今回は久しぶりに濡れ場なし回となります!
シルファと明日奈も交えて直葉とアンナとの話し合いを終え、その次の日の休日のお昼前のことだった。
私服姿の蓮夜は、とある人物との待ち合わせであるカフェを訪れていた。
若い女の子たちのトレンドの店に入ってきた黒髪碧眼のイケメンに店内がざわつくが、蓮夜は気にすることなく注文を済ませてコーヒーをもらい、目当ての人物を探すと──すぐに見つかった。
ある意味目立つその人物を見つけた蓮夜は、窓際の奥の席へと向かった。
近づいていくと相手も蓮夜に気づき、パァっと明るい笑顔を浮かべる。
「──お久しぶりです、蓮夜さん」
そう言って一礼するのは、長い栗色の髪と、普通に座っていてもテーブルに載っかるような豊かな胸が特徴的なひとりの歳上の美女だった。
「ああ、久しぶりですね……ウィズ師匠」
蓮夜も親しげに、そのなかにも敬意を込めてあいさつを返した。
彼女の名は、ウィズ。
元人間の凄腕の魔法使いで当時の仲間を死の呪いから救うため、悪魔へと転生した女性だ。
そう、ウィズは転生悪魔だ。
しかし、蓮夜の眷属ではない。
ウィズは、友人である玖珂颯馬同様に蓮夜の父親であるメフィスト・フェレスの眷属だった。
仲間を救うために当時のウィズが召喚した悪魔が、メフィスト・フェレスだったのだ。
メフィスト・フェレスは、ウィズの願いの代価に命が必要とわかり──悪魔は特殊な機器で召喚者の願いの代価がわかる──そのことを伝え、躊躇うことなく応じるウィズを死なすには惜しいと考えた。
そこでメフィスト・フェレスは、ウィズに与える死を人間としての死──悪魔に転生することでなら叶えると提案した。
ウィズは、『決して戦いに関係なない一般人を害さない』という誓いを立て、メフィスト・フェレスの提案を呑み、『僧侶』の駒ひとつで悪魔へと転生したのだ。
それからは、仲間たちがいつでも会いに来れるようにと、商売を始めたのだが悲しいことにウィズに商才はまったくなかった。
とにかく仕入れる商品が悉く値に反して効果が役に立たない欠陥品ばかりなのだ。
守る者を遠ざける転移のアイテムは、襲撃者をも巻き込んで発動するなど序の口。
触れた者の過去を洗いざらい暴き、隠しごとのない状態にして関係を進展させる水晶は、もちろんそんな触れ込みとは真逆の効果をもたらし。
魔法の威力を上げる杖は、使用者の魔法力をどんな初級魔法でも一回で生涯の分も含めて使いきらせるといったとんでもないものだった。
その他にも多々の役立たずなアイテムが存在し、ウィズは働けば働くほどに貧乏になるという、天は二物を与えずとばかりに、ウィズには魔法の才に反して商売に関しての才はまるでなかったのだ。
ある意味では、それも才能と言えなくもないが特に望まない、望まれない才能だった。
それをおもしろくも不憫に思ったメフィスト・フェレスは、ウィズに蓮夜の魔法の家庭教師を勧めた。
クー・フーリンには、槍術以外にもいろいろとたくさんの技術を教わり、そのなかにはルーン魔法もあったのだが、より本格的な魔法を学ぶために蓮夜も乗り気だった。
ウィズは、蓮夜の魔法家庭教師を引き受け、その知識や技術を教え、気づいたときには実力で蓮夜に追い抜かれていた。
「もう蓮夜さんのほうが強いんですから、『師匠』は付けなくていいですよ。卒業試験も合格したんですし」
ウィズは微笑を浮かべてそう言った。
蓮夜は、数年前にウィズの出した課題をクリアし卒業──免許皆伝をもらっている。
「たしかにそうかもですが、経験の面でまだまだウィズ師匠のほうが単純な魔法戦なら強いと思いますがね。正直、うちのラヴィニアやエルフィでもどうだか」
ウィズの戦闘経験は、蓮夜たちと比べても数倍だ。
そこから生まれる発想や技術は、いまの蓮夜にはまだないものだった。
「も、もう、その辺りのことは触れないでくださいっ!」
ウィズは、怒ったような、恥ずかしいような様子でそう言った。
そういえば年齢関係の話は、あまり触れないほうがいいんだったな、と蓮夜は思い出した。
ウィズは、常に二十歳と言い続けているのだ。
そして、蓮夜は女性の年齢を詮索する趣味はないし、何歳であれ気に入っているのならば気にしないのだった。
「と、とにかく、敬称も敬語もいいですから。普通にしてください」
「わかりました。ならお言葉に甘えて……久しぶりだな、ウィズ」
「はい、お久しぶりです、蓮夜さん」
そうしてふたりは微笑み合い、ようやく互いに再会が成った。
蓮夜が対面の席に着き、ウィズと向かい合ってまずブラックコーヒーをひと口飲んだ。
そうしてひと息つき、蓮夜はさっそく話を切り出した。
「──あらためて、遅くなりましたがこちらでの帆波と波瑠加の後見人の件、ありがとうございます」
「い、いえいえ、お互いに忙しかったですし、他ならない蓮夜さんの頼みですから。それにもともとは、私の主でもあるメフィストさまの指示で蓮夜さんもこの町に来られたのですし……それならあのヒトの眷属である私が補佐するのは当然です。颯馬さんともども、ご協力させていただきます」
蓮夜の礼にウィズは、恐縮しながらも微笑んだ。
そう、蓮夜が帆波と波瑠加を派遣した際に後見人を任せたのが目の前のウィズだった。
頼りなさそうに見えるウィズだが、しっかりしているところもあるし、何より非常時には頼りになる戦力になるのだ。
