メフィストから情報を得たあと、蓮夜はある手段を使って黒衣の凶手を追跡し、突き止めた根拠地の廃墟へと単身乗り込んだ。
濛々と煙が立ち込めるなか、蓮夜は風の魔法による気流を纏っているため、視界も呼吸も問題なく確保できていた。
蓮夜の視線の先には、複数の男たちに加え、黒衣の凶手、銀髪美少女の姿が確認できた。
(あれがラ・フォリア・リハヴァインか)
蓮夜は、アルディギア王国について調べた際に王族の顔や名前も確認したため、銀髪美少女の正体を即座に把握できた。
銀髪美少女──ラフォリアの正体を確かめ、なぜ下着姿なのか疑問に思うも乱暴は受けていないと、取り乱しや憔悴した様子がないことから判断する。
(そして、あちらが『銀』か。本名がわからなかったあたり、たいした隠蔽力だな。女というのも改めて驚きだが……)
警戒態勢の黒衣の凶手へと注意を払う蓮夜は、一瞥されただけで無視されたことでプライドに障ったのか、複数人の男たちのうちひとりの青年が前に出るのを気配で察した。
その男は髪は赤褐色で、瞳の色は燃えるような紫色。
一見細身に見えるが、体幹がしっかりしていることから見る者が見ればよく鍛えられていることが見て取れた。
「──き、貴様ぁ! レオンハルト・フェレスだな!? ど、どうしてここがわかった?! まさか!?」
予想だにしない乱入者、それも殺したくて仕方ない相手を前にした青年は、血走った目で口角から泡を飛ばさんばかりに喚き散らすが、勝手に何を思ったのか黒衣の凶手を振り返って睨む。
「何を勘違いしているのかなんとなくわかるが、別にそいつに手引きされて来たわけじゃない」
だがそれは、蓮夜自身に否定された。
「ならなぜ!?」
「……それはこれさ」
わざわざ答える義理はないが、時間稼ぎに蓮夜は種明かしをすることにした。
「……仮面、だと?」
そう、青年の言うように蓮夜が手にしているのは、仮面だった。
それは、黒衣の凶手との交戦の際に吹き飛ばしたものだった。
「ああ。これを使ってモノ探しの魔法で所有者を逆探知したんだ」
本来は、失せモノを探す初級魔法。
蓮夜はそれを改良し失せモノの持ち主を探り当てたのだ。
蓮夜が仮面から手を離せば、宙に浮いた仮面は、ひとりでに持ち主──黒衣の凶手の手へと舞い戻った。
このように仮面に導かれてここへ来たことがわかる。
「ば、バカな! そんな初級も初級の魔法でそんな真似ができるわけがっ!」
「それはおまえの常識だな。だが、俺がその常識に沿っているかどうかは別の話だろう?」
「〜〜〜〜っ!」
再び器を否定するカタチになり、二の句が継げなくなったのか青年は怒りや羞恥で顔色を忙しなく変える。
(……さて、なるほどな。リハヴァインの拘束術式は、無理に外すと拘束者を殺す仕掛けがされているのか。外すには、術者の魔法力認証が必要と)
蓮夜は、稼いだ時間でラフォリアの拘束術式を解析し終えていた。
「だ、だが増長もここまでだ! ひとりでのこのこ来るとは、とんだ間抜けだな! おまえがゾルギア侯を殺したせいで、どれだけ迷惑がかかったかわかっているのか!?」
「──そう、それだ。まったく、我ながらとんだ不始末だった。すまなかったと思っている」
予想外に蓮夜の殊勝な態度に青年は、思わず目を丸くする。
しかし、続く言葉で考えを改めた。
「おまえたちのような木っ端を残したせいで、そいつらに余計な負担を強いてしまった。だからこれは、俺の不始末だ。己の責は、己で雪がなければな」
そう、それが蓮夜がひとりで来た理由だった。
ゾルギアの手下は、ほとんど始末した。
だが、残党が出てしまった。
結果、黒衣の凶手やラフォリアに迷惑をかけ、このふたりにこれ以上の何かがあれば澪やイーシャも気に病むことだろう。
ゆえに──。
「……誓うぞ。おまえたちは、俺が殺す。決してひとりも逃がさない」
遊びなしの鏖殺宣言。
これを以ってゾルギアから端を発した騒ぎに決着を。
「な、嘗めるなよバラガキぃ! おまえたち! 殺せ! こいつを殺せぇ!」
