黒衣の凶手を退けてからアスカたちと自宅へと戻った蓮夜は、ラヴィニアたちに事情を話したあと、帆波と波瑠加を今日のところは家に泊めることした。
織姫やシルファに帆波と波瑠加をひとまず任せ、蓮夜はひとり書斎に籠っていた。
椅子に座り、蓮夜は通信用魔方陣を展開していた。
連絡先は、蓮夜、ラヴィニア、エルファリアも所属する魔法使いの協会『灰色の魔術師』だ。
それもこの回線は、父親にして協会の理事でもあるメフィスト・フェレスへの直通通信だった。
そんなメフィストは、不意にやってきた連絡への応対は親子の会話から始まった。
『──やあ、蓮ちゃん。どうかしたのかな?』
通信映像として映し出されたメフィストは、そんなふうに気安く語りかけてきた。
「……何回も言ってるがいい加減『蓮ちゃん』はやめてくれないか、父さん? 俺も今年で十七歳、高二だぞ」
『はっはっはっ。僕にとっては、まだまだ幼く手のかかるかわいい息子さ』
「そりゃあフェレス家の初代である父さんからすれば、二十年も生きてない俺なんていつまでも赤子みたいなもんだろうけどさ」
もう何度めになるかわからない苦言を呈してもメフィストは、堪えた様子もなく陽気に笑っており、蓮夜は短く溜め息をついた。
『いやはや、すまないね。いやなに、父親として異国の地に旅立ったひとり息子が心配になってね』
「……四年前にラヴィニアと日本に派遣して、『空蟬機関』や『オズ』と戦わせておいて何を言っているんだか」
白々しいと蓮夜は嘆息する。
ラヴィニアも一緒だったとはいえ、当時十三歳だったことを考えれば本当にいまさらだろう。
『それはそれ、これはこれさ。なにせ、今回蓮ちゃんを異国に行かせた理由が理由だからね』
そう、リアスやソーナには語らなかった真実。
それは、この駒王町を中心に世界の流れが変わるという星の巡りをメフィストは視たのだ。
「それをたしかめるために俺たちは、こうして日本くんだりまで来たわけだが……」
『うん。正確には、それが吉兆になるか凶兆になるかまだわからないし、これからの行動でどちらにも変わるって感じかな』
「でも、いまのところ変わりはない」
『だが、嫌でも確実に起きるのさ。その町で三大勢力や他の神話勢力を巻き込み、大きく変えていく激動の時代が幕を開ける、そんな何かがね』
定期連絡を兼ねているため蓮夜は、メフィストの占星術に疑いはなく報告しているが、現在の停滞した状況が何をきっかけにして、どう変わっていくのかいまだに読めない。
『まあ、僕としては、とうに悪魔政府とは距離を置いたし、おとなしく人間界で協会の理事なんかやっていたらいいだけなんだけどさ。しかし、キミは……キミたちはまだまだこれからの世代だ。だからこそ僕は、これからを生きるキミたちをあえてその地に派遣したのさ。その目で、その手でそう遠くないうちに訪れる新時代を切り開くために、ね』
と、メフィストは肩を竦めて言う。
未来ある若者だからこそ、部外者としてではなく当事者として渦中に飛び込めということだ。
それを優しいと取るか、厳しいと取るかは人それぞれだろうが、少なくとも蓮夜は前者と考えていた。
だからこそ虎穴に飛び込むことにしたのだ。
『だからそれを吉兆とするか凶兆とするかは、キミたちしだいさ。古い世代の僕たちではなくいまを生きる、ね』
「……まあ、たしかにそれだけのことが起きるのなら、渦中のど真ん中に居たほうが何かと動きやすいがな」
メフィストの話に蓮夜は、改めて納得を示す。
良くも悪くも騒動の渦中に居たほうが関わりかたを選ぶことができる。
自分から関わるか、蚊帳の外に居たのに相手の勝手に巻き込まれるか、この違いは大きく近くに居たほうが取捨選択はしやすい。
場合によっては、静観すら選ぶことができるのだから。
「情報は、鮮度と精度が大事だからな。それだけのことが起きるなら蚊帳の外に居るよりかは、渦中に居たほうが利を得られやすい、か」
『そういうことさ。──それで何か予兆のようなものは見つけられたかい?』
当事者のほうが得られる情報の確度は高いという蓮夜の言葉に頷き、メフィストが静かに問いかける。
しかし、蓮夜は首を横に振った。
