※この作品はR-18です。

ハイスクールD×D〜聖魔の槍使い   作:星屑の騎士

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再会の赤髪

 

 シルファと交わり続け、気分良く眠りについた蓮夜は、お昼過ぎに起きると再びシルファとシャワーを浴びた。

 

 シルファに甲斐甲斐しく世話を焼かれた入浴を終え、遅めの朝食兼昼食を食べたのち、いま蓮夜は雨が降っている音を聴きながら専用の書斎でさまざまな書類を確認していた。

 

 まず目を通したのは、ソーナが言っていた彼女の眷属に関するデータだ。

 

 こちらは、森羅椿姫以外に神器持ちもおらず、目立った能力を持った者はいなかった。

 

(まぁ、能力がすべてではないが。性格的な相性や巡り合わせも大事だしな)

 

 とらいえせっかくの人間からの転生悪魔でありながら、神器を所有している者が『女王』の森羅椿姫のみであり、他は全体的にありふれた下級悪魔といったところだ。

 

(──あくまで数値上は、だがな。あいつの指揮も加えたら何か起きるかもしれん。個人的には、グレモリーに並んでただの世間知らずな夢見がちのお姫さまだがあれで才媛らしいからな。いずれ戦う機会があれば確かめてみるか)

 

 そう結論付けで蓮夜は、次の書類に目を通す。

 

 そちらは、『灰色の魔術師』において蓮夜が開発し売り出している魔法の術式やアイテムについてだ。

 

(売上は上々か。商会の仲介料を差し引いても結構な収益だな。大事な財源だから助かる)

 

 このあたりのことは、信頼できる人物に任せているから問題はない。

 

 必要なことがあればプライベート回線を使って連絡してくるだろう。

 

 そもそも蓮夜がここまで資金繰りを考えているのには、もちろん理由がある。

 

 フェレス家は、七十二柱とは違う『番外の悪魔』のなかでもひときわ有名なかのメフィスト・フェレスを祖とする名門。

 

 かつての四大魔王の横暴さに辟易したメフィストが政府から距離を取り、現在では魔法使いの集まる組織のひとつ『灰色の魔術師』という協会の理事を務めている。

 

 それはつまり政府からの恩恵は薄く、いまの冥界の領地も何を隠そう蓮夜が自力で買ったものなのだ。

 

 それだけメフィストは、よほど先代の四大魔王が嫌だったのか、持っていたものを大半手放してでも縁を切りたかったらしい。

 

 だからこそ蓮夜は、大半のことを自力でやらなければならない。

 

 ゆえに実家どころか、魔王からすら援助されているリアスやソーナと違って人間界の領地など治めていられないのだ。

 

 実質次期ではなく当主そのものなのだから。

 

「さて、あとは……」

 

 蓮夜が着々と仕事を片付けていると、不意に彼の足下に魔方陣が浮かび上がった。

 

(これは……)

 

 自分やラヴィニア、エルファリアが魔法的にさまざまな防御策を講じているなかで展開された魔方陣だが、蓮夜には見覚えがあった。

 

 ──そう、それは蓮夜たち眷属を召喚するための魔方陣だ。

 

 実力者が仕掛けてきたという警戒はなくなったが、眷属のなかでも王を召喚するほどの欲望を抱えた者は少ないため、別の警戒心が蓮夜には湧いていた。

 

(それだけ面倒な事態か、あるいは……召喚先が罠か)

 

 そう考えた蓮夜だが、魔方陣の術式を見て考えを改める。

 

(これは……俺の構築した専用術式だな)

 

 それは、蓮夜自身が作成した術式で、蓮夜を確定で召喚することができるものだった。

 

 これを渡しているのは、眷属以外では本当に一部の者たちのみだ。

 

(眷属は全員居るから、そうなると召喚するなら眷属候補か?)

