少しだけ手直ししました。
蓮夜、アスカ、エルファリアは、リアス・グレモリーとその眷属との会談を終え、少し三人だけでまったりと過ごしたあと、もう片方の先方であるシトリー家の上級悪魔──ソーナ・シトリーの居る生徒会室に向かっていた。
「──それで蓮夜。次はどんな相手との交渉なのかしら?」
『騎士』として数歩後ろを歩くアスカからの問いに蓮夜は、前を歩きながら先方の情報を思い出しつつ答える。
「そうだな……リアス・グレモリーと同じで魔王を輩出したシトリー家の次期当主だ。名をソーナ・シトリーというが、ここでは支取蒼那と偽名を使っているらしいな」
そこだけ見ればソーナは、リアスよりはマシだった。
才媛と呼ばれているだけのことはあるが、あくまでマシなだけである。
「そんなふたりがなんで人間界の学校に通っているのかしら? 詳しくないけど、たしか冥界に貴族悪魔が通う学校があるのよね?」
「……さあな。どちらとも親しくないからよく知らん。だが、多少は予想できる。単に留学感覚で日本を選んだだけだろう。はっきり言ってここで学べることは、ほぼ冥界では役に立たないだろうがな」
当たり前だが貴族として当主となってから必要なことは、人間界の学校ではまず学べない。
冥界の学校で人間界の授業と同じかそれ以上のものは学べるし、それとは別途に必要な専門知識を学べる。
何より冥界の学校に通う必要があるのは、同年代との交流を持ち、将来的な繋がりを作ることだ。
なんといっても同じ学校に居る上級悪魔は、将来的にほぼ近いタイミングで当主になる。
そうなれば学生時代に築いた人脈が役立つことも多い。貴族の学校や社交界なんていうのは、学業よりもそういったコネを作ることのほうがメインだ。
蓮夜のように爵位を持たない『番外の悪魔』ならば政府とは、ほどほどに距離を置いているためそういったコネクションはあまり重要ではない。
しかし、リアスやソーナのような七十二柱の次期当主ともなれば話は変わってくる。
彼女たちは、かれこれ三年以上冥界の同年代の悪魔たちと交流が薄い。
このままでは、当主になったとしても領地経営は上手くいかない可能性が高いだろう。
「まあ、他所の御家事情には、首を突っ込む気はない。それぞれに何かしらの事情があって日本に来てるんだろう。俺としては、グレモリーなら甥っ子のほうに興味があるがな」
知能、魔力、潜在能力、すべてリアスよりも、甥っ子であるミリキャスのほうが優れていると蓮夜は見定めていた。
そして、それは正しい。
実際に既に冥界の上層部には、ミリキャス派なんていうのが生まれつつある。
グレモリーの次期当主か、新たな魔王か。少なくともリアスよりは、期待も進める道も多い。
だからといってリアスの文字どおりのわがままな振る舞いが肯定されるわけではないのだが。
「──っと、ソーナ・シトリーについてだったな。これから会うシトリーは、いちおう才媛とか呼ばれているからな。少なくともこの話し合いに限っては、さっきみたいな不快な思いをそれほどしないで済むだろう」
ソーナは、リアスと違ってそのあたりの礼儀作法はしっかりしている。
元七十二柱だからと偉ぶって、『番外の悪魔』である蓮夜に下手な振る舞いはしないだろう。
それは、自分だけでなく延いてはシトリー家まで貶めると理解しているはずだから……。
「ああ、共通点はどちらも魔王が身内に居るってことだな。グレモリーは兄、シトリーは姉がそれぞれルシファー、レヴィアタンの座を担っている。ふたりとも、このへんは、勉強してあるな?」
「ええ。ラヴィニアたちに教えてもらっているわ」
「私も、最近そのあたりは覚えたかな」
蓮夜の問いにアスカは肩を竦めて、エルファリアは静かに頷く。
四大魔王──つまり魔王は、ルシファー、レヴィアタン、アスモデウス、ベルゼブブの四人おり、現在の魔王は先の大戦で死亡した先代の後釜で七十二柱であるグレモリー、シトリー、グラシャラボラス、アスタロトから輩出された過去の戦いで名を上げた者たちであると、アスカもエルファリアも眷属になってからの勉強の一環で学んでいた。
「けっこう。眷属の教育は、俺たち『王』や先輩眷属の役割だからな。教養のなさが露呈すると恥をかくのは、『王』だ。いや、上級悪魔のなかには、恥をかいている自覚がない輩も居るがそれは例外だ」
眷属にしたからには、『王』には責任がある。
他種族から転生悪魔になったのなら悪魔業界について知らないことは、罪ではない。
