野生の獣を彷彿とさせる。

 

 彼こそがいまから七年前にクー・フーリンに救われた混血悪魔の青年、レオンハルト・フェレス──日本名、黒崎蓮夜だ。

 

 蓮夜は、着替えを片手に持つと部屋をあとにし、廊下を通って階段を下りて洗面所へ向かう。

 

 そして、朝シャンと洗顔などの身だしなみを整えると下着を履いて今日から通うことになる〝駒王学園高等部〟の男子の制服に着替えると、洗面所をあとにした。

 

 洗面所を出た蓮夜は、そのままの足でリビングに向かった。

 

 そこでは、着く前から香っていた朝食のいい匂いと朝特有の気怠いような、引き締まるような冷たくも温かい空気が出迎えてくれる。

 

「──おはようございます、レオンさま」

 

 蓮夜の気配に気づき、キッチンに立って慣れた様子で手際良く朝食の支度をしていた銀髪の長髪をポニーテールに結い上げ、メイド服を着た蓮夜よりひとつかふたつ歳上の女性が振り返り、愛しげで優しい微笑を浮かべてそう言って迎えてくれた。

 

「ああ、おはよう、シルファ」

 

 蓮夜もそれに応じて微笑を浮かべた。

 

 シルファもそれを受けて「はい」と嬉しそうに笑みを深める。

 

 蓮夜にシルファと呼ばれた彼女は、フルネームをシルファ・ラングリスという。

 

 シルファとの出会いは、数年前。

 

 剣術を極めようと父親のマルクオスに指導してもらい鍛錬を積んでいたが、その熱量と危険性を危険視したマルクオスが外の世界を学んでほしいと思い、旅に出ることを勧め、かつての父と同じバウンディハンターとして旅に出る。

 

 旅に出てからは、はぐれ悪魔や自分を狙ってくる無法者や同業者を倒して着実に名を上げていくシルファだったが、想定外の敵に遭遇しバウンディハンター仲間を逃がすためにしんがりを務めて死にかけるも、間一髪のところで蓮夜に助けられたことがきっかけだった。

 

 このときに自分を助けてくれた蓮夜にシルファは明確な好意を抱き、蓮夜の父であるメフィストの古き友人をしているマルクオスのツテを頼って蓮夜に再会し彼に頼み込んで眷属にしてもらい、いまに至る。 

 

 ちなみにシルファは、兵士の駒ひとつで転生しているが、その実力と潜在能力からひとつでは足りず、『変異の駒』という『悪魔の駒』のバグのひとつである、本来複数の駒を必要とする者をそれひとつで転生させるという特殊な駒を使用している。

 

 神器も魔法も持たないただの人間でその資質、シルファがどれだけの実力者かがわかるというものだった。

 

「──レオくん、おはようなのですよ」

 

 続いて蓮夜を悪魔としての名であるレオンハルト、それもその愛称で呼んでそう声をかけてきたのは、シルファの手伝いをしているエプロン姿の妙齢の美女だった。

 

 腰まである金色の長髪、百センチを誇る豊かな胸、細く軟っこい腰、安産型に実った尻を持つイタリア風の美女は、蓮夜と同じ『灰色の魔術師』に所属する魔女っ子にして歳上の幼馴染であるお馴染みのラヴィニア・レーニだった。

 

「ああ、ラヴィニアもおはよう」

 

 蓮夜は、親しげに砕けた口調でそう返した。ラヴィニアも穏やかな微笑を浮かべて嬉しそうに碧眼を細める。

 

 お互いに付き合いも長く気心の知れた仲であることが、この短いやり取りだけでも伺わせた。

 

「あ、蓮夜くん! おっはよー!」

 

 続いてそう元気に挨拶してきたのは、シルファとは違うタイプのメイド服を着た、胡桃色のロングヘアに六枚の花弁を持つ花を模ったヘアピンが特徴的な巨乳の美少女だった。

 

「ああ、おはよう、織姫」

 

 蓮夜に織姫と呼ばれた彼女、井上織姫は、嬉しそうに笑顔を浮かべる。

 

 織姫は、一年前に保護下になったばかりの蓮夜と同い年の現役女子高生だ。

 

 一年前、織姫は心霊スポットに友人たちとの集まりで向かった際にはぐれ悪魔に襲われかけていたところを蓮夜に救われたのが出会いだった。

 

