リーシャを眷属に迎え入れたあと、ラフォリアをアルディギア王国へ送り届けるため、一度リーシャとは別れた。
『──一度引き請けた仕事ですから。あなたの眷属として恥ずかしくないよう、しっかりこなしてきます。それにラフォリアさんのことも心配なので』
とはリーシャの弁だった。
ラフォリアとしては、せっかく親友が想いを遂げたのだからかまわないとも思ったが、親友ゆえの気遣いも嬉しかったため厚意を受けることにした。
それに自分で勧めたとはいえ、なんだかんだでリーシャと離ればなれになるのが寂しいのだ。
そうしてリーシャがラフォリアの護衛任務を終わらせ、こちらへ合流したのが数日前のことだった。
『──ふむ、なるほどね。いや、報告書には目を通してたけど、やはり蓮ちゃんに任せたのは正解だった。贔屓目なしに予想以上の結果だよ』
と、黒崎家の蓮夜の書斎で空中に投影された映像に映し出されたメフィスト・フェレスが笑って言う。
いまは、深夜のこの時間、蓮夜はリーシャとラフォリア救出からここに至るまでの顛末をメフィストに報告していた。
すでに報告書は転送魔法で送っていたのだが、久しぶりに時間ができたからとメフィストから連絡が来てこの話になったのだ。
「報告書は、上げたでしょう?」
『それはそれ、これはこれさ。キミは、報告書を本当に報告書で済ませてしまうからね。それは助かるし、優秀だと思うが……キミ自身の所感というか、感想のようなものは直接じゃないと聞けないからさ。つい蓮ちゃんの口から聞きたくなってしまったんだ。まあ、これも親子のスキンシップだと思ってくれたまえ』
だからこそ蓮夜はそんな苦言を呈したが、メフィストからしたらやはり息子だからか、そう返して苦笑を浮かべる。
公私を分けるところは、息子ながら偉いとも優秀だとも理解していた。
だが、それはそれとして親子の時間は作りたいとも考えている。
『いまは、公私の私の時間だと思ってくれて構わないよ。──それで新しい眷属の子はどんな感じかな?』
「……いまのところは問題ないな。ラヴィニアたちとも予想どおり仲良くなれたようだ」
そういうことならと、蓮夜も態度を親子間のものに切り替える。
リーシャを紹介したときからラヴィニアたちは、快く迎え入れてくれていた。
それからの彼女たちの交流は、それぞれのやりかたに任せている。
シルファは、同じ剣士とあってリーシャとは剣を通して語り合っているようだ。
剣士という生き物ゆえというものか、言葉以上に雄弁に語り合えたようでいまでは、すっかり仲良くなっていた。
アスカも自分と同じ『騎士』という同僚に歓迎した様子で、率先して『騎士』としての役割の説明をしている。
ラヴィニアは、蓮夜は知らないが彼の話を通して交流していた。
これにはいつの間にか澪やエルファリアも加わっており、交流が苦手そうな眷属たちの手助けにもなっている。
織姫は、料理を通して交流しているようでリーシャの故郷の料理を教えてもらう代わり、蓮夜の好みの料理や味付けを教えているようだ。
織姫の性格からかふたりは、すっかり打ち解けているようだった。
それをかいつまんで話すとメフィストは、楽しそうに頷く。
『うんうん、新たに増えた将来の義娘候補だからね。みんな仲良くやれてるなら何よりだ。まあ、蓮ちゃんが選んだ子なわけだし、ラヴィニアちゃんを筆頭に蓮ちゃんの眷属はいい子ばかりだからねぇ。僕が心配するまでもないかな』
蓮夜からしたら気が早いと思うが、メフィストのなかで蓮夜の眷属、愛人たちは全員義娘のようだ。
新しい生活にも慣れつつあるリーシャは、最初の頃にだいぶ打ち解け、黒崎家に来てからも交流は続け、いまでは心を許してくれるようになっているように思える。
しかし、最近は何やらよそよそしいというか、蓮夜を見ては頬を赤らめて慌てて視線を逸らすことがある。
それは、蓮夜の勘違いでなければ後ろ暗い理由ではなく前向きな理由のように思えた。
「まだわからないけど、まあ何かあれば上手く取りなすさ。眷属なんてお互いにとって一生ものだしな。なんにしろこれからだ」
『うんうん、蓮ちゃんは真面目だね。いい『王』だと思うよ。大抵の上級悪魔なんて眷属に責任を持ってたりしないしね。たいていは問題があればトレードで済ませてしまうからさ。僕なんておもしいからって理由で元龍王のタンニーンくんを『女王』の駒で転生させたからねぇ』
蓮夜の言葉にメフィストは、何気なくそんなことを返した。
タンニーンというのは、元六大龍王に名を連ねていたドラゴンで、そのブレスは隕石に匹敵するとまで言われ、攻撃力なら魔王クラスの最上級悪魔だ。