その教育は、『王』である上級悪魔の務めだ。
そういった面でも『王』の裁量や技量が見定められる。
もちろん、いつまでも知らないでは許されないのでその立場に甘えてばかりな転生悪魔など、無礼打ちにされても誰も文句は言えないのだが。
「まあ、たいていの上級悪魔は恥をかくとすぐ手……というか魔力が出るからな。たいした脅威にもならないが面倒だ」
己に非がないのならともかく、己に非があっても認めずに癇癪を起こして魔力を放つのが大抵の上級悪魔だ。
それ自体は脅威でもなんでもないが、その相手を始末したらしたで今度は、他の上級悪魔から苦言や批判が飛んできて権力を使っていろいろ暗躍や邪魔をしてくるのだ。
むかしの蓮夜が名のある『番外の悪魔』の混血悪魔だからというだけで蔑まれ、暗殺されかかっていたように……。
「だから学んでわからない、自信がないことがあればちゃんと俺かラヴィニアたちに聞くんだぞ?」
「了解よ」
「わかったよ、レンヤ」
と、蓮夜が言い含めてアスカとエルファリアが頷いたところで、目的地である新校舎内にある生徒会室の前に辿り着いた。
「フェレス家のレオンハルト・フェレスだ。約束の会談に来たんだが」
『──ええ、お待ちしてました。少々待ってください』
蓮夜の呼びかけに静かな声で応じた女がそう前置くと、すぐに扉が向こうから開け放たれた。
「ようこそおいでくださいました。どうぞこちらへ」
そう言ってなかに招き入れたのは、黒いロングヘアと理知的な眼鏡が印象的な女子生徒だった。
彼女は、森羅椿姫。
日本を古くから守護するかの五大宗家、森羅家の血筋でソーナ・シトリーの『女王』だ。
椿姫に招き入れられた蓮夜は、促されるままになかを進み、ソファーの前で立って待っている女子生徒の下に向かう。
「──ようこそ、駒王学園の生徒会室に。私は、ソーナ・シトリー。シトリー家の次期当主です。あなたの来校を歓迎します」
「フェレス家の次期当主、レオンハルト・フェレスだ。急な転入を受け入れてもらい、感謝する」
そう言い合って握手を交わしたあと、蓮夜とソーナはテーブルを挟んで向かい合ってソファーに座る。
そこへ椿姫が紅茶を淹れたカップを乗せたソーをふたりの前のテーブルに置いた。
そして、蓮夜の後ろに控えているアスカとエルファリア同様に椿姫もソーナの後ろに控えたところで話し合いが始まる。
「そちらの眷属は?」
「あまり大所帯で出迎えるのも失礼と思いまして。今日のところは、女王である彼女だけとさせていただきました。残りの子たちは、のちほど書面を送りますので目を通していただければと」
と、蓮夜の問いにソーナは椿姫を一瞥したあと、そう言って理知的な目を向けてくる。
(ふむ、礼儀もあるんだろうがよっぽど信頼しているんだろうな)
公の場で『王』を支えたり護衛するのは、女王か騎士の役割だ。
だからこその配置なのだろうが、同時に信頼と自信があるのだろう。
何かあってもふたりでならなんとかなると。
リアスのように根拠のない自信ではなく、いままでそうしてきたからくる自負、付き合いの長さからくる信頼といったところか。
なんであれ実力的には、自分たちには遠く及ばないがその姿勢は蓮夜も嫌いではなかった。
「ああ、そういうことならあとで目を通しておこう。そちらの自慢の眷属とやらをな」
「……ええ」
蓮夜の言葉に小さく目を見開いたソーナだが、口元に微笑を浮かべると頷く。
『王』たる者、自分の眷属を目にかけてもらえるのは、やはり嬉しいものだ。
「それで、この町を訪れた理由はなんでしょうか?」
少なからず談笑したあと、ソーナは居住まいを正して目を鋭く光らせながらそう問いかけた。
リアスと違って未熟ながら隙を窺う視線は、理知的に光っていて油断はしていない。
「これは、グレモリーにも言ったことだが母親の故郷が日本でな。単に日本文化を学びたいに来たってだけだ」
「……言い方を変えましょう。なぜこの町にしたのですか? いま言ったことが本当であれば、単に日本文化を学ぶだけならこの町である必要はないはずです。あなたとて私やリアスのような者が居るこの街より、まだ誰の縄張りにもなっていない場所のほうが何かとうるさくなくて都合がいいのでは?」
蓮夜の言葉にソーナは、納得を見せることなく言葉を重ねる。
確かにリアスは気づかなかったが、日本文化を勉強するだけならわざわざ魔王の妹なんていう面倒の種が居るような場所より、他所の手付かずな都市を選んだほうがやりやすいだろう。
