※この作品はR-18です。

ハイスクールD×D〜聖魔の槍使い   作:星屑の騎士

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少しだけ書き直しましたが大筋は変わりません。それでも良ければぜひ読んでいただければと思います。


月下の刺客

 

 ──これは夢だと、蓮夜は把握していた。

 

 蓮夜は、いま懐かしい明晰夢を見ていた。

 

 それは、いつぞやのようにクー・フーリンとの修業の一幕だった。

 

『──よし、今日の修業はこいつを登ってもらう』

 

 そう言ってクー・フーリンが幼き日の蓮夜を連れてきたのは、広大な冥界の土地のなかでも危険地帯のひとつ、禁足域にもなっている断崖絶壁だ。

 

 ここは、魔力が使えない。正確には、魔力を放出しても霧散してしまうのだ。

 

 使えるのは、せいぜいが身体強化程度である。魔力に頼りがちな悪魔には、まさに危険地帯であるがゆえに誰も近寄らないのだ。

 

 見上げても地上の裂け目が見えない地の底で走り込みで少しずつ逞しくなってきた蓮夜は、呆れつつも慣れたように半眼になりながらも言う。

 

『もう師匠の突飛な行動にも慣れてきましたが、わざわざ地の底にまで連れてきたと思えばロッククライミングとは……理由を訊いても?』

 

『本当は、自力で気づいてもらいてぇが……まあ、いいだろう。修業の意味をわかってんのとわかってねぇのとじゃ、効率もやる気もちげぇからな』

 

 そう言って口元に笑みを浮かべたクー・フーリンは、話を続ける。

 

『まずは、単に体を鍛えるためだな。走り込みにも慣れてきたが、だからこそ新たな刺激をってな。修業は慣れてきたときが一番危なっかしいからよ。これをこなして体力と根性を身につけながら体も鍛えられるって寸法だ』

 

 たしかに不眠不休の走り込みもすっかり慣れ、いまでは蓮夜も一週間走り続けていられるようになった。

 

 だが、修業は慣れてはいけない。負荷をかけてこそ心身は、強くなる。刺激が減った修業は、あまり意味がない。

 

 だからこそ河岸を変えようというクー・フーリンの計らいだ。

 

『で、こっからが本命のオンパレードだ。ここでは、悪魔の特性の魔力が碌に使えねぇ。使えんのは、精々が身体強化だ。だからこそ身体強化の倍率や効率を鍛えるのに役立つ。なんたっていまのおまえじゃ、身体強化しっぱなしでもねぇと登れねぇからな。ついでに魔力を使い続けてれば量も自然と増えんだろ』

 

 身体強化の魔力運用は、悪魔では基本だが魔力を放出することに偏りがちな悪魔のそれはクー・フーリンから見てあまりにお粗末だ。

 

 だからこそ、この長い崖を登ることで魔力を効率良く使う術を身につけろということだ。

 

 それに確かに魔力量を増やすことにも繋がる。

 

『次が見切りの修業だ。この崖の頑丈なところと脆いところを見切る目を養え。目より先に手が肥えることはねぇからな。見切りを身につけりゃあ、戦闘で必ず役に立つからよ』

 

 吹き曝しの絶壁は、当然脆くなっている箇所も多い。

 

 手や足をかける場所を誤れば体勢が崩れ、下手したら底まで真っ逆さまだ。それを見抜く目を養えば戦いで大事な技術、活路を見出す見切りが身につくだろう。

 

『最後は、体捌きを身につけろ。要は重心ってもんを理解してみな。それだけで体捌きのキレがまるで変わる。このへんをこなしたらいよいよ戦闘技術も身につける段階ってとこだ』

 

 重心の掛けかたを身につければ多少脆いところですら崩さず、体の動かし方も理解できるようになる。

 

『ああ、ついでに制限時間を設ける。最初はそうだな……五時間以内に登り切れ。できなけりゃ底からやり直しだ。最終的には、一時間切ってもらうぜ』

 

『……こ、これを? さすがに無茶苦茶では?』

 

 説明されればこの修業の旨みを理解できた蓮夜だが、最後に提示された無茶苦茶な条件にさすがに顔が引き攣る。

 

 見上げても空は見えず、高層ビル何階分の高さかわかったものではない。

 

 しかし、クー・フーリンは甘えを許さない。

 