ちなみにメフィスト・フェレスからは、ウィズ以外にも一部を除けば彼の眷属も自由にしてくれていいと采配を任されていたため、蓮夜としてもありがたい限りだ。
「そう言ってもらえると助かる。──とはいえ、だ……礼になるかはわからないが、今日は一日楽しく過ごそう」
「は、はい! 今日はよろしくお願いします、蓮夜さん」
プライベートの口調に戻した蓮夜の言葉にウィズは、頬を赤らめて緊張した様子で応じた。
そう、今日一日はウィズとのデートに費やすのだ。
礼をするとしてもウィズがそう言うだろうことがわかっていた蓮夜が前もってウィズに連絡し、したいことはあるか聞いてみたところによるとデートをしてみたかったらしい。
なんでもいままで一度もデートというものをしたことがないようだった。
過去の仲間とはもちろん、彼らが亡くなってからも特に浮いた話はなかったのだ。
ちなみにウィズは、協会でも人気のある人物なのだが、誰もが牽制し合って声をかけられなかったという本人も知らない事情がある。
それらすべての男より先んじて蓮夜は、ウィズと接近できていた。
当時は周囲も子供だからと油断していたら、いまも付き合いがあるのだから縁とはわからないものだ。
しかし、そういうことならと、蓮夜はウィズとデートの約束を取り付けたのだ。
「──よし、ならさっそく行くか」
「は、はい!」
蓮夜がタイミングを見計らって席を立ち、ウィズもそれに倣う。
お互いの飲み物は、ちょうどなくなっていた。
連れ立って店を出た蓮夜とウィズは、ともに休日の町へと繰り出すのだった。
§
まず蓮夜は、ウィズを図書館へと連れてきた。
物静かなところのあるウィズは、こういった落ち着いた雰囲気が好きだった。
それに図書館なら本屋と違い、ある程度ボリュームを抑えれば本を読み合いながら話すことができる。
「いろいろとありますね。あ、この本おもしろそうです」
所狭しとありながら整理整頓が行き届いた書物の数々を見て、ウィズは楽しそうにしていた。
蓮夜も読書が好きで魔法書や武術書も多いが基本的になんでも読むため、本屋や図書館は好きだった。
ウィズと並んで本棚で本を選びながらページを捲り、意見を言い合ったり、逆に別々に選んできて席に着いて黙々と読書したり、また時折意見を交わしたりと静かに過ごした。
また時々視線が合うとウィズは、恥ずかしそうに本で顔を隠しているのが歳上ながらにかわいかった。
いろいろとありながらも不思議とそういった沈黙もお互いに嫌ではなく、楽しむことができた。
図書館をあとにした蓮夜とウィズは、頭を使ったこともあり、昼時だからと食事と糖分補給を目当てに昭和レトロ感のある喫茶店に入った。
そこで蓮夜はオムライスとパフェ、ウィズはナポリタンとケーキを頼み、むかしながらの味というものを楽しんだ。
「俺は昭和を知らないが、こういうのも悪くないな」
「そうですね。それにお店の雰囲気もとても落ち着きます」
料理に舌鼓を打ったふたりは、激しい盛り上がりこそないものの穏やかな空気を楽しめていた。
それから恐縮するウィズを宥め、会計を済ませた蓮夜が次にウィズと向かったのは、アンティークショップだった。
「わぁ、いいですね。これとか素敵です」
ウィズは、商品を見て楽しげな声音を上げた。
商才の欠片もないウィズだが、商売が絡まなければ商品への目利きは悪くないのだ。
「すみません、これください」
「はいよ、毎度」
「えっ!? そ、そんな悪いですよ、蓮夜さん!」
ウィズが特に気に入った様子の商品の会計をおこなう蓮夜に、ただでさえ食事も奢ってもらったウィズは恐縮した様子だった。
「いいさ。今日のウィズの初デートの記念にな」
そう言って微笑を浮かべ、ラッピングされた品物を手渡してくる蓮夜に咄嗟に受け取ったウィズは、頬を赤くする。
「そ、それは、その……は、はい、ありがとうございます!」
視線を彷徨わせたウィズは、そう言って最後には微笑んだのだった。
§
「…………」
アンティークショップを出たあと、ウィズは黙ったまま商品を大切そうに胸元に抱いていた。
隣を歩く蓮夜は、ウィズのその様子を見て察している。
そのため目的の場所へ向かい、近づいていくことでウィズも理解し、頬を赤くしながらも拒絶はなかった。
そうして蓮夜とウィズがやってきたのは、ラブホテル街だった。
蓮夜はそのなかでも上質なものを選び、ウィズの肩を抱いた。
「……っ」
「……いいか、ウィズ」
「……は、はい、蓮夜さん。覚悟、してきましたから」
緊張した面持ちのウィズだが、蓮夜の求めを受け入れた。
そう、ウィズはあのアンティークショップの一件ですっかりできあがっていたのだ。
しかし、歳上ながらに経験ゼロなウィズは、自分からは誘えなかった。
そこで蓮夜が自然にリードし、ウィズもその後押しに勇気を出して頷いたのだ。
蓮夜は、ウィズを優しく促してふたり連れ立ってラブホテルへと入っていった。
デートの本番は、まだまだこれからだった。
To be continued
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次回はウィズとの濡れ場になりますが、気長にお待ちいただけたらと思います。