「……残念ながらそれらしいものは見つかってない。めぼしいところは、見て回ったんだがな」
そう、蓮夜は単に挨拶に行くなんていう殊勝な性格はしていない。
リアスやソーナのもとを訪れたのは、メフィストの占星術に関わるような存在がいないかたしかめるためだった。
しかし、この町では最大の異能関係者の派閥であるリアスやソーナの下にそのようなものは、何も確認できなかった。
メフィストは、顎に手を当てて視線を上に巡らせて思案げに言う。
『ふむ、そうなるとまだ次期じゃないのか、あるいは何かが足りないのかもしれないね。だが変化はそう遠くないうちに訪れると思うよ』
「だといいんだが……」
『まあ、せっかくだからしばらくは日本の学生生活を満喫したまえ。四年前は、いろいろ慌しかったからねぇ。観光とかもしてみるといいさ』
蓮夜としては、徒労に終わらなければ最低限の収穫を得られたらいいくらいに考えていた。
そんな息子にメフィストは、気楽に提案しつつ訊く。
『それで日本の学校はどうだい?』
「いいところだな。クラスメイトもいい奴らが多い。まあ、問題児も多く居たが……」
派遣した帆波や波瑠加を始め、クラスメイトは良い者も多かったがリアスたちグレモリー眷属、兵藤、松田、元浜、ソーナも微妙といった問題児も多い。
変態三人組とリアスたちグレモリー眷属や、生徒会長のソーナを同列に考えるのも蓮夜くらいなものだろう。
『まあ、そういう輩はどこにだっているさ。リアスちゃんやソーナちゃんはどうだい?』
「……どちらもいろいろ問題はあるな。いちおう、相互不可侵ってことにしたから多少はだいじょうぶだと思うが」
組織を運営する身としてしみじみ言いながら訊くメフィストに、蓮夜は取り決めたことをざっと説明した。
『う〜ん……僕としては、時代を担う若者同士もっと積極的に交流してもらいたいけど……蓮ちゃんがそう決めたのなら何かあるんだろうね。そのあたりは、現場のキミの判断に委ねるよ』
メフィストとしては、同世代のリアスやソーナと協力してもらいたかったようだが、蓮夜の現場判断に任せることにしたようだ。
そのあたりは、過去の実績から息子を信頼しているといったところか。
『ああ、そうだ。颯馬くんや秋ちゃんには会えたかな?』
と、メフィストからも話題が振られた。
「ああ。颯馬の昇格代行カードも受け取ったよ。秋先生は、優秀な魔法使いみたいだな」
『うんうん、それは何よりだ。颯馬くんのことは任せるよ。好きに運用してくれたまえ。秋ちゃんは、僕の弟子のなかでも一際優秀だからね。だが、それだけに狙われることも多い。彼女は自衛以上の戦闘が難しい資質だから、いざというときは蓮ちゃんが守ってあげてほしい』
「了解。いろいろ任せてくれ」
『うん、頼りにしているよ』
颯馬は親友だし、秋はこれから何かと世話になることもあるだろう。
蓮夜としてもそのあたりは、引き受けることに異論はない。
(秋先生は、縁があればこちらに引き入れたいものだな)
そう思いながらも、とりあえず現状維持な事柄は置いておき、蓮夜は話を先へ進めることにした。
「それで、父さん。今日は訊きたいことがあるんだ」
『それが本題かい? いいとも。なんでも訊いてくれたまえ。僕に答えられることなら答えようとも』
「前に話してくれた『銀』についてだ」
『……ずいぶんと懐かしい名前だね』
メフィストは、蓮夜の口から出た名前に言葉通りに懐かしそうに目を細める。
『銀』とは、メフィストの古い付き合いの人間、モンド・マオと男性の裏世界での呼び名だ。
その存在はある種の不老不死とされていた。
しかし、その名は、技術や記憶、知識とともに代々脈々と受け継がれたものであり、その正体は中身は別人でありながら同一人物と疑わせない振る舞いだ。
『とはいえだ。僕もモンドくんが死んでからは、後継者とは交流がないからねぇ』
「なら、いまの『銀』がどうしているのかわかるか?」
『おや? どうしてそう思ったんだい?』
「交流がないのは後継者個人で、『銀』を知らないとは言ってないからな」
『さすが蓮ちゃん。我が自慢の息子だよ』
蓮夜とのやり取りを目を細めて楽しそうに頷くメフィスト。