『できなけりゃあそれまでだ。特に今回はオレも邪魔する気はねぇ。おまえしだいな修業程度で根を上げるんなら実戦なんか無理だ。諦めな』

 

『……やります!』

 

『おう、その意気だ。んじゃまあ、オレは先に行って待ってるぜ』

 

 やる気を見せた弟子にそう言ってクー・フーリンは、ひょいひょいと足取りも軽く切り立った崖を登っていく。

 

 あまりの身軽さに平地を歩いているかのように錯覚する軽業だ。

 

 このあと、蓮夜も挑戦したが当然五時間以内に踏破などできず、何回も登っては底に突き落とされて逆戻りという体力はもちろん、それ以上に徒労のような繰り返しに気力が折れかけたが何回も挑戦し続けることでタイムは徐々に短くなり、最終的には一時間切るようになった。

 

 その過程でクー・フーリンの言っていたものは、すべて身につけ、この修業を経て次からは戦い方を教えてもらえるようになったのだ。

 

 

 

 

 

「……また懐かしい夢を見たな」

 

 早朝。

 

 青で統一された内装の洋式の部屋にて、ベッドの上に眠るひとりの青年が身じろぎをし、やがて上体を起こすと体を伸ばしてほぐし終えると瞼を開いた。

 

 黒の短髪に鋭く強い意思力を感じさせる蒼穹の瞳。

 

 寝巻きの上からでもわかる鍛え抜かれた引き締まっている体躯の青年──黒崎蓮夜だ。

 

「ぁ、ん……」

 

 蓮夜が掛け布団を取り払うと、その隣に眠るのは可愛らしい声を上げる美しい女性だった。

 

 長く美しい金髪。

 

 雪のように白い肌を持つ肢体。

 

 身につけているのは水色の下着のみで、それも肩紐がほどけていて妙に艶かしい。

 

 ブラジャーから零れ出しそうな豊かで柔らかい胸が腕に押し当てられているのも情欲を誘う。

 

「……んっ、レオ……くん、そんな……」

 

 微かに甘い吐息を漏らしているのは昨夜の情事の名残りだろうか。

 

 よく見れば白い肌にも諸々と痕が残っている。

 

「──んぅ……レオくん?」

 

 不意に瞼が開き、美女の深い青色の瞳が開かれ、蓮夜を見上げた。

 

「……ラヴィニア」

 

「ふふふ。おはようなのです、レオくん。……今日も朝から元気いっぱいなのですね」

 

 悪戯っぽく笑った少女──ラヴィニア・レーニは身を起こすとほっそりとした腕を絡めるようにして蓮夜の腕に抱きつき、たわわな果実を押しつける。

 

 そう、昨夜はラヴィニアと閨をともにしたのだ。

 

 つい数時間前までは、さんざんに彼女に雌の声を上げさせていたのだった。

 

「ほら、まだ寝てていいのですよ? それとも、気持ちいいことするのです?」

 

「……いや、今日から学校も始まるからな、そういうわけにはいかない。あまり自堕落が過ぎると体が鈍るしな」

 

「……日本に来る前は、毎日シてたのです」

 

「まあ、いちおう学生だしな。なに、休みに入ったらたっぷりするさ」

 

「あんっ! レオくん、ちゅっ……」

 

 蓮夜に豊満な柔乳を揉まれ、ラヴィニアはうっとりしながらお目覚めのキスをたっぷり舌を絡ませてしたのだった。

 

 結局キスや愛撫やらで時間を取ったが、蓮夜もラヴィニアも寝起きの気だるさなど微塵も感じさせない動きでベッドから出ると部屋をあとにし、洗面所に向かう。

 

「レオくんは、おっぱい吸うの好きなのです」

 

 洗面所に着くと互いの着ているものを脱がし合ってバスルームに入り、途中、ラヴィニアの胸を堪能しながら昨夜の情事の名残りを洗い落とし──体を洗い合った際に互いに情欲に駆られてまた相手の体につけてしまったが──体を拭き合って着替えたあと、歯磨きを始めとした身だしなみを整えるのだった。

 

 

 

 

 

       §

 

 

 

 

 

 成瀬澪を眷属に迎え、イーシャを保護してから数日、特に変わり映えのない日常を送っている蓮夜は、今日も学生生活を終えた。

 