 

 そう当たりをつけていると、召喚の光が大きく弾けた。

 

 次に蓮夜の視界に映った光景は、書斎とは大きく異なっていた。

 

 そこは、荒れ果てた雑居ビルの一室。

 

 割れた窓ガラスからは、春とはいえまだまだ肌寒い風が吹き込み、不気味な音を立てている。

 

 当然、電気など通っておらず真っ暗だが、半分とはいえ悪魔の蓮夜は、夜目が利くため問題なく見通せる。

 

 そのため、目の前に居る人物についても鮮明に認識できた。

 

 ツーサイドアップに結い上げた燃えるような赤い髪。

 

 アイドルなど問題にならない愛らしい顔立ち、セーラー服に包まれた肢体は、グラビアモデル顔負けの抜群のスタイルを誇っており、まさに絶世の美少女だ。

 

 その赤髪の美少女は、どこか薄汚れ、憔悴しているがその魅力が損なわれないのもまた彼女の女の子としての器量の高さを伺わせる。

 

 そんな赤髪の美少女に蓮夜は見覚えがあった。

 

「──澪」

 

「──蓮夜、来てくれたのね」

 

 蓮夜に澪と呼ばれた美少女は、蓮夜が自分を覚えていてくれたことに、そして召喚に応じてくれたことに微笑を浮かべ、力なく崩れ落ちる。

 

 床に倒れるよりも速く動いた蓮夜は、澪をしっかりと受け止めた。

 

「っと……だいじょうぶか?」

 

「っ……え、ええ。少し立ちくらみがしただけよ……魔力切れに加えて、その、あ、あんたの顔を見たら気が抜けただけだから」

 

 そう言って澪は、ツンっと顔を背けるが、何かに気づいて慌てて蓮夜から離れた。

 

「澪?」

 

「な、なんでもない、なんでもないったら!」

 

 訝しげな蓮夜に澪は、微妙に距離を取った。

 

(あ、あたし、いま汗かいてるし、お風呂に入れてないから……に、臭ってないかしら?)

 

 そんな乙女的な不安を覚える澪だったが、こうなった経緯を思い出してこんなことしてる場合じゃないと思い直す。

 

「そ、そうだったわ! 蓮夜! 急で悪いんだけど、お願い助けて!」

 

「ああ、任せろ」

 

「急にこんなこと言われても困ると思うけど──って、即答!?」

 

 蓮夜の力強い返答に、まだ説明の途中だった澪は驚きの声を上げる。

 

 それもそのはずで、彼女──成瀬澪は、蓮夜の眷属候補ではあるがその段階ですら枕詞に暫定と付く程度の間柄だった。

 

 それというのも、澪は主が死んでフリーになった転生悪魔の娘だったのだが、上級悪魔に相応しい強大な魔力を秘めていたものの両親の意向で人間界で生活していた。

 

 しかし、二年前、両親が旧魔王派の悪魔に襲撃を受け、ふたりは殺害され、自身は逃亡生活を続け、最終的に蓮夜に保護されたという経緯がある。

 

 ちなみに旧魔王派とは、現魔王政府の前進──つまりは、聖書に名を残す魔王たちの正統な子孫である。

 

 だが、旧魔王派閥は、過去の三大勢力の大戦を経てもなお他種族はおろか、悪魔という種族すら顧みずに戦争を推進している過激派であり、当時の現魔王派は悪魔の未来のために最後の力を振り絞って彼らを一族郎党冥界の僻地へと追いやったのだ。

 

 結果、悪魔側はかろうじて平和を手にすることができたが、それは薄氷の上のもの。

 

 そのことを逆恨みし、恨み骨髄の旧魔王派は、真なる魔王の一族としていまも正統と言って憚らない政権を取り戻さんとしている。

 

 澪の両親が狙われたのも、ふたりではなくまだ悪魔の思想に染まらず、それでいて強大な力を秘めている澪を拉致し洗脳教育を施し、自分たちの戦力とするためだった。

 