息子相手でも時折こうして試す真似をするのは、ある種の信頼もあってのことだった。
そのチェシャ猫じみた様子に蓮夜は、視線を鋭くする。
「……父さん。遊んでいる場合じゃないんだが」
『おっと、ごめんごめん。息子の成長につい楽しくなっちゃってね。お詫びに蓮ちゃんの知りたいことは、すべて教えよう』
そう言ってメフィストは、手元の魔方陣を操作する。
『……ふむ、いまの「銀」は、仕事で日本に行っているようだね』
「それは、暗殺のか?」
『さすがに仕事の詳細まではわからないね。ただ、暗殺の仕事ではないと思うよ。「銀」の目撃情報が途絶えた日から、アルディギア王国の姫君も姿を見せていないからね』
「それだけなら偶然な気もするが……」
『もちろん、それだけじゃないさ。過去に「銀」は、アルディギア王国の姫君を助けている』
メフィストの話では、魔獣に襲われているところを『銀』が偶然助けたようだ。
『どうも、それ以来「銀」がたびたび護衛仕事を引き請けているようだね』
「……なるほど」
もともと交流のあった間柄の者同士が、まったく同じ日から姿を見せない。
蓮夜は、そこに一連の騒動に関係があると考えていた。
アルディギア王国は、元は北欧の国ではあったが、もともと観光や魔法技術で栄えていたが、前者はともかく後者は流れ行く時代の影響で秘匿する必要が出てきた。
これにより表では観光を主とし魔法技術は、裏世界へと隠匿した。
それが『アルディギア魔術協会』という名の北欧の魔術協会のだ。
現アルディギア王国の王族は、表では君主制国家の頂点を務めながら、魔術協会の理事なども兼任しており、その影響力は北欧にて絶大だった。
特に最近では、改革や時代もあってより協会に重きを置いており、いずれは完全にこちら側へと進出してくるだろうと予想されている。
(……これでなんとなく見えてきたな。おそらくその姫は、現在あまり良い状況に置かれていないんだろう。姫を盾にして『銀』に言うことを聞かせ、俺へ嗾けたってところか)
誰がどうやって人質にしたのか、自分を狙う理由はなんなのかというのはわからないが、どうせすぐにわかると蓮夜は割り切る。
自分を狙う輩の顔にいちいち覚えはないが、狙っている輩が多く居るのは間違いないのだ。
『──さて、僕から話せるのはこれくらいかな。でも、急にどうしたんだい? 前に眷属候補の橋渡しにと言ったときには、乗り気じゃなかったと思ったけど』
「……まあ、少し事情があってな」
蓮夜は、言葉を濁すが過去にそういったことがあったのは事実だ。
しかし、ただでさえ混血悪魔としては、あり得ない高待遇を受けているのだ。
眷属まで斡旋されたり、メフィストからトレードなどを受けたら散々な悪罵を口にされるのは明白だった。
もちろん、蓮夜はどうでもいい他人の言葉など聞く気ないし、傷つくこともないから好きに言わせておけばいいが、そのせいで眷属にまで及べば当然我慢などできない。
その日、血の雨が降り注ぐのは間違いないだろう。
『そうかい? まあ息子が何某かやるというのなら、助けを求められない限りは口出ししないさ。あとのことは気にしないで好きにやりなさい』
「ありがとう、父さん」
不意にメフィストは、真面目な雰囲気になって机に肘をついて組んだ両手で口元を隠すようにしてそう言い、初代らしい異質な雰囲気に蓮夜も居住まいを正した。
『うん。あ、言うまでもないと思うけどラヴィニアちゃんは、下手に動かさないように。神滅具所有者は、どの勢力も無視できない存在だ。国はもちろん、県や州を跨ぐだけで各勢力に緊張が走るなんてこともある。日本の神々は蓮ちゃんにも寛容だが、彼らを奉る者たちは排他的だ。特に日本の五大宗家は、蓮ちゃんを警戒しているしね』
そう、ラヴィニアは眷属内どころか『灰色の魔術師』でも最強の一角だが、だからこそ動かすと目立つし、注目を集めてしまう。
イタリアから日本に来るのも苦労したものだが、それだけ神滅具というのは恐れられているのだ。
まあ、蓮夜やラヴィニアの場合は、四年前の日本で起きた騒動も関係あるとは思われるが。