 そして迎えた学生にとっては、部活や習い事、友人と遊びに行く放課後の時間。蓮夜は、後者で友人たちと街へ繰り出していた。

 

「──こことかは、いろいろ揃ってる大型ショッピングモールだから、普段使いはもちろん、女の子にとっても必要なものとか充実していて便利だよ。私も波瑠加ちゃんとか他の友達とよくこうして遊びに来るしね」

 

「……ま、そのぶんいつも人も多いけどねー。地方都市だから遊べるところ限られてるからさ」

 

「確かにデートコースにもなっているようね」

 

「これだけ充実した店ならありがたいわね」

 

 帆波の説明に波瑠加はテンション低めに言うが、アスカと澪はその様子に笑顔で頷く。

 

 そう、蓮夜はいま、放課後を利用してアスカ、エルファリア、澪とともに帆波、波瑠加に駒王町を案内してもらうカタチで遊んでいた。

 

 そのエルファリアは、会話にあまり交わらず、蓮夜と腕を組んで散策に付き合っていた。

 

「レンヤ、今日は一緒に寝たいな」

 

「ああ、もちろんかまわないぞ」

 

 蓮夜と一緒だからかエルファリアは、とにかく楽しそうで終始笑顔を浮かべていた。

 

 エルファリアは、場所がどこであれ、とにかく蓮夜が関係していれば満足なのだ。

 

「ふたりとも、本当に仲良いよね」

 

「れんぽん、目立つからほどほどにねー」

 

「まったく、ベタベタデレデレしちゃって……」

 

 帆波、波瑠加は慣れたものだが、拗ねた様子の澪がそう呟く。

 

 澪がこの場に居るのは、いままで通っていた女子校から駒王学園へと転校してきたためだ。

 

 ちなみにクラスは、万が一に備えての転校ということで蓮夜たちと同じだ。

 

 そんなことがありながらも大型ショッピングモールを周り、ウィンドウショッピングという冷やかしをしている。

 

 この駒王学園近くにある二階建てのデパートは、帆波の説明にもあったように駒王学園の生徒もよく利用していて、一階と二階は吹き抜けの長いショッピングモールとなっており、横面積もかなりのものになっていた。

 

 蓮夜たちにはあまり関係ないが、屋上は駐車場。

 

 その他にも地下には立体駐車場なんかも存在してある。

 

 一階には大手古本屋の支店、スポーツ用品店、食材品売り場、電気屋、ジャンクフード店、雑貨品売り場などがあり、帆波の言うように普段使いにも適したさまざまな店が展開していた。

 

 続く二階にはペットショップ、ゲーセン、飲食フロア、本屋、ドラッグストアが存在していた。

 

 この階層は、友達と遊ぶのにも恋人とデートするにも向いている。

 

「ふふふ。ねえ、蓮夜。今度、私とデートする?」

 

 いつの間にかエルファリアと反対側に位置取り、腕を絡ませながらアスカが上目遣いでそう言った。

 

「俺はかまわないぞ」

 

「そ。なら決まりね。楽しみね、蓮夜とのデート」

 

 アスカは気軽に言っているが、本当に喜んでいるのが蓮夜にはわかった。

 

「あ、アスカばかりずるい! ねぇ、レンヤ? 私も!」

 

「ああ、もちろんだ」

 

 対抗心を燃やすエルファリアに蓮夜は当然と頷いた。

 

 そうこうしていると、蓮夜たちは雑貨店に入っていった。

 

 いろいろな商品が並んでいるが、そのなかでも特に女の子たちの目を引いたのは、かわいらしくデフォルメされた動物の顔が付いた陶器製のマグカップだった。

 

「わっ、かわいい!」

 

「ま、悪くないんじゃない」

 

「種類もけっこうあるわね」

 

「あ、これいいわね」

 

 帆波、波瑠加、アスカ、澪がそれぞれカップを手に取って口々に言う。

 

 何種類もの動物がどれも女心をくすぐるかわいらしいデザインをしている。

 

 エルファリアは、そんなときでも蓮夜と腕を組んで幸せそうにしていた。

 

「──わっ、やっぱりお値段も相応だねぇ」

 

 と、マグカップの裏底に貼られた値札を見て、小さく帆波が声を上げる。

 

 そこには八千円という高校生には、なかなか手が出ない値段が提示されていた。

 

