戦いのさなか、蓮夜とゾルギアは、澪とイーシャがファンタスマに勝利したのがわかった。
「ぬぅっ、負けおったか! ファンタスマめ、上級の夢魔でありながらふたりがかりとはいえ悪魔として未成熟な成瀬澪と、教会の女に負けるとは不甲斐ない。目をかけてやったのに使えぬ奴だ!」
怒りを込めて魔剣を振るいながらゾルギアは、敗北したファンタスマを詰った。
ゾルギアにとっては、上級淫魔といえども負けたのならば用済みでしかないのだろう。
(──澪、イーシャ、よくやった)
ファンタスマに勝利した澪とイーシャに蓮夜は、内心微笑を浮かべていた。
いざとなれば介入するつもりだったのだが、協力して勝利した澪とイーシャに蓮夜は魔槍を振るいながら賞賛し、戦いながら組み上げた彼女たちへの援護用魔法を発動する。
澪とイーシャを強力な防御結界が覆った。
「これって……」
「蓮夜の魔法ね」
それを察したイーシャと澪は、安心したように表情を和らげる。
そして澪とイーシャは、蓮夜とゾルギアの戦いの行く末を見つめていた。
「蓮夜さん! 私たち、勝ちました〜!」
「こっちはだいじょうぶだから! あとはあんたが勝つだけよ! 思いっきりやっちゃいなさい!」
ふたりからの声援を受け、蓮夜は魔槍を振るいながら頷き返す余裕すら見せる。
「小癪な奴めっ……まあよい。希望は絶望をより深めるいいスパイスとなる。貴様が負ければ成瀬澪は、父母が殺されたときよりもさらに深い絶望に沈むだろう! 怒り、悲しみ、憎しみに染まった成瀬澪を私の手で快楽に染め堕としてやろう!」
「手勢を悉く失いながら、よく吠える。先にも言ったが、取らぬ狸の皮算用って言葉を知らないのか?」
「知らぬな! 駒がどうなろうが知らん! 私はひとりで問題ないのだ! なぜなら所詮、最後に頼れるのは己だけということだからなっ!」
ゾルギアは斬撃の合間に魔力を織り交ぜ始める。
そう、『剣王』と称されるゾルギアの本来の戦闘スタイルは、剣技と魔力を組み合わせた魔法剣士スタイルなのだ。
放たれる獄炎や稲妻を蓮夜は、魔槍を振るって蹴散らし、間髪入れずに迫る魔の斬撃をも打ち払ってみせる。
蓮夜の槍術は、まさに卓越していた。
「小癪な小僧めっ! だがこれは破れまい!」
そして、忌々しげながらも嘲笑するゾルギアの姿が再び消えた。
「蓮夜っ!」
「蓮夜さんっ!」
魔力を封じたファンタスマを取り押さえた澪とイーシャの心配の声に、蓮夜は『だいじょうぶだ』と言わんばかりに片手を挙げて応じた。
蓮夜は、無色透明でありながら極彩色に輝く魔槍を新たに創造した。
極彩色の魔槍を手にした蓮夜は、両手を使って器用に回転させながら周囲を振り払う。
すると、空間が玻璃が割れるような音を立てて砕き散らされ、切断されていく。
「な、なにぃっ!?」
ここで初めて明確にゾルギアは驚愕の声を上げる。
そう、渡る空間を破壊されたことで隠れ潜むことができなくなったのだ。
最近は頑丈な魔槍を使ってばかりで勘違いされがちだが、蓮夜の所有する『魔槍創造』は、創りだす魔槍に特殊な属性、効果、概念すらも付与することができる。
ゆえに蓮夜は、空間干渉の魔槍を創りだし、ゾルギアの潜む空間そのものを破壊することで能力を打ち破ったのだ。
「おのれっ! 穢らわしい半魔風情がっ! 忌々しい神の力に頼るかっ!」
混血ゆえに保有する神器にしてやられたことに、ゾルギアは激昂して吶喊。
示現流のごとく勢いそのままに魔剣を振り下ろす。
「使いこなす、と言ってもらいたいものだな」
しかし、蓮夜は冷たく返した。
次瞬、今度の結果は先ほどとは真逆だった。
甲高い金属音と火花が散り、魔剣は魔槍に受け止められた。
「バカなっ!? これを受け止めるだどっ!?」
ゾルギアは驚愕の連続だった。
魔剣を受け止められたこともだが、それよりさらに驚きなのは、魔剣のオーラがみるみる減衰していくことだった。
もちろん、空間干渉の魔槍とは別に、これも蓮夜の新たに創造した魔槍の効果だ。