「わかってます。五大宗家程度ならラヴィニアはもちろん、眷属は必要ありません。俺ひとりで充分です。ああ、もちろん油断や慢心はしません」
どんな強者も油断や慢心があれば、格下に付け入る隙を与えてしまう。
ジャイアントキリングとは、その大半が格上の傲慢さが招くものなのだ。
『そうだね、そこも心配はしてないよ。だが、人間はときに悪魔の知恵を超えることもある。人間は、時間を与えるとどんな手を用意しているかわからない。いちおう忠告させてもらうよ。気をつけてね。これは、会長としてだけでなく父親としての言葉だ』
「了解」
『うん、それじゃあ僕の知る限りの「銀」の資料を送っておくよ。他にも何かあれば連絡してね』
「はい、会長」
終始気負うことなく応じる蓮夜にメフィストは、我が息子ながら頼もしくなったなぁと思いながら『じゃあ、またね』と言い残して通信を切った。
そして、数秒して転送されてきた書類がパサっと机に落ち、蓮夜はそれを手にして件の『銀』に関する情報に目を通していくのだった。
§
とある廃墟。深い夜闇に包まれそこには、複数の気配が集まっていた。
黒いローブを纏う複数の人影が周囲を取り囲み、その円の中心には三人の姿があった。
ひとりは、仮面が取れて素顔を晒した黒衣の凶手。
感情を押し殺した様子で無表情を保っている。
「──失敗したんだって?」
その黒衣の凶手へ言葉を投げつけたのは、三人のうちのひとり。
廃墟に似つかわしくない豪奢な椅子に座り、脚を組んで見下ろしている、これまた廃墟に不釣り合いなスーツ姿の青年だ。
しかし、青年の表情は、必要なら暴力を躊躇わない陰惨さがあり、そこは廃墟に相応しい様相だった。
「……申し訳、ありません」
「謝るだけなら子供でもできるんだよ! なに? 裏世界に名だたる『銀』さまは、たかが調子に乗ったガキひとり始末できないのかよ!?」
「お言葉ですが彼の実力は、たかが子供と侮れるようなものでは……」
「なに?! 謝罪の次は言い訳ぇ!? 自分の不始末を棚上げしてんじゃねぇよ!」
黒衣の凶手の謝罪、進言を癇に障ると跳ね除ける青年。
彼は、ゾルギアお抱えの人身売買組織のリーダーを務めている──正確には、務めていた。
しかし、先日ゾルギアが急逝し、組織も壊滅的な被害を受け、信用も失ったことで旧魔王派──所属する者は真なる魔王派と称している──のアスモデウス派閥から切り捨てられた。
「くそっ! どいつもこいつもバカにしやがって! 何が違約金だ! 業突張りの悪魔どもめっ!」
その原因が黒崎蓮夜とわかり、逆恨みした青年は、財産を多く失ったことで資金の節約のために黒衣の凶手の護衛対象を人質にし、無料で殺しの依頼を請けさせたのだ。
(そのくせゾルギア侯の遊戯場は存続させてんだからな!)
さまざまな美女、美少女をさまざまな嗜好で楽しむゾルギアが営んでいた遊戯場は、他の旧魔王派によって存続している。
自分が集めた女たちが居る場所を、だ。
それがまた青年には腹立たしい。
そのすべてが黒崎蓮夜のせいだと、青年は恨みつらみを募らせる。
「──ふふ」
と、そんな青年を嘲笑うのは、黒衣の凶手──ではない。
それは、三人のうちの最後のひとりだった。
銀色の長い髪と澄んだ碧眼を持った北欧系の美少女。
魔法で拘束され、逃げ出せないように下着姿にひん剥かれながら、恥ずべきところはないとばかりに堂々としている虜囚らしからぬ虜囚だ。
「……なにがおかしい?」
「いえ、別に。ただ、小さい男って思っただけですよ」
「なんだとぉっ!」
美少女に器が小さいと笑われ、曲がりなりにもいち組織の長を長年務めてきた青年の矮小なプライドを刺激した。
青年は立ち上がると、ずかずかとした足取りで銀髪美少女に近づき、その首を思いっきり掴む。
「くっ……」
「生意気な口を聞きやがって! おまえを殺すことも、なんなら娼婦に堕とすこともできるんだぞ!? おまえのすべては、こちらが握っているということを忘れるな! なんならここに居る男たちに輪姦させてやろうか!?」
「ふ、ふ……やれるものならやってみてください」
「なんだとぉ!?」