 それから澪は、蓮夜の下で療養するが両親を殺害される悪夢を繰り返し見てしまい、憎悪を忘れられずに精神的な不調に苛まれるが、蓮夜のフォローもあって精神的に持ち直した。

 

 療養もあって蓮夜保護下で亡き両親の遺志を組んで平穏に身を置いていたはずなのだが────。

 

「い、いいの? まだ何も話してないんだけど……」

 

「澪。俺が眷属入りを断ったくらいで、おまえを無碍にするわけないだろう」

 

「〜〜〜〜っ」

 

 蓮夜の気負いない言葉に澪は、頬を赤くする。

 

 ヒトの悪意に敏感な澪は、蓮夜の言葉に裏がないことを察したのだ。

 

「とはいえ、だ。事情がわからないと、何からどう助けていいかはわからない。だから澪。何からどう助けてほしい?」

 

「……うん、実は──あいつが来たのっ」

 

 憎々しげに言う澪の表情に、蓮夜は事情を察した。

 

「……なるほど、ゾルギアか」

 

 蓮夜の言うゾルギアとは、ゾルギア・アスモデウスといい、旧魔王アスモデウスの老獪な悪魔だ。

 

 そして、澪の両親を殺した悪魔でもある。澪が憎悪の炎を燃やすのも当然といえた。

 

「しかし、さすがは旧魔王だな。隠蔽を見抜いたのか」

 

 現魔王政府と旧魔王派は、修復不可能なほどに関係が悪化しており、そのせいで下手な手出しができなかったゆえに蓮夜としても澪を隠す程度しかできなかったが、それが裏目に出たようだ。

 

「その、実は……」

 

「どうした?」

 

「……ごめんなさい、蓮夜!」

 

 居心地悪そうにしていた澪だったが、蓮夜の視線にそう言って頭を下げた。

 

「……それは、なんの謝罪だ?」

 

「じ、実はね……あんたの認識阻害魔法がバレたのは、あたしのせいなの」

 

「詳しく説明してみろ。それは、そこに隠れている気配が関係しているのか?」

 

「あ、うん……」

 

 語気を優しく、わかっていると問いかける蓮夜に緊張が解けたのか、澪が口を開こうとしたときだった。

 

「──澪さん?」

 

 そこへ廃材の陰に隠れていた気配が動き、声を発した。

 

 暗がりに居るその存在に、気配で気づいていた蓮夜は、闇を見通す目でその姿を確認した。

 

 そこに居たのは、ひとりの女の子だった。

 

 ウェーブのかかった長い金色の髪をした、澪と比べても容姿もスタイルも決して見劣りしない美少女。

 

 どこか儚さもある彼女は、教会の修道服を着ており、年齢も蓮夜とたいして変わらないように見える。

 

「い、イーシャ!?」

 

 澪がその金色のロングヘアの美少女を呼んだ。

 

 澪にイーシャと呼ばれた美少女は、少し怯えた様子ながらもこちらへと歩み出てくる。

 

「澪さん、どうしたんですか? その人は……?」

 

 イーシャと呼ばれた美少女は、澪を気遣いながらも蓮夜に対して若干の警戒心を見せる。

 

「い、イーシャ、えっと、このヒトは……」

 

 澪がなんと説明したらいいか迷っていると、蓮夜はなんとなくだが事情を察した。

 

「……なるほど。澪は、この子を助けるために無茶をしたのか」

 

「うっ……わ、わかるの?」

 

「それはもちろん。おまえは、なんだかんだ言っていても優しい奴だからな」

 

「あ、ぅ……ば、バカ」

 

 澪は、蓮夜の言葉に恥ずかしがりながらも、隠せない嬉しさに頬が緩んでいる。

 

 だが、イーシャの視線を感じてそれどころではないと思い直し、澪は居住まいを正すと言う。

 

「イーシャ、このヒトはあたしの昔の恩人よ。いまから頼んで、あんたのことも助けてもらうから」

 