 ことあるごとに子どもに暴力を振るう酷い両親の許に生まれ、兄の井上昊曰く、父親は〝悪魔〟で母親は〝淫売〟であったという。

 

 人間でありながらそんな酷い評価の両親に命の危険を感じて織姫は幼くして、兄に連れらて親元を離れた。

 

 しかし、唯一の家族であった兄も中学一年生のときに交通事故で亡くしており、アルバイトと親戚の援助を受けて一人暮らしをしている。 

 

 勉強を頑張っているのも、成績が下がると生活費も下げられてしまうという理由からだったが、親戚にたらい回しにされ最後は孤児院に入られる

 

 中学生の頃には派手な髪色が原因で上級生から髪を切られるなどの酷い虐めを受け、塞ぎ込んでいた時期もあった、といまの織姫は笑って語る。

 

 しかし、そんな暗い過去を持ちながらも織姫は、それを感じさせないほど明るく能天気な性格をしている。

 

 そんな後ろ暗く、先行き不安な人生の織姫は、はぐれ悪魔に襲われていたときに神器に覚醒しており、今後はそれも原因で狙われると考えた蓮夜からの誘いを受けて蓮夜が保有する後宮の役割を持つ超高層マンションに入り、愛妾の役割も持つ恋人のひとりとなった。

 

 織姫の役割は、メイドナースであり、メイドとして眷属としても忙しいシルファの手が回らない部分の補佐をしている。

 

 さらにナースとしては、その神器を活かして欠損すら癒やすことが可能である。

 

 回復魔法の使い手は世界で見ても少なく、仮に使えてもリスクが大きく、下手したら寿命すら削ってしまう。

 

 かといって魔法や神器、薬品での癒やしも欠損までは癒せない。

 

 そう考えると織姫の能力がどれだけ稀少性が高いかがわかり、蓮夜が眷属にすることなく秘匿している理由がわかるというものだ。

 

 普段は織姫も超高層マンションか、冥界の領地にある医療施設や居城に滞在ないし勤務しているのだが、今回は何が起こるかわからないとラヴィニアたちのことを考え、蓮夜が連れてきたのだった。

 

 医療に関する知識を少しずつ学んでいる織姫は、日頃からの体調管理でも役立ってくれるからだ。

 

 女性が多い世帯なため、そういった面のフォローができる自由に動ける女性は必要だった。

 

 そんな織姫は、いまとても幸せそうに元気に振る舞っている。彼女はそうして蓮夜のモノになることで救われたのだ。 

 

「……っと、そういえばあいつらはどうした? まだ今朝は見てないが?」

 

 蓮夜は、リビングを見回しながらそう訊ねた。

 

「アスカですか? あのヒトなら朝の走り込みに出て、先ほど帰ってきて汗を流しているはずなので、もうすぐ来るでしょう」

 

「エルファリアちゃんなら、さっきまで寝てたみたいであたしが起こしておいたからもうすぐ来るんじゃないかな?」

 

 と、答えたのは六人分の朝食の準備を終えつつあるシルファと織姫だ。

 

 メニューは、日本の朝らしく白飯、豆腐とワカメの味噌汁、焼き鮭、自家製のきゅうりやカブの漬け物、焼き海苔や納豆といったイタリアではあまり見る機会がなかったものだ。

 

「引っ越してきたばかりでか? 相変わらず見た目に反して、そういった面はストイックだな」

 

「きっと土地勘を身につけるためでもあると思うのですよ? それにレオくんと一緒に走りたかったみたいなのです」

 

 蓮夜の言葉にそう返したのは、ラヴィニアだ。

 

 どうやらジョギングをしているのは、本人の人柄以外にもそういった理由があったらしい。

 

 となれば──。

 

「それは悪いことをしたな。なら明日からでも一緒に走り込みするか……」

 

「そうしてあげて欲しいのです。きっと喜ぶのですよ」

 

 蓮夜の考えにラヴィニアは、笑顔で頷くとお弁当の盛り付けを終えた。

 

 どうやら朝食の準備をしていたシルファと分担して蓮夜たちの昼食も用意してくれていたようだ。

 

「エルフィは、まあ相変わらずだがこれから少しずつ改善できたらいいんだがな」

 

 と、そこにちょうどタイミングよく件の人物たちがリビングへとやってきた。

 

「──あら、蓮夜。おはよう。いい朝ね」

 

「──おはよ〜……」

 