青年の言葉に周りの男たちは武器を構え、戦闘態勢に入る。
次瞬、密かに詠唱を終えていた魔法使いたちが無数の炎弾を放つ。
薄暗い洞窟内を赤い炎が翔るなか、蓮夜は風の気流を渦巻かせて炎塊を吹き散らす。
炎と煙が燻るなか、蓮夜の反撃。
自他ともに魔法に関しては、圧倒的なセンスを持つ蓮夜はまさに別格だった。
無詠唱、無法陣による早抜きによって誰よりも速く一方的に攻撃しているため、男たちは容易く撃ち倒されるか、防戦する暇すらない。
「なっ!? ま、魔法の構築が速す──ぎぃあっ!?」
「こ、こんな、こんなの……おごぉ!?」
「き、聞いてねぇ、こんなの聞いて──ぐぎゃぁ!?」
蓮夜の多種多様な属性魔法に焼かれ、貫かれ、斬り裂かれ、押し潰され、叩き壊され、手下の男たちは瞬く間に死んでいった。
助かる余地もない、即死だ。
「お、おのれぇ! 『銀』! 何をしてる!? は、早くっ、早くこいつを殺せぇ!」
リーダー格の青年が喚き散らすように指示を出すが、黒衣の凶手は躊躇いながらも大剣に手をかけた。
「そ、そうだ、それでいい! ははっ、この女が大事なら僕の言うことを聞────」
「なら、そいつを助けたら終わりだな」
そう言って蓮夜が投擲したのは、いつのまにか右手に創造していた魔槍だった。
「はぁ──?」
「あ……」
「あ、あなた、なにを!?」
青年の間抜けな声。
ラフォリアの驚きの声。
黒衣の凶手の怒りと焦りの声。
三者三様の声音は、いまの状況の混乱を表していた。
そう、蓮夜が投擲した魔槍は、ラフォリアの豊かな胸元に突き刺さっていたのだ。
「は、はは……! ば、バカな奴だ! 手元狂ったか下手くそぉ! こいつを殺したら、どちらにしろおまえは『銀』と殺し合わないとならなくなる! やった、やったぞ! ははっ、ようやく僕にもツキが回って……」
「何を勘違いしているんだ?」
「は……?」
勝ち誇っていた青年は、蓮夜の言葉と同時に玻璃の砕けるような音が響き、間の抜けた声を再び洩らした。
見ればラフォリアに突き刺さった魔槍が光っている。
それと同時にラフォリアを拘束していた術式が砕け散った。
拘束術式がなくなったラフォリアは、ぺたんと力なく座り込む。
魔槍は、ひとりでに抜けると蓮夜の手元へと舞い戻っていった。
蓮夜が魔槍を右手で掴み取り、回して脇に手挟む。
穂先には、血の一滴も付着してはいなかった。
「あら……?」
ラフォリアがきょとんとした声を洩らした。
槍が突き刺さったとき、軽い衝撃があったが痛みはなかった。
足元の見えない豊かな胸元を見下ろせばたしかに貫かれたはずなのに、新雪のような白の柔肌には傷ひとつない。
「な、なにを、何をしたぁおまえぇ!?」
「……いま投げたのは、術式だけを無力化して破壊する魔槍だ」
そう、蓮夜が創造した魔槍は、人体を一切傷つけることない非殺傷の槍。
しかし、術式であるのならばその様式を問わずに無力化して破壊することができる。
つまり蓮夜は、会話で時間稼ぎしている間に術式構成を解析し、適応した魔槍を造り出すと投擲。
ラフォリアに突き刺さった魔槍は、彼女を傷つけることなく拘束術式のみを破壊したのだ。
「そ、そんなバカな真似がっ!?」
認めたくない青年だが、できたからこそラフォリアは、無傷で術式から解放され、カタチとしては無理やりでありながら時限式の呪いも発動しなかったのだ。
「ぐっ、こんな、こんなぁ……っ! な、ならもう一度っ」
「──させません」
青年は、ラフォリアを再び人質にしようとしたが、ふたりの間に黒衣の凶手が割って入り、立ちはだかった。
「こ、このっ……」
大剣の切っ先と冷たい視線を向けられ、後ずさる。
「そ、外の奴らはどうした!? まだ来ないのか! まさか僕を見捨てる気かぁ!?」
「外の連中は来れない」
「な、なにぃっ!?」
「よく見てみろ」
蓮夜の言葉に青年が視線を逸らせば、窓からの景色が一変していた。
「な、なんだこれは……」
窓の外は凍りついていたのだ。