自由奔放、勝手気ままなドラゴンにしては、常識人ならぬ常識龍であり、同胞のドラゴンたちの好物である『ドラゴンアップル』という果実が現在冥界の土地にしかならないため、その土地を領土とするために悪魔に転生したという経緯があるほどには理性的だ。
ちなみにタンニーンが抜けて六大龍王は、五大龍王となっており、ヴリトラ、ファブニールが討伐され、ミドガルズオルムが引退同然に長い休眠に入り、現在は『使い魔の森』を住処としてたまに出てきては暴れる唯一の雌の龍王であるティアマット、闘戦勝仏のもとに居る玉龍のみが生き残っている。
蓮夜としては、いつかティアマットを味方にするのもおもしろいと考えていた。
「……やっぱりそんな理由でタンニーンの爺さんを眷属にしたのか?」
『爺さん』と呼ぶくらいには、慕っている偉大な龍王を転生させたまさかの動機に、蓮夜は呆れたように嘆息する。
ちなみにタンニーンも蓮夜が幼い頃から忙しいメフィストに代わって面倒を見てきたため、本当の孫のように思っている。もちろん、相手は最上級悪魔なので公私の公の部分では、蓮夜も弁えているが。
『ははは。でもお互いに利害が一致したっていうのも事実さ』
「まあ、いいけどさ。ちなみにタンニーンの爺さんは、最近どうしてる?」
『相変わらずさ。レーティングゲームに出場したり、自身の領地で農業に勤しんだりね。あ、最近は食客のクー・フーリンとお酒を飲みながらキミの話をしたって言ってたかな』
メフィストの話に気恥ずかしさを覚える蓮夜。
たしかにふたりには、修業をつけてもらっていたから話が合うかもしれないが、未熟な頃の自分の話で盛り上がられるのは居た堪れないものがある。
蓮夜は、鍛えてくれたことに感謝しつつもこの話はこれで終わりと話題を打ち切りにかかる。
「……とりあえず変わりないようで何よりだよ。今度日本の酒を送るって伝えておいてくれ」
『ああ、わかったよ。さて、話はこのくらいかな。他に何か変わりはないかい?』
「ああ。ダークエルフを保護したんだが……」
『報告は見たよ。彼女がどこの所属かが問題だね。いまだ人間界の秘境に隠れ住む部族ならいいけど、北欧神話の所属なら少々ことだ』
強力な契約を結ばされていたことでいまだ目を覚さないダークエルフの少女、その行く末も悩ましいものだった。
「日本にわざわざいるということは、少なくとも北欧神話圏のダークエルフではないかと」
『だが、そうなると秘境からわざわざ出てきたことになる。人間界にいながら、人間たちの目を避けて住まう異種族は少なくないけど、だからこそ事情が気になるところだ』
そう、たいていはどこぞの神話圏に所属するか、異空間に引っ込んだ異種族たちだが、いまだ人間界の秘境で隠れ住む者たちも多い。
そんな隠匿した生活を送る者が、わざわざ人里に出てきたのならそれは何かしらの事情があるのだ。
「目が覚めたら事情を少しずつ訊いてみます」
『うん、頼んだよ。他には何かあるかな?』
「特には。相変わらず平和なものだ」
蓮夜が留守にしている間も帰ってきてからも、駒王町に変化はない。
たまにはぐれ悪魔が入ってきてはいるが、それも大公アガレスから依頼を受けたグレモリー眷属が処理している。
(まあ、自分の領地とか言っていながら冥界に居るアガレスから依頼が来ないと、はぐれ悪魔の侵入にも気づかないのは仕方ないにしても、せめて潜伏先になりやすい廃墟は、使い魔なりで見張ったほうがいいと思うがな)
街全体をカバーするのは難しいのは理解する蓮夜だが、見張るべきところも見張らないのはどうかと思うのだった。
『そっか。ふむ、やはりまだ何かが足りないんだろうね。だけど条件さえ整えば事態は、一気に動くと思うよ』
リアスの対応に内心呆れている蓮夜にメフィストは、思案げにそう言う。
いまは、潮流が堰き止められているだけできっかけが来たら、怒涛の勢いで変化があるというのが彼の見解だった。
「そう願うよ。骨折り損には……まあならないが」
蓮夜は、楽しそうに学生生活を送るアスカやエルファリア、澪との再会やリーシャとの出会いなどを思い返してそう言った。
無駄足と切り捨てるには、いろいろなことがあった。なんなら別に何事もなく終わってもいいくらいだ。
『そうか。そう言ってくれると僕も日本にキミを送ってよかったよ。さてと、それじゃあまたね蓮ちゃん。何かあれば連絡するけど、たまにはそちらからも連絡してくれていいからね? ママも寂しがっていたよ』
「ああ、わかった。母さんにもよろしく」
そのやり取りを最後にブゥンッと音を立てて空中ディスプレイが消えた。
蓮夜は、デスクチェアの背凭れに体を預けて天井を見上げる。