 湯上がり直後のその人物──茶色のロングヘアを頭の後ろで流した美少女は、寝ぼけ眼のエルファリアを連れて明るく朗らかにやって来た。

 

「ああ。おはよう、アスカ」

 

「ええ。次の機会があれば一緒に訓練しましょ?」

 

「もちろん、かまわないぞ」

 

 蓮夜にアスカと呼ばれて挨拶を返された美少女──甲河アスカは、笑顔で寄り添った。

 

 アスカは、蓮夜と同い年の美少女であり、見た目こそ美しいが、その実力と潜在能力はシルファに勝るとも劣らず、速度という点ならば上回ってさえいるほどの逸材だ。

 

 そんなアスカが蓮夜のもとで眷属をしているのには、いろいろと複雑な理由があるのだが、蓮夜は朝から重い話になるので思い浮かべることはしなかった。

 

「レンヤ! おはよう!」

 

 蓮夜の存在に気づいて一瞬で目が覚めたらしいエルファリアは、アスカを押し除けるようにして嬉しそうに彼に抱きついた。

 

「ああ、おはよう、エルフィ」

 

 それを優しく受け止めた蓮夜は、エルファリアの頭を撫でながらそう返した。

 

 蓮夜、ラヴィニア、シルファ、織姫、アスカ、エルファリアといった一見まとまりのまったくないメンバーがこうしてともにひとつ屋根の下で共同生活を送っているのには、もちろん理由がある。

 

 それが『悪魔の駒』と呼ばれるアイテムに起因する。

 

 これは悪魔が先の戦争で魔王を失うばかりか、その種族全体的な数を大幅に減らしたことで少数精鋭の眷属を作れるようにと生まれたのがチェスになぞらえたシステム──それが悪魔の駒だ。

 

 この力は神格を除けば種族を問わず──主の実力次第では半神や超越者すら転生可能であり、与えられた駒によって能力の強化が行なわれる。

 

 即ち──。

 

 『王』以外のすべての駒特性を持つ『女王』。

 

 腕力と防御力に加え『王』との入れ替えを可能とする『戦車』。

 

 『王』の護衛を務め、速度に秀でた『騎士』。

 

 魔力に秀でた『僧侶』。

 

 特化した能力強化こそないが敵陣で『王』以外のすべての駒にプロモーションできる『兵士』。

 

 これらの駒が『女王』一、『戦車』二、『騎士』二、『僧侶』二、『兵士』八の計十五個を与えられるのが上級悪魔──蓮夜を始めとした『王』であり眷属の主人である。

 

 さらに『王』の力量や転生する者の資質しだいで必要な駒数も変わり、シルファに使ったような複数駒必要な者をひとつで済ませる変異の駒などもある。

 

 その変異の駒も上級悪魔の十人にひとりが持つくらいの稀少性だが、『王』の成長しだいでは所持している駒が後天的に変異の駒になることもあるらしい。

 

 さらには、特化した能力強化以外にも悪魔には一万年の寿命が備わるが何もいいことばかりではない。

 

 神社仏閣や教会などは例外を除けば足を踏み入れられず、光、十字架、聖水、聖句などに弱くなり転生したばかりだと日の光にすら力を奪われる。

 

 加えてそれらを扱う者も専門に存在することも忘れてはならない。

 

 光を扱う天使と堕天使。

 

 それらに祝福を受けて光を使える悪魔祓いなどだ。

 

 天使は天界、堕天使は悪魔と二分する形でこの冥界に住まう。

 

 悪魔祓いは正式であれば教会所属。

 

 はぐれであれば廃教会などに潜伏する。

 

 はぐれというのは悪魔にも存在し大半の場合が欲に駆られて仕える者を裏切った輩だが、なかには事情のある者もおり一概に悪とは言えず、例外も存在する。

 

 話が逸れたが、つまりラヴィニアたちとのこの異色の共同生活は、彼女たちが蓮夜の眷属であり、彼がラヴィニアたちの『王』だからということだ。

 

 だからといって無理矢理眷属にしたわけでもなく、嫌々従っているわけでもなく、ラヴィニアたちは自らの意思で蓮夜の眷属となり、『王』と仰いでいる。

 

 ラヴィニアたちはみな、蓮夜を慕ってこの場に集っているのだ。

 

 ちなみに与えられている駒は、ラヴィニアが『女王』、アスカが『騎士』ひとつ、エルファリアが『僧侶』をひとつ、シルファが変異の『兵士』ひとつでの転生である。

 