「いや、単に面倒なだけさ。いちいち日本神話勢力と交渉するにしても、そのあとに町を治めるにしても、『番外の悪魔』には荷が重い。そちらも知ってのとおり、我が父であるメフィスト・フェレスは、先代魔王と折り合いが悪くて政府と距離を置いたからな。領地だ権力だってのは、七十二柱の上級悪魔ほど恩恵がないのさ」
「ですが……」
「ああ、もちろんメフィスト・フェレス本人の影響力は絶大だが言ってしまえばそれだけさ。『灰色の魔術師』内や昔からの付き合いがある相手なり場所なりなら俺にも恩恵はあるが、日本ともなれば畑違いもいいところだ」
さすがにあの程度では誤魔化せなかったかと、蓮夜は補足説明した。
事実を混ぜてるため、嘘はついていない。
実際四年前の空蟬機関や堕天使との戦いなどの影響で五大宗家には、警戒されているし、『番外の悪魔』のその子供では些か領地を間借りするには立場が弱い。
とはいえメフィストならいくらでもやりようはあるだろうし、蓮夜にも領地を与えるくらいやってくれただろうが、冥界であればいざ知らず、人間界など面倒で治める気にもならないのが本音だ。
「だからまあ、偉大な魔王を輩出した七十二柱の威光にあやかろうと思ったわけだ。ここなら統治だ仕事だなんだとすることなく、定住していられるからな。ああ。ついでに眷属のひとりでも見つかればと考えているよ」
「……なるほど。筋は通ってますね。加えてあなたは、四年前に五大宗家や堕天使などともことを構えたと聞きます。仮に手付かずの町などでも許可は、下りにくいでしょう」
蓮夜の言葉にソーナは、筋は通っていると納得する。
それが尤もらしく語られた、思考を誘導するためのものでしかないということに気づかないままに……。
聡明であるがゆえに穴がない理論に疑いを持てていないのだ。
しかし、そう、四年前の戦いは神器のなかでも突出した力を持つ、文字どおり神すら打倒できる神滅具が複数関わり、魔法使い、堕天使、五大宗家など多種多様な立場や種族の者を巻き込んだ戦いだった。
その渦中をラヴィニアを連れて駆け抜けた、当時十三歳だった蓮夜は現在も各勢力から警戒されている。
事件現場であった日本に堂々と領地などもらえるはずがない。
まあ、蓮夜はそういう面倒は冥界の領地だけで充分だからいらないのだが。
「そういうことだな。その点、グレモリーやシトリーなら五大宗家もおいそれと手を出さないだろう。それは、その家所縁の者を眷属にしてるところを見るに間違っていないと思うが?」
朱乃の姫島、椿姫の森羅は、それぞれが五大宗家の一角だ。彼女たちを眷属にしてお咎めがないのも、体のいい厄介払いというのもあるだろうがリアスやソーナがグレモリーとシトリーの血筋、もっと言えば魔王の身内だからだ。
「……なるほど。確かにそれなら筋は通りますね。まあ、どちらにしろ許可が冥界政府からも出ている以上、私がとやかく言えた義理はないのですが……」
ふぅ、と溜め息をつくソーナ。
そう、蓮夜はしっかり冥界政府から許可を得てここに居るのだ。
いくらソーナやリアスであろうとその決定は覆らない。
まあ、魔王である兄や姉に駄々をこねたら違うかもしれないが、リアスならともかくソーナにはそんな恥知らずな真似はできなかった。
少なくとも蓮夜は、いま何も問題を起こしていないのだから……。
「それでは、あなたのこの町での立場は?」
「ああ、グレモリーと取り決めたが自衛以外では、そちらが手に負えないことや、放っておけばこちらに害になるようなことであれば手出しさせてもらう。要は協力も共闘もしない、相互不可侵の関係だ。ここでは、ひとりの魔法使いとして滞在させてもらう」
「リアス……」
気を取り直して問いかけたソーナだったが、蓮夜の答えに親友の対応に頭を抱えそうになるがなんとか堪える。
文武において大きな戦力が頼れないのは問題だが、逆説的にいままでと変わらないと思えば特に問題はない。
「とりあえずそういうわけだ。確かそちらは、この町の隣町が領地だったか? ならこの町での取り決めに口は出さないよな?」
「……ええ、この町の領主であるリアスとの間でそう決めたのなら私に口を出す資格はありません。ただし、この学園内であれば話は変わります」
だからわざわざ新校舎の外である旧校舎のリアスのほうに先に行ったのか、とソーナは納得する。
蓮夜のやり手具合につくづく協力も共闘もできないことを惜しいと思う。
しかし、これだけは譲れないとソーナは、蓮夜を見据えて言う。