新たな魔槍の効果は、接触対象の魔のオーラを吸収し、魔槍を強化するというものだ。
驚くべきは、魔槍の切り替えの速さと、その吸引力であり、ゾルギアの魔剣は強化前よりも纏うオーラが希薄になっており、もはや数打ちの魔剣と変わらないほどに格落ちしている。
蓮夜が鋭い呼気とともに魔槍を払えば、ゾルギアの魔剣は半ばから断ち斬られた。
「お、おのれぇっ! 小僧っっ!」
ゾルギアは、魔剣の残骸を投げつけて距離を取り、炎や雷の魔力を投げつける。
だが、蓮夜が魔槍を振り回せば魔剣の残骸は砕かれ、炎や雷の魔力は、魔のオーラであるゆえに魔槍の糧となった。
水を飲むという行為が行き過ぎれば悍ましく見えるように、その光景はゾルギアをして心胆冷えるものだった。
「おのれっ、忌々しい聖書の神はなぜこんなモノを遺して──」
「──その心臓、もらい受ける」
悪罵の途中、蓮夜の鋭い眼光がゾルギアを射抜き、瞬く間に間合いを詰めた。
ゾルギアも歴戦の古強者として回避しようとしたが──。
「
それは、師のクー・フーリンが編み出した対人技を蓮夜が工夫したもの。
本来は、魔槍の持つ因果逆転の呪いにより『心臓に槍が命中した』という結果を作ってから『槍を放つ』という原因を作る。
つまり放ったから当たった、ではなく、当たったから放ったという、運命そのものに対する攻撃だ。
蓮夜は、それを魔法で再現し手にした魔槍を擬似的なゲイボルクとすることで、同様の効果を発揮させたのだ。
「が、ぁ……は……っ!」
回避行動に入ったはずのゾルギアの胸元を蓮夜の魔槍が貫いていた。
心臓を破壊し、穂先が背中から突き出ている。
「き、ぎざまぁ……! こ、このゾルギアを……っ! 私を殺せばどうなるかわかっておるのかぁ……っ!」
目から、口から血を流し、魔槍の柄を握りしめて恨み骨髄な声音と視線を向けるゾルギアだが、蓮夜はまるで怯むことなく、呪いに近い魔法を解放する。
そう、蓮夜のゲイボルクはここからが本番だった。
ゾルギアの体内に沈んだ魔槍から無数の棘のごとき刃が生え、心臓どころか主要な臓器を悉く貫き、破壊する。
「ま、待っ────」
それ以上に致命的な何かを感じたゾルギアは、押し留める言葉を紡ぐことすら許されなかった。
蓮夜の魔槍は、ゾルギアの体だけでなく、その魂にすら魔の手を伸ばした。
声にならぬ絶叫を上げ、ゾルギアは肉体はおろか、その魂魄すらも破壊し、完全なる死を齎した。
それは、あらゆる生存を許さぬ絶対の死、不可避の終わりだ。
万が一の生存すら否定されたゾルギアは、その身と魂を塵と化してこの世から消滅したのだった。
残ったのは、魔槍を構えて残心する蓮夜だ。
蓮夜は、構えを解いて魔槍を脇に手挟むようにして引いた。
「……終わったの?」
吹く夜風に赤い髪を靡かせ、歩み寄ってきた澪が静かに声をかけた。
「……ああ、終わった」
そう言って向き合った蓮夜は、魔槍を消すと澪に歩み寄り、その頬を拭った。
「あ、あれ……? あたし、なんで……?」
それで初めて自分が泣いていることに気づき、澪は涙を止めようとする。
「いいさ。ようやく解放されたんだからな。気にせず泣くといい」
そう言って蓮夜は、澪を優しく、強く抱きしめた。
澪は、その温もりに堪えていたものが決壊した。
その涙は、泣き声は、自らの人生に陰を落とし続けてきたモノから解放された、そして亡き両親を思ってのものだった。
蓮夜は、澪がまた笑えるように、そのすべてをただ黙って受け止めるのだった。
(よかったですね、澪さん)
その光景を見守りながら、イーシャは優しく微笑んだ。
そして、同時に蓮夜の器の大きさ、やさしさに触れてイーシャも改めて決心する。
(これからは、私も蓮夜さんのもとで生きていきます)
イーシャが本当の意味で蓮夜に心惹かれた瞬間だ。
こうしていろいろなことに決着がつき、そしてまた新たな始まりを迎えるのだった。
To be continued
ゲイボルクはやはりチート。
それではまた!