(変化か……澪やリーシャとの出会いは変化と言えるが、それなら駒王町よりも他の街が中心とか出るはずだからな。まぁ、眷属は俺が欲したから転生させるのであって変にそれ以外の目的があって眷属に加えるっていうのは、なんか違う気がするからそれでいいんだが)
王と眷属の在り方はそれぞれだが、蓮夜は下手なしがらみなく互いにともに居たいと思える、そんな関係でいたいと考えていた。
それから蓮夜は、冥界に所有する領地に関する書類仕事、協会における魔法使いとしての研究や仕事を片付け、書斎をあとにすると自室に戻って就寝の準備をしていたのだが……。
「……リーシャか?」
ドアがノックされたがそれっきり反応がないため、蓮夜が気配から訪問者を特定して呼びかけると、驚いたように息を呑んでビクッと身を跳ねさせるのを同じく気配で察してからさらに待つこと数秒──。
『──す、すみません、リーシャです。蓮夜さん、いま、ちょっといいですか?』
深呼吸を終えたらしいリーシャが緊張からか、声を上擦らせて遠慮がちにそう確認してきた。
「ああ、もちろんだ。入ってきてくれ」
『は、はい』
語気を和らげた蓮夜の許可を得たリーシャは、ホッとしたようにドアを開けるとゆっくりと入ってくる。
「し、失礼します……!」
そう言ってドアを閉めて遠慮がちに室内に入ってきたリーシャは、淡い色合いのネグリジェ姿だった。
女性的な実りに恵まれた肢体のラインがよくわかり、実に魅力的だ。
初めて入った蓮夜の部屋に緊張してるのか所在なさげに両手の指を絡ませたり、髪の毛の先を弄ったりと落ち着かない様子だ。
「好きなところに座っていいぞ」
「は、はい……! で、では失礼しますね」
蓮夜が苦笑気味に促せば、リーシャは頬を赤くしながらおずおずと近づくとベッドに腰掛け、ちょっとはしたなかったかもと思いつつもいまさら立つのもどうかと、蓮夜から付かず離れずの微妙な距離を保って豊かな尻の位置を確かめるように居住いを正す。
「…………」
「…………」
隣に座ったリーシャが膝の上に両手を置いて緊張した様子で肩身狭そうにしながら俯き、蓮夜もどうしたものかと思案する。
「なあ……」
「あ、あの……!」
このまま黙っていてもと蓮夜が口を開けば、タイミング良くか悪くかリーシャも同時に口を開いた。
「リーシャからいいぞ」
「い、いえ、蓮夜さんからどうぞ」
「いや、リーシャからで……」
「そ、そんな、私はいいですから蓮夜さんこそお先に……」
互いに顔を見合わせ、譲り合う。
「ふっ……」
「ふふふ……」
まるで漫画にあるような見合いのときみたいなやり取りに蓮夜は小さく笑い、リーシャも柔らかく微笑む。
図らずもリーシャの緊張が和らいだ。
「それで、ここでの生活はどうだ?」
「あ、はい。皆さん、とても良くしてくれて……すごく過ごしやすいです」
蓮夜の問いにリーシャは、穏やかな表情でそう言う。
どうやらラヴィニアたちからだけでなく、リーシャ自身も彼女たちに良い感情を向けているようだ。
「それに皆さん、表の世界も、裏の世界も、自分の意思で両立して生きてます。私のいままでの悩みが小さく思えてしまいますね」
「そこは仕方ないさ。悩みなんていうのは、日進月歩だ。本人の努力は必要不可欠だとしても、それだけで解決しないからこその悩みだろう」
ラヴィニアたちに親しみや尊敬のあるらしいリーシャに、蓮夜はそう言って気にするなと告げる。
「はい。私は、あなたやラヴィニアさんたちに出会えてよかったです」
「そうか。いい関係を築けているみたいで何よりだ」
「はい。それも蓮夜さんのおかげです。蓮夜さんが私のことを救ってくださったから、いまの私があります」
晴れやかな笑顔を浮かべるリーシャに、蓮夜は「そうか」と安心したように頷く。
リーシャは、胸の内に温かな感情が浮かぶのを実感しながら頷く。
「それで、俺ばかり話したがリーシャの話って?」
少しして蓮夜が促せば、僅かに緊張した様子のリーシャだが、頬を赤らめながら言う。
「は、はい。そ、その……今日は、いろいろと覚悟してきました……だから、その……」
リーシャは、頬を赤らめて恥じらいながら視線を上下させ、最後には決心して蓮夜を見上げるように見つめる。
「わ、私のことも、だ、抱いてください……!」
リーシャは、そう言って俯く。
これを前にして蓮夜は、いまさら「いいのか?」などと訊ねない。
覚悟したからこそ来てくれたのだ。
「──ああ。いい夜にしよう、リーシャ」
「は、はい……!」
蓮夜の言葉に恥じらいながらも嬉しそうにはにかむリーシャ。
ふたりの初めての夜が始まる。
To be continued
次回、リーシャのエロになります!
それではまた次回もよろしくお願いします!