少しよろしいでしょうか、杉下右京に声をかけられたとき、何かあったのかと三浦は不思議に思った。
特命の二人が寛ぐ、いや、一画に入ると、そこにはもう一人、制服姿の少女がいた、中学、いや、高校生だろうか。
亀山君、右京の言葉にドアが静かに閉まる、驚いたのも無理はない。
「この人が三浦刑事です」
右京の言葉に少女は三浦に頭を下げた。
「は、初めまして、と、突然、やってきてす、すみません」
声がわずかに震えている、緊張しているようだ、無理もない、ここは警察の中だ。
「僕たちは遠慮したほうがいいでしょうか」
右京の言葉に少女は驚いた顔で、だが、首を振った。
「あ、あの」
話し始めようとする少女に右京が座るようにすすめ、紅茶を出した、緊張を和らげるためだろう。
少し落ち着いたのか、少女がテーブルの上に一枚のメモを置いた、それは数日前、三浦が手帳に書きなぐるようにして、手渡した自分の電話番号だ、驚いたのも無理はない。
「あ、姉のことで来たんです」
数日前のことを三浦は思い出した、署の近くで撮影していた数人の男女、絡んできた男、少女はそのとき撮影していた人間の妹だと
途切れがちに話す少女の声は静かだが、時折震えている。
話が一区切りついた後、口を開いたのは右京だ。
「お姉さんは、今日、あなたがここに来ることは」
「知りません、刑事さん、三浦さんに会おうと思ったのは姉の友人に相談したからです、もしかしたら悪戯ではないか、姉の友人も迷っていたんですが、もし何かあったらとメモを渡されました、でも電話をする勇気がなくて」
それなのに、ここに、警察に直接来た、三浦は困惑した表情になった、そのとき口を開いたのは亀山だ。
「直接、ここに来たというのは何かあったんですか」
話していいのだろうかと迷っている様子だ、もしかしたら警察は自分の話などきいてくれないかもしれない、そんな不安があったのかもしれない。
「少し前、姉の家に泊まりに行ったんです」
少女は三浦を見ると小声で男の人が出てきましたと呟くように答えた。
何かを感じたのか、家からですかと尋ねたのは右京だ。
「いいえ、庭のほうから、変だなと思って、姉は留守の筈だったんです」
言葉が途切れ、沈黙がしばらく続いた後、少女は鞄の中から封筒を取り出した。
見てもいいですかと右京が開ける。
「これ、アドレスですか、でも」
亀山の言葉に右京は頷いた。
「ポストに入ってました、姉の知り合い、友人なら」
三人の男の視線は紙に書かれた内容を見て不思議というよりも怪訝な表情になった。
「この、ハルナというのは」
「姉は友人と動画を撮ったりするんです、ネット上で、姉の名前、ハンドルネームです」
「あなたは、この手紙を見て、お姉さんが何かトラブル、危ないことに巻き込まれると思ったのでしょうか」
右京の言葉に少女は小さく頷いた。
「昨日、姉の家に泊まったんです、帰りが遅くなるから、もしかしたら友人宅に泊まるかもしれないと連絡がありました、夜中近くだったと思います、寝ようとしたら音が聞こえて、帰って来たんだと思いました、でも、そのとき電話が鳴ったんです、自宅の」
「お姉さんは今日は家に」
「今日は夕方、食事に行くと、だから帰りは少し遅くなると思います
「あなたは今日は自宅に、それとも、お姉さんの自宅に帰るのでしょうか」
右京はゆっくりと首を振り、自宅に帰ったほうがいいでしょうと。
「右京さん、気になりますか」
亀山の表情は普段のおちゃらけたような、いや、真面目な表情だ、だが、それは彼だけではない。
「ドアを開けなくて幸いでした」
「警部殿、一度、その自宅を見たほうが」
右京はそうですねと頷いた。
「彼女の自宅、わかりますか」
このとき、三浦ははっとした自分が電話番号を渡しただけだということに。
レストランを予約しておいたほうがいいだろう、何しろ約束を続けて二回もキャンセルしたのだ。
だが、店を調べているうち大事なことに気づいた、食べ物の好みだ、和食、イタリアン、最近は韓国料理が流行っているみたいだが、辛いものが苦手だったらどうする。
ベジタリアンということはないと思うが、いや、もし、そうだった場合、肉や魚が食べられなかったら、自分が食の好み、好き嫌いはあまりない、ゲテモノ料理なら敬遠したいが。
いや、自分を基準にして、比較してどうするんだ。
頭の中で予定を考えていてもなかなかままならない、失敗はしたくない、やはり電話して食の好みを聞いたほうがいいだろうか。
事件より、犯人追跡よりも悩む伊丹だ。
結局のところ、店の予約はしなかった、というよりできなかった。
会ってから、彼女に決めてもらおうと思ったのだ。
他力本願というわけではないが、週末ではない、店も混んでいるということはないだろうと思ったが。
十分前につけば良いかと思ったが、彼女は来ていた、しかも一人ではない、男がいる。
誰だ、知り合いか、一人ではなかったのかと思い近寄る。
「待ち合わせしているんです、すみません」
少し苛ついたような声だ。
「でも、少し前からだよね、待たせすぎだよ、よかったら僕と」
「おい」
伊丹は男の肩を掴むと自分の方へ向けさせた、男が驚いたのも無理はない、だが。
「なんだ、あっ」
小さな声だったが、伊丹にははっきりと聞こえた。
刑事という呟きだ、次の瞬間、男は背を向けると走り出した、逃げるようにだ。
自分を刑事だと知っている、しかも逃げ出した。
「すみません、すぐ戻ります」
伊丹は彼女に声をかけると男を追いかけた。
間違えて三話を先に投稿していました。
これで一安心。