「あなたは、わたくしのすべてを握っていると言うけれど、それはわたくしのセリフです。あなたがいま無事なのも、わたくしの存在があってこそということを忘れないことですね」
「な、なに……? ──ひぃっ!?」
まるで怯まない銀髪美少女に冷たい言葉と視線を向けられ、怒りとそれ以上の不信感を覚えたのも束の間。
背後から叩きつけられた極寒のごとき殺意に尻餅をつき、肩越しに背後を振り返った。
そこには、黒衣の凶手がその場から動かず、絶対零度の殺意を放っていた。
もし銀髪美少女にそれ以上何かすれば容赦はしないと、言葉よりも如実に態度で示している。
たしかに銀髪美少女を人質にしたことで、黒衣の凶手を手駒にしたのかもしれない。
だが、それは同時に諸刃の剣だった。
青年の安全の保障もまた、銀髪美少女の存在によって保たれているのだ。
もし彼女に何かしたら黒衣の凶手は、即断即決でこの場に居る者たちを全員始末していたことだろう。
「ま、待て! 待てぇ! 冗談! こんなのは冗談さ!」
なけなしのプライドも吹き飛んだのか、青年は立ち上がると黒衣の凶手に卑屈な笑みを向けた。
「……わかりました。ですが、次はありません」
黒衣の凶手は、殺気を収めるも視線の冷たさは変わらない。
そのことに青年は、背筋も肝も冷える思いだった。
(だ、だいじょうぶだ! 僕に何かあれば『フレイヤの再来』とまで謳われたこの女は死ぬ! 僕以外が拘束を解いても死ぬ! 生殺与奪を握っているのは僕だ! こいつを死なせたくない『銀』は、僕には逆らえない!)
青年は、自己暗示さながらに自らに言い聞かせる。
だが、それがどれだけ他者に依存した保証かわかっていない。
それは、銀髪美少女を死なせたくないからこそ黒衣の凶手は従っているのだ。
もし死なせるか、なんらかの酷い目に遭わせてしまえば、その瞬間死ぬのは青年である。
つまりは、青年の生殺与奪こそ銀髪美少女の存在に懸かっているのだ。
そのことを理解しているのは、黒衣の凶手であり────。
(ほんとにつまらない男ですね)
銀髪美少女本人もだった。
いっそ発破をかけて自分を害させることで黒衣の凶手を自由にするつもりだったが、それは黒衣の凶手自身によって阻止されてしまった。
(ふふふ。ごめんなさい)
咎めるような、それでいて心配した視線を向けてくる黒衣の凶手に銀髪美少女も視線で応じた。
それだけでお互いの意を汲んだふたりは、たしかに通じ合っている。
「と、とにかく! 次はないからな! 次こそはちゃんとレオンハルト・フェレスを始末しろよ!」
青年は、誤魔化すように虚勢を張ってそう言い張った。
「……はい」
黒衣の凶手は、素直に頷くがあくまですべては銀髪美少女のためだ。
だが、同時に迷いもあった。
ゾルギアに関しては自業自得であり、大切な者を守るために非がない相手を殺すなどというのは……
いや、それ以前に──。
(……私は)
それ以前の迷いがある黒衣の凶手は、黒崎蓮夜を殺せるとは思えなかった。
殺したくない。
だが、守りたい。
板挟みになっている黒衣の凶手が煩悶とするなか、青年は醜態を誤魔化すように次々と指示を出していく。
「よし、次は『銀』だけでなく、おまえたちも出るんだ! 手柄を挙げた奴には、奴の眷属の女どもをくれてやる! 美女、美少女揃いって噂だからな! たっぷり楽しめるぞ!」
『おおっ!』
情けない青年だが、それでもこうしてなんだかんだ旨味をちゃんとくれるから男たちは彼に従うことに文句はない。
そのときだった。
「──次なんてあると思っているのか?」
そんな声とともに轟音。
廃墟の壁が弾け飛び、瓦礫と粉塵が舞い散る。
「な、なんだ!?」
咽せながら手で粉塵を払いながら視線をなんとか確保すれば、無理やり風通しの良くなった壁の穴からひとりのヒトが入ってきた。
黒髪碧眼の青年。
それは、殺したくて仕方ない──。
「レオンハルト、フェレス!?」
レオンハルト・フェレス。
またの名を黒崎蓮夜──ここに出現。
To be continued
お気に入りなのでリーシャを登場させました。
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それではまた!