「……わかりました。澪さんが言うのなら信じます」

 

 澪の真剣な視線と言葉を受け、イーシャは頷いた。

 

 それに対して澪は、「ありがとう」と返す。

 

(……まさか、教会の人間とはな)

 

 その様子を冷静に観察する蓮夜は、イーシャの服装が教会のシスターが着ている修道服であることを見て、これはもしかしたら面倒ごとになるかもなと感じた。

 

 澪は蓮夜に向き直る。

 

「蓮夜。事情を話すわ」

 

 そう言って澪が切り出した話は、深刻なものだった。

 

 イーシャと呼ばれた彼女は、服装から察せるようにこの街の教会に勤めるシスターだ。

 

 イーシャは、澪の通う女子校の近くにある教会に勤めているが、澪は顔や名前は知っていても特に交流らしい交流はなかった。

 

 しかし、今日の放課後の帰宅時にイーシャが雨のなか傘も差さないで走り去るのを見て、教会関係者といえどただごとではない様子がなんとなく心配になった澪はあとを追ったらしい。

 

 茫然と雨が降っているなか公園のブランコに佇んでいたところを見つけ、傘を貸した際にイーシャが顔を上げると、その頬は涙に濡れていた。

 

 ふたりで傘に入って澪が事情を聞いたところによると、イーシャの勤める教会に所属する神父が教会で保護されている子供や、シスターを怪しい男たちへ売り払おうとしていたのだ。

 

「いままでも里親が見つかることや、どこかへ転属になることはありました。でも、まさか、あんな……」

 

 俯いて嗚咽を洩らすイーシャに寄り添い、澪が背中を摩る。

 

「……胸糞悪い話だが、それでどう現状に繋がるんだ?」

 

 怒りを溜め息とともに吐き出し、蓮夜がそう訊ねた。

 

 たしかに胸糞悪い話ではあるが、すべてとは言わないがさまざまな裏事情を知っている蓮夜からしたら、教会の所業は珍しいとまで言わないほどにありふれた話だ。

 

 澪が頼ってくるだけならまだしも、認識阻害を破られるようなことにはならない。

 

「実は、その人買い連中が旧魔王派……ゾルギアの手の奴ららしいのよ」

 

 澪が憎々しげに吐き捨てた。

 

 旧魔王派は、悪魔の駒を否定し、他種族を見下している悪魔の集まりだが、ゾルギアは些か毛色が違う。

 

 ゾルギアは、気に入った美女や美少女であればどのような存在であれ、なんとしても手に入れる悪癖がある。

 

 それこそ澪を手に入れたるために、邪魔な両親を殺して行き場を失くしたように、女の子たちの頼れる場所を、自らのみとするのだ。

 

 おまけにその女の子の関係者は、目撃者なら殺し、気に入った女の子なら連れ去り、他の者たちは記憶を消去して最初からいなかったことにしてしまう。

 

 これは、ゾルギアに限った話ではなく、悪魔の駒を所有する上級悪魔たちも大なり小なりそうしている。

 

 こういった経緯もあったから、澪を気遣った蓮夜は、彼女を眷属に誘いきれなかったのだ。

 

 たとえ自分は、そうではないと思っていたとしても……。

 

「……なるほど。ゾルギアの部下のそのまた部下くらいの奴らか。ゾルギアから、認識阻害の結界を破る道具をもらっていても不思議じゃないな」

 

 容姿や能力の優れた美女や美少女、珍しい神器を持っている者を攫う人攫い組織は、人間界に多く存在する。

 

 そんな女の子たちを高値で取引し、無理やり眷属や奴隷とする上級悪魔も同じように多い。

 

 とはいえだ──。

 

「……教会に所属している奴も悪魔と内通していることは、ままあることではあるがな」

 

 蓮夜も聞いたことある話だが、まさか自分が関わることになるとはなと皮肉げに笑う。

 