 最強の『女王』の駒を使ったラヴィニアはともかく、アスカやシルファのような実力や素質を持つ者を駒ひとつ消費で転生できているというのは、ひとえに蓮夜の実力の高さを伺わせた。

 

 そうして、蓮夜たち六人が席に着いて『いただきます』の掛け声とともに食事を始め、朝食に舌鼓を打ったあと、食後の茶を飲みながら今日の予定をそれぞれ確認していた。

 

「俺とアスカ、エルフィは、このあと駒王学園に転入だ。気は進まないが先方への挨拶は、俺たちでしておく」

 

「うん。朝は寝てたいけど、レンヤとの学校は楽しみ!」

 

と、蓮夜が口火を切ればエルファリアがそれに続いた。

 

「私は蓮夜の騎士でもあるからね。守ってあげるけど、蓮夜にはあまり必要ないかもしれないわね」

 

「まあ、レオンさまが居れば先方の悪魔になど後れを取ることはないでしょうが。それでもレオンさまの身の安全を考えれば、護衛はいたほうがいいでしょう。『王』に『騎士』がつくのは、体面もありますし」

 

 と、アスカとシルファの剣士ふたりがそう評価する。

 

 ラヴィニアがお茶菓子を口にして頷く。

 

「私は、各方面への通信状況などのチェックをするのですよ。イタリアから日本に拠点を移したので、その影響を調べて必要な対応をしておくのです」

 

「攻撃面なら私も居るから大丈夫だよ」

 

 そう言ってエルファリアも微笑みながら断言する。

 

 誰もが昨日のうちに知らせていたことだが、改めて確認しても特に変更はないようだ。

 

「ああ、よろしく頼む。何かあれば俺に連絡してくれ」

 

「はい。レオくんに確認が必要なことは、ちゃんと確認するのです」

 

「報連相というものですね。アスカ、エルファリア。学校では、レオンさまのことよろしくお願いしますね」

 

「もちろん、任せなさい」

 

「うん、任せて」

 

 シルファの言葉にアスカとエルファリアは気楽に応じた。

 

 だが、いざとなればふたりが容赦なく敵を殲滅するのは、この場の誰もが知っていることだ。

 

「あまり気負わなくていいぞ、シルファ。先方は、気に入らない輩だがさすがに即戦いになるようなことはないしな。せっかくの学校生活なんだ。アスカもエルフィも楽しむといい」

 

「ふふふ。オッケー。潜入とか関係なく、それも蓮夜との学校とか初めてだから楽しみね」

 

「私も蓮夜とたくさん一緒に居れるのは、嬉しい!」

 

 蓮夜のフォローにアスカは本当に楽しそうに、エルファリアは特に心配はしてないのか、数年離れていた反動で日中ずっと一緒に居れることが嬉しくて仕方ないようだ。

 

「……そうか。ああ、俺も楽しみだよ」

 

 蓮夜がそう言って微笑を浮かべると、アスカとエルファリアも満面の笑顔を浮かべ、その様子をラヴィニアと織姫は微笑ましげに、シルファは仕方ないと思いながらも温かく見守っていた。

 

 ちなみに織姫は、基本メイドとしてシルファの補佐があるため学校へは通わないが、何気に学力はあるため学校は通信で済ませている。

 

 蓮夜としては織姫も学校に連れて行きたかったが、能力のことを考えれば万が一のために自由の利くことに越したことはない。

 

 そうして穏やかな朝食後のひとときを過ごし、蓮夜、アスカ、エルファリアは、昨夜準備していた学生鞄とラヴィニアのお手製弁当を手に玄関口で口を履くと、見送りにきたふたりに言う。

 

「いってくる。何かあれば連絡するが、そっちも何かあれば連絡を寄越せ」

 

「それじゃあ、いってくるわね」

 

「いってきます」

 

「気をつけていってくるのですよ」

 

「はい、いってらっしゃいませ」

 

「いってらっしゃい〜!」

 

 ラヴィニア、シルファ、織姫に見送られ、蓮夜、アスカ、エルファリアは、日本では初めてとなる通学路へと一歩を踏み出すのだった。

 

 

 

To be continued




甲河アスカ、こんな感じですかね?まだ書き慣れてないからキャラが掴みきれてない感じがありますね。今後がんばっていきます!
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