「私はこの学園を愛しています。生徒会の仕事もやり甲斐のあるものだと思っています。ですから、学園の平和を乱す者は誰であろうと許しません。それはリアスでも、あなたでも同様のことです」
「そして、この学園ではただの生徒でしかない俺たちが何かやらかすことはない。つまりは、お互いになんの問題もないわけだ」
「ええ、そう願います」
まったく気にした様子もなく言う蓮夜に、ソーナはそう言って小さく溜め息をついた。
リアスと揃ってひとつ年下の相手にここまでいいようにされ、自分が才媛などと呼ばれていることに過大評価ではないかと暗に思う。
「──そういえば、目下平和を乱している……たしか兵藤、松田、元浜だったか? あいつらは、いいのかよ?」
「……彼らに関しては、生徒会も頭を悩ませています。再三注意喚起や反省文を書かせたりしているのですが、あまり効果はなく……かといってそれ以上の強硬手段に出るには、さすがに生徒会でも難しいんですよね。あくまでこの町は、リアスの領地ですので……」
転入してきたばかりの蓮夜にすら知られている学園の恥部に、ソーナは恥入るようにそう言って嘆息する。
生徒会に何度も陳情が寄せられており、生徒会メンバー──全員シトリー眷属──は、ソーナのともに頭を悩ませている。
しかも、その陳情は女子生徒たちだけでなく男子生徒たちからも寄せられている。
それは、彼氏という立場や親しい先輩後輩の関係、単に友人というだけなものから、同じ男子生徒だからと一緒くたにされたくなくてのものからさまざまだが、この学園で彼ら変態三人組を擁護する生徒はもちろん、教員にもいない。
「普通なら良くて停学、悪ければ退学になったうえで逮捕だからな。これもグレモリーの張った結界の影響か」
「そうですね……とりあえずは、根気の勝負になるとしか」
蓮夜の言葉にソーナは、頷きながらリフレッシュを兼ねていったんカップを手にして紅茶を飲む。
そして、気分を変えようとソーナは言う。
「それで眷属候補になりそうなめぼしい子は、居ましたか?」
「いいや、残念ながらいまのところはな。まあ、長い付き合いになる相手だし、気長に探すさ」
この学園は、元お嬢様校とあって個々人のスペックはなかなかに高い。
男子生徒にしても、そんな学校に入学できたのだから決して低くない素質を持っている。
しかし、今日見た範囲内では、蓮夜のお眼鏡に適うような相手は見かけることができなかった。
少なくとも転生悪魔として迎えたい容姿、性格、能力、このどれかを満たす者は居てもすべてを満たす者はなかなかいない。
だが、蓮夜が言うように『王』と眷属は長い付き合いになる。
それこそ単に寿命だけ考えるならば一万年の付き合いになるのだ。
まだまだ若い悪魔である蓮夜ならば、眷属など百年単位で探せばいいだろう。
「そうですか。私のほうは、ひとり、目をつけている子が居るのですが……」
「そうか。機会があれば紹介してくれ。ああ、眷属としてな」
誰だか知らないが横取りする気はない、と蓮夜は言外に言ってソーナに倣ってカップを手にし紅茶を飲む。
その所作は、しっかりと教育を受けていることを示すように自然で気品のある優雅なものだった。
それから少しお茶を飲んで談笑したのち、蓮夜はアスカとエルファリアを連れて生徒会室をあとにした。
「リアス・グレモリーと同じ上級悪魔とは思えませんでしたね」
エルファリアは、外行きの聖女的な言葉遣いでそう言ってソーナを評価していた。
転生したとはいえまだ下級悪魔の身で無礼ではあるが、公の場ではないため蓮夜も咎めない。
「まあな。とはいえ、さっきも言ったがあいつの領地はここじゃない。この学園にやたら固執していたが、ほったらかしとまではいかないまでも杜撰な管理をしてるとしたらグレモリーと変わらねぇよ」
「そうなの? ならなんでこっちの学校に通っているのかしら?」
蓮夜の話にアスカは、納得したように頷く。
そう考えると多少優秀なだけでソーナもリアスと大差はないのかもしれない。
「まあ、それでもグレモリーに比べたらよくやっているほうだかな」
蓮夜はそう言って肩を竦め、この話を終えるのだった。
To be continued
このあとソーナの評価も下がります。理由は、わかる人にはわかりますが若手悪魔交流のときですね。
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それではまた次回!