「だから改めてお願い、蓮夜。 あたしたちを助けて! そのためならあたし、あんたの眷属になるから!」

 

「ああ、事情はわかった。向こうから出てきたのなら、ここで片をつけるとしよう」

 

 澪の必死の懇願、それを見たイーシャの「お願いします」と頭を下げるのを受け、蓮夜は変わらず気負うことなく請け負った。

 

「ほ、本当に!?」

 

「ああ。こんなことで嘘はつかない」

 

 驚きと喜びの入り混じった様子で身を乗り出す澪に対し、そんな嘘で騙すような卑劣漢じゃないからな、と蓮夜は肩を竦めた。

 

「だが、眷属にならなくていいぞ。そういう取引じみた眷属化は、個人的にあまり好きじゃないしな」

 

 蓮夜は、そう付け加えるが澪は不満げに言う。

 

「……じゃない」

 

「……澪?」

 

「と、取引じゃないわ! あたしが! 蓮夜の眷属になりたいの!」

 

「それはまたなんでだ?」

 

「そ、それは、その……す、好きだからよ! 馬鹿! 鈍感!」

 

 顔を真っ赤にして澪は、想いの丈を叫んだ。

 

 隣で聞いていたイーシャも頬をほんのり赤くして驚いている。

 

「そう、だったのか? 澪は、てっきり嫌かと……」

 

「そ、それは、あたしが意地張ったから悪いの! でも、蓮夜だって悪いんだから! あんなにかわいい女の子たちをいっぱい侍らして!」

 

 だからついつい澪は、蓮夜にツンツンとしていたらしい。

 

 本当は、自分を助け、そんな意地っ張りな自分に優しく親身になってくれた蓮夜が、澪は大好きだった。

 

「……そうか。それは悪かったな。なら今回の件が片付いたら、澪。俺の眷属としてともに生きてほしい」

 

「……っ! ええ! もちろん喜んで! あたしがあんたの眷属として一生支えてあげるんだから!」

 

 蓮夜の答えに口元を両手で覆って嬉しくて涙を流しながらも、澪は、涙の雫を拭って笑顔でそう宣言した。

 

「あ、あの……」

 

 少し蚊帳の外だったイーシャが遠慮がちに手を挙げた。

 

「わ、私もその、眷属? というものになったほうがいいんでしょうか?」

 

「……いや、だいじょうぶだ。普通に保護してやるさ」

 

 蓮夜は、イーシャを見つめて彼女が神器を持っているのはわかったが、戦いの才能がないことを見抜き、かつての澪のように保護に留めることにした。

 

「ですが……」

 

「だいじょうぶよ、イーシャ。蓮夜は、言ったことは必ず守るから」

 

「……わかりました。よろしくお願いします」

 

 逡巡するイーシャだが、澪にも言われて納得したように頷く。

 

「ああ、任せておけ」

 

「はい。……あ、ただ」

 

「なんだ?」

 

「代わりに他のことで何かお力になれることがあれば、遠慮なく言ってください。黒崎くんや澪さんのためなら、私、なんでもしますから!」

 

 力強く請け負った蓮夜に少し頬を赤くしたイーシャが、そう言った。

 

「ああ、そのときは頼りにしよう」

 

「はい」

 

 蓮夜が頷くと、イーシャはどこか嬉しそうに、今日初めて微笑を浮かべた。

 

「こほんっ! いいかしら?」

 

 澪が咳払いとともにジロッと睨むと、イーシャはどこか慌てて居住まいを正した。

 

「ああ、もちろんだ」

 

 まったく動じない蓮夜がそう言って頷くのを、どこか釈然としない面持ちで見つめる澪だが、こうしている場合じゃないと気を取り直した。

 

「それで、具体的にはどうするのかしら?」

 

「簡単な話だ。まずは、その人攫いの連中から始末するとしよう」

 

 蓮夜は、そう言って口元を笑ませた。

 

 

 

 

 

       §

 