この建物も凍結しており、一面氷の世界に変わっていた。
空には、杖に腰掛けた青髪の美少女が浮いている。
そう、蓮夜とのデートを最後にケチつけた輩を許せないエルファリアだ。
エルファリアは、蓮夜に同行し外で見張りをしていた戦力をすべて氷漬けにしたのだった。
「こ、こんな、バカなことがぁ……」
青年は、あまりの現実を目の当たりにして血走った目で握り拳を震わせ、血を滴らせる。
「観念するんだな」
「……観念? 観念だとぉ……こうなったらっ!」
蓮夜の言葉に彼を睨め付け、青年は懐から紙片を取り出して掲げた。
「まだ手に入れたばかりで未調教だが、背に腹は変えられないっ! 来い、新たな奴隷候補!」
そう言って青年が紙片に魔法力を込めれば、魔方陣が展開される。
(──召喚の術式か)
ひと目で魔方陣を看破した蓮夜は、下手に邪魔して暴発されても面倒だと、術式の成立を待った。
強い発光現象が起こり、閃光が弾ける。
魔方陣から現れたのは、ひとりの少女だった。
長い銀色の髪に褐色の肌、そして耳は尖っている。
少女はダークエルフだった。
「やれっ! その男を殺せぇ!」
「……は、い……」
彼女は、捕らえられたばかりでいまだ調教はされていないが、契約は結ばされているため逆らうことができない。
ダークエルフの少女は、魔法力をその身から発する。
空気中の水分が集まり、力と化す。
ダークエルフの少女は、水属性魔法の使い手だった。
だが、強制されているからだろう。
卓越した魔法の使い手ゆえに強制力に抗っているが、そのせいで魔法の術式はあまりに杜撰だった。
本来の力の十分の一ほどしか発揮できておらず、魔法の発動はあまりに遅い。
そのような状態では、蓮夜に敵うどころか戦うことすらままならない。
蓮夜は、解呪の魔槍を新たに創造するとダークエルフの少女の豊かな胸へと突き刺した。
「ぁ……」
小さな衝撃に目を見開いたダークエルフの少女は、意識を失う瞬間──。
「ありがとう、ございます……」
そう言って崩れ落ちた。
地面に叩きつけられる前に蓮夜は、ダークエルフの少女を風の魔法で作ったクッションで柔らかく受け止める。
ダークエルフの少女の豊かな胸は、上下しており、命に別状がないことがわかる。
そう、無理やり従えられているダークエルフの少女を殺すのは偲びないと、蓮夜はラフォリアにしたように魔法を断つ魔槍を使ったのだ。
「な、なんだよ、なんなんだよそれっ! ダークエルフだぞ!? 卓越した魔法の使い手なんだろ! なんであっさり負けてんだよ! さ、詐欺だ! こんなのは詐欺だ! 商品としての価値を高く見積もりやがって! この詐欺師の売女──」
現実を見ず、身勝手な悪態をついていた青年だったが──。
「が、は……っ!」
その胸元を魔槍が貫いた。
もちろん、蓮夜の手にした魔槍だ。
「げ、ぶ……っ」
当然、ラフォリアやダークエルフの少女に使ったような非殺傷の魔槍などではなく、殺傷力の有した魔槍だ。
肉を、骨を、心臓を断たれ、貫かれた青年は、末期の声すら喉まで迫り上がる血ぶくに呑まれ、吐血すると絶命した。
蓮夜が魔槍を引いて抜けば、青年は前のめりに倒れて伏し血溜まりが広がる。
「ラフォリアさん! よかった、よかった……!」
「もう、心配性ですね、リーシャは……わたくしは、だいじょうぶですよ」
黒衣の凶手に抱き起こされたラフォリアは、微笑を浮かべてその手で頬に触れて応じた。
多少衰弱しているが命に別状はなさそうなのを見て取り、蓮夜はルーンで熾した火で死体をすべて焼き払った。
血痕すら焼き尽くし、破壊跡以外の痕跡はすべて焼失する。
「……さてと」
後始末をした蓮夜は、ラフォリアと黒衣の凶手の元に歩み寄るのだった。
To be continued
というわけで解決となりました!まさにタイトルどおりな展開でしたね。
それでは読了お疲れ様でした。前書き、本編、後書きと目を通していただき本当にありがとうございます。
またお会いできたら幸いです。