 その高値に波瑠加、澪もマグカップを棚に戻す。

 

 アスカは余裕がある様子だが、それは本人が相応に稼いでいるからだろう。

 

 蓮夜のもとで生活が大きく変わっても、帆波たちのそういった価値観はあまり変化がなかった。

 

「──せっかくだから買っていくか」

 

 そう言い出したのは蓮夜だった。

 

「れ、蓮夜くん、本気?」

 

「ああ。ウチの奴ら全員分買っていこう」

 

「蓮夜、さっすが〜」

 

「ぜ、全員分って……あたしも?」

 

「もちろん。この場にいる全員と、ラヴィニアたちの分だ」

 

「れんぽん、お金持ちだもんね〜」

 

「私、蓮夜とお揃いがいいなぁ」

 

 そうしてアスカたちは、蓮夜に感謝しつつ姦しくマグカップを選ぶのだった。

 

 ちなみに蓮夜やラヴィニアたちの分もアスカたちに選んでもらった。

 

 雑貨店を出たあと、マグカップの件からお礼にとあまり服にこだわりがない蓮夜の服を選び、女性陣でお金を持ち寄って買ってもらったり、そのあとはクレープを買い食いしたりと、いままでなかなかなかった年頃らしい時間を過ごした。

 

 そろそろ日が暮れ、春といえど辺りもすっかり暗くなってきた頃、蓮夜たちは家がすぐ近所ということもあり一緒に帰ることにする。

 

 蓮夜と腕を組んでいるエルファリアはともかく、アスカ、帆波、波瑠加、澪は年頃の女の子らしいガールズトークに華を咲かせていた。

 

 暗い住宅街を歩いているときだった。

 

「……これは」

 

「結界……」

 

「いったい誰かしらね」

 

 蓮夜、エルファリア、アスカが即座に勘づき、遅れて澪も展開された不可視の力場の存在に気づいた。

 

「──蓮夜。これって……」

 

「ああ。どうやら俺たちを狙ったモノらしいな」

 

「いったい誰が? まさかゾルギアの残党?!」

 

「さぁな。それは、そこに居る奴に答えてもらおう」

 

 近侍にいろいろあった澪に応じながらも、自然体に体も思考も臨戦態勢に入った蓮夜が顎で示した先、街灯のてっぺんにその存在は居た。

 

 夜風に靡かせた黒い外套を纏い、仮面をつけた大柄の何者かがこちらを見下ろしている。

 

「おまえは、何者だ?」

 

「レオンハルト・フェレスだな?」

 

「こちらが訊いているんだがな。まあいい。ああ、それで? 俺がそうだとしたらなんの用だ?」

 

「おまえに恨みはないが、これも仕事。その命、もらい受ける」

 

 そう言って黒衣の凶手は、街灯から跳躍し、こちらへと急降下してきた。

 

「アスカ、エルフィ。帆波と波瑠加、澪を守れ」

 

「うん! わかった!」

 

「任せなさい!」

 

 蓮夜の指示を受け、エルファリアは自分と帆波、波瑠加、澪を覆う結界を展開した。

 

 アスカは、即座に身動きが取れるようにあえて結界の外に身を置いた。

 

 その様子を背中越しに確認したときには、蓮夜は黒衣の凶手との交戦域に入り、瞬時に創り出した魔槍を振るっていた。

 

 蓮夜の魔槍と黒衣の凶手の大剣がぶつかり合い、人のいなくなった街に金属音を轟かせ、夜闇を火花が照らす。

 

 黒衣の凶手は、唐竹、袈裟斬り、切り上げ、突き、と大剣とは思えない超高速の剣撃を振るう。その速度と技量は、先日戦ったゾルギアに匹敵──否、凌駕すらしている。

 

 しかし、そんな嵐のような剣撃を蓮夜は、最小限の動きで躱し魔槍で捌き、隙あらば反撃に転じている。

 

「──っ!?」

 

 黒衣の凶手はその速度を活かして時折死角からも攻撃を加えるが、まるで見えているかのように容易く反応した蓮夜に攻めあぐねていた。

 

 被弾しているのは外套の端々だが、確実に被弾し始めている黒衣の凶手に対し、蓮夜はいまだにその身はおろか制服にも刃を掠らせてすらいない。

 