 

 

 

 

 八名から成るその男たちは、息せき切って足取りも荒く、周辺を捜索していた。

 

「しっかり探せ! もし逃せば私は破滅してしまう!」

 

 そのうちのひとり、初老の男は、神父だった。

 

 その神父は、無宗教で平和ボケした日本の教会に派遣されるという、他の信徒なら嘆くような異動に満足していた。

 

 平和なこの国では悪魔祓いなどたまにしかやらなくていいし、そのくせ給金も悪くない。

 

 そんなありきたりな神父が、人身売買の手引きのような悪行に手を染めているのは、敬虔なシスターが抗いがたい絶望と快楽に染まって堕ちる姿にたまらなく興奮したからだった。

 

 それを自覚したのは、今日のような雨の日の夜だった。

 

 買い出しに出たシスターがいつまでも戻らず、探しに出たときにそのシスターが複数の男たちに押さえ込まれ、裸にされて犯されていたのだ。

 

 助けなければならないと思いながらも、なぜか足が動かず、立ち尽くすしかない神父は、涙しながら助けを求めて手を伸ばしてくるシスターに酷く興奮した。

 

 それをそのときの組織の男たちに見られ、その様子を面白く思った男たちは、神父に言ったのだ。

 

『おっさん、興味あるならやってみるか?』

 

 まさに悪魔の誘いに神父は屈した。

 

 男たちに押さえ込まれて股を開かされているシスターにのし掛かり犯した。

 

 信じていた神父に裏切られ、絶望と悲嘆の涙を流しながらも快感の声を上げるシスターにたまらない興奮を覚えた神父は、何回も何回も膣奥に精液を吐き出した。

 

 そのシスターは、神父か男たちか父親のわからない子を孕み、母乳オプション付きのシスターとしてどこぞの好事家に売られた。

 

 そのときの快楽に神父は、その立場を利用して男たちの組織へ子供やシスターを密かに売り渡し、時折おこぼれをもらいながら表向きは、神父として牧歌的に過ごしていたのだ。

 

 それが目をつけていたイーシャに見つかり、逃げられ、いまこのような事態に陥っている。

 

(見つけ出したら、口止めついでにあのたっぷり実った乳房を好きにしながら犯し、調教してやる!)

 

 と、神父が復讐と欲望に突き動かされていたときだった。

 

「……? どうした? どこへ行った!?」

 

 辺りを捜索していた七人の男たちの姿が見えないのだ。

 

 いくら雨が降り、夜の闇も深まりつつあるといえど声くらいは聞こえていたのだが、いまはそれがまったく聞こえなかった。

 

 いや、それどころか雨の音以外、遠くの喧騒すら何も聞こえず、不気味なほどに静まり返っている。

 

 これはおかしい、と思ったときには、とうに手遅れだった。

 

「ぐがぁっ……!?」

 

 視界が捻転したと気づく間すらなく、背中に息が詰まるほどの衝撃を受け、ブラックアウトしかけるのも一瞬。

 

 胸元にかかる圧痛に咳き込みながら意識と視界を取り戻す。

 

「な、なんだ、おまえは……っ?! ぅぎゃっ!?」

 

「──黙れ。質問するのはこちらだ。いまからおまえが口にしていいのは、俺の問いに対する答えだけだ。わかったか?」

 

「な、なにをっ……ぃぎいっ!?」

 

 神父は、自らの胸元を踏みつけて肺を圧迫する何者かに反抗を見せたが、より強く掛かる負荷に言葉を打ち切られる。

 

「わかったのか? わからないのか?」

 

 打ちつける雨よりも冷たい声音に神父は、このままでは肺どころか心臓すら踏み潰されると思い、何回も必死に頷く。

 

「なら、訊くがおまえの関わっていた組織の元締めへの連絡先は?」

 

「し、知らないぃっ……わ、私は、組織と協力関係だがっ、基本的なやり取りは、すべて組織の男たちがしている、のだっ」

 

「そうか」

 

「ぐぎゃあぁっ!? な、なにをぉっ」

 

 さらに胸元に掛かる圧痛に神父が汚い悲鳴を上げる。

 

「正直に言ったほうが身のためだぞ」

 

「し、知らないっ、本当に知らないんだぁっ! あぎゃぁっ!? わ、わかった言う! 本当のことを言うからやめてくれぇ!」

 

「次はないぞ。楽になりたかったら、正直に言え」

 

「は、はいっ……わ、私は、通信用の特殊なコードを知っておりますっ! こ、こちらですっ」

 

 神父は、助かりたい一心から帯状の魔方陣を展開し、差し出した。

 

 そこに記されたコードを一瞬で読み取り、それが本物であることをたしかめた。

 

「よし、本物だな」

 

「な、ならっ!」

 

「ああ。じゃあな」

 

 胸元に掛かる圧痛が増していくことに、神父は慌てる。

 

「は、話が違うぅっ! わ、私が話せばっ、助けてくれると言ったじゃないかぁっ!」

 

「いいや、俺は楽にしてやるって言ったんだ」

 

「こ、この、悪魔めぇっ!」

 

 絶望と怒りに声を上げる神父にその男は、口元に冷笑を浮かべて、神父の胸元を踏み砕いた。

 

「半分正解だ」

 

 

 

 

 

 骨を、肺腑を、心臓を踏み潰され、醜い断末魔を上げ、目を見開いて天に手を伸ばしていた神父は、痙攣していたがやがて力を失ってその手を地に倒した。

 

 神父をこの始末した男──黒崎蓮夜は、足をどけるとここまでに葬った七人の男たちにしたように、魔力でアンサズのルーン文字を描き、神父の遺体を燃やし尽くした。

 

 降り注ぐ雨粒にもまったく火勢を衰えさせることなく燃え盛り、骨すら残すことなく焼き尽くした。

 

 すでに蓮夜は、人攫いの男たち七人を同じように始末し、情報を手に入れている。

 

 これで蓮夜は、この人攫い組織のアジトを本部も支部も掴み、ゾルギアへの連絡先をも入手することに成功した。

 

 蓮夜は、神父の遺体が他の男たちと同じように灰となったのを確認し、風の魔法で吹き散らした。

 

(さて、これで必要なものは手に入った。あとは、ゾルギアを引き摺り出すだけだな)

 

「──蓮夜、終わったの?」

 

 沈思黙考する蓮夜の元へ、そう言ってやってきたのは、イーシャを伴った澪だった。

 

「ああ、ひとまずはな。これから得た情報を基に作戦を実行する」

 

 と、澪と話していた蓮夜は、イーシャへと視線を向けた。

 

「おまえは、どうする? 安全な場所で待っていてもかまわないが……」

 

「わ、私も手伝わせてください……! 何ができるかわかりませんが、でも、見届けるくらいは!」

 

 目を背けたままではいられないと、イーシャは真摯な眼差しで毅然と言った。

 

「……そうか。なら決まりだな」

 

 澪、そしてイーシャの覚悟を受け取った蓮夜は、力強く頷くとさっそく行動に移るのだった。

 

 

 

To be continued

 

 




というわけで、成瀬澪、さらに作者のふとした思いつきで予定になかったイーシャの登場となりました!ちなみに澪の説明は今さら不要と思います。イーシャは、第七王子の漫画を読んで登場させました。

いつかNTRネタとか書きたいですが、D×DのNTRといったら相手はグレイフィア、ヴェネラナですよねぇ。ふたりとは物語的に無理ですし、上手い人がたくさん書いてますからね。オリジナルヒロインか、他の原作ヒロインを登場させるか……?そもそもこの作品内でNTRは需要あるのか?

次回は、久しぶりに戦闘を書けそう?下手なくせに戦闘を書くのは好きなので楽しみです。

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