「誰が、なぜ狙っているのか、いちいち問う気はない。俺の命を狙う輩は、少なくないからな」

 

 それどころか蓮夜は、言葉すら発する余裕があった。だからこそ解せない。

 

「俺を狙うにしては、おまえからは殺気が感じられないな。ああ、凄腕の暗殺者はそういったモノを発さないというのはわかっている。わかっているうえで言っているんだ」

 

 そう、目の前の相手からは、仰々しい姿形、剣呑な武器や太刀筋に反し、殺す気概を感じられない。

 

 狙っているのは、急所から外れた場所ばかりで、これならクリティカルをもらっても意識を飛ばされる程度だ。

 

「……戯言を」

 

「そうか? ならその身なりも戯れってこと、か!」

 

 蓮夜は、そう言って魔槍を自然にクルリと回し、石突側で下方から掬い上げるように黒衣の凶手、その身につけた仮面を打った。

 

「────っ!?」

 

 急激な緩急の変化に対応が僅かに遅れ、黒衣の凶手の顎を掠めながら魔槍は仮面を吹き飛ばした。

 

「……やっぱりな。おかしいと思ったんだ。それだけ洗練されていながら、どうにも武器の振りかたや体捌きにぎこちなさがあったからな」

 

 数合交えただけで練度と動きが噛み合わないことを訝しんだ蓮夜は、仮面の下の素顔を見て納得した。

 

「え、ええっ!? お、女の子じゃない!」

 

 悪魔ゆえに夜闇でも苦もなく見通せる澪が、代表して驚きを露わにした。

 

 そう、無機質な仮面の下から露わになったのは、その体格に反して澪たちと同じ年頃の女の子の素顔だった。

 

 それも、まるで月に祝福されたかのような美少女だ。

 

「その体格も詳しくはないが、本来の体格を東洋の術で誤魔化しているんだろう? だから動きの精彩さを欠いていたわけだ」

 

「……っ」

 

 蓮夜の指摘に黒衣の凶手は、顔を俯かせて唇を噛む。

 

「……次は、仕留めます」

 

 そう言って黒衣の凶手は、踵を返すと夜闇に溶けるようにして駆け去った。

 

「あ、待ちなさいよ!」

 

「まあ待て」

 

「蓮夜、どうして!?」

 

 魔法を放とうとする澪に蓮夜は、押し止めるが納得がいかないようだ。

 

 それは、アスカ、エルファリアも同じようだった。

 

「向こうは、俺を本気で殺す気はなかったようだ。本来の実力なら俺もああも余裕はなかっただろう」

 

 蓮夜の言葉にエルファリアと澪は驚く。

 

 アスカは、蓮夜と同じ意見なのか納得した様子だった。

 

 特に澪は、俯瞰して見ていた限り、あの黒衣の凶手の実力は先日見たゾルギアに匹敵していた。

 

 それで手加減していた? つまり本来の実力は、少なくとも『剣王』とまで称された大戦の生き残りであるゾルギア以上ということだ。

 

「それにこっちには、戦えないふたりもいるしね。無理に追撃するべきじゃないわ」

 

 と、アスカが蓮夜の心を代弁した。

 

 そう、帆波や波瑠加は、防御対策は十全だが当然戦う術は持たない。

 

 あのレベルの実力者相手に非戦闘員を連れて戦うのはいささか無謀だった。

 

 何より蓮夜自身がふたりを戦場にこれ以上置いておきたくないのだ。

 

「レンヤ。何か気になることがあるの?」

 

 エルファリアは、蓮夜のことを察して慮ったように訊ねた。

 

「……ああ。あの迷いは、こちらを殺したくないというものだった。それは、攻撃にも表れていたがな」

 

 蓮夜は、黒衣の凶手が消えた先を静かに見据えた。

 

「だが、同時に焦りもあった。それも怯えが混じったな」

 

「つまり、どういうことよ?」

 

「あれほどの実力者が怯えるってことは、それ以上の実力者が背後に居るのか、あるいは……」

 

 蓮夜は、すでに結界が消えたことで人混みが戻った街並みの向こう、去った黒衣の凶手の背を追うように視線を投じた。

 

「──何かを守らないといけないからだ」

 

 帆波と波瑠加を抱きしめて安心させながら、蓮夜はそう言った。

 

 

 

To be continued

 

 

 

 

 

 

 

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